sect.3 大迷惑
気が付けば私達を追いかけていたヤツとの構図は、私を追いかけるヤツとその後を追うタマちゃんという形に変わっていた。
だがマズイ・・・。
無限とも思われた私の体力にも、限界が見え始めている。
逃げているだけでは埒が明かない。
何か手を打たなければ、志半ばにして野垂れ死にだ・・・。
・・・と思っていた矢先だった。
ギシァー!!!
背後からの巨大な叫び声に、慌てて後ろの様子を窺ってみると、ヤツがのた打ちまわって苦しんでいる。
そしてタマちゃんからはプスプスと煙が。
その様は以前にも見たことがある。そうだ!研究所で道をふさぐ瓦礫を、タマちゃんが吹き飛ばしてくれた時と同じだ。
「おぉ、ビームですか!?その手があったか!さすがですな、タマオサン」
「ピー!」
巨大なトカゲは腹を上にして、手足をモゾモゾと激しく動かしている。
その姿は大きな子供が、地面に寝転がって駄々をこねているようで滑稽ではあった。
「助かった・・・」
そもそも何故ナビゲーションシステムであるはずの、タマちゃんからビームが出るのか不思議ではあるが、命が助かって結果オーライだ。
「やれやれだったな・・・」
「ピー・・・」
そして私の元へと近づいてきたタマちゃんと再び合流する。
ヤツへのダメージが致命傷なのかどうか判らないが、少なくとも暫らくは起き上がってこないように見える。
だがしかし、油断は禁物だ!
「今のうちにさっさとトンズラこくとしよう」
「ピー!」
そう言いながら、そそくさと立ち去ろうとした私達の背後から、ズズンと大きな振動と音が響いてくる。
振り返ると、暫らくは大丈夫だと思っていたトカゲが起き上がり、こちらを睨みつけているではないか。その茶色だったつぶらな瞳は真っ赤に染まり、全身からは怒りのオーラ的なものが立ち込めている。
「・・・怒ってらっしゃる?」
「・・・ピ?」
「走れタマちゃん!」
「ピー!」
そして私達は再び走り出す。
だがマズイな、体力の限界だ。
タマちゃんもさっきのビームで、かなりのエネルギーを消費しているように見える。
このままでは二人ともいつまで持つか・・・。
そう考えていた時だった。
「なんだアレは?」
「ピ!?」
遥か前方に黒い線のようなものが見える。
「動物の群れか?」
「ピ!」
よく見ると、一直線に並んだ動物達の最後尾には荷車が付いていた。
どうやら人が操っている乗り物らしい。
チャンスだ!この好機を逃してなるものか。
「あれに乗せてもらおう!」
「ピピッ!」
私達は荷車に向かって走り出した。
一方その頃の、ニトとヤンチにもどる
「何だろう、砂煙が上がっている・・・」
「本当だ、何ですかね?こっちに近づいてきているようにも見えますが」
なにやらザワザワと、荷車を引くヒックル達の統率が乱れ始めた。
「落ち着け、お前達。一体どうしたんや・・・」
ヤンチはドウドウと言いながら、ヒックルたちを落ち着かせる。
「あの大きさだと、砂嵐ではないようなんだけどね」
ニトは目を細めて砂嵐を見つめている。
そして突如、ニトが大きな声を上げた。
「げ!?」
「どうしました、坊ちゃん?」
「オオ砂トカゲだ!」
「なんですって!?」
ニトの目には、砂に煙る彼方から猛烈なスピードで近づいてくるオオ砂トカゲの巨大な姿しか映らなかった。無論その前を先導するようにカネサダとタマちゃんが疾走していたのだが、彼らが認識できるほどに近づく前に、オオ砂トカゲに気が付いたというほうが正確かもしれない。
しかしそのニトの言葉が合図だったかのように、ヒックルたちが荷車を引くスピードを上げて疾走を始める。
「うぉおお~・・・」
ヤンチは慌てて手綱を握りしめ、ヒックルたちを制御しようと試みるが、暴走を始めたヒックルたちは彼の思惑通りには動かなかった。
一方ニトは荷車の入り口でバランスを崩し、そのまま荷車の中へ倒れこむように転がっていく。
「うわぁ~!?」
「大丈夫ですか!?坊ちゃん」
突然の出来事に、ヤンチとニトの叫び声が虚しくこだました。
その様子を離れた場所から見て、焦ったのはカネサダだった。
「おぉ、逃げていく!ちょっと待て、待っておくんなし~!」
「ピー!」
荷車との距離をあとわずかまで縮めたところで、荷車がスピードを上げてその距離は徐々に開きつつあった。
「マズイ・・・。このままでは追いつけない」
「ピー」
「こうなったら奥の手だ・・・」
「ピ!?」
「タマちゃん、私に掴まれ」
カネサダの言葉に従い、タマちゃんは急いで彼のアフロヘアーに着地する。
その姿はまるで鳥の巣で休む親鳥のようだった。
「いくぞタマちゃん!」
「ピー!」
「加速そぅ~ち的な・・・!」
「ピ!?」
ドヒューン!!
