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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ゼルス神殿へ

馬車を降りてガウリスが所属していた石づくりの神殿の中に入ると、中は一斉に騒ぎになった。

そりゃあ三ヶ月も山で行方不明になっていたガウリスが勇者たちと一緒に立派な馬車に乗って山と正反対の方向からやってきたんだから驚くわよね。


ガウリスはあっという間に人々に囲まれ、今までどうしていた、何があったと色々と聞かれ続けていて、


「落ち着いてください…」


とガウリスがしどろもどろに押しとどめようとしも、嬉しさで興奮した人々の質問攻めは止まない。


「ガウリス!」


そんな中、ひときわ大きい声を出した男の人が神殿の奥から現れた。その姿を見た人々はハッと顔つきを変えて、ササッと身を引きその人に道を開ける。


「…誰?あの人」


アレンがガウリスに後ろから小声で聞くと、ガウリスは緊張に満ちたの表情で、


「アポリトス…私の父で、この神殿の大神官補佐役です」


と囁いた。


じゃあこれは久しぶりの親子の対面なのね。


ガウリスのお父さん…は…あんまりガウリスと似てないかも。ガウリスはしっかりした真面目な顔つきだけど、お父さんはどこかお喋り好きみたいな雰囲気で。


アポリトスがガウリスの目の前までたどり着く。ガウリスはほんの少し強ばった表情でいて、ゆっくりと口を開いた。


「…今まで音沙汰もなく…」


ガウリスが口を開いたら、アポリトスが腕を大きく振りかぶってガウリスに思いっきり抱きついて、おいおいとむせび泣き始めた。


「今までどこに行っていたんだ!どうして連絡をしてこなかったんだ!ああガウリス、お前が無事で良かった…!」


アポリトスはズルズルと崩れ落ちて床に突っ伏して泣き続ける。


「おやめください…」


ガウリスが苦い顔をして立たせると、アポリトスは顔を涙と鼻水でぐしょぐしょに濡らしながらガウリスになおも抱きつく。


それを見ていると、そんなに嬉しいのねという温かい気持ちと、嬉しいのは分かるけどちょっと過剰すぎじゃない?という引く気持ちが五分五分になってしまって、とりあえずガウリスを眺めた。


ガウリスは…ウンザリとした表情で黙り込んで遠くを見ている。誰に対しても微笑んで愛と感謝を伝えるガウリスがこんなにもウンザリとした表情を見せるだなんて珍しいわ。


それにあの目。あんな目は前に町中でみたことがある。飼い主に構われすぎて虚無の目で遠くを見て、あとはこの時間が早く終わるのをただただ耐えて待つ猫。そんな目と雰囲気でいる。


と、アポリトスは私たちを見た。


「勇者御一行様でいらっしゃいますね。息子をここまで連れてきていただいたこと、非常に感謝しております」


鼻をすすりあげながら懐から布を取り出して涙を拭き、ビームッと鼻をかんでからこちらに手を差し伸べ握手を求めにくる。

その手をガウリスが素早く(はば)んで嫌そうに言う。


「父よ、鼻をかんだ後に握手を求めるのはおやめください、相手に失礼だと思いませんか」


ええ…!ガウリスがこんな(とげ)のある言い方をするなんて、と思っているとアポリトスはキョトンとした顔でガウリスを見た。


「じゃあ鼻水だらけの顔で握手すればよかったのかい?」


「そういうわけではなく…!」


余計嫌そうな顔にイライラした口調をはらませガウリスが言うと、奥からゆっくりと歩いて来る人が現れて、その人を見たガウリスが言葉を止めて、アポリトスもその人に道を譲り、どちらもゆっくりと腰を曲げて頭を下げる。


やって来た年配の老人男性は微笑みながらガウリスの前に立つと、肩に手を置いた。


「ガウリス…無事だったのだな」


「はい、今まで音沙汰もなく、大変申し訳ございませんでした」


老人男性はニコニコと笑いながらガウリスと、アポリトスを見て、私たちを見た。


「なるほどなるほど、勇者御一行の世話になっていたか。私はこの神殿の大神官ファルトスと申します。皆、御一行を丁重にもてなすように」


周りの人々に向かって大神官のファルトスが言うと、周囲の人たちは恭しく頭を下げる。そのままファルトスはガウリスとアポリトスを見て、


「まず何があったのかを聞きたい。あちらの部屋で話を聞こう。アポリトスも来るように」


と歩き出した。


あら?てっきり私たちからも話を聞きたいって言うのかと思ったけど違うの?


