第100話 霧の中の件
俺は久眠を助手席に乗せて、アオマルをゆっくり発進させた。
「────あれ?静かですね!?」
「───実はこれ、電気自動車なんだよ」
「────電気自動車?この車は昔の車だって言ってませんでしたっけ?」
「────うん、軽く20年以上昔の車だよ。って言うか、俺が生まれるより前の車だと思う。」
「────電気自動車ってそんな昔から有ったんでしたっけ?」
「────色々有ったんだけどさ、最初は普通にガソリンエンジンの車だったんだけど、駄目になっちゃってね。もう一度会社のメンバーが作りなおして今度は電気自動車にしちゃったんだよ」
「────へぇ~!よくわからないですけど、凄いですね!」
「────そう、俺もよくわからないけど、多分凄い技術だと思うよ。あと、お役所に圧力かけられる会社だから出来るんだとも思う」
────だってそうだろ?普通、この車みたいな得体の知れない技術の塊が公道走れるわけないし、この性能で軽自動車枠での登録が出来るわけない。
────ここだけの話、この車はスピードメーターが300キロまで目盛りがある。
アクセル踏んだ感じ、本当にそのスピードが出せそうなのがこわい。
───こんなちっちゃい電気自動車が、だぞ?
────あと、運転のしやすさも凄い。
4輪全てがハンドル切るとその方向に曲がりやすくなるように電子制御されている。
俗に言う四輪操舵システムらしいが、コーナーがものすごくスムーズなのだ。
更に、ここにアオマルのサポートが入るんだから。
────この車運転したら、きっと他の車運転出来ないぞ?
あと、電気自動車に大事な充電も、こんな曇り空でもスピード出さなきゃ充電の量が増えていく。
─────こりゃ、一体どんな発電システムになってるんだ!?もしかしたら、これは世界のエネルギー事情を解決出来るんじゃないか?とか考えてしまう。
───まぁ、こんな技術が有ることが知れたら、石油メジャーが黙ってないだろうから、公に出来ない技術なんだろうな。
────まぁ、公に出来ない最大の技術はレールガンだろうけどさ。
ほんと、この車はただの喋る車じゃないんだ。
「────まぁ、貴方の会社の事は聞かなかったことにしますね!───約束だから。」
「────ああ、そうだっけ?まぁ、その方が良いんだろうな」
「────だから、貴方にはもう会えないんだろうなって思ってました」
「────カップラーメンには、の間違いだろ?」
「────ひどいなぁ、違いますよ~!」
そんなやり取りで俺達は大笑いした。
「────なんか霧が出てきたな~」
「────そうですね、安全運転で行きましょう!」
雨は上がって曇り空だったが、少し霧が出てきた。
「自分の運転だと、天気が悪いとやっぱり緊張するもんだな~」
「────まだ免許取ったばっかりですもん、仕方ないですよ」
「────そう言ってくれると気が楽だよ」
「────疲れたら代わりますよ!店長の車と違って、この大きさなら私でも運転出来そうだし!」
「────店長の車も大きいの?」
「アメリカのメーカーのピックアップトラックらしいんですけど、珍しく右ハンドルなんです」
「────へぇ!そう言うのもあるんだね」
「でも、ウィンカーとワイパーが逆なんですよ!凄く運転しにくくって!」
久眠は身振り手振りで店長の車を色々説明してくれる。
「────そう言えば、今乗ってるのは左ハンドルなんだっけ?」
「────はい、うちの車で右ハンドルはみんな大きい車ばっかりで、凄く運転しにくいんです。とりあえずうちにある車で一番小さい車は左ハンドルなんですけど、大きい車を運転するよりはまだ運転しやすかったので………大きい車はカーブとか駐車場とかで擦っちゃいそうだから………」
「そうだよな、まだ内輪差とか外輪差とか完全に身に染み付いてないからちょっと緊張するよな」
「────自分の車じゃないから尚更緊張しちゃいます」
「────ちなみになんて車?」
「────名前は知らないです………赤くて平べったい車です」
「────それだけだとよくわからんな~」
「────そうだ!ハンドルとかに馬が書いてあります!」
「────もしかして黄色の背景に黒の跳ねてる馬?」
「────そうです!よくわかりましたね!!」
………はいはい、君がお金持ち一家だったの忘れてました。
………ってことは初心者マーク付けたフェラーリが今巷を走り回ってるわけね。
────あれを小さいって言うか?
じゃあ、他のはどんだけデカいんじゃい。
────怖いからもう聞かないでおこう。
話に夢中になって霧中を走っていたが、ここでナビを確認しようとしたら、ナビが反応していないことに気づいた。
「───ナビが反応してないな?」
「そうですね!山間部は抜けてるから、そんなにGPS信号拾えない位置とも思えないですけど………」
「────スマホの地図見てもらってもいいかな?」
「────そうですね、今確認します………あれ?スマホも位置拾えないですね………あと、電波も入らないです」
「────ちょっとおかしいな………とりあえずあそこに自動販売機あるからジュースでも飲んで休憩しようか」
俺は道路脇に車を寄せて停車させた。
「────奢るよ、なに飲みたい?」
「ありがとうございます………それじゃあ、オレンジジュースをお願いします」
「────あれ?500円玉が使えないな。でも全部100円だから小銭で足りるな」
───ガコンガコン
俺は自分用にコーヒーを、久眠にはオレンジジュースを買った。
濃い霧が立ち込めていたが、気温は暖かく雨も降っていなかったから外で伸びをすると清々しい気分になれた。
山奥の道路脇にある自販機だから、見たことないジュースのラインナップで、ジュースの蓋の開けかたもちょっと面白いものだった。
────こんな山奥だと、もしかしたら、レトロ自販機とかあるドライブインとかもあったりして?
「とりあえず、たしかまだしばらく真っ直ぐなんだけど、途中で曲がるとこあるんだよな………あー、俺のスマホも電波入らないわ。結構山奥なんだな、ここ」
「────多分道の駅だから大きい青い看板とか出てると思うんですよね、とりあえず行ってみます?」
「────そうだな、とりあえずジュース飲んだら行こうか」
───後になってみれば言えることだが、引き返すべきであったかどうかはさておき、俺はこの時に気づくべきだった。
パンパカパーン!
100話に到達しました。
ドンドンヒューヒューパフパフ────
最近ちょっと一話の文字数が多めになっていて猛省しておりますが、何かよくわからないうちに100話になっちゃいました。
コロナで外に出れない方に少しでも楽しんでもらおうとか思って始めましたが、一番書いている自分が楽しんでいると言う状況で………(笑)
いつも軽いノリで書いておりますので、楽しんでくださっていただけているのか、不愉快な思いをさせていないか心配になることもありますが、皆様のあたたかい応援、コメント、レビューに励まされております。
キャラクターが勝手に動くおかげで、三章は予定よりだいぶ話数が行ってしまいそうですが、生暖かい目で見守って下さい!
今後ともよろしく!