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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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星空の下で(書き直し)

夜。


ガウリスが心底疲れた表情で神殿の庭につながっている回廊の椅子に座っているのを見つけた。


「…大丈夫?」


お昼から会わなかったこの数時間のうちに何があったのかと思うほどにやつれたガウリスに声をかけると、ガウリスは私をチラと見てからまた深くため息をついた。


「大丈夫です」


ウソよ、全然大丈夫じゃないでしょ。


内心ツッコミながら隣に座った。石で作られた長椅子のヒンヤリとした感覚が服越しに伝わってくる。この神殿はカームァービ山のふもとに建てられているから、町中と比べると空気がヒンヤリとしていて気持ちが良い。


「どんな話合いをしたの?」


「今までのことを正直に全て話しました」


「全てって…。もしかして禁足地で神様の力でドラゴンになって、ロッテ…魔族の力で今の姿に戻ったことも?」


ガウリスは頷く。


やっぱり全部話しちゃったのね。

神官としてはそこの部分は言わないほうがよかったと思うんだけどなぁ…。


ガウリスは眉間にしわを寄せながらため息混じりに口を開く。


「大神官様は冷静に耳を傾けておられたのですが、父が興奮して何度も同じことを繰り返し聞いてくるもので話が先に進まず…今の今までかかってしまいました」


え。お昼からこんな夜更けまで?うわぁ…それは疲れるのも当然よ。私だったら耐えられない。


でも人のお父さんについてあれこれ言うのも(はばか)られるから、ほんのり話題を逸らす質問をする。


「それで全部話したら、大神官様は何か言ってた?」


「私が禁足地(きんそくち)に赴いたのは勘付いておられたようです。…まさかそれで私がドラゴンの姿になり、魔族のロッテさんやエリーさんの力でこの姿に戻れたと伝えたら酷く戸惑った顔をしておられました」


ガウリスはそこで区切って指をもてあそびながら続ける。


「まずは無事に戻ってきたことを良しとして、今日はゆっくり休みなさいと話は終わりました。しかし大神官様のあの表情を見る限り私は神官から除名されるでしょう。神官の立場にあるのに神より罰を受ける、魔族の力を借りる…。これは神官から除名どころか即座に処刑されてもおかしくないことです」


処刑の言葉に思わず息をのむ。


「けど…ガウリスは皆から慕われる立場の人じゃない」


「禁足地に赴いた時点でその覚悟はしていました。それに私はもはや人でもありません。今はロッテさんとエリーさんのおかげで人としての見かけを維持しているにすぎません。そうでしょう?」


ガウリスは吐き捨てるようにそう言う。

いつも物静かにどっしりと構えているガウリスだけど、今は少しやさぐれているような口調だわ。


私は少し口をつぐんでから星の広がる空を眺めて、一息ついた。


「…実は私もこんな人の見かけをしてるんだけど、人じゃないらしいのよ」


ガウリスが驚いた顔で私を見る。そうやってマジマジと私の顔を見てから、


「…エルフですか?」


と聞いてきた。違うと私は首を横に振る。


「分からないの。ただ学者に調べられて分かったんだけど人間でもないしモンスターでもないらしいの。ロッテから見てみたら色んな種族に思えてこの種族だって断定できないんだって。学者に人じゃないって伝えられた時には、『じゃあ人じゃない私って一体何なの』って自分で自分が不気味に感じたわ」


そこで一息ついてから、また口を開いた。













「サードが私の髪に異常に執着するのも、髪の毛が純金になるからよ。そういう体質っていうか髪質っていうか、何でそうなるのか分からないけどそういう種族だから髪の毛が純金になるのかもしれないわ」


