出陣3
ご都合主義の転生ものじゃなくって、なるべく納得できる範囲で格好のいいヒロイン・ヒーローを描きたいと思います。
チョット歌舞伎じみたセリフ回しの格好つけの多い物語です。
「正午までまだ少し時間があるわね」
フローラとエリーの二人をソファーに導き、私自身が紅茶を勧める。
「カチアには及ばないけど、どうぞ」
「「頂きます」」
「今回の討伐軍を立ち上げるに当たって、私はシュナイザー殿下から参加者には公国騎士と公国男爵の叙するお許しを頂きました」
一口紅茶に口を付けて言う。
「登校は女子校ですよ。女性に貴族当主の資格を与えるという事ですか」
一般的な女性貴族の考えをフローラが述べる
「公国の継承権者の直属軍は貴族に限る。あの取り決めを逆用したのですね」
フローラの発言から一呼吸おいてエリーが頷きながら言う。
「さすがエリー、慣用法まで良く知っているわね」
二人で顔を見合わせてニヤリと笑う。
「お二人とも、淑女のする微笑みではありませんよ。ここは悪の巣窟ですか」
一人、私は淑女ですと言いたそうにフローラが呆れた口調で言う。
「フローラ、貴方も似たような顔をしているわよ。もっとも、名前だけで領地はあげれないし、少しばかりの年金があるだけの本当に名前だけの貴族なんだけどね」
私は軽く両手を上げて言った。
「この学園の生徒の殆どが下級貴族で先の大戦の敗北で当主や次期当主候補を失い、家の存続の為に帝国貴族との婚姻を迫られている子ばかりです。貴族の当主の地位が得られれば裕福な平民から婿養子を迎え家の存続が図れます。命を懸けるだけの価値はありますね」
珍しくエリーが貴族の建前を擁護するが、家の存続は流石に真剣な悩みらしい。
「ですが、シルディ様、全員にあれを試射を行わせた上で、シルディ様が公都に向かわれたのを聞いた者達の戦意は天を衝く勢いです。敢えてこの様な褒美で釣る必要もないと思いますが」
フローラはやや不満そうに言う。自分たちの戦意を疑われたと感じたのかもしれない。
「フローラ、貴方やカチアの様に故郷を守り家族を守る意味のある者には必要ないかもしれない、でもそれ以外の子は基本的に戦う必要の無い子達よ。その子達には何かの手当が絶対に必要になるわ」
「侵略者、蛮族であっても大量の人の死を引き起こすとなれば、私と違って後悔に悩む子も出るかもしれません。基本的にあの子達は少女です」
私とエリーから戦いの意義の違いを指摘される。
「エリーの言う通りね。貴族の男子であれば貴族としての心構えを叩き込まれているでしょうが、あの子達にその覚悟はまだありません」
故郷を守ると言う絶対的正義を持つフローラとそうじゃない生徒の違いを理解してもらえる様に私は再度フローラに語り掛けた。
「ですが・・・・・シルディ様、それだけの為にしては仕掛けが大きすぎますよね。本当の狙いは何ですか」
戦いの意味について考え中のフローラを放置してエリーが戦略家らしい疑問を私に行う。
「前から考えていたのだけれど、今までの貴族は一族や領土を守る為に戦い大公家に忠誠を誓ってきたわ。でも今後、国力で劣るわが公国が帝国と対峙して行く為には個人では無く国家に忠誠を誓った国民軍の創設が必要だと思うの」
貴族制が当たり前と考える者たちとは根本的に異なる考えを述べる。
「それは、貴族制を廃止すると言う事ですか」
フローラは直ぐに結論が出ない考え事はひとまず置いて会議に参加する事にしたらしい。
「いいえフローラ、貴族制は廃止しません。国家に忠誠を誓わない者を国政に参加されれば、無責任な人気取りだけの政治になるでしょうから」
貴族制の破壊など貴族の頂点である私の頭の中にはない。
「フローラ、シルディ様はこの戦いに参加する女子に公国騎士の称号を与えると言ったでしょう」
さりげなくヒントをあたえる優しいエリー
「エリーはシルディ様のお考えが判っているのね。すいません、少し考えさせて下さい」
今日は色々と考える事の多いフローラは、とうとうシンキングタイムを要求した。
フローラは騎士道精神に溢れるな実直な真っ直ぐな性格だけれど、裏を読めない訳じゃない。
大体フェイントを見抜けなくて武道の達人になれる訳がないのだから。
私とエリーは紅茶を飲みながらフローラの答えを待つ。
私と同じ長い黒髪の前髪は一直線に切り揃えられ、細い眉と切れ長の瞳のバランスが素晴らしい。
そして意思の強そうな細い顎から繋がるスラリとした白くて長く細い首筋。
(女性にしてはやや広めの肩幅だけど、大きな胸が絶妙なのよね。それにしても細い腰、乗馬用のズボンはドレス以上の破壊力ね、そして長靴が似合っている。鍛えた太ももが見れないのが悔しい)
