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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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私越しに何が見えてるの

「じゃあ、何?私は禁足地(きんそくち)に入っちゃったの!?」


驚きと、ガウリスが禁足地に入った罰でドラゴンの姿になったことを思い出して、サッと顔から血が引いた。


ううんそれよりその禁足地にいるこの女性たちは一体何者…?あの白髪の男の人と帽子をかぶった男も…!?


まさか、という気持ちを込めて目の前に座っている女性をマジマジと見てから、ソッと聞いた。


「…あなたたちは…神様、と言える人…なの…?」


人じゃないだろうけど。


女性は頷いた。


「そうだ」


「…」


心の中では「ええええ!」と絶叫しているけど、驚きすぎて声が出ない。

神様に会うなんて滅多にない。会えたならその人は聖人と認定されるほどの出来事…。


ガウリスでさえ声も聞けないまま二十年以上過ごしていたのに、私は数十分足らずで三人の神に会ったことになるのかしら。

…でも人をさらって襲おうとしたり、いきなり手を取って口説いて来たあの二人は本当に神なの?


「信用できないか?」


「え、いや、そういうことじゃなくて…。こんな普通に会えて話せるとは思ってなかったから…」


今更ながらに恐縮して体を縮こませた。魔族もそうだけど、どうやら神様もほとんど人と同じような見た目をしているみたい。


「私とて普段はこのように地上の者と話す事など無いぞ。父がお前をさらって来て、偶然通りかかった私にお前が助けを求め、私はお前の貞潔が危ないと判断したから連れて来た。そして目の前にいるからこうして話している」


女性は淡々と話している。

そういえば自己紹介も何もしてないのに気づいた。


「…あの、私はエリー・マイというのだけれど…名前を聞いてもいいかしら」


「お前の本当の名はフロウディア・サリア・ディーナだろう?」


その一言に驚いて目を見開いた。


出会ったばかりで何も言っていないのに…。やはり目の前の人は神と呼べる人なんだわ。人じゃないけど。


「…色々とあって本名は隠して旅をしているの」

「そうか」


特に突っ込んで聞くことも無く、女性は一言で終わらせる。


「あの、ところでお名前は」


女性は少し面倒くさそうな顔になる。


「好きに呼べばいい。人は我々を好きに呼んでいる。サンシラ国ではファリアと呼ばれているが、元居た世界ではアルテミス、ディアナなどという名で呼ばれていた」


元居た世界…?


「元居た世界って、サンシラ国以外の国ってこと?」


女性…ファリアという神様は私をチラと見て何か語ってくれそうな表情になったけど、ふと思い直したような顔つきになって黙り込む。


「知らなくてもいいことだ。人の常識以上のことを知ると狂人扱いされるぞ」


とミルクを飲みほして、壷を持って私に向けた。


「もう一杯飲むか」

「ありがとう」


コップを壷に近づけてミルクをもらった。


なんとなくサードが自分の故郷のことを中々話してくれないようなじれったさを感じたけど、知らなくていいと神様に言われるのなら知らなくてもいいのかもしれない。


ロッテがこの場に居たら色々と聞くんでしょうね、でも神様と同じ空間には居られないかも…。


ロッテのことを思い出して、ふっと思い出した。


そういえばロッテはサードは他の世界の人なのかもしれないって言っていたわ。今ファリアも別の世界って言っていたし…。


「あの、別の世界からここに人が来るのはあり得るの?」


ファリアは私の顔を見た。


「別の世界から人が?神ではなく、人間が?」


ええ、と頷きながら私はロッテが言っていたことを思い出しながら続ける。


「こことは違う風習、風俗があって、ドラゴンのことをリューとかタツとかいう…感じの世界?私もあまり理解してないんだけど、もしかしたら同じパーティの人が別の世界から来た人なんじゃないかっていう話があって…」


ファリアは興味を引かれたみたいで、身を少し乗り出した。


「その者は本当に別の世界から来たと言っているのか?」


首を横に動かした。


「ううん。本人はあまり自分の話はしないの。話すと長くなるって」


今のところサードの故郷の話は出稼ぎに死人・病人・娼婦・罪人が多くて、海辺で、けど船には乗ってなくて、海の色はどす黒い青で波が荒くて、浜辺では恩人が殺されて死んだというものだけ。


ファリアはしばらく私の顔を黙って見ていて、ふいに口を開いた。


「黒髪で茶色の目を持つ男…現在の勇者サードか。そいつのことだな?」


ギョッとして顔を上げる。サードのことなんて一言も言っていないのに。


「…ああ、確かにそうだな。別の…あの世界の…極東の島国…。今の名前とは別に名前がある、お前と同じだ」


驚いてファリアの目を見返した。


「わ、分かるの…!?」


今まで散々サードに質問しても聞けなかったことが。ファリアは黙って私を見続ける。


「お前は禁足地に入り込んできたあの神官と共に行動していたのか」


「それってガウリスのこと!?っていうか、私越しに何が見えているの!?」


自分の後ろに何か映像でも浮かんでいるのと後ろを見るけど、木製の入口と窓、そしてファリアの世話をする女性たちとファリアの弓矢しか見えない。


視線を元に戻すと、ファリアはまだ私をジッと見ている。


「…ああ、父がお前を呼んだのはそのことか」


一人納得したような声で言うけど私には何が何なのかさっぱりだから、もどかしくなって身を乗り出す。


「なんのために私を呼んだの?まさか本当に体目的だったわけじゃないでしょうね?」


「お前の出自についてだと思うのだが。お前もお前の父も祖父も、誰も自分たちのことについて知らなかったのだろう。人ではないこと、髪が純金になること」


そんなことも分かっているの…。


舌を巻いて椅子の背もたれに寄りかかった。ここまで何も言わなくても分かっているんだったら詳しく話さなくても全部分かってるのよね。

そうなると気になることも出てくる。


「ある人からは神の血が混じってるかもしれないって言われたんだけど…」


「それを言ったのは人じゃなく魔族だろう、…ずいぶん頭の回る女の魔族みたいだな」


本当に何も言ってないのに分かっているのねと思いながら続けた。


「ええ、ロッテからそう言われたんだけど、そうなの?だから私はここまで連れてこられて、ガウリスみたいに罰も受けてないの?本当に私には神の血が混じってるの?だから天地創造みたいな、そんな自然を自由に操れる魔法が使えてるってことなの?」


