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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.22 狂牛レヴナ

「どうもありがとうございました、ラガンナ院長」

「うむ・・・」

シュカヌとニーガ・ルージが寺院の外に出ると、見送りに出て来ていたラガンナにユマがお辞儀をしながら礼を述べていた。ユマの背後にはスライドボードに乗ったシャンネラとニトの姿も見える。


「おーい・・・、こっちこっち!」

ニトがシュカヌを見つけて手を振りながら合図する。


シュカヌは小走りで、彼らの元へと駆け寄る。

「もう遅い~!何してたの?」

「ごめんごめん」

"何してたの?"ってそりゃないよと思いながらも、シュカヌはユマに謝る。


「スライドボードで来てたんだ・・・」

「さっき聞いたらラガンナ院長からお許しがでたからね。ここまでコレで来るのは、なんだかバチあたりな気がしてたんだけど、全然大丈夫なんだってさ」

「そうなのか」

シュカヌの問いかけにニトが答える。

「まあユマの調子もわからなかったからね、お言葉に甘えさせてもらおうって」

「・・・」

ユマの調子は絶好調だよっ!と言いかけて、シュカヌは心の中に留めることにした・・・。


「これを持って、お行きなさい」

そう言いながらラガンナがユマに手渡したのは、キトトブの刻印こくいんで封がなされた一通の書簡だった。

「これは・・・」

「ヌシ狩りの民に会ったら、これをラガンナからだと言って渡せば、ある程度の事情が伝わるように手紙をしたためておいた」

「ふあぁっ、ありがとうございます」

「このキトトブの印が、私からの口添えの証拠になって、キャツらもそなたらを無碍むげに追い返すこともなかろう・・・。私ができる事は、このくらいしか無いのでな」

「これ以上のものはないです!」

首をブンブン振り回しながらそう言うユマを、ラガンナは笑いながら優しい目で見つめる。


「じゃあ、そろそろ行こうかね」

シャンネラがそう言うと、ニトはスライドボードを降りてユマと代わり、自身はシャンネラの後ろに移動する。シュカヌはユマに促されて彼女の後ろに乗り込んだところで、ニーガ・ルージが声をかけた。

「我輩はどこに乗ればいいのだ?」

「へっ、来るの?」

「当然だ!お前だけでは心許こころもとないし、また置き去りにされては敵わんからな」

ニーガ・ルージがシュカヌに怒鳴る。


「あっ、ニーガちゃんはここ!」

そう言いながらユマが服の胸元を広げる。

「なななっ・・・!?」(ニーガ、シュカヌ、ニト)

「ば、バカを言うでない。我輩がそんな所になど」

「ハイハイ、もう聞き分けのないこと言わない」

「うわっ、コラっ、やめないかっ、オイっ」

ユマはスライドボードから降りてニーガ・ルージを抱きかかえると、自分の服の中になかば強引に押し込んだ。そして押し込まれたニーガ・ルージは、やがてユマの腹のあたりの隙間から顔を出す。

「あっ、かわいい!」

「・・・」

ユマはそう言うが、ニーガ・ルージは突き刺さるようなシュカヌとニトの熱い視線を、全身で感じ受け止めていた。


「それでは院長、行ってまいります」

「うむ、気をつけてな」

「はいっ」

そう答えるとシャンネラとユマたちを乗せたスライドボードは、ハザサ院を後にするのだった。


立ち去る彼らの後姿を見送るラガンナ。

「・・・よい子じゃ(ポッ)」




シュタタタッ、シュタタ・・・

草木がまばらに茂る小高い丘を、数頭の犬たちが駆けていく。

犬たちはいずれも灰色のきれいな毛並をしていたが、何よりも目を引くのは体格の大きさだった。今となっては失われた種であるオオカミと犬との交配、そして改良によって生み出されたというその姿は、純粋な犬と比べれば獣的な印象をつよく感じる。

犬たちのそれぞれの背にはヒトが乗っていたが、疾走するスピードからはヒトが乗っていることをまるで感じさせない力強さを見せていた。


その獣じみた犬たちを操っているのは中年、若者、男、女とバラバラではあったが、それぞれが奇妙な道具を携帯して身にまとっている。そして先頭を走る犬の背に乗っているのは、まだあどけなさの残るというよりもまだ子供にしか見えない少年。

その少年が背後を振り返ることもなく、スッと右手を上げるような仕草で合図を送ると、犬たちは徐々にスピードを落としていき丘の頂上にならんで立ち止まった。


その場所からは辺りの景色が一望できた。

犬の背に乗る者たちは息をひそめて一言も喋らないが、手話にも似た手の動きで短いやり取りを互いに繰り返して、なにか意思の疎通を図っているようだ。

その時、先ほど先頭を走っていた少年が右手を上げて注意を促し、小さな指先で遠方を指さす。

肉眼では識別しにくいほどの距離。そこにいたのは、この辺りで狂牛レヴナと呼ばれるヌシであった・・・。


その身体を覆う毛並みは、所どころ薄くハゲかかって地肌を露出させており、目ヤニでまみれた瞳は年老いた動物特有の白内障はくないしょうなのか白く濁った目をしていた。

そのレブナのはるか前方では、ヒックルと呼ばれる動物の群れが草を()んでいる。


その本当に見えているのかどうかも疑わしい濁った目で、前方にいるヒックルたちを見つけたレブナはゆっくりと、そして気配を消しながら群れに近づいていく。するとヒックルたちはレブナが接近してくる殺気を感じたのか、一斉に頭をあげてレブナの姿を確認したと同時に驚くべきスピードで逃走をはじめた。


双方には十分な距離があったはずだった、しかし逃げるヒックルたちに気付いたレブナは、頭を低く下げた状態で加速をつけて走り出す。

それは逃げるヒックルをも上回るスピードで、双方の距離はみるみるうちに縮まっていき、ヒトの大人で三人分以上の重さはあろうかというヒックルたちが、レブナの巨大な角によって次々と吹き飛ばされていく。

動くものすべてに向けられる超攻撃的な性格と、その巨体から繰り出される殺傷力の高い一撃、レブナが"狂牛"と呼ばれる所以ゆえんであった。

まもなく何頭かはその攻撃で息絶え、また残る数頭は命からがらその場を逃走していき、丘を吹き付ける風の音だけがその場に残る。


やがてヒックルたちのいなくなった場所で、レブナは悠々と草を食みはじめるのだった・・・。




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