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黒魔道師

 黒い三角帽子に、黒いローブを羽織った男だった。年齢は、まだ十代にも、二十代にも見える。大学生だろうか。彼の顔を見て、私は教室の片隅でいつもぼんやりしている眼鏡の男子を思い出した。

「ちょっとどいてみな」

 男は横にどけ、と手で示した。そしてワインのグラスを取るみたいに、手をおわんの形にして宙に浮かせた。男は自分の手の平をじっと見つめた。すると明るい光が灯った。男の手の平の上には、赤い炎が揺らめきながら球状を保っていた。男はにやりと口の端をゆがめて私の方を見た。

「熱くないの、それ」

 思わずタメ口を聞いてしまったが、男は気にしていないようだった。

「まあ、驚かないよな。君もさっき空飛んでたし」

 男は旧知の知り合いを見つけたような親しげな口調だ。

「よっと」

 男は炎の玉を投げた。赤い軌跡が宙に浮かび、透明な壁に触れて一段と大きく燃え上がった。ばちばちと火の粉が飛びまわり、わたしの服の裾が少しだけ焦げた。別に気にはしないけれど、注意力に欠ける人だなと思った。

 燃え上がった炎は、何も無い虚空に吸い込まれるようにして、あっというまにその勢いを失った。

「な、こいつは壊すのも難しそうだ」

 男は透明な壁をこぶしで叩いた。音はしない。ぐにゃりとゆがんだ空間に勢いを殺がれて、拳は緩やかに押し戻された

「それに、この壁はちょっとずつ外の方に広がって行っているみたいだ」

 男は足元を指差した。そこには、ローブの裾を細長く切り取って、壁に沿うようにして置いてある。ここに壁がある、ということがわかるように印をしていたのだ。今、実際の壁は印よりも十センチほど外に広がっていた。

「どうしよう」

 このまま、透明なドームはどんどん大きくなって、やがては街全体を覆ってしまうのだろうか。

「なにもなくてもいいんじゃないか」

 男はそう言った。

「どうして」

 男は、私の言っていることが理解できないというように目を見開いた。

「俺たちはラッキーだったんだよ。空は飛べるわ、炎出せるわ。ほかの奴はそんなことない。きぐるみを被ってるだけだ。このまま待とうぜ、このヘンテコな世界がもっと大きくなるまでさ」

 確かにそうだ。この世界ではできないことができるようになる。それも(たち)だけ。それは夢のようなことだけれど、何かしら正しくないことのように思えた。

「おい、どこに行くんだ」

 私の直感が告げていた。さっきの路地裏、クロに似た猫の影。私はなによりもまず、クロを探さなければならないと感じた。

「ねえ、このあたりで、黒い猫を見かけたりしなかった?」

 男は唐突な質問に戸惑ったようだったが、すぐに思い当たったようで、

「そういえば、見た気がするな」

「たぶん、その子がすべての根源な気がする。だから、今から探そうと思う」

「俺はこのままでいいと思うが」

 男は不服そうだけれど、歩きだすと私のあとをついてきた。

「まあ、わからないままでいるのも気持ち悪いしな」

 そう言って男も私の後をついてきた。探し物をするのなら、ひとりよりもふたりのほうがいい。だから、ほうきで飛び去ってしまうことはしないでおこうと思った。

「そう不審に思ってる事を隠さないような表情するなよ。俺がいた方が、いろいろ便利だぞ」

 男は手の平の上で光の球体をもてあそんでいた。球体は揺らめきながらその色を変え、赤、青、緑、虹色とさまざまな色彩を呈していた。

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