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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ゼルス神との対話(頼れるSP付き)

「…なんでお前達が…」


私たちがゼルスのいるお城みたいなお屋敷に訪れると、一言ゼルスが私の両隣にいる人たちに呟く。


私をさらい、手を出そうとし、そしてその正体は神々の王のゼルスは王座みたいな椅子に座っていた。


「ファリアから頼まれたからです。乙女の純潔を守るためだと。あとこの方もです」


アテナが私を挟んだ反対側にいる若いような、それでも歳を取っているような地味な服装の女性に手を向けた。


このゼルスの屋敷に向かっている途中、ファリアに呼ばれたともう一人の女神がやって来た。


この女神こそが家庭を守る女神で、サンシラ国ではヘルィスと呼ばれているらしい。

二十代と言われれば二十代、四十代と言われれば四十代、六十代と言われれば六十代に見える年齢不詳の女神だけど、その雰囲気はまるでお母さんと言いたくなるもので、近くに居るとなんだか落ち着く。


「そうそう、乙女の純潔は簡単に奪っちゃだめよ、ゼルス。昔とは違うんだから」


うふふ、と微笑むその顔と口調はまるで親が息子に言うようだけど、ヘルィスから聞いた話だとゼルスのお姉さんなんだって。


「…こうも処女神に集まられてはな…。アルテミスめ、そんなに私が信用ならないか…」


「そうですね」

「ええ。そうね」


ゼルスは王座からズルル…と体を滑らせた。でもすぐに体勢を立て直して咳ばらいを一つする。


「エリー、お前をここに連れ去ったのはちゃんとした理由があるからだが…」


その言葉に私も、アテナも、ヘルィスも「え?」と声をそろえてゼルスを見上げた。


「…やりにくい…」


ゼルスは額に拳を当てて大きくため息をついている。


「安心して。私もアテナも何も口出しはしないから」


「そうです。単にこの娘の体を守るだけで口は出しません」


ゼルスは何か言いたげな視線を二人に投げかけたけど、二人は平然とした顔で私の両隣に立っている。


「…まあいい。エリー、お前も私たち神に用があってここに来たのだろう?私も個人的にお前たちに興味があった。エリーだけではなく、勇者と呼ばれているあの男、サードにもだ」


「あら、お気に召したらしいわ」


ヘルィスがあらあら、と呟いてアテナを見ると、アテナも呟き返す。


「見た目は若いですが年齢的に父が気に入るような少年ではありませんがね。性格も可愛げのない男ですよ」


「私は可愛げが無い子好きだけどなぁ。無理して強がってるところとかキュンとしちゃう」


「可愛げがないどころか、その男は性格がねじくれてますよ」


「そこに至るまでに色々と苦労があったのよ。そういう家庭に恵まれなくてひねくれた子こそ甘やかしたくなるのよね、私」


ヘルィスとアテナがヒソヒソと話しているのを、ゼルスが「ンンッ!」と咳払いして止める。


二人の会話を聞いて思ったけど…まさかこのゼルスは男にも手を出すの…?どれだけ節操がないのこの神々の王…。

サードは男に全く興味がないけど、節操のなさではサードといい勝負だわ。


「エリー、お前たちがこの国に来た一番の目的は地上に害をなすモンスターを消すことなのだろう?」


ゼルスは無理やり本題に入ったみたいで、私は気を取り直して頷く。


「神様は全部分かってるみたいだからここに来るまでの説明は省くわ。…その水のモンスターのことは、どうにかできる?」


とりあえずどうやってコンタクトを取ればいいのか分からない神様とこうやって直接対面して話ができるんだから、聞きたいことは全部聞いた方が良い。


ゼルスに聞くと、ゼルスはゆったりと肘置きに肘を置いて頬杖をつく。


「出来ないことは無い」

「本当に!?」


パッと喜びの声を上げると、ゼルスは可愛い奴、という目で私を見てくるからムッと真面目な顔に戻る。


でもロッテでさえ色々と本を調べて魔界の知識人に聞いて回ったら「毒を川に撒けばいいんじゃないの」というふざけた返答しかもらえなかったのに、こんなにあっさりと可能だって言われるなんてと思っているとゼルスは続ける。


