私越しに何が見えてるの
「じゃあ、何?私は禁足地に入っちゃったの!?」
驚きと、ガウリスが禁足地に入った罰でドラゴンの姿になったことを思い出してサッと顔から血が引いた。
ううんそれよりその禁足地に堂々といる目の前の女の人や周りの人々皆は一体何なの?あのプラチナブロンドの男と帽子をかぶった男は…!?
まさか、という気持ちを込めて目の前に座っている女の人をマジマジと見てから…、ソッと聞いた。
「あなたたちは…神様、と言える人…なの…?」
人じゃないでしょうけど、他に言いようもないからそう聞く。
すると女の人は頷いた。
「そうだ」
「…」
心の中では「ええええ!」と絶叫しているけど、驚きすぎてもう声が出ない。
神様に会えるなんてことまず普通にありえない、奇跡とも言えるレベルで全く無い。神様と会った最後の記録は二百年も昔のことで、会えた人は聖人と認定されるほどの出来事…。
それより待ってよ。もしかして私、この数十分足らずで三人の神に会ったってこと?ガウリスでさえ声も聞けないまま二十年以上過ごしていたっていうのに?
…でも人をさらって襲おうとしたあの男と、手を取って口説いてきたあの二人は本当に神なのかしら。
ぐるぐると考えこんでいると女の人は声をかけてくる。
「信用できないか?」
「え、いや、そうじゃなくて…。こんな普通に会えて話せるとは思っていなかったから…」
今更ながらに恐縮して体を縮こませた。
それより魔族と同じく神様もほとんど人と同じような見た目をしているのね。
「私とて普段はこのように地上の者と話すことなど無いぞ。父がお前をさらい、偶然通りかかった私にお前が助けを求め、私はお前の貞潔が危ないと判断したから連れてきた。そして目の前にいるからこうして話している」
淡々と話す女の人の話に軽く頷いてから、未だに自己紹介をしてないのにふと気づいた。
「あの、私はエリー・マイよ。あなたのお名前を聞いてもいいかしら」
「お前の本当の名はフロウディア・サリア・ディーナだろう?」
その一言に驚いて目を見開いた。
出会ったばかりで何も言っていないのに何で私の本名が分かったの!?やっぱり目の前の人は神と呼べる人なんだわ。人じゃないけど。
「…色々とあって本名は隠して旅をしているの」
「そうか」
特に突っ込んで聞くこともなく、女の人は一言で終わらせる。
「あの、ところでお名前は」
少し面倒くさそうな顔で女の人は返してきた。
「好きに呼べばいい。人は我々を好きに呼んでいる。サンシラ国ではファリアと呼ばれているが、元居た世界ではアルテミス、ディアナなどという名で呼ばれていた」
元居た世界…?
「元居た世界って、サンシラ国以外の別の国ってこと?」
ファリアは私をチラと見て何か語ってくれそうな表情になって…でもふと思い直したような顔つきになると視線を逸らす。
「知らなくてもいいことだ。人の常識以上のことを知ると狂人扱いされるぞ」
ミルクを飲みほしたファリアは、ミルク壷を持って私に向けた。
「もう一杯飲むか」
「ありがとう」
コップを壷に近づけてミルクを注いでもらう。
なんとなくサードが自分の故郷のことを中々話してくれないようなじれったさを感じるわ。まぁ知らなくていいと神様に言われたのなら別に私が聞いても意味がないのかもしれないけど。
…。ロッテがこの場に居たら色々と聞くんだろうなぁ。でも神様と同じ空間には居られないかしら。
ロッテのことを思い出しついでに屋敷であれこれ話したこともフッと思い出した、ロッテがサードは他の世界の人なのかもしれないって言っていたことを。
「あの、別の世界からここに人が来るのはあり得るの?」
ファリアは私の顔を見た。
「別の世界から人が?神ではなく、人間が?」
頷きながら私はロッテが言っていたことを思い出しながら続ける。
「こことは違う風習、風俗があって、ドラゴンのことをリューとかタツとかいう…感じの世界?私もあまり理解してないんだけど、もしかしたら同じパーティの人が別の世界から来た人なんじゃないかっていう話があったの」
ファリアは興味を引かれたみたいで、身を少し乗り出した。
「その者は本当に別の世界から来たと言っているのか?」
「ううん。本人はあまり自分の話はしないの。話すと長くなるからって」
今のところサードの故郷の情報は、出稼ぎと死人・病人・娼婦・罪人が多くて、海辺で、けど船には乗ってなくて、海の色はどす黒い青で波が荒くて、浜辺では恩人が殺されて死んだというものだけ。
ファリアはしばらく私の顔を黙って見ていて、ふいに口を開いた。
「黒髪で茶色の目を持つ男…現在の勇者サードか。そいつのことだな?」
ギョッとして顔を上げる。
サードの名前も言っていないのにどうして見た目のこともそんなに分かるの!?