「あの、私たちも一緒に話すわ。そのほうが色んな面から話が聞けると思うし…」


ガウリスは神からの罰を受けたから神官には戻れないだろうって言っていたけども、今まで一緒に旅をしてきてガウリスは神官という立場にとてもふさわしい人だと思っているし、できるなら神官の立場に戻って欲しい。


でもきっとガウリスのことだから素直に禁足地(きんそくち)に登って神からの罰でドラゴンになったなんて話をしそうだもの。

それだったら口の上手いサードとアレンを交えながらガウリスを守らないといけないわ。


「いいえ」


私の言葉にファルトスはゆっくり首を横に振った。


「まずはガウリス当人から聞きます。お疲れでしょう、どうぞごゆっくりお寛ぎください」


…。ダメかぁ。


しょっぱい顔をしている間にも三人は奥へ歩いていき、アポリトスはガウリスの隣をぴったりマークしてペラペラと話しかけている。


「なぁガウリス今までどこに行っていたんだ?カームァービ山のあちこちを探し回ってもお前は見つからないし、どこをどう探しても見つからないから禁足地に入って神になったんじゃないかと神殿の中ではもちきりだったんだそ?そういえばドラゴンも現れてこの国は大慌てで…」


見た目でも話好きな気はしてたけど、本当によく話すお父さんだわ。ガウリスと性格もかなり違うのね。


「大丈夫かな」


アレンが神殿の奥に去っていく三人を見送りながら私とサードを見てきた。


「大丈夫じゃないと思うわ」


見るとサードはこのまま素直にガウリスだけ行かせたら余計なことを言いそうだと考えこむような顔になって、


「私たちも行きますか」


と進もうとすると、周りに居た神官たちがワッと動いてサードの前に立ちはだかる。


「申し訳ありません、勇者様とはいえ神殿の奥は神聖な場所です、ご遠慮ください」


「…なるほど、分かりました」


内心舌打ちしているでしょうけど、ひとまずサードは素直に引いた。

すると一人の男性が前に進み出て頭を下げて手を動かす。


「どうぞこちらにおいでになってください、お茶とお菓子をご用意いたします」


「ありがと…」


お礼を言いかけその男性を見て、あれ、と思って聞いた。この顔、似てる。


「もしかしてあなた、ヒトヌスのお父さん?」


童顔の顔つきにふわふわのこの金髪…まるでヒトヌスを大人にしたようだわ。すると男性は驚いた顔で私を見て、


「ヒトヌスに会ったのですか」


と聞いてきた。


「ええ、一度だけだけど」


「元気にしていましたか」


「ええ…、元気だったわ」


元気ではあったけどカドイア国の思惑でさらわれそうになったところをすんでの所で逃げきり、今はどこにいるのか分からない。

実際はそうだけど細かく説明すると変に心配させてしまいそうで一言で終わらせる。


それでもヒトヌスのお父さんはホッとした顔をしてから歩き始めた。


「私は副神官補佐役、ツリアヌスです。カドイア国の兵士がサンシラの子たちをさらっていたと聞いたので、まさかうちのヒトヌスもさらわれたのではと思っていたのですが…。ああ、そういえば勇者様たちなのでしょう?子供たちをさらっているのがカドイア国だと調べ上げたのは。そのおかげで早く救出できたと聞きました、子供たちの親代表としてお礼を申し上げます」