「私の兄が冥界にいるのだが…」


冥界。人が死んだら行く場所。

その地の宗教観であの世の名称もそこがどんな所かも変わるけど…冥界は単に死んだらいくところ、みたいな感じだったかしら…。地獄みたいに罪人が刑罰を受ける場所じゃなかった気がする。


「兄に地上にいるそのモンスターを全て冥界に引っ張ってもらうことは可能だ」


あれこれと考えているとゼルスはそう締めくくる。


つまりはあの水のモンスターを全て冥界に引きずり込む…殺すことが可能ということね。

…でも冥界に引っ張るって怖い言葉だわ。やろうと思えば私の命だって冥界に引っ張られることもあり得るんだもの。


そう思うとうすら寒いものを感じて首を横に振っていると、ゼルスは少し難しそうな顔つきになっている。


「だがこちら側の頼みを聞いてくれるかどうか…。気難しい奴だからな。そのことは追々考えるとして、次にエリーが気にかけていることだ。ガウリスのことだろう」


「ええ」


どちらかというとガウリスに重点を置きすぎて水のモンスターの事はすっかり忘れていたのよね。


「ガウリスは元の人間には戻れん。これは他の者たちからも聞いた通りだ」


最高神のゼルスからも同じことを言われてガッカリした。でも諦めきれなくて口を開く。


「だけどガウリスは神官の家に生まれてからずっと神様…あなたの言葉を聞けずに育ったせいで神様はこの世にいないんじゃないか、って思って本当にいるのかどうかを確かめに登ってしまったのよ?そもそもそれが原因じゃないの。何で神官たちがいくら呼び掛けてもその声に応えないのよ?」


そう言うとゼルスの目つきが変わって真剣な表情になった。怒らせた?と思って口をつぐんでゼルスの顔を見返す。


「…それは私にも非があった」


ゼルスはそこで一旦区切って、言葉を探すように思考を巡らせる表情になる。


「…昔いた所とあまりにも似た気候・風土・風習があるものだから、つい人間たちを可愛がり過ぎてしまった。そのせいで人間たちは私たちに頼る。何もかも私たちの言葉が正しいとぐに私たちに問いかける。

…確かにその通りだ、私たちの言葉は頼りになる正しい言葉だろう。だが人間にとってはどうだ?」


急にどうだって言われても。でもここに来てから神様たちは何も言わなくたって私の心の中を透かしてみるようにあれこれと言い当ててきたんだから、そんな神様の言うことだったら間違いはないとは思えるわよね。


「そうね、間違ったことを言われないんだったら何でも聞いた方が楽…」


そこまで言って、楽?と口をつぐむ。

自分達が楽になるから、何でもかんでも人の…神様の言いなりになってるって、それはそれでどうなのかしら。


ゼルスは私の考えを読み取ったのかゆっくりと頷いた。


「その通り。ただ私たちの言葉のいうなりに動くだけだと人間のためにならん。それに毎年夏になると水が不足する。

そのことについても毎年言われ、私もつい気が乗って頼まれるがまま雷を打ち鳴らし雨を降らせていたが、そのせいで一部の神官が勘違いし始めた。『神官は神を意のままに動かす事ができる』と」


私は目を見開かせて、思わず聞いた。


「もしかしてあなたを祀っている神殿の人たちが…!?」


見た限りではそのような勘違いしているような人は居ないように思えたけれど、と思っていると、ゼルスは首を軽く横に振った。


「一つ前の代の大神官とその一派は勘違いしていたが、今の大神官は思慮深い。だがそう勘違いした神官は未だ多い。自分の神殿に訪れる信者に自分には神を動かす力があると言う。信者はそれを信じる。神官は更に図に乗る…。悪循環ではないか?」