髪の毛のことを言うのは少し躊躇(ちゅうちょ)したけど、ガウリスなら大丈夫と思って思い切って伝えた。


「純金…?」


ガウリスが目を瞬かせながら私の髪を見る。


「抜けたら純金になるの。特に栄養状態も良くてしっかり睡眠をとって潤いを与えたらとても良い金になるんだって」


そう言うと、ガウリスはどこか納得したような表情になった。


「どうりで。いざという時に売るためとはいえ、どうしてエリーさんの髪の毛をサードさんがあそこまで熱心に手入れをしているのか分かりました」


旅をしている中でずっと疑問に思って気になっていたのか、ガウリスはどこかスッキリした顔になっている。


「私も正式には人じゃないけどこうやって普通に過ごしているのよ。だからガウリスだって…」


と言いかけたけど、沢山の人から慕われている神官の立場のガウリスと自分だとその重さが違うと思い直して口を閉ざした。


私の話を引き合いに出して元気づけようと思ったのに、いきなり何の話をしだしたのかっていう状態になってしまってどう話を続けようと口をモゴモゴと動かす。


でもガウリスにそういう私の気持ちが通じたのか、


「元気づけてくださったのですよね?ありがとうございます。神の祝福を」


と私の手を取って、額に近づけてから微笑んで私を見ている。


…ああ、本当にガウリスは人から慕われる人だわ。

こんなに信仰心が篤くて人の心を汲み取って慕われるようなガウリスが神官を除名されるなんて本当にもったいない。どうにかならないものかしら。


でも神官の人たちが必死に問いかけても神様は全く信託を寄こさないらしいし…。

しかも主神を祀っているこの神殿でもこの有様なのだから、他の神殿ではもっと話が通じないのかも。


ロッテはあの水のモンスターをどうにかするために神の奇跡に頼るしかないじゃない?って言っていたけど、こんな状態でどうやって奇跡を起こしてもらえばいいのか…。


「ああエリーさん。私は明日の朝から(みそぎ)をするのですが…」


「禊?」


何それと聞くとガウリスが説明してくれる。


「ふもととはいえここも神聖なカームァービ山の中です。山から外に出たとあっては地上の汚れがついているのと同じ意味ですから、その汚れを落とすための儀式をします」


「それじゃあ私たちもその禊をしないといけないの?」


「いいえ神官だけですよ。神と対峙する人間ですので。…まあ私の場合、禊をする前に除名処分になって神殿から出る可能性もありますから、本当にやるのかは大神官様の判断一つですが…」


