ゼルス神との対話(頼れるSP付き)
「…なんでお前たちが…」
目の前にいる私、その両隣にいる人たちを見て一言、ゼルスは呟いた。
ゼルスのいるお城みたいなお屋敷…神殿とでも言えばいいのかしら。私たちはその王座の間のような場所へ案内され、玉座に鎮座するゼルスの前に通された。
私をさらい、手を出そうとしたその正体はサンシラの神々の王。
こういう物々しい場所で立派な椅子に座っているのを見るとやっぱ偉い人なんだろうなと思える。襲われそうになったから心の底から「すごーい」とは絶対思わないけど。
そして両隣にいる人たちに対して何でお前たちが、というゼルスの問いかけにアテナが返した。
「ファリアから頼まれたからです。乙女の純潔を守るためだと。あとこの方もです」
アテナは手をもう一人私を挟むように隣に立っている、農村の女の人が着ているような質素な服を着た女の人…というか、女神ね。ともかく女の人に手を向けた。
この女の人はここへ向かう途中、ファリアに呼ばれたからとやってきて合流した。この人は家庭を守る女神で、サンシラ国ではヘルィスと呼ばれているらしい。
その見た目というのが年齢不詳なのよね。若いような、それでも歳を取っているような…。
二十代と言われれば二十代、四十代と言われれば四十代、六十代と言われれば六十代に見えるという年齢不詳さ。
でもどうであれその雰囲気はお母さんと呼びたくなるもので、近くに居るとなんだか落ち着く。
そのヘルィスは頬に手を添え、うふふ、と微笑んで小首をかしげる。
「そうそう、乙女の純潔は簡単に奪っちゃだめよ、ゼルス。昔とは違うんだから」
その口調はまるで母から息子への注意がけのようだけど、聞いた話だとヘルィスはゼルスのお姉さんなんだって。
ゼルスはアテナ、それとヘルィスを渋い顔で見て、額に手を添えかすかに上を見上げた。
「…こうも処女神に集まられてはな…。アルテミスめ、そんなに私が信用ならないか」
「そうですね」
「ええ。そうね」
女神二人の同時の発言にゼルスは王座からズルル…と体を滑らせた。でもすぐに体勢を立て直して咳ばらいを一つする。
「エリー、お前をここに連れ去ってきたのはちゃんとした理由があるからだが…」
その言葉には私も、アテナも、ヘルィスも「え?」と怪訝な顔で声をそろえる。
「…」
話を進めにくそうにしながら大きくため息をつくゼルスに、ヘルィスが声をかけた。
「ああ、安心してゼルス、私もアテナも口出しはしないから」
「そうです。単にこの娘の体を守るだけです」
ゼルスは何か言いたげな視線を二人に投げかけ、ともかく気を取り直したのか私に視線を戻して話しかけてくる。
「エリー、お前も私たち神に用があってここに来たのだろう?私も個人的にお前たちに興味があった。エリーだけではなく勇者と呼ばれているサードにもだ」
「あら、お気に召したらしいわ」
ヘルィスがあらあら、と呟いて私越しにアテナを見ると、アテナも私越しに呟き返す。
「年齢的に父が気に入るような少年ではありませんがね、見た目は若いですが。性格も可愛げのない男ですよ」
「私は可愛げが無い子好きだけどなぁ。無理して強がってるところとかキュンとしちゃう」
アテナはハッと鼻で笑う。
「何を、可愛げがないどころか性格が二転も三転もねじくれてますよ」
「そこに至るまでに色々と苦労があったのよ。そういう家庭に恵まれなくてひねくれた子こそ甘やかしたくなるのよね、私」
ヘルィスとアテナがヒソヒソと話しているのを、ゼルスが「ンンッ!」と咳払いして止める。
それより二人の会話を聞いて思ったけど…まさかこのゼルスは男にも手を出すの?どれだけ節操がないのこの神々の王は。
サードは男に全く興味がないけど、節操のなさではサードといい勝負ね。
「エリー、お前たちがこの国に来た一番の目的は地上に害をなすモンスターを消すことなのだろう?」
ゼルスは無理やり本題に入ったみたいで、私も気を取り直して頷く。
「神様は全部分かってるみたいだからここに来るまでの説明は省くわ。…それで、その水のモンスターのことはどうにかできる?」
どうやってコンタクトを取ればいいのか分からない神様とこうやって直接対面して話ができるんだから、聞きたいことは全部聞いたほうが良いと遠慮なくダイレクトに質問した。
するとゼルスはゆったりと肘置きに肘を置いて頬杖をつく。