それはそうだわ、と頷いた。


「もちろん全ての神官がそうではない。ガウリスは一時我々の存在を否定したが、それも真面目で真っすぐな男だからだ。その図にのる神官と妄信する信者を見て信者を守りたいという気持ちがあったからだ。

人間が我々を信じ頼ってくれるのは大変可愛らしいし、嬉しい。しかし人間は宗教にのめりこみ過ぎると視野が狭くなる。心の悪い者になると宗教の力で人を意のままに操り我々が伝えたいことを捻じ曲げて伝えようとする。

結果私たちの言葉は神官より下の者に届かない。だが私たちはそれは本意ではない。宗教とは一体になるものではない、隣にあって人生に希望をもたせるためのものなのに」


段々と苦々しい口調になっていくゼルスを見て、この神様は単に女の人を襲うことに執念を燃やすだけじゃなくて、色々と考えている神様なんだわと見直した。


「じゃあ図に乗る神官が居なくなって、何でもあなたたちに頼らないで自分たちで考えるようになったら、前みたいに信託に応えてくれるの?」


質問すると、ゼルスはフッと表情を緩めて私を見た。


「そうなるには時間がかかるぞ。我々はいつまでも待てるが、心根の悪い者が多くなる一方ならもう信託には答えん。他の世界でもそうだったようにこの世界からも手を引こう」


人間からしてみれば一方的に連絡が取れなくなったという感じでも、神様から見ればちゃんとした理由があって連絡を取らないようにしていたのね。


「ところでガウリスは…」


諦めきれなくてもう一度ガウリスのことについて聞こうとすると、ゼルスは微笑みながらも首を横に二回振っただけだった。


「…」

このことをガウリスに何て伝えたらいいの…。ガウリス…。


「ガウリスを心配しているようだが、自分のことも気にならないか?」


ションボリしていると話題を変えようとしたのか、ゼルスの口調がさっきまでの苦々しい感じとは打って変わって明るい口調になっている。


本当はガウリスのことで快く人間に戻してあげよう、と言ってもらった方がいいんだけど…水のモンスターについてはできる、と言い切ったゼルスがこれだけ首を横に振るんだから本当に無理なんだわ。


気を取り直して私は顔を上げた。


「それなら私ってなんなの?人間ではないんでしょう?」


「そうだな」


ゼルスはあっさり頷く。


やっぱり人間じゃないのとそこはかとなくガッカリしながら、じゃあ、一体私は何なのとゼルスを見る。ゼルスはジッと私を見返す。


そのままお互い目を合わせたまま時間が過ぎて、もどかしくなって口を開こうとすると、


「ああ、なんて美しい瞳だ。吸い込まれそうだ」


と、ゼルスは急激に身もだえしだした。


「…」

口を尖らせてゼルスを見ると、ゼルスは居住まいを正して改めて私に向き直った。


「エリーの祖先は全て混じっている」

「…全て。って?」


キョトンとした声で思わず聞き返した。


全てって何なの、全てって。


「この世界は昔、神も人間も魔族も同じところに過ごしていたと聞いている。そのころ私たちはここにいなかったが」


えっ、いなかったの!?むしろ人間界に伝わる伝説って本当だったの!?


