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夜遊





入学してから一年ちょっとが経った。



昼を無為に過ごし、夜になれば学園内を散策する優雅な日々は、存外穏やかに終わってしまった。

思ったより普通の学生生活を満喫出来ている。

友達いなくて教室移動や昼食が一人なのは些細な問題だ。悪女だからね、基本遠巻きに見られるのは仕方ないね。


友達作ろうチャレンジは開催していない。あちこちで恨みを買い過ぎて折角出来た友人に八つ当たりの危害を加えられる危険があるし、自分のせいでトラブルに巻き込んでしまう事は避けるべきだ。

どう考えてもデメリットが多い、自分のような悪辣物件を押し付けるのも申し訳ない。



大丈夫、友達がいなくても仕事と愛想笑いをする相手ならいるからぼっちでは無い。

余り通わなくなった事もあり、教会が嫌われている自分を価値有りと見なすかの杞憂も有ったが問題はなかった。

彼ら(教会)としては次の王を産む胎の持主が信者である方が優先されるらしく、会うたびに凶器を握らせてくる。死体加工メインで生者を切り刻む事はあまり無い週末の教会儀式(闇)だが、精神はごりごり持っていかれるので遠く無いうちに地獄に突き落としてやる。


入学前まで定期的に城に遊びに行っていたし怪しまれないかとも思ったが、今の所大丈夫だ。誰も次期王妃が十三歳の頃からスパイをする為に潜り込むとは考えていないらしい。

教会が雨生まれの王妃を徹底して推奨しているのも理由にあると思われる。恐ろしい事に、まだ雨の日生まれの令嬢は産まれていないのだ。

これはもう黒ミサの呪いとしか考えられない。絶対許さない。





許さないと決めた教会は置いておいて、今大切な事は自分が少し大人の階段登ったことである。

具体的に言うと後輩が出来て先輩になった。

先輩。実に心がぴょんぴょんする単語である。

先述の通り学園で愛らしい先輩後輩ライフは到底望めないだろうが、初々しい可愛らしさを後輩に期待している。

弟とは三つ以上違うので三年制のこの学園で同じ制服を着る事は出来ない。だからこそ、その寂しさを埋める癒しを後輩という生命体に期待してしまうのは仕方ない話だ。



近付けなくてもきゃっきゃしてる様子を見て和みたい

ーーーーそう思って居た時期も有りました。




当然かつ不本意な事ながら、殿下に赤い実弾けさせるのは同級生だけじゃなかった。つまり後輩女子や極一部男子が殿下に惚れた。

そうなれば相応しく無いのに婚約者な自分が好かれる訳がなく、こっそり近づいても嫉妬されるか怯えられて泣かれた。


十七歳にもなると、殿下だいしゅきガチ勢は少なくなってくる。

各々の婚約者や家の事情など避けられ無い現実的な問題から、彼を好きだと周囲に声を張り上げる事が許されなくなってくるからだ。

(殿下)を諦め現実(各々の貴族社会)を生きる様子は、何処と無く哀愁を誘う。


勿論諦めきれないお嬢様が赤い実弾けさせ過ぎて破片が攻撃してくる事もあるが、問題無く対処出来ている。今や目を瞑っていても縄抜けできるし致死率の高い毒物に対する耐性もついた。十代の人を傷つける為の計画なんて穴が空き過ぎてて笑いすら込み上げる。排気口が有る部屋に縛って気絶させた状態で放り込むだけとか監禁舐めているのか。せめて手脚の腱を切るところからやり直しなさい。


勿論自分はか弱い乙女なので戦闘能力は無い。

筋肉無いし瞬発力なんて来世に期待しないといけないレベルだ。

けれど今まで生きているのは、手段を選ばないからだと自分では思っている。無論学園の隠し通路と排気口の続く先と隠し部屋を知っているだけでも此処で生きるのに大分奴に立つが、なんだかんだ言って最後に信じるのは勘と思い付きだ。

あり得ないと言われそうな行動でも、取り敢えずやってみてから考えてみれば良いと思う。失敗したらその時だ。ベットするのが自分の命だけなので、失敗しても周囲に害が無いのも気軽に無茶出来る理由になっているのかも知れない。



