47 ぎゃんぎゃんうるさい巫女!? 和風清純派美少女巫女様の間違いでしょうが!
――あの日、俺が不良をボコし終わった頃には、すべてが終わっていたらしい。
その場にいた御簾納と……なんかぎゃんぎゃんうるさい巫女も、ちょうど一段落ついたところだったようで。
崩れた屋敷から出てきたノワキとクソ野郎を見て、安心したように微笑んでいた。
どうやらその時に御簾納のやつ、俺の本名をあのガキにチクったらしく……
『なあ真鉄、お前はこれからどうするんだよ、真鉄』
『警察に自首するのか、真鉄』
『真鉄、今更あんたが良い人路線は無理あるぞ』
などと、あれ以降執拗にこの俺を呼び捨てにしてきやがるようになった。次名前で呼んだらマジで殴る。
アイツが言っていた自首という話だが、俺はこれを機に本気でそのことを考えていた。
だが信じられないことに、ノワキとあのガキに止められちまった。
理由を訊けば、返ってきたのは「身内から犯罪者が出るなんて御免だ」とかいう、なんというかお前らそれでいいのかという醜い言葉だった。
それで今更現代社会の法に従う気もなかった俺は、まだしばらく娑婆で自堕落に過ごすこととなった。……いや、機を見てバイトでも始めようかという気はあるんだがな。
そんな俺にとうとう愛想がつきたか、そもそもノワキ自身は俺のことが大嫌いだったからか……あの後、ノワキは家を出ると言い出した。
今更父親面する気もないので止める気はなかったが、引っ越し先があのガキの家だと聞かされた時は流石に悲しかった。
最近は、ノワキが学校へ行ってくると言って家を出ていくたびに、そのまま帰ってこないのではないかとそわそわしてしまっていた。……だが御簾納から聞かされた話によると、ノワキの学校は長い間休校状態にあるらしい。だというのにノワキは毎日登校しているのでどういうことかと訊いてみると、なんとあのガキに会うため無関係の学校に通っているのだと抜かしやがった。俺の娘はとっくに手遅れだった。
ちなみに、カネコリサマがその力でぶち壊した俺の家やその他の建物については、御簾納家が手を回してくれたようで、まるっと元通り。
雪は解け、湿った空気と冷たい雨の降る梅雨の天気が帰ってきたことで、この果野の町から、カネコリサマの痕跡はキレイさっぱりなくなっちまった。原因不明の異常気象だなんだと一時期は騒がれていたが、それも数日で人々の記憶からは忘れ去られた。田舎の小さな町の降雪なんてそんなもんだ。今日この町に足を踏み入れた者がいたとしても、数週間前に雪が降っていただなんて思いすらしないだろうよ。
この梅雨という時期を、俺は愛さない。俺がノカゼを手にかけた時期だから。あいつの最期の言葉に、俺が答えてやれなかった後悔の時期だから。
だから俺はときどき、ノカゼは未だ、この梅雨の時期に囚われているのだと考える時がある。勝手な考えだが、ノワキのなかのノカゼが梅雨の時期になると特に色濃く表れていたのを見ているうちに、そんな風に考えちまうようになったのだ。
しかしそんな俺の感傷など知ったことではないらしく、時の流れはあっさりと梅雨をおしまいにして、ノカゼがたどり着くことのできなかった夏のはじまりへと、俺らを誘ってしまう。
――今年はなんだか随分と長いように感じた梅雨が明け、夏がやってきたのだ。
そして、今日……
学生たちが待ち望んでいた夏休みが始まりを迎える、7月22日土曜日。
それは、ノワキがこの家を去る日でもあった。
「おい、そろそろ時間じゃねえのか、ノワキ」
