第65話 ファッションの件
俺の腕がピンクの鞭でギリギリと締め上げられる。
「─────くっ、初対面の挨拶が鞭で握手かよっ!」
ピンクの鞭は蕀の鞭って感じで、締め上げるだけじゃなくて刺がスーツに食い込む。
どれ位痛いかっていうと、俺基準でいうなら駅裏の強力な足ツボマッサージの親父が少し手抜きでマッサージする位。
────うん、伝わらんな。
叫び声を上げるか、上げないかのギリギリのラインって感じ?
あそこのマッサージの親父は何も言わないと全力でツボ押しで俺を殺しにくるからね。
きっとそのうち秘孔突かれて破裂する客が出てくるね、あの店。
まぁそんな一子相伝をし損ねた(?)マッサージ屋の親父なんかどうでもよくて、ピンクの鞭の話に戻ろう。
────これ、スーツ着てなかったらどうなってるんだろうな。
────血だらけで骨粉砕骨折とか?
────ああ、変身してて良かった!
俺はこんな状況でも良かった探しは忘れない。
「───君たち、何ぼーっとしてるのかな?ブルーを取り押さえなさい!」
ピンクの一言で、ミクスチャーが慌てて俺を後ろから羽交い締めにする。
「───ホントに手がかかる子達なんだから!」
ピンクが俺に絡んだ蕀の鞭を少し緩めた。
───相変わらず両腕は拘束されたままだが。
「君たち、私を取り合って喧嘩したんだって?そう言うのは『───めっ!』……よ!」
───ピンクのミクスチャーへの対応はまるで子供を叱るようだ。
「───ごめんよ………」
───素直に謝る猿と犬。
───ペットと飼い主、完全に主従関係。
「────さて、こっちはどうしようかしら」
猿と犬の反応に満足したピンクが俺に向き直る。
「────このまま解散でいいんじゃない?あんたは俺に勝ったって事で良かった、俺は痛いのから解放されたって事で良かった、このミクスチャーは未来が開けて良かったって事で丸く収まらないか?」
「─────そうね、私としてはそれでも良いんだけど、私のかわいいワンちゃんとお猿さんをこれからどうしようと?それだけは聞きたいわ」
ピンクの回答は俺の都合の良い提案を最後まで聞いた上で余裕を感じさせるものだった。
「────お前に出来ない、すごーい事をしてあげようと思ってんだ」
素直じゃない俺がちょっと挑発するように発言すると、また鞭に力が入った。
「────私に出来ない事?詳しく説明してくれるかな?」
「────お前に出来なくて俺に出来ること、今わかってるだけで2つあるな」
「────2つも?」
「───ああ、2つもだ。もしかしたらもっと増えるかもな」
「───私にわかるように説明してくれるかな?」
「───そうだな、教えてやっても良いが、その前に一つ聞きたいことがある」
「────聞きたいこと?この状況で?まぁいいわ、言ってみなさい。聞くだけは聞いてあげる」
「──────パンツの色は?」
俺を拘束しているのと逆の手に持った鞭の柄で頭を小突かれた。
「────男の子だもんね、そう言う事に興味有るのはわかるけど、この状況では教えられないかな」
「───俺の数少ない持ちギャグだ。特にお前のパンツの色に興味はない」
「───ふーん、そう言うこと言うんだ!?私、少しは男の子にモテると思ってたんだけドなー。自信失くしちゃうなー」
─────ピンクの反応はどこまで本気かわからないが、少しはこちらのペースに持ってこれたかもしれない。
さて、ここからペースをあげるぜ!