「…それは父に聞けばいいことだ。私が連れて来たんじゃない、父が連れて来たのだから」


そうか…と思ったけど、ガウリスのことがフッと思い浮かぶ。


「ガウリスをドラゴンにしたのは誰なの?話がしたいわ。あの白髪の男の人がやったの?」


「それは父じゃなくて兄だな」


ファリアにはお兄さんがいるの。


そう思っている間もファリアは私をじっと見つめてくる。

なんだか丸裸にされてジロジロと見られているような気分になって来て、段々と身の置き場所が無くなって来た。


ファリアはそんな私の考えにふと気づいたみたいで、視線を緩める。


「明日父に色々と聞くと良い」

「…でも…」


体に悪寒が走る。

いきなりさらわれて、しかも襲われかけたんだ。あんな人…神様でも二人で話したくない。


そのことをファリアに伝えると、ファリアはそうだな、と頷いた。


「お前ほどの見た目だと我々の仲間…男神は手を出そうとするだろうな。わかった、私は明日用事があってついて行けないが、他の者に行くよう呼びかけよう。安心しなさい」


ごく普通に仲間の男の神様を信用していないような口ぶりだわ。まさか、このファリアも他の男の神様に何かされたんじゃ…。


「自分の身は自分で守れる」


心の中で色々と考えて心配していたら一言だけファリアから返って来た。

その点については良かったとホッとしながらも、ガウリスの姿を変えたお兄さんにも会いたいことをファリアに伝える。


「もう分かってるかもしれないけど、ガウリスはこの禁足地に入って罰を受けて、それも魔族のロッテの力を借りて人間の姿になったから神官から除名されそうになっているの。

でもガウリスほど神官にふさわしい人は居ないわ。あんなに人に慕われる人、滅多にいない。だから神様の力で普通の人間に戻してほしいの」


ファリアはわずかに口をつぐんで顔をかいてから真っすぐ私の目を見た。


「一度身を変えたものは二度と元には戻らない。それは諦めるがいい」


神様に諦めろと言われたら…本当にガウリスは元に戻れなくなる、そんなのダメだわ。


「けどそんなの…ガウリスが可哀想じゃないの。神様は皆に愛と恩恵を与える存在でしょう?ガウリスに愛と恩恵を与えてあげて、お願いよ」


「…」

ファリアは細く長くため息をついてから椅子の背もたれにゆったりともたれる。


「ガウリスの行為は禁忌に触れたらどうなるか分かったうえでの行為だったのだろう?私は可哀想とは思わない。当然の結果だし、兄のしたことはまだ優しいものだ。

兄は自分が憎たらしく思う相手には実にむごい仕打ちで追い込み殺したこともある。ガウリスをあの姿にしたことこそが兄がガウリスに与えた愛と恩恵だと思うがな」


「どこが?神官の立場を除名されそうになってガウリスは…あんなにいつも落ち着いてるガウリスがやさぐれていたのよ?」


「…」


ファリアは黙って私を見ていて、かすかに笑った。お前は何も分かっていないとでも言いたげな笑いを見て黙っていると、ファリアは立ち上がる。


「来なさい」


奥の扉へ歩いて行く。ファリアの世話をする女性が扉を開けた。

私はまだ残っているミルクを飲みほしてからファリアの後ろを駆け足でついて行った。


「ここで眠りなさい」


ファリアは窓のない一部屋に私を通す。…どうやら物置みたいだけど…。


「いいか、今宵はこの部屋から一歩も外に出てはいけない。声が聞こえても応えてはいけない、音が聞こえても耳を傾けてはいけない。ただし、部屋の中に光る物が現れたらすぐに部屋から飛び出すこと。分かったか」


「…どうして?何か出るの?」


窓のない暗い一室を見て入るのに躊躇(ちゅうちょ)してファリアに聞くと、ファリアは酷く嫌そうな顔をして腕を組む。


「父が姿を変えて現れるかもしれないからだ。父は目を付けた女を物にするまでは諦めない。大昔には塔に閉じ込められた女の元に金の雨に姿を変えて部屋に侵入したほどだ。まず私の取り巻きのニンフ…ではなく精霊に見張りはさせておくが、念のためだ。窓が無いのがこの部屋だけだからな」


ゾッとする。なんて男なの。本当に神なの。それとも性的暴行を司っている神なの。何なの。


でも思えばあの翼の生えた帽子をかぶった男の人もファリアも…それに会ってないけどファリアのお兄さんもきっとあの白髪の男の人の子供ってことなのよね。

もしかして皆、私みたいに無理やりさらわれて襲われた女性から産まれた…わけじゃ…ないわよね…?

…。ああ、ただそう思っただけだけど嫌な気分になってきた。


「なんでそんな人が神様なの?信じられない」


心からの声で言うと、ファリアは微妙に口元を歪めて笑った。


「それは、我々の王で主神のゼルスだからだな。英雄色を好むとは人間もうまい言葉を作ったものだ」

ファリアは学校に居たらやたらと女子からモテるクール系女子。そんで絶対に弓道部かアーチェリー部所属。

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