俺は居間にどっかりと胡坐を掻きながら、自室で外出の準備をしている娘に声を掛ける。
自分事のように、なんだか心が落ち着かない。いっちょ前に娘を見送る父親気分か。笑えない。
「ええ、もう行くわ。でも……」
と言いながら、居間へ顔を出したのは――
「…………」
……ああ。
そう、だった。あいつは……黒が好きだったから。
あの村にいた時から、家ではいつも、黒の着物を着ていて。
だからちょうどそんな風に、後ろで一つに纏めた彼女の銀色の髪が、よく映えていたのだ。
「ノカゼ……なのか」
俺が問うと、彼女はふっと微笑んだ。
「ええ。今日は、あなたにお別れを言いに来たわ。多分、わたしがここにいるのは、今このときが、本当の最後だから」
「……そうか」
彼女は……ノカゼは俺に近づいてきて。
目の前で膝をつけてしゃがみ、俺の手を取って言う。
「といっても、わたしから言うことはもうなにもないわ。だってあの時、わたしはわたしの全部をあなたにあげたつもりだもの」
「ああ……だろうな。あの時にノカゼは、もう精一杯のものをくれたよ」
……だというのに、あの時、俺はそれに答えられなかった。
「だから今度は、あなたからの言葉が欲しいわ。なにか最後に、言っておくことはない?」
「……っ」
最後に、言っておくこと。
そう言われて……すぐさま口に出かけたその言葉を、俺は気合いで抑え込んだ。
「いや……そうだな。そりゃ、謝罪の言葉は山ほど出てくるさ。あん時のあれがすまなかった、こん時はこうでごめん……だが、そうじゃねえよな。謝りたい気持ちは強いが、最後の言葉が謝罪だっつうのは、悲しすぎんだろ」
「……ふふ。意外と繊細なところ、変わらないのね」
「うっせえよ。……まあ、だから……俺から言うことも、特にねえな。今はともかく、この先もノワキが無事に成長していくのを見守りたい一心だ」
「……そう、そうね。わたしもそう思うわ」
俺がそう言うと、ノカゼはさほど残念がった様子もなく首肯して、そっと俺の手を離した。
……今ここにあったぬくもりが、消えていく。
しかし、それは仕方のないことなのだ。出会った者は、いつか必ず離ればなれになってしまうのが定めなのだ。愛する者と別れる苦しみは、避けられないものなのだ。それを拒んではならない。ただでさえ俺は今ズルをして、それを引き延ばしてもらっている身空だというのに。
永遠の別れを存分に悲しみ、存分に惜しみながらも、俺は彼女にさよならを言わなければならないのだ。それが、彼女になにも与えてやれなかった俺にできる、せめてもの手向けであると信じて。
「それじゃあ……わたし、もう行くわ」
「ああ」
ノカゼが、音も立てずに立ち上がる。
「さよなら、あなた」
別れの言葉は、思いのほかすんなりと口に出た。
「ああ。さよなら、ノカゼ」
ノカゼは暫しの間、俺の様子を窺うようにその場に佇んでいたが……
「…………」
やがて俺が何も言う気がないのと悟ると、静かに踵を返して、一歩、一歩、俺の傍から離れていく。
――いなくなる。
――本当に、これが本当の、別れなのだ。
心臓がバクバクと脈搏を打つ。不思議な引力でも働いているかのように、ノカゼの背中に視線が吸い寄せられる。
行かないでほしいと言いたい。
そばにいてほしいと叫びたい。
――だがそれではいけないのだ。
――去っていくものを、困らせてはならないのだ。
俺はこのまま、黙って彼女を見送らなくてはならないのだ。
「……っ……」
そうだと、言うのに。
分かっていた、はずなのに……!
