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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.15 百人斬り

「えっ、これって!?」

門番の咳払いに驚いて、地面にしりもちをついたユマが見たのは、境内を埋めつくす武装したキトトブの僧兵たちだった。

僧兵たちは隊列を組んで規則的に並び、彼らの遥か後方にはいかにも古刹こさつといった趣の社が見える。


ドン、ドドン、ドンドン・・・


そんななか僧兵たちは手にした棍を、まるで何かの儀式のように地面に打ち付けていた。


「こりゃあ一体、どういうことだい・・・?」

そのとき呆然と立ち尽くすシャンネラの横を、シュカヌがすっと通り抜ける。

「皆はここで、ちょっと待っていて」


「へっ!?シュカヌどういうこと?」

地面に腰を下ろしたままの状態でユマがたずねる。

「テストなんだ」

「てすと?」

「うん、僕が僕であることを証明するテスト」

そう言い残してシュカヌが門の内側へと進んで行くと、僧兵たちの間が割れて道ができる。


シュカヌが臆する様子もなく、その隙間を一人進んで行くと、その背後を僧兵たちが取り囲むようにして道がきえていった。


「じゃあ始めようか・・・」

シュカヌがそう言い終わったかどうかというその瞬間、一斉にシュカヌに向かって襲いかかってくる僧兵たち。


「あっ、危な・・・!」

だがユマの叫びはそこで止まる。


次の瞬間、シュカヌの周りにいた僧兵たちが、吹き飛ばされて宙に舞った。

そしてそのまま地面に倒れ込む僧兵の輪の中から、上空に向かってシュカヌが飛び上がる。その軌道上に数人が同時に棍を打ち込むが、そこにシュカヌの姿はなく、空中でクロスして静止した数本の棍の上にひらりとシュカヌが舞い降りた。


「ぐぬぅ!」

僧兵が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、忌々しそうに唸る。


「す、凄いよシュカヌ・・・」

ユマが目を見開いたまま、はぁっとため息をついた。

そして隣にいるニトは体が竦んでいるのか身動き一つせず、食い入るように状況を見守っている。


やがて第二陣が次の攻撃を狙ってすばやく動く。

小さな鎖の両端に石の重りがついたスリングが、棍のうえに立ったシュカヌの背後から迫り、一瞬のうちに彼の身体に巻き付いて自由を奪った。

その反動でシュカヌは棍の上から落下して、キトトブの僧兵たちはその落下点めがけて攻撃をしかける。


「・・・いない」

攻撃を加えた僧兵が、手応えのない手元を睨みながらつぶやく。


「どこだ、どこに消えた!?」

慌てて周囲を見渡す僧兵たち。


ドーン!


その時彼らの後方で大きな音がしたかと思うと、数人の僧兵たちが吹き飛ばされている。そしてその中心に立つシュカヌの足元には、バラバラになったスリングの鎖が落ちている。

「バカな、何も見えなかったぞ・・・」

そう言った僧兵が、ゴクリと唾を飲み込む音がその場に響いた。



「一体どうなってるんだい・・・」

状況を見守っていたシャンネラが驚きの声をあげる。

キトトブの僧兵と言えば、大の男が三人がかりで挑んでもまるで勝負にならないほど、その戦闘能力は高いと噂されるほどだと言うのに、その僧兵たちが束になって襲いかかってもシュカヌに軽くあしらわれていた。

シュカヌがエンゾと呼んでいたバケモノとの交戦時には、シャンネラは逃げることに集中することが多くて気付かなかったが、シュカヌの戦闘能力はヒトのそれをはるかに上回っていることは間違いなかった。


「こうなったら波状攻撃だ、全員で手を休めることなくかかれ!」

一団のリーダーが言ったのか、その掛け声と共に一斉攻撃が始まる。

体術で殴り掛かる者、棍を使って中距離から仕掛ける者、攻撃方法はそれぞれに違いはあったがコンビネーションは恐ろしいほど揃っており、間髪入れないという表現がぴったりくる激しい攻撃だった。

そう、攻撃ではあったが・・・、シュカヌはそのことごとくを目にもとまらぬスピードでかわしていく。

「何故だ!何故当たらない!?」


シュカヌは攻撃をかわしながら、最小限の一撃を僧兵たちに与えながら倒していく。

次第に辺りには地面に倒れこむ僧兵たちで溢れかえってくる。

「まだだ、手を休めるな!」

僧兵たちは倒れても倒れても次から次へと新手が現れてはシュカヌに襲い掛かり、攻撃側であるにもかかわらず若干息が上がり始めているが、当のシュカヌに息の乱れは見られない。



「面白れぇ・・・」

そう言いながら僧兵たちを掻き分けて、大男がニヤけた顔で前へと出てくる。

男の手には、他の僧兵と違いびょうのついた巨大な金棒が握りしめられており、それは明らかに殺意の表われだった。


破戒僧(はかいそうダブジ・・・」

その姿を見て誰かがつぶやく。


ダブジはシュカヌを見つけて、金棒を振り回しながら距離を詰めていく。

だが僧兵たちで埋め尽くされた境内であるがゆえ、味方であろう僧兵たちはダブジによって次々になぎ倒されていく。

「バカヤロウ、どけ!ザコは邪魔にならんよう、引っ込んでろ!」

ダブジはそう叫びながら、自分が倒した僧兵に目もくれずシュカヌに迫る。


シュカヌを取り囲んでいた僧兵たちは、その大男の姿を見て攻撃の手が止まり固まってしまう。

「へっへっへ、おいガキ!お前強いな」

「あんた誰?」

シュカヌは目の前に立って、薄ら笑いを浮かべるダブジに問う。


「誰だってかまわねぇよ。それよりお前を倒せば褒美が出るんだ、死んでも俺を恨むんじゃねえぞ」

「・・・キトトブもちたね。何であんたみたいなのが」

「へっへっへ、口の利き方をしらねえガキだな」

そう言うのが早いか、ダブジは手にした金棒をシュカヌに向けて振り下ろす。

だがその先にはシュカヌではなく、金棒の直撃を受けて倒れこむ僧兵の姿があった。


「ちっ、外したか」

ダブジは血の付いた金棒を持ち上げながら、吐き捨てるようにつぶやいた・・・。



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