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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.4 歪んだ微笑


「あの三本のチューブから、情報がすべてマザーシステムへと送られています」

半球体の黒い表面を掌で触り、その冷たい感触を確かめるような仕草でエンゾはアリアにそう告げる。


「一本は機械工学つまり身体を司るデータ、もう一本はゴーストシステムでの頭脳を司るデータ、最後がこの研究施設を管理する環境を司るデータ。それら三本がここでまとめられ独自の進化を自律的に行えるようにするのが、このマザーシステムの目指す姿です」

「自律的にという事は・・・」

「そう、いずれは人の手をかけずとも、独自に進化していけるようにというのが我々の望む姿です。そしてこれら三本の柱を軸とした計画を、マブイ【魂】プロジェクトと我々は呼んでいます」

エンゾの言葉にアリアは何か腑に落ちないものを感じた。


「だったらヒトにとってこの施設の存在はどういう意味を持つんですか?ヒトの手を離れてという事は、ヒトの望みとは無関係に存在するという事でしょう?」

「いやもちろんヒトを助けるためのオートマトンを製造する上での進化ですよ。そしてそれを補完するのが、あなたの生体金属での研究というわけです」

「なぜ私の研究が補完することに?」

「今までの研究成果は、知能を持ったオートマトンを製造するという過程を目指したものでしたが、あなたの研究成果は戦争や病で失われたヒトの器官・部位を再生するということに利用されます。トナム博士のオートマトン技術と、あなたの生体金属技術を融合すれば、たとえば戦争で腕を失ってしまったヒトを再生することも可能です」

「そうですか・・・」

アリアは何かはぐらかされているという感触を払拭できずにいたが、これ以上議論を続けたところで理解には時間がかかりそうなので諦めることにした。


「今のところ、主な案内はこれくらいですが・・・」

そう言いながら、エンゾは振り返りアリアと向き合う。

「明日からあなたの職場となる場所を見学して、終わりにしましょう」

「はい!」

これにはアリアも手放しで賛成だった。

これほどの施設で自分に与えられる環境はどれほどのものなのか興味があったし、それと同時に不安もあった。これまでの施設を見学してきて感じた、得体の知れない不安感が拭えない状況では尚更のことだった。

「では、行きましょうか・・・」



「これは・・・」

エンゾの案内に従い、二人が着いた場所はアリアの想像を遥かに超えるものだった。

そこには最新鋭の設備が、カバーシートも外されてもいない状態で設置されていた。

「どうですか、お気に召していただけましたか?」

「それはもう・・・」


アリアにとっては、お気に召すどころの騒ぎではなかった。

これほどの設備を使って研究できることを、喜ばない学者はいないだろうというほど、それは素晴らしいものだった。

「二、三日中には助手となる者も、数名ほど到着予定です。アリア博士には、研究と併せて彼らの指導と負担も大きいのですが、それに見合う設備は準備させていただいたつもりです」

「見合うどころか、充分すぎます・・・」

「そう言って、頂けるなら結構。ここは明日から、あなたの場所です。どうぞ御自由に使ってください」

「わかりました」

「ではエントランスに戻りましょうか?」

「そうですね」



「母さん!」

エントランスに戻った二人の元に、幼い少年がそう言いながら駆け寄ってくる。

「あら・・・」

少年はアリアの腰に飛びつくように、彼女の服を掴んでしがみついた。


「お子さんですか?」

エンゾが少年を見て尋ねる。

「はい、今となっては唯一の家族です」

アリアは少年の頭に手を置き、微笑みながら答えた。


「それはいい、守るべきものがあってこそヒトは強くなれますから」

しかしそう言ったエンゾの顔に、歪んだ微笑が浮かんだようにアリアは見えた。

「・・・ん、どうかしましたか?」

「あっ、いえ」

気のせいだったのだろうか、エンゾの表情にも言葉にもおかしなところは感じられない。


「ほら、ちゃんと挨拶しなさい」

アリアが少年に言葉をかけると、少年は彼女の背後に隠れるようにしたまま挨拶をした。



「こんにちは、シュカヌです・・・」




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