「――ノカゼッ!」
どこまでも情けない俺は、みっともなく呼び止めてしまった。
一度そうなってしまったら、もはや最後まで続けるしかなかった。
「――あの時は! あの時は言えなくて悪かった……! お前を苦しめて、ノワキを泣かせて、そんな不甲斐ない俺が、言う資格なんてないと思った! いや違げぇ、今でも思ってる! 俺はお前らを苦しめたクズ男だ! それは今も変わらねぇ! だが、それでも、そうだとしても……!」
これが最後であるなら、本当に最後だというのなら――どれだけダサくても、俺は言わなきゃならねえ。言わせてくれ、ノカゼ。
――『あなた……愛してるわ……』
――『…………お、俺も……っ、…………お……俺は………………ッ』
これが……あの時はどうしても言うことができなかった、俺の本心なのだから。
「ノカゼ」
「なあに?」
彼女は、足を止めて、こちらを振り向いて。
「……俺も」
「ええ」
「――俺も、愛してる。愛してるぜ……ノカゼ」
ようやく、ようやく口にできた俺の告白に、ノカゼは――
「――ええ、知ってたわ。わたし、あなたの妻だもの」
――あの頃と変わらない調子で、幸せそうに笑ってくれた。
☽
ノカゼと、さよならをした。寂しい気持ちはもちろんあるが、それ以上に晴れやかな気分だ。ノカゼとノワキにあれだけひどいことをした俺が、こんなに恵まれていていいのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
今のうちに、涙を拭っておかなくては。ノワキが見た時に、揶揄われたくないからな。
「うぃす、こんちゃっす、真鉄さん!」
「…………」
人が感傷に浸っていたというのに、ニヤついたイケメン野郎が無駄に鼻につく態度で空気も読まずにずかずかと上がり込んできやがった。
ああ、こいつに名前を呼ばれるとむかっ腹が立つぜ!
「あれ、真鉄、いい歳こいて泣いてたのか?」
――――。
「どうしたんだよ、ノワキに加齢臭でも指摘されたのか?」
――――――――――。
「おい、聞こえてるのか? もしも~し、冷えてるか~?」
――――――――――――ぷつん。
「てめぇぶち殺してやらぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんだよ急に! DVと虐待だけじゃ飽き足らず【娘婿】にまで手を上げるのか! さすが見下げたクズ野郎だな!」
「結婚を許した覚えなぞねえええええええええ!!」
「――二人はどうして仲良くできないの? クズはクズ同士、肩でも組んでなさいよ」
「あ……ノワキ。助けてくれ、お義父さんがひどいんだよ」
「俺は悪くねえ、こいつが喧嘩吹っ掛けてきやがったんだよ」
いつの間にかやってきていたノワキに、二人で平謝り。……今こいつ俺のことなんつった?
「これはもう多分、ノワキとエルがいがみ合うのと同じなんだ。無理なんだよ」
知らない名前が出てきたので、会話の文脈的に娘の友達だと思い、気になって聞いてみる。
「誰だ、ノワキと仲いいのか?」
「僕のもう一人の彼女だけど」
「アァァァァ!?」
「もう、お父さんはいちいち突っかからないで! スグルはこれ以上余計なこと言わないようどっか行ってて!」
「いてっ」「あたっ」
今のは流石に俺に非はないと思うのだが、ノワキは俺とカスの間に割って入って喧嘩両成敗。
「なんで僕の方が出ていかないといけないんだよ」
恥という観念が抜け落ちているのか、カス野郎は平気でそんなことを宣う。
「あなたとはこれからいくらでも話せるでしょ。わたしは今お父さんに話があるの」
噛んで含めるようにノワキは言う。バカには五歳児の対応をしてやらないと理解できないのだ。
そこまで言ってようやく、カスは仕方がなさそうに部屋を出ていった。
「もう……どうしてお父さんにだけああなの。きっと同族嫌悪ね」
認めたくないがまあそうだろう。
「えっと……それで、お父さん」
ノワキは多少無理やりに腑抜けた雰囲気を終わらせて、それらしい真面目な表情で俺を見た。
「準備できたのか」
「ええ」
「………………行くのか」
「ええ」
寂しさや不安もあるが、それに負けないくらい望むものがある――そんな目をしていた。
「……そうか」
なら、無理に引き留めることもないな。……いや、今度こそだぞ。ノワキはちゃんと見送るぞ。
「今まで悪かった……なんて軽い言葉で済ましていい話じゃねえが、そうだな。この際だ、俺を死ぬほど恨んでるだろ? 気が済むまで言いたいこと言っていいし、殴ったっていいぜ。それはお前の正当な力の行使だ。俺のとは違う」
「そんなこと……」
「……親に……変な気ぃ遣わなくていいんだぞ」
俺がそれを口にすると、ノワキは少し驚いたように目を丸くして……
「……そうね、なら」
頷いて、先程のノカゼと同じように俺の前に立った。
ノカゼと違うのは、俺との距離。ノワキはこれから一人立ちするのだということを示すように、充分な距離を保ったまま、俺と向かい合う。
ノワキは……自分が通う高校の、制服姿だった。高校生にとって、制服は正装だ。
「……お父さんには、たくさん傷つけられた。たくさん裏切られた。たくさん泣かされた。だから、恨んでないって言ったら嘘になる。お母さんを殺めてしまったあなたを、許せない気持ちだってあるんだと思う。昔みたいに純粋に、お父さんが好きだってことも、多分もう言えないかもしれないわ」
ようやく本音らしい本音をぶつけてくれた娘に、俺はむしろ安心していた。勝手に救われたような気になっている俺は、やはりどこまでも恥知らずのクズだった。
「ああ、だろうな。むしろノワキ、遠慮すんなよ。もっとはっきり言っていいんだぜ? 『好きじゃない』なんて曖昧な言葉じゃなくて、はっきりと――」
「――でも、それでも」
ノワキが強引に言葉を被せてきたので、俺はそれを発することができなかった。
それでいいのだろうか?