「出来ないことは無い」
「本当に!?」
パッと喜びの声を上げると、可愛い奴、とでも言いたげなホッコリした目でゼルスが私を見てくるから、ムッと真面目な顔に戻る。
でもロッテでさえ本を調べて魔界の知識人に聞いて回っても「毒を川に撒けばいいんじゃないの」というふざけた返答しかもらえなかったのに、こんなにあっさりと可能だって言われるなんて…。
感心しながら喜んでいるとゼルスは続けた。
「冥界はわかるか?」
冥界?冥界といえば人が死んだら行く場所。
その地の宗教観であの世の名称もそこがどんな所かも変わる。
冥界は単に死んだらいくところ、みたいな感じだったかしら。地獄みたいに罪人が刑罰を受ける場所ではなかった気がする。
「冥界に私の兄がいる。その兄に水のモンスターを全て冥界に引っ張ってもらうことは可能だ」
つまりはあの水のモンスターを全て、冥界という名のあの世に引きずり込む…殺すことが可能ということね。
…うーん、それにしても冥界に引っ張るって怖い言葉。やろうと思えば今この瞬間にでも私の命を引っ張って殺せるってことだもの。
ううっ…。そう思うとゾッとしてきた。
うすら寒いものを感じて首を横にブンブン振ってから見てみると、ゼルスは少し難しそうな顔つきになっている。
「だが頼みを聞いてくれるかどうか…。気難しい奴だからな。まずそのことは追々考えるとして、次にエリーが気にかけていることだ。ガウリスのことだろう」
「ええ」
どちらかというとガウリスに重点を置きすぎて水のモンスターの事はすっかり忘れていたのよね。
でももしかしたら、サンシラ国の神々の頂点に立つゼルスなら解決策が…。
「ガウリスは元の人間には戻れん。これは他の者たちからも聞いた通りだ」
期待したのに本当に他の人たちと同じことを言われてガッカリした。でも諦めきれなくて口を開く。
「だけどね、ガウリスは神官の家に生まれてからずっと神様…主にあなたの言葉を聞けずに育ったせいで神はこの世にいないんじゃないかと思って、それを確かめに山へ登ってしまったのよ?そもそもそれが原因じゃないの。何で神官たちがいくら呼び掛けてもその声に応えないのよ?」
文句まじりの言葉に、ゼルスの目つきがスッと変わって真剣な表情になる。
あ…ヤバ。怒らせた?
あまりに気安くあれこれ言いやすいからってズケズケ言いすぎたかしら。
慌てて口をつぐんでゼルスをの様子を伺う。
人を襲おうとした時点で尊敬の対象ではなくても、最高神を怒らせるのは良くない、むしろマズい。どうしよう別の意味で私の身が危なくなったかもしれない。
ドキドキしていると、ゼルスはゆっくり口を開く。
「…それは私にも非があった」
そこで一旦区切って、言葉を探すように間をおいてからまた話しだした。
「この国は昔いた場所とあまりにも似た気候・風土・風習があるものだから、つい人間たちを可愛がり過ぎてしまった。そのせいで人間たちは私たちに頼る。何もかも私たちの言葉が正しいとぐに私たちに問いかける。…確かにその通りだ、私たちの言葉は頼りになる正しい言葉だろう。だが人間にとってはどうだ?」
急にどうだって言われても。
とりあえずまぁ怒ってないようだからそこはホッとして、ゼルスの言葉について考えてみる。
神様たちの言葉は頼りになる正しい言葉。確かにそれはそうだと思う。
私が何も言わなくても私の心の中を言い当てて、私でさえ分からないことすら分かっているんだもの。そんな神様たちの言うことだったら信用できる。
「そうね、間違ったことを言われないんだったら何でも聞いたほうが楽…」
そこまで言って、楽?と口をつぐむ。
自分達が楽になるから、何でもかんでも人の…神様の言いなりになってるって、それはそれでどうなのかしら。
ゼルスは私の考えを読み取ったのかゆっくりと頷いた。
「その通り。ただ私たちの言葉のいうなりに動くだけだと人間のためにならん。それに毎年夏になると水が不足する。そのことについても毎年どうにかしてほしい頼まれ、私もつい気が乗って頼まれるがまま雷を打ち鳴らし雨を降らせていた。だがそのせいで一部の神官が勘違いし始めたんだ。『神官は神を意のままに動かす事ができる』と」
私は目を見開かせて、思わず聞いた。
「もしかしてあなたを祀っている神殿の人たちが…!?」
見た限りでそんな勘違いをするような人たちが居るようには見えなかったのにと思っていると、ゼルスは首を軽く横に振った。