フローラの容姿を見つめて場違いな事を考えていると、エリーが半眼で呆れた目をしてるので慌てて目をそらす。
「性別を問わず国防の覚悟を国政に係わる境目にするという事でしょうか」
言葉は固いけど、真相を探りあてた様だ。
「正解、ですから今後この学園の生徒の卒業生で一定期間兵役についた者は全員公国騎士に任じ、その後は国政への参加を認めます。と言うか国政への参加は今でも公国騎士権利なんだけどね」
正しい答えを導き出したフローラにニコニコしながら私は答える。
「判りました、シルディ様。ですが今後もとなると騎士が増えすぎませんか?」
フローラが鋭い指摘を行う。
「その辺りの所は、この戦いに勝ってからゆっくり考えましょう。さて、そろそろ時間ね。いきましょうか」
さすがにフローラは鋭い。ただ、直線的過ぎる切り込みだけじゃ試合には勝てないのよ。
「「はい、シルディ様」」
教室に講義の音やペンを走らせる音もない。
教練場には剣や槍を教練する掛け声もない。
馬術教練場から何時も聞こえる馬蹄の響きも気合の入った掛け声もない。
静まり返った学園には、鳥のさえずる声が聞こえるのみであるが、強烈な人の意思が殺気が目の前の講堂から溢れている為に、寂しいと言う感覚には程遠い。
その全校生徒が講堂に向かう廊下を私を先頭にした3人が規則正しい歩幅で進む。
引き締められた口元、そして美少女には似つかわしくない、瞳の覇気はこれから起こるであろう破壊と困難を捻じ伏せ、叩き潰す力に光り輝く。
今、この光景を目撃している者は誰もいない。
だが、後年の歴史書に必ず描かれる名画であり、後世の公国人であれば誰もが脳裏に描ける歴史の輝ける一コマであった。
大理石の円柱の柱に支えられた講堂の背の高い正面の入り口前でヒルダ、ハイデ、カタリナ、カチアが騎士の立礼で迎える。
講堂の扉は閉じられているが、1000人の生徒の意思と殺気が分厚い扉などガラスの様にすり抜け、圧倒的力で包み込む。
「お姉さま、お待ち申上げておりました」
「全校生徒920名。教員70名。欠員はありません」
「生徒は、第一種生徒騎乗礼装。教員は公軍士官騎乗礼装です」
「武器庫はまだ開放しておりませんので装備はまだですが、昨日の内に馬の手入れは完了していますので、2時間で出撃可能です」
ヒルダ、ハイデ、カタリナ、カチアの順に決められていたようなセリフをはく
(この台本はヒルダが書いたのかな?そうなると少し遊んでみたくなる意地悪な私)
「ハイデ、服装について何か指示を出したの?」
「いえ、私からは集合の時間を伝達しただけで、特に指示はしておりません。シルディ様」
「シルディ様、ウノ族の侵入、シルディ様が公都に向かわれた事、帝国からの援軍が無い事、そして大公国軍が動かない事は、既に知っております」
「カタリナ、その情報は貴方が広めたの」
「いえ、シルディ様、この学院の生徒であれば、その程度の情報は手に入れていて当然であります。その上で赤白赤の緊急伝令の到着、シルディ様が全校呼集となれば、当然の判断であります」
「そうね、全員自分の判断で動ける様にこの学園に入学した時から鍛えてきているものね」
しかし、貴方達、本当に今考えて返事をしている?台本の通りじゃない?
「すでに皆の戦意は天を衝いております。後はシルディ様のお下知を待つばかりです」
カチアの言葉を合図したかの様にに、ハイデ、カタリナ、カチアの部隊長が片膝をつき、それぞれが持って来た旗を頭上に捧げる。
(見事に揃ってるけど、貴方達間違いなく練習したわよね)
「ハイデ、この私の大公旗は貴方が掲げて頂戴」
「はい、お姉さま」
「エリー。貴方には、学園旗をお願いします」
「はい、シルディ様」
「そして、私の戦旗はフローラ、貴方が掲げて」
フローラは、躊躇いを見せ答える。
「シルディ様、大変名誉な事ですが、戦旗はやはりシルディ様が掲げた方が良いのではありませんか」
「フローラ・・・・、ウノシルディス侯爵家の長女として、私の戦旗を掲げ、我が軍の先頭に立ち入城せよ。【紅旗の雄、ウノシルディス侯爵家の武勇、此処に有り】絶望したウノシルディスの民に希望を示すのです」
こういう騎士道的行いに滅法弱いフローラの差し出した手は武者震いに震えている。
ヒルダも3人の部隊長も眼に薄っすらと涙を浮かべる。
こういう騎士道的行為を偽善と切って捨てるエリーでさえ上を向いて顔を見せない。
(ひょっとしてエリー、貴方までこんな私の芝居に感動して泣いてるの?)