「勇者として当然のことをしたまでですよ」


サードはニッコリと微笑んで返す。


よく言うわ。ガウリスが口にできないことをしてカドイア国兵士から情報をむしりと取ったくせに。


白い石畳の日当りのいい廊下を歩いて、少し豪華な部屋に通される。


「ここでお待ちください、部屋の中の物は好きなだけ見ていただいて結構です」


ツリアヌスはそう言うと部屋から出て行った。


部屋の中の物…。


見回すと壁には大きい絵画が二枚かけられている。

一枚は上半身裸で胸も丸出しの女性が手を広げて暗雲立ち込める空を見上げている絵、もう一枚は威厳ある老人に向かって頭を下げる礼拝者のような絵。

あとは部屋の日の差さない隅にある大きい本棚に、お洒落な食器が収まっている食器棚。


「これはいい絵ですね」


「だな」


サードとアレンは真っ先に半裸の女性の絵の前に立って鑑賞し始めた。


この男たちは…。


呆れつつ私は隣の老人に向かって頭を下げる礼拝者の絵を見たけど、あんまり絵に対する興味はないから本棚に向かう。

ロッテだったら真っ先にこの本棚に向かってたわね、と思いながらどんな本があるのかしらと眺めた。


どうやらほとんどがこの国の宗教に関する本みたい。その中に子供向けの『神様ずかん』という本があったからそれを持って椅子に座り、ページを広げた。


「おや、神様に興味がおありですか?」


大きいティーポットとお菓子を持って戻ってきたツリアヌスがテーブルの上にお菓子をそれぞれの席に置いて行く。


「まあ、興味が無いというわけではないけど…」


案外と早くに戻って来たのに驚きながら返すと、


「他の国の宗教はどうなのかよく分かりませんが、この国にはたくさんの神様がおられます。この神殿はゼルス様を祀っているのですよ。すべての神の頂点に立つお方です」


とゼルス神のことが書かれているページをめくって、挿絵を指さした。


白く長いひげをたくわえた威厳のある老人の見た目。手には先端に雷のマークみたいな飾りのついた長い杖を持っていてこちらを見据えている…。


「ゼルス神って本当にこういう見かけなの?」


質問するとツリアヌスは少し困った顔をして、


「伝承に基づいて描かれたものなのですが、伝承の話なので本当はどうなのか…」


とだけ言った。


するとツリアヌスが戻ってきたのに気づいたアレンは、半裸の女性の絵を指さし質問した。


「ところで何で神殿なのにこんなおっぱい出してる女の人の絵飾ってんの?誰かの趣味?」


そんなこと聞くんじゃないわよ。神官相手になんて下品な質問をしてんのよ。


心の中で突っ込んで、申し訳なさでツリアヌスに「ごめんなさい」と謝る。

ツリアヌスは苦笑いしつつ、


「その絵は戦いの女神がサンシラ国の戦争に協力するときにゼルス神から大いなる力を借りたという話を元に描かれた絵なんです。大昔この国は男性も女性も裸になることに抵抗が無かったので、女神もそのような姿で描かれているのですよ」


へー、…。それでも下半身に布をまとわせているのはわずかな良心からかしら。


「…良い時代だったんだなぁ」


アレンは本音をダダ漏れさせながら席に着いた。

サードはというと爽やかな笑顔のまま何も言わないけど、多分心の中ではアレンの言葉に頷いていると思う。


ツリアヌスは食器棚からカップを四つ取り出してそこにいい匂いのするお茶を入れて、各自の目の前に置いて自分も座った。


「まずはガウリス様を無事に連れていただいこと、感謝いたします。神の名のもとに勇者御一行に愛と祝福を」


やはり神殿の人たちはこの言葉は普通に使うのねと思っていると、ツリアヌスは柔和な表情を引き締めて少し体を前に乗り出した。


「ちなみになのですが…。勇者様たちはガウリス様が禁忌とされる領域に入ってしまったなどの話は聞いておられませんか?」


質問してきてもツリアヌスは私たちの答えを待たず表情をかげらせ話を続けていく。


「実はガウリス様が行方不明になる数日前、アポリトス様とガウリス様の間で神はいる、いないで口論しておられたのです。ガウリス様はあのようにお優しく真面目で誰からも慕われるお方です。しかし生まれてからこの方、神の声を聞いたことがありません。

他の神殿に仕える神官たちも…まぁ同業者から見て眉をしかめるほどのことをしている者たちも一部おります。ガウリス様はそのようなことで神に対し不信感が募り信仰する意欲を無くしていたようです。あの時ガウリス様は今までにないほど声を荒げられていて…。だから神が本当におられるかどうか確認しに禁足地に…」


