二章 これっぽちの温もり
この檻の中は彼女の空間だった。
勝手に入って怒られたり、機嫌を損ねたりさせたくなかったので、さっきもラファエルは呼ばれるまでなかに入らなかったのだ。
ラファエルの腕を掴もうとして、マリアンヌは痛みに顔をしかめる。
「痛む?」
「……うん」
どうして良いのかわからずラファエルは泣きそうになった。
そんなラファエルの顔を見てマリアンヌは痛みを堪えて微笑んだ。
「……優しいんだね」
「そんなことない。
誰だって心配するよ。
こんな大怪我……」
「嘘。
知ってるよ。
影でみんなが喜んでるってこと」
確かにお高くとまった彼女のことを快く思っていない連中もいる。
今回の事故だって自業自得だと囁いている声も聞いた。
心配して様子を見に来ようとしたのは劇場の彼女のファンだけで、団員は誰ひとり来なかった。
それが半獣人たちの現実。
オーナーはかんかんに怒っているが、心配とは違っていた。
マリアンヌが産み出す収入の損失に憤っているからだ。
「ファンの人たちがね、さっきまでいっぱい劇場の前に来てた。
みんなマリアンヌさんのことを心配していたよ。
早く良くなって下さいって、たくさんの人に言われた」
「……うぅ」
意識を取り戻してからもずっと気丈に振る舞っていたマリアンヌが唐突に涙を流した。
「大丈夫?
どっか痛い?」
「なんでもないわ……」
ラファエルはどうして良いのかわからず、ただ困惑した表情でマリアンヌを見つめた。
彼女は折れていないほうの手でラファエルの手を探り当てた。
ラファエルは最初おどろいたが、そっとその手を握り返した。
そして夜が明けるまで、二人の手はずっと繋がっていた。




