sect.25 融合Ⅰ
「きたねアンタ達・・・」
暗闇の中から声をかけてきたのは、体格のいい女性だった。
「あなたは・・・?」
人見知りなところのあるシュカヌは、おずおずと勇気を振り絞ってたずねた。
「そうだね、自己紹介をしなくちゃだね。ワタシの名前はエルマリー、あんたも知ってるタカネの嫁だよ」
「タカネさんの!?」
「なんだい、ワタシみたいなのがタカネの嫁でビックリしたかい?」
そう言いながらエルマリーは、アハハハと豪快に笑った。
「いえ、そんな!」
「そんな気にしなくていいよ。皆が意外だって言うんだから」
とはいえエルマリーは、そんな事をまるで気にする様子もなく、軽い口調で笑いながらそう話した。
「ムダ話はそのくらいにしておいた方がいいぞ・・・」
「そうだね・・・」
ニーガ・ルージがシュカヌとエルマリーの間に入って言うと、さっきまで陽気だったエルマリーが、急に真剣な眼差しに変わる。
「シュカヌ急ぐよ・・・。出会ったばかりで悪いが、あまり時間がないんだ」
「時間?」
「研究所では、そろそろアンタが消えたことに気付くころだ。早くここを出ないと追っ手が迫ってきちまう・・・」
「そういうことだ。我々は一刻も早く秘密の抜け道から、この研究所の外に出る必要がある。そのための案内役として、エルマリーはここで待ってくれていたというわけだ」
ニーガ・ルージが状況を理解できていないシュカヌに説明する。
「そういうこと」
エルマリーは笑みを浮かべて、軽くウィンクする。
「準備はいいね?じゃ、行くかねぇ」
「うむ」
そう言いながらエルマリーは小屋の扉を開いて中へと進み、ニーガ・ルージがその後に続く。
だがその後に続いて、二人を追いかけようとしたシュカヌがふと立ち止まった。
「・・・・」
シュカヌは二度とここへは帰って来れなくなるような気がして、シュルナフ研究所の建屋を仰ぎ見る。そこには母親アリアと過ごした景色が、夜の闇に浮かび上がっていた。
過ごした時間は短かったけれど、母親と二人で逃げるようにやってきた研究所。仕事で忙しかったアリアとはすれ違いも多かったが、それでもここは思い出の場所に違いなかった。
そして彼女の身体と魂は、今もこの場所に・・・。
「何をしているのだ?行くぞ、シュカヌ」
小屋の中からニーガ・ルージの声が聞こえてくる。
「ちょっと待ってよ!」
(行ってくるよ、かあさん・・・)
シュカヌは声の主を追いかけて、暗い小屋の中へと飛び込んだ・・・。
「これは・・・!?」
エンゾの背後にあった布の奥から現れた物体を見て、タカネは驚きの声を上げた。
それはアリア博士の研究室で見た、あの粘液を滴らせる生体金属。だがあの時と大きく違うのは、肥大化して人の背丈をも越えるほどに成長した、そのサイズだった。
「いつの間に、これほどまでに巨大化を・・・」
タカネはその巨大で禍々(まがまが)しいまでの造形に、息を呑んだ。
「あの女、アリア博士の最大の成果はコレですよ。この生体金属に比べれば、オートマタと生体金属の融合もタマウツシも子供のお遊びみたいなものだ」
「なに!?」
「この物質は生命であろうと機械であろうと関係なく自らの中に取り込んで、その情報や力を自分のものとして吸収していく・・・。無能なあなた達は気付かなかったようですが、すばらしい進化能力を持った物質ですよ」
エンゾは笑みを浮かべて語るが、思わせぶりな言葉で話を繋ぐ。
「ただひとつ難点は、すばらしい能力を持つ代わりに、その機能を維持する為に莫大なエネルギーを必要とする・・・」
ゴゴゴゴゴゴ・・・
「な、なんだ一体。何の音だ?」
そのとき巨大な生体金属の塊が、振動を伴って低い音を発した。
「ごらんなさい、鳴いていますよ。・・・エサをくれと!」
カチッ!
エンゾがそう叫んだ瞬間、背後から扉がロックされるような音が部屋に響く。
「なに、しまった!罠か!?」
それが合図であったかのように、タカネたちに向かって触手のようなものが伸びてくる。タカネが触手の根元を視線で追うと、それはエンゾの背後の生体金属から伸びてきている。
「もう三日もエサを与えていませんでしたからね、空腹で凶暴になっています。でも心配は要りません、痛みもなくすぐ楽になれますから」
狂気に満ちた笑みを浮かべ、エンゾは静かに語る。
「うぅわぁ~・・・!?」
パーン!
恐怖で錯乱状態に陥った研究員が、自分のほうに伸びてきた触手に発砲する。しかし銃弾は触手の表面を滑るように反射して、壁の中へ消えていった。
「・・・ムダです。こう見えても金属なのですよ、銃は効きません」
エンゾの言葉通り、触手は全くダメージを受けていない様子で、発砲した研究員の足元に向かって猛スピードで迫る。
「ひぃっ・・・」
ズズズズ・・・
研究員の足を掴んだ触手は、本体ともいえる巨大な塊に向かって研究員を引きずり寄せる。
「た、助けてくれ!!」
触手から逃れようとする研究員だったが、その力は強大で抵抗もむなしく引きずられていく。
「い、いやだぁ。だ、だえか・・・。あ、あ、あ~・・・!!」
そして他の者が救助に動く間もなく、研究員は生体金属の中へと消えていった・・・。
研究員を飲み込んだ生体金属の塊は、まるで咀嚼でもするかのように全身を波打たせていたが、やがて動きを止める。
「喰いやがった・・・」
誰かが誰に言うでもなくつぶやく。
「あわわわわ・・・」
そのとき研究員の一人がロックされた扉に向かって駆け出す。
ドンドンドン・・・
「おい!誰か助けてくれ!誰か!?」
「バカやめろ!」
扉を必死で叩き、助けを求める研究員の足元に再び触手が迫る。
「うぉぉぉ・・・!」
研究員の足に絡みついた触手が、研究員を引きずり始める。
「クソォ、こんなヤツに喰われてたまるかよ!」
パンパンパン!
研究員は触手や生態金属の本体に向かって発砲するが、銃弾は部屋の中を乱反射する。
「バカ!オレたちまで殺す気か!」
残った研究員達が身をかがめて、銃弾を避けながら叫ぶ。
摑まった研究員はまもなく、先程と同じように生態金属に飲み込まれていく。タカネはその様子に、指をくわえて眺めているしかなかったが、何か引っかかるものを感じた。
!
(おかしい・・・。この状況下で、エンゾはなぜ悠然としていられる?)
触手はタカネたちを狙って襲ってくるが、なぜかエンゾに対しては無反応だった。
!!!
「皆、エンゾだ!エンゾに向かって銃を撃て」
研究員の二人に向かってタカネが叫ぶ。
「ナニ!?」
「いいから早く!」
パーン!
一斉に三人がエンゾに向かって発砲する。
しかし三発の銃弾は、エンゾの目の前でポトリと床に落ちた。
「おしい・・・」
エンゾは薄ら笑いを浮かべてつぶやいた・・・。




