26 いちばんの好物はクアトロフォルマッジですわ!
さざれから聞かされた別世界のような話を、僕は一つ一つ咀嚼するようにして理解していく。
カネコリサマの、不知森家の突然の失踪。当然の帰結として村は大騒ぎになり、その事件はすぐさま中央の魔術師たちの耳にまで届いたと、彼女は言う。
そうして八幡村を出た不知森家がたどり着いたのが、ここ――隣県の果野市であると判明した時、中央からとある一族が、<白銀の巫女>監視の命を受け遣わされた――
「それが、御簾納家の嫡女――わたくしですわ」
タピオカチャレンジ余裕綽綽と言わんばかりの豊満なおっぱいに手を当てて、さざれは自身を指す。
「じゃあお前は……ノワキを追ってこの街に来たのか」
「ええ。ですから幼馴染というのも、偶然そうなったわけではありませんのよ。当時のわたくしが、明確な目的を持ってリノに近づいたのですわ」
監視のためにノワキに近づいて……その関係が、今日までずっと続いてるってわけか。
なんだかカネコリサマ云々の伝承より、よほど実感を持って気の遠い話だと思え――
「……ん? 待てよ、でもノワキがこの街に来たのは10年くらい前だろ。それだと君は、幼女の頃からそんなエージェントみたいな活動してたことになっちゃうけど……」
「魔術師にとってはそれが普通ですわ。わたくしは6歳の時からこの街のこの家に一人で暮らしてますの」
などと、更なる衝撃の事実を告げられてしまう。
「一人暮らし……小学校上がる前からか?」
「何か問題ありまして? 実際にこうして立派に育っているじゃありませんの」
「た――」
「『たしかにとても立派だけど』などと言おうものなら眉間に風穴開けて差し上げますわよ」
『おにーちゃんがあまりに憚りなく視線を送るので、さざれにはバレバレなのでした』
要らない解説が入った。
「……あまり、その……やめてくださいまし。ちょっと気にしてるんですのよ」
さざれは頬を染めながら、ばるるんと揺れるホルスタインみたいな両胸を、腕で一生懸命隠すようにしている。『気にしてる』とか言いながら、視線が誘導されちゃうような動作をするのもどうかと思う。
「別に疚しい気持ちとかじゃなくて、僕は純粋にさざれのおっぱいが好きなんだけどな」
「わたくしの胸に疚しい気持ちを抱かない!? ――あなたそれでも男ですの!?」
「どっちだよ」
本心からの言葉を信じてもらえないのは悲しいことだ。
ズミやさざれと話していると、僕の心は途端に脆くなり、頻繁に揺さぶられ、傷がつく。
これが魔術師と話すということなのだろう。……ならば、これと同様の興奮を彼女に対して覚えるのは、いったいどういうことなのだろう?
『さざれにはおにーちゃんを信じてほしいものですが、相互理解とは難しいものです。互いに見えている世界が違うのですから、人と人の関係が一筋縄ではいかないというのも、むべなるかなというものでしょう』
「深いようで浅いことしか言ってませんわね。あなたはなんなんですの? 更科さんの妹などと宣って、一体なにを企んでおられますの?」
『私のことが知りたいですか、さざれ』
「近寄らないでくださいまし。わたくしはどちらかと言えば、あなたこそ信用できませんわ」
『えんえん、しくしく』
「な、なんなんですの本当……」
レンの『哀』の怪演(涙を拭う仕草付き)を受けて、さざれは眉間にしわを寄せて後退っていた。演技力不足のレンが悪いだろう。
『私はさざれに信じてもらえなくて悲しいのです』
「な……なんのつもりかは知りませんけれど、強力な神眼を持つ神相手に油断するなと言う方が――」
――ぐぅ~…………。
突然の間延びした音が、さざれの言葉を遮った。
それは何を隠そう、僕の腹から鳴っていた。
「……更科さん、お腹へってるんですの?」
すっかり毒気を抜かれたように目を見開いたさざれが、訊ねてくる。
「そういえば……今日は昼抜きだったよ。ノワキが弁当つくってくれるはずだったのに、あいつ学校休みやがって」
その文句も言うつもりだったのだが、不知森邸の異様な雰囲気に気を取られてすっかり忘れていた。
「いえ、休むもなにも、リノはそもそもウチの学院の生徒なのですけれど……でも、そうですの……」
顎に手を当てて、なにやら思案した後……さざれは顔を上げ、僕を見ながらこう言った。
「更科さん、よければうちで夕食を済ませていきませんこと?」
☽
僕がエロゲばかりしてエルがヘラった時など、以前から夕食を外で摂ることは多かった。そのため、母さんに夕飯なしの連絡を入れたら、すぐに了承の返事が返ってきた。
というわけで特に問題はなく、今日はレンと共に、さざれの家でご飯を食べることになったのだが――
「さあさあお二方、焼き立てのうちに食べてしまいますわよ! 特にモッツァレラなんて冷めたら悲惨でしてよ!」
テーブルの上に広がるLサイズの宅配ピザ二枚を前にして、さざれが見たことないほどの喜色満面の笑顔を浮かべる。
……出前なんかい。いや、別に不満があるわけじゃないのだが……流れ的に手料理を振舞ってくれるのかと、少し期待してしまっていた自分もいたのだ。
「さざれ、ピザ好きなの?」
「わたくしの大好物ですわ! 宇宙一の食べ物ですわ! ……とはいえこのサイズ、一人で食べるには少々大きすぎますでしょう? ですから客人がいる時しか頼めませんのよ。どおおおおおおおしても我慢できなくなった時は、リノや十六夜さんを招いて召し上がるのですけど……今日はせっかくお二人がいらっしゃってくれたのですから、この機を逃す手はありませんことよ!!」
「そうなんだ。よかったね。さざれが嬉しそうで僕も嬉しいよ」
テンション高っ。
『ピザは初めて食べます』
心なしかレンの万華鏡を覗き込んだような幻想的な瞳も、二割増しでキラキラしている気がする。今日イチ感情が顔に出ていた。美少女万華鏡である。
「逆に普段はなに食べてるんだ?」
『強飯が好きです』
なんて?
『私を祀った巫女たちがよく供えてくれました。それよりおにーちゃん、こっちのピザに乗っているのはなんでしょうか』
「サラミだよ」
『なるほど。これがサラミなのですね』
レンは感嘆し、いたって真剣な眼差しでピザのトッピングを眺めている。
「レン、なんでも知ってるってわけでもないのか」
『はい。知ってることだけ――です』
「神がそれでいいのか?」
『私はあくまで見たもの・聞いたものからしか情報を得られません。おにーちゃんがエーデルワイスと行為に及んだ回数は見ていて数えているので知っていますが、さざれが携帯する<まほろば02>は魔術師が秘匿している技術のため、私も知りませんでした』
僕のプライバシーとかそういうのは考えない方がよさそうだな。
「あの……わたくしとピザの前で猥談は控えてくださる?」
「えっ、今のってそんな猥談ってレベルの話かな?」
「経験者の余裕的なのも出さなくてよろしいですわ!!」
さざれは顔を赤くしていたが、羞恥というよりは憤怒寄りだった。
「どうでもいい話ばかりしていないで、はやくいただきますわよ!」
「そうだね」
もう待ちきれなくなったらしいさざれの催促で、僕たち三人は食卓に着いて、手を合わせる。
「『「いただきます(ですわ)!」』」
地元民組:スグル ツツジ イチジク
引っ越し組:エル ノワキ さざれ
電車通学組:アキラ ユカリ




