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第4話 でんせつのぐんし


 結局、村長の家にご厄介になることになった。

 ここが一番広いしね。


 あと、もう村長ではない。これからは郡都ルフォンに戻るわけだからね。

 郡都の住民生活を取り仕切る代官(ガバナー)だ。


「ひゃあぁぁ!? わしがお代官さまですか!?」


 ドゥエンが狼狽してる。ジョナサンの父親だ。


 新たに代官を選出する理由もないので、村長の彼がそのままスライドして代官となる。

 なので今までいたいに雑貨商と兼業ってわけにはいかない。公務は忙しいからね。


 商売の方はジョナサンが引き継ぐことになる。


「私も新米男爵夫人だから。新米同士、勉強していきましょうね。ドゥエン代官」

「奥様の足を引っ張らぬよう、粉骨砕身して職務に励みます! はい!」


 びしっと最敬礼。

 気合い充分だ。


「俺も新米男爵だ。よろしくな」

「よろしくお願いします。男爵さま」


 アナクレトに対しては普通に敬意ある態度だから、きっと私のことは娘みたいに思ってるんだろうね。

 愛されるのは良いことだ、としておこう。


 子供扱いには目をつむりますよ。


「とりあえず拠点は決まりました。明日から本格的に計画立案ですね」


 私の前にお茶を置いてアンナマリーが言った。

 帯同する唯一の女官である。


 ルフォン男爵家の家臣団は、あとは男ばっかりだ。

 しかもみんな若いというね。


 こればっかりは仕方ないことなんだけどさ。新興も新興のルフォン男爵家だもん。家臣になりたいなんて酔狂な人は滅多にいない。

 まして家庭を持っている人なら、なおのこと。


 アナクレトに友情や忠義を感じていて、一緒に男爵家をもり立てていこうって集った人たちだから、組織の中核(コア)に相応しいんだ。


「具体的にはどうする?」

「そうですね男爵閣下。まずは人口と戸数の把握でしょうか」

「ねえ、ちょっと待って」


 ごく普通に会話してるアナクレトとアンナマリーにストップをかける。


 どうして私の夫は侍女に政略のアドバイスを求めているのだろう。

 そして、どうして私の侍女は当たり前のように答えているのだろう。


 ちょっと理解の範疇を超えてるんですけど。


「なにか問題があるのか?」


 不思議そうに首をかしげるアナクレト。

 や、だってアンナマリーは侍女じゃん。

 彼と同じくらい不思議そうな顔をする。


「お嬢さまは皇宮の外を知りませんからね。わたし実は軍務についていたことがあるのですよ」

「そおなんだ」


 ほえほえと感心してしまう。

 軍人上がりの侍女ってことかあ、異色の経歴だね。


「三十近くになるまで殺し殺されの世界にいたんですが、嫌気がさしてしまいまして。引退しようと国王陛下にお願いしたら、やめるくらいなら娘の侍女にならないかと誘われたわけです」


 三年前のことらしい。

 すっごい畑違いに見えるんだけど、そんなスカウトってあり?


「陛下はアンナマリーの軍才を惜しんだし、同時に怖れもしたのさ。野に放つより高禄を食ませて飼い殺したほうが良いと考えたんだろうな」

「怖れた?」


 きょとんとする。

 アンナマリーって、そんなにすごい人なの?


「マズロウ帝国の尖兵であるレッドオーク三万の大軍を、たった一千の手勢で撃退してのけた伝説の軍師さ。赤い髪飾りのマリーといえば、軍では知らない人がいない英雄だよ」

「盛りすぎです男爵さま。レッドオークはせいぜい一万でした」


 照れくさそうに頬を掻くアンナマリー。

 ていうか、三万でも一万でも変わらなくない? 千人でやっつけちゃったんでしょ?


「どうやったの?」

「ときがくれば判りますよ。お嬢さま」


 にこっと笑う。

 でたなー。いっつもそうやってちゃんと説明してくれないんだ。


 見て判らないものは聞いても判らないとか、はぐらかすようなことばっかりいって!


 ぷんすかと腰に手を当てる私の頭を、なぜか慈愛顔で撫でてくる。

 この子供扱いよ。




 アンナマリーの意外な正体が明らかになったり、そんな武勲も伝説も知らない私が世間知らずっぷりを発揮したり夜は更けた。

 で、開けて翌朝である。


 集まってきた若衆を、アナクレトは三班に分けた。


 城館修理のための縄張りをする班と、街の中の概略図を作る班、そして人口と世帯数を調べる班である。

 まあ、実際の差配はアンナマリーがやってるんだけどね。


「名軍師だからみんなの特性が判るとか?」

「昨日の今日で判るわけがありません。ただ頭数で振り分けてるだけです」


「なんだつまらない」

「お嬢さまは軍師という存在に対して幻想を抱きすぎなんですよ」


 軍略に詳しくて、勝利への道筋を組み立てるのが仕事であって、人心掌握とか育成とかは、また違う才能なんだそうだ。


「わたしにいわせれば、こんな寒村で三百人からの人員を集められるお嬢さまの方がおかしいんですけどね。軍師よりずっと」

「給金はずむって話をしただけじゃない」

「それな。シルヴィアは奇をてらったことは言ってないんだよな」


 ごく自然に会話に加わるアナクレト。

 あなた、若衆に訓令していたんじゃないの?


「ですから、それがおそろしいと申し上げております」

「たしかに」


「なになに? なにがおそろしいの?」


 なんか軍師と主君っぽい会話じゃん。

 格好いいから私も混ぜてよ。


「将器と将才というお話ですよ。お嬢さま」

「どゆこと?」

「ときがくれば判ります」

「またそれ!?」


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