するとファリアは私を見ながら独り言みたいに言葉を続けた。
「…ああ、確かにそうだな。別の…あの世界の…極東の島国…。今の名前とは別に名前があるな、お前と同じだ」
驚いてファリアの目を見返した。
「わ、分かるの…!?」
今まで散々サードに質問しても聞けなかったことが。
ファリアは私の質問には何も答えず黙って私を見続け、
「お前は禁足地に入り込んできたあの神官と共に行動しているのか」
と言ってきた。
「それってガウリスのこと?っていうか、私越しに何が見えているの!?」
自分の後ろに何か映像でも浮かんでいるのかと後ろを見てみても、木製の入口、窓、そしてファリアのお世話をする女性たちとファリアの弓矢しか見えない。
視線を元に戻す。まだファリアはまだ私をジッと見ていて、
「…ああ、父がお前を呼んだのはそのことか」
と、一人納得している。けど私には何が何なのかさっぱりだから、もどかしくなって身を乗り出した。
「あの男はなんのために私を呼んだの?まさか本当に体目的だったわけじゃないでしょうね?」
「お前の出自についてだと思うのだが。お前もお前の父も祖父も、誰も自分たちのことについて知らなかったのだろう?人ではないこと、髪が純金になること…」
そんなことも分かっているの…。
舌を巻いて椅子の背もたれに寄りかかった。ここまで何も言わなくてもひた隠しにしていたことでさえ分かっているんだったら、これ以上あれこれ自分のことを話すこともない。
でもそうなると気になることも出てくる。
「ある人からは神の血が混じってるかもしれないって言われたんだけど…」
「それを言ったのは人じゃなく魔族だろう、…ずいぶん頭の回る女の魔族みたいだな」
本当に何も言ってないのに分かっているのねと思いながら、今まで気になっていたことを続けざまに質問する。
「そう。魔族のロッテから言われたんだけど、本当にそうなの?だから私はここまで連れてこられて、ガウリスみたいに罰を受けてないの?本当に私には神の血が混じっていて、だから天地創造みたいな…、そんな自然を自由に操れる魔法が使えるの?」
「…それは父に聞けばいいことだ。私が連れて来たんじゃない、父が連れて来たのだから」
そうか…と思い、ガウリスの名前を出した流れで更に質問する。
「じゃあガウリスをドラゴンにしたのは誰?その人と話がしたいわ。あのプラチナブロンドの男がやったの?」
「それは父じゃなくて兄だな」
ファリアにはお兄さんがいるのね。
そう思っている間もファリアは私をじーっと見つめてくる。
今も私越しにあれこれ色んなことを見られているのかと思うとまるで丸裸にされているような気分…。
段々と身の置き所が無くなってきてソワソワしてして視線をあちこちに向けていると、ファリアはそんな私の考えに気づいたようで視線を緩めた。
「明日父に色々と聞くと良い」
「…でも…」
体に悪寒が走る。
いきなりさらわれて、しかも襲われかけたんだもの。あんな人…神でも二人で話したくない。
特に口に出さなくてもファリアは私の考えを読んだのか、そうだな、と頷いた。
「お前ほどの見た目だと父だけじゃなく他の男神も手を出しそうだな。わかった、私は明日用事があってついて行けないが、他の者に同行するよう呼びかけておこう。安心しなさい」
ごく普通に仲間の男神すら信用していないような口ぶりをするじゃない。まさか、ファリアも他の男神に何かされたんじゃ…!?