「前の代の大神官とその一派は勘違いしていたが、今の大神官は思慮深い。だがそう勘違いした神官は未だ多い。自分の神殿に訪れる信者に我らは神を動かす力があると言う。信者はそれを信じる。神官は更に図に乗る…。悪循環ではないか?」
それはそうだわ、と頷く。
それにしてもなるほどね。人間からすれれば一方的に連絡が取れなくなったという感じでも、神様から見ればちゃんとした理由があって連絡を取らないようにしていたんだわ。
納得しているとゼルスは続ける。
「もちろん全ての神官がそうではない。ガウリスは一時我々の存在を否定したが、それも真面目で真っすぐな男だからだ。図にのる神官と妄信する信者を見て信者を守りたいという気持ちがあったからだ。
人間が我々を信じ頼ってくれるのは可愛らしいし、嬉しい。しかし人間は宗教にのめりこみ過ぎると視野が狭くなる。心の悪い者になると宗教の力で人を意のままに操り我々が伝えたいことを捻じ曲げて伝えようとする。
結果私たちの言葉は神官より下の者に届かない。だが私たちはそれは本意ではない。宗教とは一体になるものではない、隣にあって人生に希望をもたせるためのものなのに」
段々とぼやくような苦々しい口調になっていくゼルスを見て、この神様は単に女の人を襲うことに執念を燃やすだけじゃなく、色々と考えている神様なんだわとほんの少しだけ見直した。
「じゃあ図に乗る神官が居なくなって、何でもあなたたちに頼ろうとしなくなったら前みたいに信託に応えてくれるの?」
質問すると、ゼルスは苦々しい表情を緩めて私を見た。
「そうなるには時間がかかるぞ。我々はいつまでも待てるが、心根の悪い者が多くなる一方ならもう信託には答えん。他の世界でもそうだったようにこの世界からも手を引こう」
手を引く…。それってこの地から神々が居なくなるってこと?それは神々に見捨てられるってことじゃない?
目の前、両隣にいる女神たち、ファリアと…その全員が冷たい視線で人間に背を向け立ち去っていく姿を想像したら、サンシラ国民じゃなくても寂しい気持ちになる。
私でもそんな気持ちになるんだから、サンシラ国の人たちだったら絶望するんじゃないかしら。
色々複雑な気持ちになって少し黙り込み、それならガウリスはどうなるのかしらと思った。
ああいうモンスターの姿にされた上にもし神々がいなくなったら…。
「あの、ガウリスは…」
諦めきれなくてもう一度ガウリスのことについて聞こうとすると、ゼルスは微笑みながらも首を横に二回振っただけだった。
「…」
このことをガウリスに何て伝えたらいいの…。ガウリス…。
「ガウリスを心配しているようだが、自分のことも気にならないか?」
ションボリしている私を見て話題を変えようとしたのか、ゼルスの口調がさっきまでの苦々しい感じとは打って変わって明るい口調になっている。
本当はガウリスのことで快く人間に戻してあげよう、と言ってもらいたいんだけど…。水のモンスターについてはどうにかできる、と言い切ったゼルスがこれだけ首を横に振るんだから本当に無理なんだわ。
気を取り直して私は顔を上げた。
「それなら私ってなんなの?人間ではないんでしょう?」
「そうだな」
ゼルスはあっさり頷く。
そしてやっぱり私は人間じゃないのかとガッカリしつつ、
「じゃあ一体私は何なの?」
とゼルスを見る。
ゼルスはジッと私を見返す。
そのままお互い目を合わせたまま時間が過ぎて、もどかしくなって口を開こうとすると、
「ああ、なんて美しい瞳だ。吸い込まれそうだ」
と、ゼルスは急激に身もだえしだした。
「…」
嫌な気分になった私は悪態をつく一歩手前の表情で口を尖らせていると、ゼルスは居住まいを正して改めて私に向き直った。
「エリーには全て混じっている」
「…全て…って?」
キョトンとした声で思わず聞き返した。
全てって何なの、全てって。
「この世界は昔、神も人間も魔族も同じところに過ごしていたと聞いている。そのころ私たちはここにいなかったが」
えっ、いなかったの!?むしろ人間界に伝わる伝説って本当だったの!?
「エリーの祖先はこの世界の神であり、人間であり、魔族であり、精霊であり、モンスターであり…ともかく、その全ての血が混ざっているようだ」
「…モ、モンスター!?」
まさか私の祖先にモンスターが…!?