ガウリスは心ここにあらずというように独り言のように喋っている。

そんなガウリスを見ていると私の心も辛くなってきて、話題を変えようと声をかけた。


「この国には沢山神様がいるらしいわね?」


ガウリスは顔を上げて、ええ、と頷く。


「この国は大昔から神と共にありました。この神殿は主神であるゼルスを祀っています…」


ふとガウリスは顔を上げて、空を覆いつくす星を指差した。


「私たちの先人は星になり、私たちに方向や行く末を教えてくれています。神や、神に関わる物や人も星座となって空に上がりました」


「ゼルス以外にはどんな神様がいるの?」


そういえば胸が丸出しのあの絵の女の人は戦いの女神なんだっけと思って続ける。


「戦いの女神の話は日中に少し聞いたけど」


「ああ、談話室のあの絵ですね。彼女は戦争を好む気性の激しい女性で、サンシラ国の女性を守るとされています」


戦いの女神に守られたサンシラ国の女性…。

この前のカドイア国に攻め込んだ母親たちを思い出して思わず声を震わせて笑ってしまった。


「加護はちゃんとあるみたいね」


その言葉にガウリスもカドイア国での一件を思い出したのか吹き出して、


「そうですね、しっかりと加護を与えていらっしゃるようです」


と笑った。


ああよかった、ガウリスが笑ってくれた。


するとパタパタと足音が近づいて来て、一人の神官が曲がり角から走ってやって来た。


「ガウリス様!…とエリー様」


ガウリスの巨体の陰にいた私に気づくのが遅れたのか、ついでのように付け加えられる。


「ガウリス様。お話の途中申し訳ありませんが、アポリトス様がお呼びになっております。どうかアポリトス様の元へ…」


ガウリスは何とも言えない表情になりながら、ノロノロと立ち上がった。


「何か用でもあるのですか?」

「お話がしたいそうです」


迎えに来た人がそう言うと、ガウリスは眉間に少ししわを寄せて深く息を吐き、


「分かりました、これから向かうとおっしゃってください」


ガウリスがそう言うと、迎えに来た人は頭を下げてパタパタと走っていった。


「…もしかして、お父さんとあんまり…話したくない?」


ガウリスのアポリトスへの対応と見ていると、いつもどこか渋い表情をしているから、こんなこと聞いちゃまずいかなと思いながらも聞いてみた。


ガウリスはまた深く息を吐く。


「可愛がってくれています。…しかしその愛が少々重いのです」


と呟いて私に向き直った。


「こんな巨体の二十六にもなった息子を前に父は五歳程度の子を前にするように接します。あれやこれやと私に構ってきてああしなさい、こうしなさいと指図しては可愛がってきます。どう思いますか?常々放っておいてくれと私は思って…!」


言ってる途中でガウリスの口調がイライラしてそこで口をつぐんだ。それでも一度言葉に出したら止まらないのかガウリスは続ける。


「正直に言います。私は父が嫌いです。父は私を大神官にさせたいと願っています。それが私にとって最高最善な道だと信じて色々な方面から私をバックアップして私の周りをうろつきます。

しかしそれがいかに鬱陶しいか、父は何も分かっていない!私は迷惑なのです、私は一時神の存在を否定しました。しかしそれを乗り越えただ信仰がもて人を助けられるだけで、私はそれだけで十分に幸せで満足なのに…!」


そういえばジリスが大神官にと父が望んでるって言ったらガウリスは渋い顔をしていたっけ。


「それならそのことをお父さんに言えばいいじゃない」


最もなことを言うと、ガウリスは首を横に振った。


「何度も言いました。しかし父の中では私が大神官になるのを確信しているようです。国王も何故か私に目をかけて下さっていますから、父は余計私が大神官になるものと思っています。その思考の中に他の選択肢などありません。私の話や希望など聞いても聞いてないのと同じです。

この三ヶ月間のことを話して聞かせ、もはや神官を除名されるであろう話をしても、父の中ではまだ私は次期大神官候補の息子です。…本当に人の話を聞かない自分勝手な人です」


いつもガウリスからは絶対に出ない憎しみすら抱いていそうな口調と表情に、どう声をかけていいものか分からなくなって黙っていると、ガウリスは私の顔を見て慌てて表情を緩める。


「申し訳ありません、少々感情的になりました」

「ううん」


私は首を横に振って、それからそっと言葉を続ける。


「でもね、そうやって怒るのも大切よ。ガウリスは優しいから全部自分の心の中で自分の感情を処理しちゃうでしょう?たまにはそうやって表に怒った感情を出してもいいのよ。サードなんていっつも怒りっぱなしなんだから、ガウリスももうちょっとあれこれ言ったっていいんだわ」


ガウリスは思わずフフ、と鼻で笑ってから私を見る。


「サードさんほどは怒れませんよ。怒るのはエネルギーがいりますから。ではエリーさん、おやすみなさい。神の名のもとにあなたに愛と祝福を。いい夢が見られますよう」


ガウリスはそう言うとアポリトスがいるかもしれない方向を見て軽くため息をつくと、ノロノロと歩いて行った。

すごく嫌々ながら進んでいるのが分かるスピードだわ。いつもはキビキビと歩いているのに。


でもあれだけガウリスが戻ってきた事を泣いて喜ぶくらいなのだから、アポリトスはガウリスのことがとても可愛くて仕方ないのかもしれない。

でもその愛情のかけ方がガウリスにとっては居心地が悪くて、とっても窮屈なんだわ。


でも確かにニ十歳を過ぎても五歳程度の扱いで可愛がられて、それも自分が望んでない道を進まされるのは…ちょっとどころかかなり鬱陶しいかも。


回廊から星空を眺めた。


あれだけ人格者のガウリスでもそうやって家族のことで頭を悩ませているなんて。でも実のお父さんなんだから本当はガウリスだって悪く言いたくないし嫌いになりたくないし、誰にでも愛と感謝を捧げる人なんだから本当はそうやって朗らかに接したいはず。