無茶が好きなわけでは無い。必要だからやるだけだ。

成功した事はないが出来る事なら後輩を可愛がりたいし、学園七不思議の一つの睨みつけてくる自画像などとも戯れたい。


だからこそ、残念で仕方ない。

未だ学園でこれといった怪異に遭遇していない事も、一人の後輩が質悪い方法で殿下に手を出そうとしている事も。









今年入学してきたその少女は、名をエスメラルダと言う。ピンクブロンドの髪に若草の瞳を持つ、滅多に見ないレベルの美少女だ。

何処ぞの男爵家の庶子で、市井暮らしから最近引き取られてそのまま学園に放り込まれたらしい。なので当然今迄面識は無い。無いが、あっという間に彼女は学園で有名人になった。


一部男子生徒と仲良くなるのが上手かったからだ。顔良し地位良し成績良しを中心に複数人の。


マナー教えてと上目遣いし成績良しイケメン同級生と放課後にダンスを踊り、勉強でわからない所だらけなんです><で美形教師と個人授業、生徒会室に手製の焼き菓子を差し入れしお返しに生徒会長にあーんを強請る、リア充の極みみたいな事をしていた。リア充爆発しろ。


勿論根も葉も無い噂に踊らされる真似はしない。隠し通路や従業員の制服をフルに活用し、彼女から故意に近付いているし、有力な貴族に命令されて動いている訳では無い事を確認した。リア充爆発しろ。


彼女が入学してから三月程なのに、複数のフラグを立てているのだから恐ろしい。この間殿下と一番仲が良いであろうフィーバス公爵子息にも話しかけていた。リア充爆発しろ。


まだ殿下に接触は無いが、手を出す気は満々だった。この間彼女の寮の(二人部屋だったが同じ部屋の娘は婚約者に手を出されかけて怒って出て行った)部屋で、独り言を呟いていた。リア充爆発しろ。


曰く、「リュコス本命だけどエドマンドも悪くなーいきゃー迷っちゃーう♡でも他にもカッコイイ人いるし皆平等に愛してあげよう!そしたらもっともっとメラルダの事好きになっちゃうし、仕方ないから多夫一妻にしちゃお!きゃーメラルダってば頭良い♡」要約である。


リュコスは殿下だしエドマンドは生徒会長か副会長どっちかの名前だ。王妃とその他夫人兼任とか妄想癖拗らせすぎてて痛いが、これだけ言っておく。リア充爆発しろ。爆発四散しろ。


どうやって私室に居たエスメラルダの独り言を聞けたか?

ベッドの下には常に気を張るべきだとだけ言っておこう。


大丈夫、一度で飽きたから必要でない限りもうやらない。次やる時はベッドの底の板にリア充爆発しろと彫ってやる。


そもそもこんな面倒な事をしているのは彼女が入学当初から美形に頭から突っ込み、それに美形達も満更ではない顔をして、その顔を見て美形の取り巻きが殺気立つからである。


まだ大人しいが、あれは導火線に火のついた爆弾だ。エスメラルダが少しでもボロを出したら女子達の不満が爆発し、面倒な事になるだろう。エスメラルダ国外追放とかならまだ良い。自分にとばっちりが来て欲しくないのだ。

彼女自体は殆ど関係のない人間だが自分は殿下の婚約者だし、悪評高いのはこちらも同じ。いちゃもんを貴族はこよなく愛するので、悪女一斉粛清キャンペーンなんて起こされたら困る。やるならせめて教会の裏会員名簿を手に入れてからにしてくれ。








柔らかい風が頬を撫でる。

暖かみのあるランプの光が眠気を誘うが、まだ寝るわけには行かない。頬を机にくっつけたままゆるゆると頭を揺らす。

まあ、彼女は暫くは放置して置いて問題ないだろう。殿下に手を出されてないので自分がしゃしゃり出る理由が無い。願わくはこのまま自粛するか静かに焼き討ちに合っていて欲しい。


あえていうなら、一つ疑問がある。

そう…………





「…………やっぱ巨乳が良いもんなの?」


ベルはどう思う?と問いながら首を傾げる。

聞かれた彼は、思いっきり噎せた。



ベル改めベルナールは、我がアクスバリ家別荘の庭師である。まあまあ整った顔の気の良い男だが、割とびびりである。

学園に入る前は教会帰り深夜に別荘まで会いに行っていたが、自分を見ると大体悲鳴を上げる。この間室内にいたので窓をばんばんして気付いてもらおうと思ったら、彼は此方に気付いた途端目を見開き布団の中に飛び込んでガタガタ震えていた。怖かったらしい。