「自分の身は自分で守れる」
心配していたら一言だけファリアから返ってきた。
その点については良かったとホッとしながらも、ガウリスの姿を変えたお兄さんにも会いたいからファリアに伝える。
「もう分かってるかもしれないけど、ガウリスはこの禁足地に入って罰を受けて、それも魔族であるロッテの力を借りて人間の姿になったことで神官から除名されそうになっているの。
でもガウリスほど神官にふさわしい人はいないわ。あんなに人に慕われるような人なんか滅多にいないもの。だから神様の力で普通の人間に戻してほしいの」
ファリアはわずかに口をつぐんで、真っすぐ私の目を見た。
「一度身を変えたものは二度と元には戻らない。それは諦めるがいい」
神様に諦めろと言われたら…本当にガウリスは元に戻れなくなる、そんなのダメだわ。
「けどそんなの…ガウリスが可哀想じゃないの。神様は皆に愛と恩恵を与える存在でしょう?ガウリスに愛と恩恵を与えてあげて、お願いよ」
「…」
ファリアは細く長くため息をついてから椅子の背もたれにゆったりともたれる。
「ガウリスの行為は禁忌に触れたらどうなるか分かったうえだったのだろう?私は可哀想とは思わない。当然の結果だし、兄のしたことはまだ優しいものだ。兄は自分が憎たらしく思う相手には実にむごい仕打ちで殺したこともある。ガウリスをあの姿にしただけ。…それこそが兄がガウリスに与えた愛と恩恵だと思うがな」
「どこが?神官の立場を除名されそうになってガウリスは…あんなにいつも落ち着いてるガウリスがやさぐれていたのよ?」
「…」
ファリアは黙って私を見ていて、かすかに笑った。お前は何も分かっていないとでも言いたげな笑いを浮かべたままファリアは立ち上がる。
「来なさい」
奥の扉へ歩いて行くとファリアお付きの女性が扉を開けた。
私はまだ残っているミルクを飲みほしてからファリアの後ろを駆け足でついて行く。
「ここで眠りなさい」
ファリアは窓のない一部屋に私を通す。…どうやら物置みたいだけど…。
「いいか、今宵はこの部屋から一歩も外に出てはいけない。声が聞こえても応えてはいけない、音が聞こえても耳を傾けてはいけない。ただし部屋の中に光るモノが現れたらすぐに部屋から飛び出すこと。分かったか」
「…どうして?何か出るの?」
暗く窓のない一室、それとファリアの言いつけの数々を聞いて部屋へ入るのに躊躇すると、ファリアは酷く嫌そうな顔をして腕を組む。
「父が姿を変えて現れるかもしれないからだ。父は目を付けた女に対しあらゆる手段を使い手をつけようとする。塔に閉じ込められた女の元には金の雨に姿を変えて部屋へ侵入したほどだ。まず私の取り巻きのニンフ…ではなく精霊に見張りはさせておくが、念のためだ。窓が無いのがこの部屋だけだからな」
ゾッとする。
なんて男なの。それ本当に神なの。それとも性的暴行を司る神なの。何なの色々と最低すぎる。
っていうより、あの翼の生えた帽子をかぶった男にファリア…それとファリアのお兄さんもあの最低な男の子供ってことなのよね?
まさかファリアたちは私みたいに無理やりさらわれて襲われた女性らから産まれた…わけじゃ…ないわ、よ、ね…?
…。ああ、それがどうなのかも考えたくないわ、そんな考えが浮かんだだけで気分悪くなる。
「何でそんな奴が神なの?信じられない」
心からの声で言うと、ファリアは微妙に口元を歪めて笑った。
「それは我々の王で主神のゼルスだからだな。英雄色を好むとは人間もうまい言葉を作ったものだ」
ファリアは学校に居たらやたらと女子からモテるクール系女子。そんで絶対に弓道部かアーチェリー部所属。




