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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.24 パートナー

切り立った崖に張り付くように形成されたザパンの集落。そこからやや外れた場所に、数十人からなるヌシ狩りの民たちの一派は滞在していた。


ザパンの集落のなかでも足場の悪い場所にテントを張り、少量の穀物が浮かぶ汁を炊く女たち。

ヌシを狩る見返りに金品を巻き上げるならず者の集団という噂のわりには、裕福な生活をしているようには見えなかったし、どこか集落の隅に追いやられているようにも見える彼らへの待遇は、一部歓迎されないのはまだしもヌシ狩りを依頼された側にしては、普通の人並みの扱いすら受けていないと感じられるのは気のせいだろうか。


「ランブーの様子はどうだ?」

つい先ほどまでレブナと戦いを交えていたモジャモジャ頭が、鍋の前で火の番をしているチクリを見つけて語りかけてくる。

「ああ、モールか・・・」

チクリはモジャモジャ頭をチラッと眺めて、視線を逸らしたまま首を横に振る。


「ホムラは今夜がヤマらしい・・・」

「・・・そうか」

沈んだ表情で答えるチクリに、何と言葉をかけてやるべきか悩みながらも答えが出ないままモールは、相槌を打ちながらポツリと返す。


「あの時ウチがフックをしっかり掛けていれば、こんな事にならなかったも知れないのに」

「やめろ、過ぎたことを言っても仕方ない」

負の感情に支配されたチクリをたしなめるように、モールは強く言う。


「そりゃそうだけど、あの子とホムラは兄弟のように一緒に育ったんだよ!」

「仕方がない。こういう生き方をしている以上、誰もが覚悟を決めていることだ」

シリアスに決めているモールのモジャモジャ頭が、風に揺れてたなびいている。チクリは思わず吹き出しそうになって、何の罪もないそのモールの頭に怒りが込み上げてきたが、すんでのところで踏みとどまった。


「それよりも自分がもう助からないと思ったから、ランブーを守るために安全なこの集落まで全力で走って、力尽きたホムラの心意気を大切にしてやれ」

「わかってるよ、それをわかってるから余計に悲しいんじゃないか・・・」

チクリは鍋の火を眺めながら、小さくつぶやくのだった。



小さな薄暗いテントの中で、パートナーのホムラを看病するランブー。

ホムラはその大きな体を、敷き詰められた干し草のうえに横たえ、荒い息で眠っているように見えた。

「苦しいか、ホムラ・・・」

犬の頭を優しく撫でながらランブーが語りかけるが、その声が届いているのかどうかは分からない。


狼犬種(ろうけんしゅ)と呼ばれる、この大きな犬をつかって狩りをするヌシ狩りの民にとって、この犬たちはかけがいのないパートナーであったが、ランブーとホムラにはそれ以上の深い絆があった。

ランブーがよちよち歩きを卒業したころに生まれたホムラ。彼の父親がヌシ狩りの民の中で、獣医を兼ねた狼犬種の育成を仕事としていたこともあり、ホムラの成長過程には常にランブーの存在が傍にあった。


ハッハッハッ・・・


ホムラの荒い呼吸がテント内に響いている。

「水を飲むか?」

ランブーが手を水で濡らしてホムラの口元に近づけると、水を欲する体が勝手に反応したのか、意識がないはずのホムラがペロペロとその手を舐める。

ランブーはその様子をじっと静かに眺めながら、何かに耐えているようにも見えた。

「僕があの時、異変を感じた時に、お前を無理に行かせたりしなければ・・・」


ヒューン・・・


ホムラの意識が戻ったのか、甲高い声で甘えるような鳴き声を漏らす。

「大丈夫だ、僕はここに居る」

そう言いながらランブーがホムラの頭をなでてやると、言葉を理解して安心したのか、狼犬は持ち上げようとしていた頭を下ろしてまた静かになった。

「大丈夫だ・・・」


だがランブーはホムラの様子が、今までと少し変わっていることに気付く。

何がおかしいと説明はできない、しかし何かが違うと胸騒ぎを交えて感じるこの違和感は、ランブーをひどく不安にさせた。


「誰か!誰か獣医を呼んでくれ!」

そう叫びながらランブーがホムラの方に振り返ると、狼犬の呼吸が浅くなっている気がする。次第にランブーの胸騒ぎが、彼の中で高まっていく。

まもなくテントに入ってきた獣医でもある彼の父親が、状況を一目見るなりランブーの肩に無言で手を置いた。

「・・・」

ランブーはその意味を瞬時に悟ったが、うろたえる姿を見せることなくホムラの頭を静かになでてやった。

「・・・よく、・・・頑張ったな。もう、いいんだぞ・・・」

ランブーの声がわずかにかすれる。


ホムラはその言葉を聞いて安心したかのように、干し草のうえで横になったまま首をそらして大きくひとつ背伸びをした。大きく溜めて、全身の息を吐き出すかのような伸び。

そしてその後、二度と息をすることはなかった・・・。

「・・・」


ランブーの父親はその最後を看取ると、ポンポンとランブーの肩を二回優しく叩いて、そっと部屋を後にする。ランブーの目には、安らかな表情で眠っているかのようなホムラの姿が写っていたが、その幼い容姿からは想像もできないほど少年は強かった。

大切な友人でありパートナーでもあるホムラを失っても、涙一つ見せずにその亡骸なきがらに微笑みかける。

「今まで、ありがとうな・・・」



その時、申し訳なさそうにテントの中の様子をうかがう人物が現れる。

「ランブー、俺だモールだ」

「どうしたんだ?」


「こんな時に悪いんだが、客人だ・・・」

そう言いながらモールはテントを覗き込んだ時に、息を引き取ったホムラの姿を見て失敗したという表情を浮かべた。


「構わない。誰だい?」

「どうもキトトブのラガンナ院長からの使いみたいなんだが」

「ラガンナ院長?」

そう言ってモールが連れて来たのは、ひとりの少女と見知らぬ一団だった。

少女はテントの入り口の隙間から、ランブーの姿をのぞき見てひどく困惑する。

「へっ、いや・・・あたしはヌシ狩りの民の長に会いたいって言ったんだけど・・・」

ランブーはそう言いながら戸惑う少女に品定めするかのような視線を投げかけ、やがてすっと立ち上がった。


「僕がヌシ狩りの民の長、ランブーだ・・・」



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