「絶望した民の最後の希望。男の騎士どもが死地に向かう心が少し判った気がします」
(あかん、幹部連中がこうなったらもう流れに任せるしかない。作戦変更よシルディ)
「そうよエリー、男でも女でも人は戦える場所が与えられたら戦えるの。そして、今戦えるのは私達しかいない。民の希望は、私達しかいない。皆も覚悟を決めなさい」
(え~~私の恥知らず。よくもそんなセリフ真顔で言えるわね。私ビックリよ)
「「「「はい、シルディ様」」」」
フローラは深々と頭を下げて頭上高く戦旗を押し戴く。
「ありがとうございますシルディ様」
頭を上げたままのエリーの表情は見えないが、戦旗を強く握りしめた指が真っ白だ。
(エリー、肩が震えているわよ。私もだけど震えている理由が違うよね)
「さーそれでは行きましょう。皆の熱気で講堂が壊れてしまうわ」
(あれ?狙って言ったんだけどスルー?やっぱり緊張すると私って下らない事を考えるのね)
「えっへん、ハイデ、カタリナ・・・扉を開けて」
「「はい、シルディ様」」
扉が開かれると、1000人の熱気が一気に押し寄せる。
開かれた扉に1000人の視線が突き刺さる。
1000人が振り返る音に驚いた講堂の上にいた鳩が一斉に飛び立つ。
「公国旗、でも金じゃない。銀だわ」
「シルディ様の公国旗ですよね」
「どうしてヒルダ様が持っているの」
ざわめきはまだ静まらないが、学園旗を掲げたエリーが入場する。
紅に染め上げられた戦旗を掲げたフローラが入場すると
「くっ、くっ、紅!!!!」
講堂の後ろの方にいた教師が教師らしくない大声で叫ぶ。
「紅!!!!、せっ!、せっ!、戦旗!、戦旗!!、戦旗!!!」
(仮にも教師なら、もう少し冷静でもいいんじゃないかしら。次の査定があったら反映しようかしら)
「シルディ様の戦旗、シルディ様の戦旗ですわ!」
「シルディ様が、シルディ様が立たれた!」
泣き崩れる生徒に、拝みだす生徒、天を仰いで叫び出す生徒、阿鼻叫喚
(う~~んこの光景も歴史書に描かれるのかしら、描かれるよねやっぱり、私は今から演壇まですまして前しか向かない)
「「シルディアス大公殿下!ご入来」」
ハイデ、カタリナがの名乗りを上げる。
(見事にハモッテるけど、貴方達、絶対に練習したよね!脚本はハイデか。今晩寝れると思わないで)
1000人の騎士の立礼がそろい過ぎていて、一人の巨人が行った音をなって講堂に響き渡る。
その時、突然と公国旗、学園旗、そして戦旗が無風であるはずの講堂で大きくはためきだした。
「風が、風が吹いている。戦旗に風が吹いている」
「神の、神の恩寵ですわ、神が戦旗に風を吹かせている」
「シルデイ様、万~~歳。神に栄光あれ!」
(皆の熱気に温められた熱気が扉から噴き出ただけでしょう。後世の宮廷画家の格好の題材ね。これで窓から日でも差し込んだら正真正銘、神の祝福、御光ね)
などと冷静になろうと、場違いな事を考えていたら、本当に窓から一筋の強い光が戦旗を照らす。
「お~~御光!御光よ!光が戦旗に、戦旗に降り注ぐ」
「神の祝福、祝福よ!神の奇跡、奇跡よ!」
(神様、演出が出来過ぎです。偶然です偶然、私まで拝みたくなってきたじゃない)
私は講堂のひな壇に上がり右手を上げて歓声に答える
「「「「わ~~~~~」」」」「「「「お~~~~」」」
うら若き淑女であるはずの乙女達の声とはとても思えない歓声が沸き上がる。
学園じゅうに響き渡った歓声に驚いて学園じゅうの鳥が一斉に飛び立つ。
鳴りやまない歓声に私はエリーに視線を向けうなずく。
背後に進み出たエリーの持つ学園旗をカタリナが大きく広げる。
それを合図に鳴りやんだ歓声を確認して私は演壇中央に一歩進み出た。
「皆さん、シルディア・フォン・クロスロードです」
戦旗をはためかせ吹き戻してきた風に私のマントが大きくはためいく。
(だから神様、演出が出来過ぎですって。このままじゃ本当に神の使途よ)
9千文字ほど使ったのに、まだ全然出撃できません。
ま~巨大メカの見せ場は発進シーンと変身シーンですから、出発までにはもう少しかかりそうですがご容赦下さいませ。