パニック状態になった脳内にスライムがぐよんぐよん動き回って分裂し続けている光景が浮かんでいると、
「なぜそんなものを思い浮かべる…!」
とアテナが笑いを抑えながら突っ込んできて、ヘルィスは口を押さえて笑いを堪えている。
「見た目の聡明さと中身が伴ってないのがまた良いのではないか」
ゼルスがほっこりした顔で私を見てから続けた。
「エルフやドワーフとて元々はモンスターの仲間だろうが?」
ああ、そう言われればそうだわ。
今は普通に隣にいるような存在だから忘れてしまうけど、彼らは元々モンスターと呼ばれて人間と敵対していたんだった。
「しかしエリー。お前がそうやって人間の形をとっているのは奇跡に近いことなのだぞ。どうやらこの世界では神と人が交わり、魔族と人間が交わるとその子たちはほとんど神や魔族に寄った性質になる。とにかく人間の性質は弱く、他の者の性質に消される」
まあ、人間種って弱い存在だものね、と頷きながら聞いているとゼルスは身を乗り出した。
「しかしエリー、お前はどうだ?この世界の神のように地のあらゆるものを動かせるほどの力をもつが、寿命は永遠ではない。魔族のように巨大な魔法を使えるが、魔族ほど疲れ知らずではない。
そのように色々な性質が混じりながらも基本は人間だ。人間の弱い体にそのような強大な性質が全て収まっている…。これは凄いことだ」
「じゃあ私の髪が抜け落ちたら純金になるのもそのせいなの?」
髪の毛を触りながら問いかけると、ゼルスは痛ましい顔で私を見た。
「本来は恵みをもたらすはずの髪なのに、欲のある人間に目をつけられたせいで苦労をしたな」
「…」
それについては口を開くと色々な感情が爆発しそうだから口をつぐんで、その代わりに別の考えがふとよぎって顔を上げた。
「私の両親と使用人は生き、…。無事なの?」
思わず無事なの?ではなく、生きているの?と言いそうになって、慌てて言い方を変えた。
生きているかなんて言葉、まるで生死の確認のようじゃない?そんな言葉使いたくない。
でもこの四年の間うっすらと心の中で思っていても深く考えないようにしていた。
私の髪が原因で起きた戦で私がサードたちと立ち去ったあと、私のお母様、お父様、使用人はどうなったのか、そして今どうなっているのか。
確認したい。でもその答えを聞くのが怖い。でも聞きたい。
そんな気持ちでジッと言葉を待っていると、ゼルスは柔らかく微笑み口を開いた。
「安心しなさい、全員無事だよ」
ゼルスのその一言で今まで考えるたびに不安だった感情が一気に拭われる。
安心したら聞きたいことが溢れて出て、身をのり出しゼルスへ続けざまに聞いた。
「皆は今は皆どこにいるの?どうやって暮らしているの?ちゃんと暮らせているの?怪我とかしてない?」
ゼルスは少し口を引き結んでから視線を泳がせて、私に視線を戻す。
「人並みの生活は送れている。生活は少々窮屈かもしれないが、身が危険に晒されるようなことにはなっていない。心配することはない」
どうやら無事に過ごしているようだけど…生活が窮屈って、どういうこと?
疑問を持つとアテナが私をチラと見てからゼルスに視線を向けた。
「本当のことを言っても良いのでは?少なくとも危険のない生活を送っているのです」
アテナの言い方に、ゼルスは何か大事なことを言ってないのねとゼルスに視線を向けた。
「私も本当のことが知りたいわ。気を使っているんでしょうけど何でもいいから教えてよ。あなたは何でも分かってるからいいかもしれない、でも何も分からない私からしてみたら分からないのが不安なのよ」
「…そうだな」
ゼルスは私の言葉にゆっくり口を開いた。
「三人はエルボ国の城の敷地内で暮らしている。客人という名分だが、見張るためというのが一番の目的だろうな。だがそれだけだ。他に危険になるようなことはされていないからそこは安心しなさい」
「…でもそれって、軟禁っていうんじゃないの?」
聞き返すと、ゼルスは頷いた。
「…」
皆無事だったのはとても嬉しい。けどあの欲の深い王家に軟禁されているなんて…。
目の前が暗くなる。助けに行きたくても、まだ戦乱の燻るエルボ国に行くのはサードたちに止められているもの…。
「兄に話をつけるまでエリーはここにいなさい。地上に戻すよりここにいたほうがお前と話がしやすい」
私は頷いて、アテナとヘルィスに促されゼルスの屋敷から去った。
ちなみに宗教的な話してますが我が家は(多分)戦国時代から代々浄土真宗の農民なんでそこんとこヨロシクゥ(変な思想持ってるとか思われたら嫌だなと前々から思ってた)。うちは東本願寺派。
元々信長の家臣と浄土真宗の一団が激しく対立したところから今の土地に移住してるから多分そんくらいから浄土真宗だと思う。しっかりした記録はない。




