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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.27 融合Ⅲ

「お前だけは生かしておけない!」


パーン!


だが銃弾はエンゾの肩をかすめて外れてしまう。

「チッ・・・」

タカネは再度エンゾに向けて引き金を引いた。


カチッカチッ・・・


タカネがいくら引き金を引いても、弾倉に弾が残っているようすはない・・・。

「ふっ・・・、残念ですね。アナタたちは、やはり持っていないという事ですよ」

エンゾは左手で右肩を押えながら、苦痛に顔をゆがめて言う。

彼の右腕からはポタリポタリと血が滴り、床の上に血溜まりが出来始めている。


「さあバケモノよ、こいつらを喰らいつくしてしまえ!」

エンゾの背後から触手が、研究員と二人きりになってしまったタカネたちに向かって伸びる。

「くそっ、万事休すというやつか・・・」


だがエンゾの近くにとどまる触手の様子がおかしい。

床に溜まるエンゾの血から離れず、臭いでも嗅いでいるような仕草で何かを調べているようだ。その先端をときおり青白い光が走る。

「何をしているのです!早くヤツらを・・・」


突如エンゾの言葉に反応したかのように、触手がエンゾに絡み始める。

「んな!?」

そして絡みついた触手はゆっくりとエンゾの身体を引きずり始めた。

「私じゃない!何をしている、標的はアイツらだ!!」

身じろぎしながら抵抗するエンゾだが、その力は強くとても抗いきれるものではなかった。

「や、やめろ・・・」


「なんだ!?助かったのか?」

研究員がタカネの隣で半信半疑の声を上げる。

「わからない・・・」


「ぐ、ぐぉおぉー・・・!!」

やがてエンゾの身体は生体金属の中へと、ゆっくり消えていく。

全身を波立たせてエンゾを飲み込む生体金属。そしてその表面を走る青白い光の筋。

「おい、エンゾが飲み込まれちまったぞ・・・」

「ああ・・・」

その光景を眺めながら立ちすくむ二人。


「・・・オレたちは、どうなるんだ?」

「ここから逃げ出せなければ、同じように飲み込まれるだけだ」

だが顔を見合わせる二人をよそに、生体金属に異変が起こる。


全身を走る光の筋が激しさを増していく。

「なんだ!?何か様子が変だぞ?」

巨大な岩の塊のような形状をしていた生体金属が、グニャグニャと液化したようになったり、ヤマアラシのように全身から針のような形状のものが飛び出したり、その様はまるで苦しんでいるようにも見える。


そしてグッグッグッ・・・という異音を発したかと思うと、グニャリと形を変えていく。八本脚のその形は、まるで蜘蛛のようだった。


ドーン!!


蜘蛛にその形を変えた生体金属は、激しく悶えるように壁に激突する。

「うおぉ・・・!?」

彼らの居る部屋全体が揺れるほどの衝撃で、タカネたちは体勢を崩してその場にしゃがみこんだ。

「なんだ!?一体どうなっているんだ?」

「わからん・・・。だがこの感じ、拒絶反応でも起こしているみたいだ。さっきのエンゾを飲み込んだことが関係しているのか?」

根からの研究者らしく、こんな状況でもタカネは冷静に現状を分析する。


ドーン!!


「おぉ、また・・・」

「マズイ、このままだと壁が抜けるぞ!」

タカネの推測に、研究員は表情を明るくした。

「いいじゃないか、それだったらここから逃げられる」

「バカ、この壁の向こうは屋外だぞ!ヤツが外に出てみろ、誰にも止められないのにどうするんだ!」

能天気とも思える研究員の言葉に、タカネは言葉を荒げる。

「じゃあ、どうすれば!?」

「・・・どうしようもない。くそっ、オレ達には何もできない・・・」


ドーン!!ガラガラ・・・


「しまった・・・!壁に穴が」

何も出来ない二人が立ち尽くしてその光景を眺めている内に、蜘蛛に変形した生体金属は壁にできた穴から抜け出そうとするが、平衡感覚を失っているのか壁に激突している。

だがそれでも異形の蜘蛛は勢いをつけて、やがて穴の中へ身体をぶつけながら消えていった。

「マズイ、外に出やがった!」


グオオオォォン・・・


雄叫びにも似た咆哮が外から聞こえてくる。

「どうする?」

喜びとも焦りともいえない、微妙な表情でたずねる研究員。

タカネはしばし考えを巡らせていたが、決断したかのように顔を上げる。


「とりあえず、ここから出るぞ。エルマリーがシュカヌを連れて、研究所の外に向かっているはずだ。彼女たちに合流しよう」

「わかった。どうせここにいても、オレたちの居場所はもうないからな」

「ああ」


「行くぞ!」

タカネの掛け声で、二人は勢いよく外に飛び出した・・・。




「なんの音だろう・・・?」

鍾乳洞の中を進んでいたシュカヌが立ち止まり、背後を振り返る。そしてそれに気付いたニーガ・ルージも何事だと立ち止まった。

「どうした?」

「なにか変な音が聞こえなかった?叫び声みたいな・・・」

「いや、気が付かなかったが」

ニーガ・ルージが天井を見上げるような仕草で聞き耳を立てるが、それらしい異音は感じられない。


「気のせいだったのかな?」

「この洞窟の中で命を落とした人の霊が、語りかけたんじゃないのかい?」

エルマリーが意地悪な笑みを浮かべて言う。

「やめてよ・・・」

「アハハ、それよりも出口がそろそろ近いよ。気を緩めたりせずに付いておいでよ」

「うん」

ニーガ・ルージを含めて三人は、緩やかな勾配が付いた細い坂道を進む。しばらくして足元が平坦になってきたところで、エルマリーがそっとランプの灯りを絞っていく。

完全に灯りが消えて真っ暗になった道を進むと、前方からやわらかい月明かりが三人を導くかのように差し込んできていた。


「・・・でた!」

三人は小高い丘の上に姿を現す。

眼下には壮大な景色が広がりシュルナフ研究所の施設も、ここからなら全体を見渡すことができた。

「やっとあの呪われた場所から、自由になれたねシュカヌ」

「うん、ありがとう。エルマリーさん」

「やめなよ、エルマリーでいいよ・・・」

「わかった」

しばし自由になれた余韻に浸るかのように、三人はその場に立ち尽くす。


「ん、何だあれは?」

ニーガ・ルージが暗闇に目を凝らして、一点を見つめつぶやく。

月明かりで照らされているとはいえ視界の悪いなかで、遥か遠くに何かが蠢いているように見える。

「なんだろうね・・・。この距離であの大きさだから、近づいたら結構なデカさだろうけど・・・」


目を凝らしてその物体を眺めていたエルマリーがふと視線をスライドさせると、米粒のような人影がその物体を追いかけるようにシュルナフ研究所から出てくるのが見える。

ふたつの人影は手に持った灯りを振って合図を送ってくる、それはまるでエルマリーたちの三人がここにいることを分かっているかのような仕草だった。


「あれは・・・、タカネか!?」

エルマリーはトーンを上げて、高い声で叫んだ・・・。


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