↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/35

遺書






貴方がこの手紙を読む時、私はこの世にいないでしょう。




遺書を書くのは久しぶりだ。

何を書くか何時も一行目で悩んでしまう。これを書く今も周りには書き損じの紙切れが散らばっているので、この紙もきっと塵箱に放り込まれる運命なのだろう。


最初に遺書を書いたのは十歳だった。

本気で死ねると思ったので、自分を殺すであろう集団の名前だけ紙に書いて引き出しの中に放り込んだ。死ぬ死ぬと思いながら八年も生きてしまったのだから、悪運強いとしか言いようがない。

けれど今回こそはきっと、此の世から居なくなれるだろう。


遺書と言うなら死因は書いておくべきだろう。死因は……何だろうか?斬首なら失血死だろうし絞首なら窒息か首の骨折だ。良く分からん。取り敢えず処刑される。死因:処刑だ。我ながらアグレッシブ。



事の発端は雨の日生まれの女児が産まれた事だ。母親はメアリー・バルベで父親はフロロー教教主。年齢差を考えてはいけない。

兎も角娘が出来た事にハッスルし過ぎたパパは、可愛い娘(赤子)に相応しい夫を見つけようと頑張り、王太子こそ相応しいと云う結論に達した。だから邪魔な人間、つまりは自分を消そうと考えた。

自分と赤子、同じ信者が妃になるとして王の義父且つ祖父の椅子が付いて来るのだからこれはまあ自然な事だ。


以前より病的に教会からの呼び出し状が届き、毒や暗殺者もデリバリーされた。勿論一方的に殺されてハイ終わりは腹が立つので、教会は無視したし王家に身辺を守って頂いた。家族も守って頂きたいのですとお願いしただけなのに城に住む事になっているのは今でも解せない。


家に眼を付けられたくなかったと言え、誰の差し金か四六時中殿下と生活するのはかなり精神に来た。麗しいは精神を削るし、彼にも良い迷惑だったろう。彼の妹君が定期的に引き剥がしてくれる度に感謝の土下座をしたくなった。


兎に角殺害は上手くいかなかった。信者も資金も数年かけて削られた癖に教会も良くやるものだ。小娘一人殺せないとは、それだけ力が落ちたと云う事だろう。



予想通り、殺せない事に彼等は憤った。暗殺出来ないなら、国家反逆罪で告発すれば良いと考えた。消したいのは悪評高く殿下と不仲の自分、他国との密通疑惑を掛ければこれ幸いと婚約破棄するだろうと。恐らく実行は殿下卒業後直ぐの舞踏会、単純で助かる。



だから、殺されてやろうと思った。



告発が行われたその場で、証拠を携えて彼等の罪を暴いてやる。奴等を道連れに処刑台に上ってみせる。証拠の対価は、アクスバリ公爵家に一切責任を問わない事を望もう。


だから、死因は処刑だ。処刑で、自殺だ。


私は、心からそれを望む。





………色々書きすぎた。これじゃ間違い無くこの紙は塵箱入りだ。けれど、久し振りにここに来れたし余白位は埋めてみせよう。




遺書としてあと書くべきは、動機か。

何故処刑されようと思うのか。されるべきと思うからだ。

沢山の、気が狂うほど沢山の人を見殺しにした。

若しくはもう、とっくの昔に狂っているのかもしれない。



暗い地下で、犯されながら喰われる娘を見た。

目の前で子供の四肢をもがれ、泣き叫ぶ母親を見た。

殺してくれと叫びながら血を失っていく男を見た。

飢えて切り取られた己の指を齧る少年を見た。


助けてと叫ぶ声を、死にたくないと泣く悲鳴をいくつもいくつもいくつも聞いた。聞くだけしかしなかった。


止めてと叫んで庇う事なら幾らでも出来た。

自分が実際に手を出してないのもバレる訳にはいかなかったのも、何の理由にもなりはしない。

あの場所に居た数多の人々を殺した、其れは紛れも無い真実だ。自分は奴等と同じ屑だ。



死んだ彼等を愛する誰かがいるのに、どの面下げて生きろと云うのか。誰かが正義だと褒めても、私は自分を決して許さない。

悪を殺すと決めた。自分は悪だ。自分を殺す。


その意思に迷いはない。歪める気もない。





けれど一つ願いが叶うなら、一人だけ逢いたい人がいる。


大切な人がいた。

心を教えてくれた、奇跡のように優しい人だった。

大好きな人だった。心臓を掻きむしりたくなる位暖かい、小さな女の子だった。


誰よりも優しい場所で笑っていて欲しい貴女へ。

願わくば最期の一瞬、首を落とされる瞬間だけで良いから貴女に逢いたい。

貴女が何も遺さず逝ったように、私も貴女だけ追いかけられるだろうか。

貴女を忘れる前に逝くから。どうかどうか、貴女の影を追わせてくれ。



最後に。

この手紙をもつあなたは、誰なのだろうか。

父か母か、ベルかな?分からない。

此処まで読んだ暇人なら多少は自分と関係を持つのだろう。大穴で赤の他人とかは止めてくれ、恥ずかしすぎる。

多少縁あってこの紙を読んでいるであろうあなたに言いたいことは、一つしか無い。


どうかミュート・アクスバリの事は忘れてくれ。


その名は国の反逆者の名前だ。何時か教科書に載るかも知れないが、罪人の記号でしかない。そうでなくてはいけない、この国に自分は必要無い。

出来るだけ、跡形無く消え去りたい。その為に未練全てを殺したのだから。


あの人を喪ってから空いた容れ物を、漸く辞められる事が少しだけ嬉しい。



きっと私は、少しだけながく生きすぎた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。