「─────パンツの色には興味ない。パンツなら色なんて何でもいいんだよ!」
相手の意表を突く、唐突なゲス発言。
「…………なかなかお姉さんに言いにくいこと言うわね!─────もしかして、君は変態さん?」
「───俺が変態かどうかはヒミツだが、さっきのお前に出来ない2つの事をおしえてやろう」
「───私も君の性癖よりもそっちの方に興味あるわ」
「一つ目はこのミクスチャー達に別々の身体を与えてやることが出来る!」
───実際は俺がやるんじゃなくて、頼んで他の人にやってもらうんどけどな。
うちのAIコンビが出来るって言いきるんだから出来る筈だよ。
「───この子達このままでも可愛いのにもったいない!このままで良いのに!」
「───女の言う可愛い女の子と、男の言う可愛い女の子の容姿が違うように、お前が可愛いと言うこのミクスチャーは、俺から見たら可愛いではなくて可哀想なんだよ!」
「───そんな事ない!そうよね!君たち!?」
ピンクの問いに動揺を隠せないミクスチャー。
「───は、はい。そ、そんな事ないです………」
犬の方が力なくそう答えた。
俺の方からは見えないが、きっと尻尾は垂れ下がっているんだろう。
猿の方は心の中でまだ葛藤してるのか、口に出してはっきり自分の思いを表明出来ていない。
自分の主人の言うことは絶対だが、俺の提案は心に刺さっている筈だ。
────そうだよな、やっぱり自分の思うままにやりたいよな。
だから大好きな主人の言うことでも即答出来ないんだよな。
「───ほら!ワンちゃんはそんな事ないって言っているわよ!」
ピンクは犬の返事で勝ち誇っている。
────実に敵の女王様は単純だ。
「───もう一つはそれだ!」
女王様の発言に突っ込んだ。
「───え?それって??何??」
「もう一つのお前に出来なくて俺に出来ることだよ」
「──え?どう言うこと??」
「……厳密に言えば、お前がまだ出来ていないことだな。」
ピンクは俺のペースに引き込まれて来たようだ。
────両腕を拘束していた鞭が完全に緩んだ。
さてこれからもっとペースあげていくぞ。
「────きっと俺にそれを指摘されたら、お前はすぐにやろうとするだろう。───俺だけでなく本来は世間一般の人達ならばやっているはずのあることをお前はやっていないんだ!」
「───言ってることがよくわからないわ………」
心底わからないと言うジェスチャーで首を横に降る。
「─────名前だよ!普通はこういう場合名前をつけるもんだろ!?────ワンちゃんだのお猿さんだのってお前はこいつらを個として認識していないんだ!」
ここぞとばかりに早口でピンクを追い込む。
「───お前はこいつらをアクセサリーか何かと勘違いしてないか?『犬とか猿を可愛がる私って可愛い!』とか思ってないか?───パンクロックを知らないで格好ばかりを追い求める奴らを"ファッションパンク"と呼んで蔑んでいる俺から言えば、お前は"ファッション・ペットシッター"だ!!」
「お前は飼い主失格………いや、資格がないんだよ!!」
「……………………………………」
俺がここまで言うと、ピンクは黙ってしまった。
────ちょっと言いすぎたかな。
「…………………………………もん」
「──────え?」
よく聞こえなかったので少し近づいた。
もうこの時には両腕の拘束もミクスチャーの羽交い締めも、力なく外れていたから難なくピンクに寄る事ができた。
「────お猿さんもワンちゃんもペットじゃないもん!友達だもん!」
ピンクが突然大声を張り上げた。
───ちょっと耳がキーンとなった。
「ブルー、そこまで言うんだから、君が飼い主になったらいいじゃない!私は構わないわ!私飼い主じゃないもん!友達だもん!」
うーん、今思ったけど、なんかピンク怒ると少し子供っぽい感じになる?
────これが魔性の女の本性?それとも演技なのか?
「じゃあ私はもう帰るから!後はお好きなように!」
そう言うとピンクは回れ右をして、つかつかと歩き始めた。
「お、おい………帰るってどうすんだよ!?」
「────国道でレッドが待っているのでご心配なく!」
こちらを振り替える事もなくピンクは歩いて行ってしまった。
「────どうするってのは、あいつの帰りの心配じゃなくて、こいつらをどうするって事だったんだがな………」
後ろを振り返って猿と犬のミクスチャーの方を見る。
────そこにはただ呆然と虚空を見つめる双頭の獣がいた。
───まぁ、そうなるよな。………同情するよ。
まぁ、とりあえず俺は俺の出来ることをするか。
ミクスチャーの肩に手を掛けるとミクスチャーが我にかえって俺の方をみた。
「───嫌じゃなきゃ、俺が名前考えてやるよ」
2つの頭が同時に縦に振られた。
───ここに来て初めてミクスチャーの意見が合ったようだった。
ご無沙汰しております。
公私ともに非常に忙しくて死兆星が見えるんじゃないかと夜空を見上げる事も度々。
ピーク時はシリウス程ではないですがカペラかベガ位輝いていた私の死兆星ですが、現在は南斗の人っぽい人(?)が助けたくれたのか消えているようです。
改めまして、お久しぶりです。
忘れた人は思い出してつかーさい。
知らない人は始めまして。
んでもって、次回は第二部終了予定です。
本当はサクッと突っ走る予定だったのですが、1ヶ月以上開いちゃいました。
ごめんなさい。
みんな話忘れちゃってるよなーと反省。
ちなみに、今回は本当はもっとピンクが暴走する筈でしたが、長くなったので2つに分割して第三部(書けるの?)に持ってくことにしました。
次回はなんとなく最終回です。
もしよろしかったら次回も読んでみてください。