「お父さん」
「…………」
俺のそんな疑問は、目の前に立っている娘の柔らかな笑顔によって、たちまちに消えてしまった。
「わたしの、不知森野分のたった一人の父親は、あなたなのよ。お父さんだけが、わたしのお父さんよ。産まれた時から今この時まで。そしてこれからも、ずっと。それだけは変わらないわ。だから――」
……本当に……
「――わたしを今日まで育ててくれて、ありがとう、パパ」
……本当に、俺はこんなに恵まれていて、いいのだろうか。
「……っ!」
熱いものが込み上げるのを耐えながら、そんなことを考えた。
俺じゃなくて。俺なんかじゃなくて、もっと。
もっと優しくて、綺麗で、誰よりも愛情深い人が、今この瞬間、ここにいるべきだったんじゃないのか。
最後の最後まで、俺とノワキを愛してくれていた……そんな彼女こそが、ノワキのこの言葉を、受け取るべきだったんじゃないのか。
そんなことばかり、考えてしまう。
「ありがとう、パパ」
けれど、今、ここが現実なのだ。目の前に広がる景色が、すべての果てなのだ。
俺は――
なんとも図々しいことに、娘との別れまで寂しがってしまっている。
「わたしね、好きな人ができたわ。その人も、パパと同じかそれ以上にどうしようもない人だけど……でも、そんな彼を好きになっちゃったの。わたしは、わたしの大好きな人と一緒に……前に進むことに決めたわ」
俺は、いったいどの面を下げて、頬を濡らしているだろう。どうして……俺なのだろう。
自分を責めだしたら、きっと際限はないだろう。
「そう、か……そうか……そうなんだな……」
それでも俺は、親だから。目の前の娘の、父親でありたいと思うから。他ならぬ娘自身が、それを望んでくれたから。
だから俺は……父としての、最後の役目を果たさなければならない。
「知らない間に……俺が、腐ってる間にも……」
親としての、最後の務め。
「お前は立派に……大きく、なったんだな、ノワキ」
それは――晴れやかな気持ちで、去り行く子供に、手を振ってやることだ。
「パパとママが、わたしを愛してくれていたから。それなのに、わたしからはなにも返せなくて、ごめんなさい」
「……何、言ってんだよ……」
俺は今、笑えているだろうか? みっともなく泣いてはいないだろうか?