「私たちはガウリスから事の次第を全て聞いています」


サードがそう言うと、ツリアヌスは口を閉じる。そしてサードは諭すように、


「しかしここで私たちの口から言うのは筋違いというものです、そうではありませんか」


ツリアヌスはどこかバツの悪そうな顔になって、カップをギュッと握った。


「そう…ですね。やはり本人から聞かず他の方から聞くのは間違っていますね。申し訳ありません、気持ちが先走ってしまい…」


サードはニッコリと微笑む。


「いえ、これだけ心配されるなんてガウリスはよほど慕われている証拠です。素晴らしいことではないですか」


サードの言葉にツリアヌスはパッと顔を明るくした。


「ええ本当に。ガウリス様は神の生まれ変わりではないかと思われるほどの仁徳者です。どんな悪人でもガウリス様と話せばたちどころに改心してしまうほどだと皆が言っているのですよ」


…残念なことにそのガウリスの力でもサードは改心させられていないわね。


そう思いながら出されたお菓子を食べる。


「む…!美味しい」


サクサクのクッキー。中には緑色の何かが練りこまれているけど…これ何かしら。


クッキーを見ている私に気づいたのかツリアヌスが声をかけてくる。


「中に練り込まれている緑色のものですか?それはハーブですよ。匂いがいいので香草として色々な料理に使われています」


なるほどね、味はもちろんだけど匂いもいいと思ったのよこのクッキー。最高。


「あんまり甘くなくていいな」


甘いのが苦手なアレンもこのクッキーは気に入ったみたいでサクサクと平らげていってる。


「変わった焼き菓子ですね」


サードも一つ口に入れて、味わいながら感想を言う。


「クッキーっていうのよ」


サードはお菓子の名前に詳しくないから機会があればこうやって教えている。お菓子系はあんまり食べないものね、サードは。

でもクッキーくらいなら一度は食べたことあると思うんだけどね…。


「勇者様のお住まいになっていた所にクッキーはなかったのですか?」


ツリアヌスも気になったのか聞くとサードは少し考える素振りを見せて、


「ありませんでしたね。焼き菓子といえばもっと固くて歯で噛み砕いて食べるものしか…」


「それ食い物かよ、つーか美味いの?それ」


「当たり前です、…とはいえ甘いものより塩気の効いたものか素材の味のものが大半でしたが」


「素材の味」


アレンが気になる所を繰り返しながら吹き出す。


ツリアヌスはそんな光景を微笑ましそうに見て、ふっと思い出したように私たちに視線を巡らせる。


「そういえば今夜はどこにお泊りになりますか?この神殿にもお泊まりいただける部屋があるのですが、よろしければお部屋を用意させましょうか」


「それはありがたい申し出です。ぜひお願いいたします」


サードはすぐさま返答して恭しく頭を下げる。


お金を使わないでそれなりの設備のあるところに無料で泊まれるんだから、ケチなサードにしてみたら願ってもいない話なのよね。返答する反射神経のなんて素早いこと。


ま、サードじゃなくても私たちだって助かるから嬉しいのは一緒だけどね。


「そうと決まれば今からお部屋を用意させます。食事は少々質素なものになりますが、足りないのでしたら特別におかわりをご用意しますので」


ツリアヌスは立ち上がって部屋から出て行った。


その後ろ姿を見送り、私たちは明るい陽射しが差し込むうららかな部屋の中、お菓子を食べてお茶を飲んでいる。

そんな中で私は空中を見上げ、思った。


…ガウリスは大丈夫かしら。

友人がお気に入りのキャラの絵をネット検索して見せてくれている途中、女の子キャラの服を剥きましたみたいな素っ裸絵もチラホラ出てきたんです。

まあついでだから見たんですが、乳首の位置おかしい絵が多いですね。女性の胸を見たことない人が描いてんだろうと推察できます。(煽り)


そんなに裸が描きたいなら西洋の裸婦の絵でもみて正しい乳首の位置確認してから描いてほしい。ギリシャ神話の絵画なんて特におすすめ。裸をじっくり見ても傍から見たら絵画の勉強してる人としか見られないし、なりゆきで教養も増えるし絵画に対する目も自然と肥えるから超絶おすすめ。

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