突如スピードを上げたカネサダの体は光り輝く疾風となって、砂の上を滑るように猛スピードで進む。
オオ砂トカゲとの距離は徐々に広がり、荷車との距離は徐々に縮まっていく。
「おぉぉぉ・・・、いける!いけるぞタマちゃん!」
「ピー!」
だが勢いづいて調子に乗るカネサダをあざ笑うかのように、前方にキラリと光る小さな物体が地面から突き出ていた。
ちゅどーん!
その小さな物体に足を引っ掛け、砂を走る疾風は撃沈した・・・。
「はぁ~ん・・・!」
「ピピ~・・・!」
そして地面に倒れたカネサダに、迫り来るオオ砂トカゲ。
「ぬおぉ、万事休すか!」
「ピピピ~!」
でぅるぅ、ぼふっ、どぐぅ、どどど・・・
地面に倒れたカネサダとタマちゃんの上を、オオ砂トカゲのひんやりと冷たい腹が、二人をもみくちゃにしながら通過していく。
「ぐお、ぼふっ、んが!」
「ピガ、ンガ、ブピ!」
だがそのままオオ砂トカゲは、カネサダとタマちゃんを置き去りにしていくのだった・・・。
しばらくの後、そこにはヨレヨレになったカネサダとタマちゃんだけが残る。
「助かった・・・のか?」
「ピ・・・?」
オオ砂トカゲの去った方角に目をやると、遥か彼方に荷車を追いかけているのが見える。
どうやら荷車に接近した時に、オオ砂トカゲのターゲットはあの荷車にすり替わったようだ。
「すまぬ、見知らぬ人よ。我々のために犠牲になってくれて・・・。許してチョンマゲ!」
「ピピ!?」
「危ういところで命拾いしたが、一体何だったんだ?さっきの邪魔な出っ張りは」
ふと我に返ったカネサダが足元の小さな物体を確認すると、それは淡い光を放つ石だった。
「おお!エナジークリスタではないか!?」
「ピピー♪」
タマちゃんが歓喜の声を上げ、その小さな石に近づく。
するとタマちゃんの身体から吸盤の付いた触手のようなものが伸びて、石に吸い付いた。
「ピピ~・・・」
「さっきのビームでかなりのエネルギーを消費したから、十分に補給しておかないとな」
「ピッ」
やがて元気を取り戻したタマちゃんがエナジークリスタから離れると、今度はカネサダがその石に手をかざす。
すると石の淡い光が徐々に薄れていく。
そして光が完全に消えたと思った瞬間にエナジークリスタは砕け散って、光り輝く粉が風に舞って消えていった。
「ふう、やれやれ。これで暫らくは持ちそうだ」
「ピー♪」
「しかし、これからどうしたものか・・・。ファントムコードが発動されたといって、どこに行けばいいのか手がかりは何もないぞ」
「ピー」
カネサダが辺りを見渡すが、やはりどこを見ても砂の地平線しか見えない風景に変化はなかった。
「まずは手がかりを探すためにも、この砂だらけの場所を抜けることを考えよう」
「ピッ」
そう言って二人は歩き始める。
・・・このとき彼らは知る由もなかった。
時空転移をした時に、時間をさかのぼってしまっていた事を。
つまりこの時点では、ファントムコードはまだ発動されてもいないという事を・・・。