此処まで怖がって貰えるならオカルト好き冥利に尽きると言う物だ。


三年前に彼に初めて会った日から、毎週深夜は此処に来ていた。別にベル目当てでは無い。

丘の上から見える夜空や森に囲われた立地、植えられた植物含めてこの別荘が好きだからだ。

現実逃避かも知れないが此処は羽休めに最適で、居るだけで落ち着くのだから仕方ない。

二時間程滞在を入学するまで二年続けて総時間は二百時間余り。勿論行けない時も多いので実際もっと少ないが、大分精神的に救われた。



無論その場所を維持管理するベルは嫌いでは無い。だからこそ遊びに来ているし、時々高価過ぎないお土産も持っていく。あちらも寝ないでいる辺り鬱陶しくは思わずいてくれているのだろう。そう願っている。


普段は屋外で雑草を抜くか室内で取り留めなく話す事が多いが、今日は屋内だった。此処一年休暇の夜にしか顔を見せない非情な友にも紅茶を淹れてくれるのだからベルは優しい。

今いるのは屋敷の隅っこの彼の私室だ。狭い部屋に合わない二人掛けの机と椅子が部屋に置かれていて、自作したのだと頰を赤らめながら言われたのは一昨年の事だったか。そんな心優しき友に最近大丈夫かと問われ、思わず胸部の大きさに関する質問を投げつけた事は非常に反省している。


けれど仕方ない。エスメラルダの胸部は非常に豊かだったのだ。一応女の性を持つ自分でも、二度見する程見事だった。

何故か殿下は其処まで興味を持っていない。母親があんな美人で目が肥えているのだろう。こやつこそリア充だったか爆発しろ。



母親で目が肥えた美形野郎は置いておいても、欲しい情報は胸部と魅力が比例するかどうかだ。しかし学園の適当な男子生徒に聞くわけにも行かない。だから一番仲が良いと勝手に思っているベルに質問してみたのだが、返事は無い。噎せているようだ。


「急になんなんだ……」


「いや?普通に。近々知り合いになるかも知れない子がそんな感じだったから……好奇心?」


「それ本人に言うなよ?絶対に。あと胸の好みは個人差があると思うぞ。だから本人に言ったり聞いたりするなよ」


「酷いよべるるん!そんなに信用してくれないなんて!こんなに夜な夜な通っているのに、信じてすらくれないの?!」


「なんか違うし最近そんな会ってねえだろ。あとべるるんってなんだ。俺か?俺の名前なのか?だーれがべるるんだ」


「痛い痛いこめかみぐりぐりは良くないと思うよ!幾ら頭蓋骨が固くても一箇所に力を込めたら穴も罅も出来るんだよ?此処で死んだらベルに憑いてやる!」


「こんなんじゃ死なねえしちゃんと名前呼べるじゃねえか、べるるん止めろ。茶のお代わりは?」


「飲む。ありがとう、べるりn……うんごめん、悪かったから指ぽきしながらこっちに来るのやめよう?ごめんて。久しぶりに来た友人に対してあんまりの対応だと思うんだ?癒しが足りない!」


「男に癒しを求めるなよ……」



呆れたように言うベルに、思わず笑う。

まだ彼に、自分の素性は話していない。

もういい加減唯のアクスバリ家関係者でない事はバレているだろうが、其処の令嬢だと分からなければそれで良い。

ベルも聞いて来ない。唯の甘えだが、この場所を失いたくないと現在進行形で思っている。


溜息と共に出された紅茶に口をつけた。

茶葉も茶器も普段使っているものよりずっと質が落ちるが、何処で飲むよりも美味しいと思ってしまうのだから始末に負えない。



恋では無い。

リュコス様が好きだから貴女邪魔なの、と目を血走らせて叫ぶ娘のような、人妻に惚れた故に血の海に跪いてでもその夫を呪い続ける男のような熱量は、自分には無い。



唯一緒に、取り留めもない下らない話をしていたいだけだ。許される限り。



第一自分が恋だの愛だの感じて赤い実弾けさせたら面倒な事になるに決まっているじゃないか。仕事をするにも邪魔になるし、教会や城に知れれば相手に危険が及ぶ。「殿下を慕う少女」じゃないと成り立たない図を組み立てたのに、自分が其れをぶち壊してどうする。



だからこれは、恋ではない。


優しいベルへの甘えで、依存で、許されるなら友情だ。


恋慕など、あってたまるものか。







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