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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.9 暗躍


世間から隔離されたシュルナフ研究所を時代の狭間に置いていくかのように、世界はまさに激動ともいえる時期にあった。

高度な技術力を擁した文明はその代償として、生きていくには過酷過ぎる環境をヒトに与え、さまざまな国家が近隣の国との戦争を繰り返しているのだった。


エナジークリスタと呼ばれる結晶体から得られる、エネルギーの上に成り立つ技術。

しかしエネルギーを抜かれて残った結晶は砕け散り、その粉塵が空気中に散らばると多くの弊害を巻き起こすことになる。


呼吸により体内に蓄積された粉塵は結晶病という難病を引き起こし、また大気中に散らばった粉塵は汚染雨を降らした。

この汚染雨の影響で、大地は作物が育たない枯れた土地となり、この食糧難が諸国の争いに拍車をかけた。


だがどの国家もその食糧以上に求めてやまないのはエネルギーの確保で、エナジークリスタの利権を求めて国家間が争っているというのが、現状の歴史背景であることは誰の目にも明らかであった・・・。




シュルナフ研究所から離れた郊外の廃屋、とはいってもかつてはそれなりの身分の者が住んでいたのであろう、豪華な装飾の跡がいたるところに残る大きな屋敷。

その屋敷の一角、薄暗い部屋の中に二人の男の姿があった。


「オートマタのサンプル手配は、滞りなく進んでおるのかエンゾ?」

軍服に身を包んだ恰幅かっぷくのよい男が、彼とは対照的に線の細い体型の学者にたずねる。

軍服の襟章、そして胸元に並ぶ勲章から、彼がかなり地位の高い人物であろう事は推測できた。


「・・・はい、閣下。明日にはそちらへ配送する準備が整っております」

「ならばよい・・・。お前には多額の金を費やしておるのだから、そろそろ投資の回収をと望む声も軍部の中に少なくない」

「・・・わかっております」


屋外では雨が降っているのだろう、遠くから聞こえてくる雷鳴に雨の音が混じっている。

エナジークリスタの粉塵を含んだ毒の雨が、今も大地を穢しているに違いない。


「まずは後方支援として物資の搬送や雑用に使っていただき、オートマタの安全性を確認できた後にゴーストシステムを戦闘モードに特化したものに書き換えます」

「・・・うむ。システムの書き換えには、どれほどの時間を要すのだ?」

「一日もあれば、10体分は可能かと」

「いいだろう。そのタイミングはこちらで判断する」

「わかりました・・・」


「だがいつでも書き換えが出来る準備はしておけ、こちらの戦況もあまりかんばしくないからな。時間的な余裕はあまりないと心に留めておけ」

薄暗い部屋の中にあって、軍服の男の表情は読み取れないが、その声にはわずかに焦りを感じさせる響きがあった。

「はっ・・・」


突如激しくなった雨足が、大きな音を立てて窓を打ち付ける。


「それからお前の提唱する“次世代進化論”だが、ヒトの魂を機械に移し替えるという“タマウツシ”の実験、アレの許可を出す。倫理に反するといって騒ぎ立てるであろうキトトブ教の坊主たちの反対勢力を押さえつけるメドが付いた」

「・・・それは有難い」

薄暗い部屋の中で、エンゾの瞳が妖しく光る。


「負傷兵か民間人か、いずれにせよ実験に必要な人材の手配をこちらでしてやろう。ただし解っているであろうが、このことは極秘扱いだ。外部に情報が漏れぬよう細心の注意を払え」

「了解いたしました」

「実験に進展があった際には、その都度報告も怠るなよ」

「心得ております・・・」


そう告げると軍服を身にまとった男は、静かに椅子から立ち上がりエンゾに背を向ける。

「今日の話はここまでだ・・・」

「はっ・・・」

軍服の男が部屋を出ようと扉を開くと、部屋の外で銃を構えた軍人が警護をしている姿が目に入る。そして恰幅のよい男の背後を追いかけるように、軍人達もその場を後にする。


「さて、これからだ・・・」

口元に歪んだ微笑を浮かべて、エンゾはひとりつぶやいた・・・。



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