「エリーの祖先はこの世界の神であり、人間であり、魔族であり、モンスターであり、精霊であり…ともかく、全ての血が混ざっているようだ」


「…モンスター!?」


まさか私の祖先にモンスターが…!?脳内でスライムがぐよんぐよん動き回って分裂し続けている光景が浮かぶ。


「なぜそんなものを思い浮かべる…!」


アテナとヘルィスが隣で口を押さえて笑いを堪えている。


「見た目の聡明さと中身が伴ってないのがまた良いのではないか」


ゼルスがほっこりした顔で私を見てから続けた。


「エルフやドワーフとて元々はモンスターの仲間だろうが?」


そう言われればそうだわ。

今は普通に隣にいるような存在だから忘れてしまうけど、彼らは元々モンスターと呼ばれて人間と敵対していたんだった。


「しかしエリー。お前がそうやって人間の形をとっているのは奇跡に近いことなのだぞ」


とゼルスが口を開いたから私はゼルスを見る。


「どうやらこの世界では神と人が交わり、魔族と人間が交わるとその子たちはほとんど神や魔族に寄った性質になる。とにかく人間の性質は弱く、他の者の性質に消される」


まあ、人間種って弱い存在だものね、と頷きながら聞いているとゼルスは身を乗り出した。


「しかしエリー、お前はどうだ?この世界の神のように地のあらゆるものを動かせるほどの力をもつが、寿命は永遠ではない。魔族のように巨大な魔法を使えるが、魔族ほど疲れ知らずではない。

そのように色々な性質が混じりながらも基本は人間だ。人間の弱い体にそのような強大な性質が全て収まっている…。これは凄いことだ」


「じゃあ私の髪の毛が抜け落ちたら純金になるのもそのせいなの?」


髪の毛を触りながら問いかけると、ゼルスは痛ましい顔で私を見た。


「本来は恵みをもたらすはずの髪なのに、欲のある人間に目をつけられたせいで苦労をしたな」


「…」


それについては口を開くと色々な感情が爆発しそうだから口をつぐんだけど、ふと思いついて顔を上げた。


「私の両親と使用人は…。…無事なの?」


思わず無事なの?ではなく、生きているの?と言いそうになったけど、そんな言葉を使うとまるで生死の確認のようになってしまうからとっさに言い方を変えた。


自分のせいで戦が起きたからと牢屋に残ったお父様、城から脱出する際の混乱ではぐれてしまったお母様と使用人。

未だに故郷に戻っていないから、私が冒険者になったあと皆がどうなっているのか全く分からない。

けど会ったこともない人のこともあれこれと分かる神なら、きっと皆どうしているか分かるはず。


「安心しなさい、全員無事だよ」


ゼルスのその一言で今まで考えるたびに不安だった感情が一気に拭われる。


身をのり出して、


「今は皆どこにいるの?どうやって暮らしているの?ちゃんと暮らせているの?怪我とかしてない?」


と聞いた。


ゼルスは少し口を引き結んでから視線を泳がせて、私に視線を戻す。


「人並みの生活は送れている。生活は少々窮屈かもしれないが、身が危険に晒されるようなことにはなっていない。心配することはない」


どうやら無事に過ごしているみたいだけど…生活が窮屈って、どういうこと?


するとアテナが私をチラと見てからゼルスに視線を向ける。


「本当の事を言っても良いのでは?少なくとも身の危険はない生活を送っているのです」


アテナの言い方を聞いて、ゼルスは何か大事なことを言ってないのねとゼルスに視線を向けた。


「私も本当の事が知りたいわ。気を使ってるのかもしれないけど何でもいいから教えて。あなたは何でも分かってるからいいでしょうけど、何も分からない私からしてみたら分からないのが不安なのよ」


「…そうだな」


ゼルスは私の言葉にゆっくり口を開いた。


「三人はエルボ国の城の敷地内で暮らしている。客人という名分だが、見張るためというのが一番の目的だろうな。だがそれだけだ。他に体の危険になるようなことはされていないからそこは安心なさい」


「…でもそれって、軟禁っていうんじゃないの?」


聞き返すと、ゼルスは頷いた。


「…」

皆無事だったのはとても嬉しい。けど、あの欲の深い王家に軟禁されているなんて…。


目の前が暗くなる。助けに行きたくても、まだ戦乱の燻るエルボ国に行くのはサード達に止められている。


「兄に話をつけるまでエリーはここにいなさい。地上に戻すよりここにいたほうがお前と話がしやすい」


私は頷いて、アテナとヘルィスとゼルスのいる屋敷から去った。

活動報告にちょっとした裏話を書いてるので気が向いたらどうぞ

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