でも目の前にお父さんがいるとどうしてもイライラした感情の方が勝ってああいう態度になってしまうのかも。


難しいわと思っていると、急にバサバサバサッと音がして、驚いて顔を動かした。


見ると少し離れた庭の中で何かがもがいている。


え、何あれ…。まさかモンスター?


庭には自然の木や草や石がたくさんある。制御魔法を覚えたんだから周りの建物を傷つけずにモンスターだけやっつけられるわ。


そう思いながらにじり寄っていくと、それは白いもので、もっと近寄るとどうやら大きい鳥みたい。

でも今は夜なんだから、鳥が動き回る時間帯じゃない。


鳥型のモンスターかしらと警戒しながらもっと近寄って行くと、それは甲高くピーピー鳴きながらその場でバタバタともがいているように見える。


建物の方から漏れる明かりでよくよく見てみると、その白くて大きい鳥は私に向かって威嚇したり襲おうとする素振りは無くて、ただその場でバタバタともがいているみたい。


さらに一歩二歩と近寄って行くと、その鳥の羽に紐が絡みついているのが見えた。


ああ、紐が羽に絡みついて飛べなくなってもがいているのね。


それに白い大型の鳥ということ以外はモンスターにも見えない。大体動物が巨大化した見た目のモンスターは気性が荒くて、自分より体格が小さいものはとにかく襲う。でも目の前の白い鳥はそこまで巨大じゃないしもがいてるだけだし。


でもただの野生動物だとしても人間を襲ってくることはある。それにどうみてもこの白い鳥は肉食系の鳥だわ。近寄ったら肉をついばまれるかもしれない。


トンビかタカかワシのどれかだと思うけど…鳥に詳しくないからよく分からない。


でもどうしよう、助けた方がいいとは思うけど、近寄るのが怖い。ついばまれたら肉がごっそり持っていかれるのかしら。


色々考えてその場に立ち尽くしていると、白い鳥はこちらに首を動かして、目が合った。


その鋭い目はまるで、


「助けてください…」


と訴えているように見えて、その目にほだされてジリジリとくちばしが届きそうにない後ろからもっと近寄っていく。


「お願いだから、暴れないでね…」


持っていた杖を地面に置いて、ジリジリと白い鳥と距離をつめる。

私の願いが通じたのか白い鳥は大人しくその場にじっとして動かなくて、私は鳥の背後から恐る恐る紐をほどいていく。


紐は両方の翼をたたむかのように絡みついていたけど、こんがらがっているわけじゃなかったみたいですぐに取れた。


ああよかった、案外すぐにほどけて。


ホッとして、


「もう大丈夫…」


と声をかけると、いきなり手を掴まれた。


驚いて目を見開く。


目の前には白い鳥じゃなくて、体格のいい白髪で、長く白いひげを生やした人…老人が居た。


その目は私を真っすぐ見据えて、大きい口がニッコリと笑う。


「来なさい、娘」


そう言うなりその人は私の腰に手を回して、そのまま地面を離れて上空へ飛んだ…。

あなたは怒りや悲観的な感情をあまり外に出さないようなので、ネガディブな思いを紙に書いてビリビリに破いて捨てるといい。そうすると現実が変わる。


って趣味で見てるようつべのカードリーディングで二連続で言われたから、その時イライラしていたことを紙にギャー!て書いて、ウルァー!てビリビリに破いてキエー!てゴミ箱に捨てました。

今のところ二回やりましたが、やった次の日からイライラしてたことの八割ほどは改善されました。不思議。

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