最後まで、親でいる自信なんかなかったけれど。
それでも今このときだけは。
不知森真鉄は、不知森野分の父親として。
「もらったよ。今……替えの効かない、大きなものをくれたんだ、ノワキは……」
俺はノワキに、こんなにも幸せにしてもらったんだよと――
「……いってらっしゃい、ノワキ」
――それが伝わりますようにと、いちばんの笑顔を娘に向けた……。
☽
その後、居間に戻ってきたクズ野郎と入れ違うように、ノワキが言う。
「それじゃ、わたしは先に外で待ってるわ。スグルもお父さんと、今くらいはちゃんとお話して」
「は? いや、こんな小汚い男と二人きりにされても困るんだけど……」
なんだこいつは。
「ホントに先に行っちゃったよ……」
戸を開けて家から去っていくノワキに、背中を丸めるクズ野郎。
「……聞いたぜ、ノワキから」
俺が声を掛けると、ひょろガキは渋々といった様子でこちらを向いた。
「俺に対するそれだけじゃなく、普段の振る舞いも、俺に負けず劣らずのカスらしいな」
「そんな、僕なんかお義父さんに比べたら全然ですよ」
その場で殴り殺してやりたい気持ちをぐっとこらえて、俺は続ける。
「正直言って、俺はお前が気に食わねえわ。交際に反対だとか偉そうなことを言うつもりはねえが……それはそれとして、お前みたいな人として最低限の礼儀もねえやつを認めたくねえ」
「奇遇だな。僕もお義父さんが大嫌いだよ。ノワキの父親じゃなかったら話もしたくないくらいに」
「……ハッ。そうかよ」
恋人の親に少しでも気に入られようだとか、そんな一般的な考えは鼻から頭にないらしいクズ具合に、いっそ笑えてくる。
「まあ、あれだ……あいつを幸せにしてやれ。俺にはできなかったことだからな」
「そりゃもう任せてください」
「……威勢がいいのは結構だが、その自信はどこから来るんだ……?」
「だって、ここは嘘でもハイって言っておくところですよね?」
我慢の限界がすぐに来た。
「おいノワキ! さっさとこのクソガキ連れて家から出てけ!!」
『そのクソガキの面倒をわたしに押し付けるのはやめてー』
なんとも間延びした声が、戸の向こう側から聞こえてくる。
「ノワキもこんなののどこがいいんだよ……」
「あんたみたいなのを死ぬまで愛してた人の娘だしな、血は争えないんじゃない?」
「正気かよ……」
「ヘラヘラ」
「ヘラヘラしてんじゃねえよ!」
「で、まあ。さっきの……ノワキを幸せにしろってのに、正直に答えるけど」
案の定ふざけていたらしく、しれっと話を戻すクズ野郎に激しい苛立ちを覚えつつ……
それでも多少は真面目な顔をしてやがったんで、聞くだけ聞くことにする。
「ノワキを幸せにできるかは、分からない。なんせ現在進行形で二股してるくらいだし」
「てめえ」
本当にこの場で、殺してやろうかとも思ったが。
「――でも、幸せになるために、僕たちは共にあることを選んだよ」
困ったことに、それが本音であることだけは疑いようもなさそうだった。
「……そうかよ」
それはいつか、どこかで聞いた夢物語だ。
――『俺に……できるか? お前らを、ちゃんと幸せに……できるかな』
――『それは違うわ。みんなで幸せになるんだもの』
俺の結末は、まあ、知っての通り。
俺はもう、終わってしまった。
だが、そうか。こいつらは、これからなんだな。
「……お前は、俺みたいになるなよ」
「うーん。お義父さん、わりと僕の20年後感があるのでそれはなんとも」
どこまでも安心させてくれねえカス野郎だ。なんでも正直に言うのが美徳だと勘違いした愚図だ。
こいつがこれから、ロクな人生を歩まないのが容易に想像できる。
……だが、まあ。
「大丈夫だ。お前には目の前に、優秀な反面教師がいんだろ」
お前は失敗する未来を既に知っている。
「俺とは違って……偉大な先人が存在すんだから、せいぜいそいつから学べや。なぁ?」
ならばまだ、足掻きようもあるってもんだろ。
「…………」
そこまで言ってやったら、ガキはようやく目を見開いて驚きやがった。
どこまでもスカした野郎の鼻を明かしてやったようで、快感だった。
「……それだけだ。もうお前に用はねえ。さっさと消えろ、顔も見たくねえわ」
「それは僕の台詞だよ。僕がお前を嫌いなのも、人間性というより、その見るからに知性の低そうな面がイライラするからだし……つかぬことをお聞きしますが、工事現場で働いていらっしゃいますか?」
「やっぱいっぺん地獄見とくかテメェ!!」
「うおっ……ノワキ助けろ、お前のクソ親父のDV癖が再発した……!」
「死ねえええええええッ!」
「ゴフッ……」
いくらなんでも耐えられなくなった俺はそいつを殴り飛ばし、強制的にこの家から退場してもらうのだった。あースカッとした。




