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#0 プロローグ

「ありえません、そんな馬鹿げた話は……いや、失礼。しかし、ネポシアーノ殿下とあろうお方が、そのような絵空事を申されるとは」

「絵空事ではない、事実だ。私の前に、空飛ぶ石砦が現れ、その砦の副長と申すものが、我らに軍を引くよう強要してきたのだ」

「しかし殿下、お言葉ですがそのような話、何をもって我らは信じれば良いのでございますか?」

「我らはその空飛ぶ石砦に明日、この帝都に来てもらうよう願い出た。貴殿らも、それを目にすることになる」

「なんと! ね、ネポシアーノ殿下、何故そのようなことを……」

「野放しにする方が、よほど恐ろしき相手であった。それならばいっそ、この帝都に呼び寄せた方がまだ手を打つことができる。思案の末の結論だ」

「し、しかし、この帝国は、外敵の侵攻を許したことのない神聖不可侵の……」

「それこそ絵空事であるぞ! あれを目の当たりにすれば、貴殿らもその者たちの力を認めざるを得まい。やつらは、我々との同盟交渉を望んでいる。が、このままではいずれ奴らに、この帝国を蹂躙されることになろう。そうなる前に、何か手を打たねばなるまい」


 枢密院に集まった帝国貴族らは、皆静まり返る。もはや乱心したとしか思えない皇太子を前に、なんと声をかけるべきか計りかねているようだ。

 が、そんな皇太子に唯一、意見できる御仁が、ついに口を開く。


「ネポシアーノよ、汝に問う。その話、誓って(まこと)であると申すか?」


 枢密院の上段に位置する玉座より、時の皇帝陛下、アルフォンソ4世は自身の息子に声をかける。


「天地天命に誓って、嘘偽りはございません!」


 場内は、再び静まり返る。それを受けて、皇帝陛下は皆に話しかける。


「……余も、ネポシアーノの言、(まこと)と思う。こやつだけではない、従軍した側近らも皆、同じことを余に話しておる。また、帰ってきた兵士の多くも、大きな空に浮く石砦と、その砦から放たれた(いかずち)を見たと申しておるそうだ。かくも多くの者が同じ幻覚を見るとは、到底考えられぬ。ゆえに余は、こやつの言を信じたい」

「お、恐れながら、ネポシアーノ殿下は、帝国軍の敗北を誤魔化すために妄言をもうされておるのではないかと……」

「帰還した帝国兵は、一兵たりとも欠けてはおらぬと聞いておるぞ。一人も死なずに敗北など、それこそありえぬ話ではないか?」

「ぎょ、御意……」


 反論する貴族の一人を、皇帝陛下は論破する。そして、玉座からゆっくりと立ち上がると、ネポシアーノ皇太子は、陛下の前でひざまづく。


「その空飛ぶ石砦とやらを指揮している者の名は、なんといったか」

「はっ、陛下! カールヘルトと申す者にございます!」

「そうか。ならばネポシアーノよ、我が名において命ず。第7皇女ラーニャを、かの者に(たまわ)ることとする。一度、縁を結んだ相手ならば無闇に攻撃することはあるまい。これよりラーニャの元へ行きその旨を伝え、説得し、明日に備えよ」

「はっ! ですが、あのラーニャを、でございますか!?」

「あやつは『星姫』と呼ばれるほどの者、そしてその石砦の主は、星の国より参ったと申しておるのであろう。これほど適任な者はおらぬではないか」

「はっ、仰せの通りに! では陛下、すぐに!」

「うむ……」


 陛下の命を受け、枢密院を出る皇太子。その後ろ姿を見ながら、玉座に座る皇帝陛下。

 そして、この老獪な帝国の長は、ボソッと呟く。


「まさか、あやつに帝国の命運を任せる日が来るとはな……」


 皇帝陛下の目線のその先には、赤い下地に2頭の龍の描かれた帝国旗が掲げられていた。

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