戦慄
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
短編の外伝を作成しました。
こうれからも不定期で作成してまいります。
『主人公じゃないけど頑張ります』こちらからどうぞ
https://ncode.syosetu.com/n1976mm/
「シルディ様、カチアです。
エルフリーデ様、フロンティーナ様、ハイデマリー、カタリーナをお連れ申し上げました」
執務室のドアをカチアが開け、エリー、フローラ、ハイデ、カタリナ、カチアの順で入室してきたらしい。
「あの、シルディ様?」
カチアが窓の外を向いたまま振り向かない私に声を掛ける。
「正午に全校生徒の講堂への召集をヒルダに命じました。
大公国公女シルディア・フォン・クロスロードとして」
私は執務室の窓から学生寮から講堂に集まりつつある生徒達を見ながら、窓にむかってそう囁く様に呟く。
振り返らなくても4人が息を飲むのが判る。
(ここに4人を呼んで来るのにカチアは何も説明しなかった様ね)
私の発言の意味を理解した事を感じ、改めて振り返り5人を見る。
「ですので、これはクロスロード大公国の摂政や学園理事長としての命令ではありません。
大公国公女シルディア・フォン・クロスロードとしてのお願いです。
従って貴方達には拒否をする権利があります」
(この状況で、この5人が私のお願いを断る事は絶対に無い。それでも彼女達を戦争に巻き込む事を拒否する事も出来るとわざわざ言うのは、言い訳が欲しい私の弱さね)
「シルディア殿下のお心のままに。
フロレンティーナ・フォン・ウノシルデスはシルディア殿下の命に従います」
そんな私の弱さを見透かしたフローラが一切の躊躇いも無く片膝を着く騎士の最敬礼で即座に答える。
「フローラ、シルディ様がまだ何も命令していないのに焦り過ぎよ」
エリーが感激に震える友に微笑みながら言う。
「エリー、この状況で貴族的な言葉遊びは不要よ。
シルディ様が、夜明け前に赤白赤の特急伝令旗を掲げて学園まで一気に駆け抜けられた。
公都から帰られたシルディ様はヒルダ様に全校生徒の召集を命じられた。
大公国公女シルディア・フォン・クロスロードとして。
その意味は一つしかないでしょう」
フローラがまだ立ったままのエリーを見上げて早口で反論する。
「シルディア殿下、全校生徒に召集を掛けて何をご命じられるおつもりですか?
私達にも心の準備が必要です」
(つまり、エリーは戦争に皆を巻き込むなら、キチンと命令しろと言っているわけね)
私の返答を8割の期待と2割の不安で待つ5人。
「私ことシルディア・フォン・クロスロードはクロスロード大公国の第一公女として、ウノ族の討伐の兵を挙げます。そして学園の生徒の参加を熱望します」
全校生徒の前で行う予行演習と思い、姿勢を正しちょっと歌舞いた口調で言う。
「「「「シルディア殿下、お心のまに」」」
既に礼を取っているフローラ以外の4人も片膝を着き騎士の最敬礼の姿勢で即座に応える。
「私達の故郷を守りましょう」
私はウノシルディスが故郷であるフローラとカチアの肩に手置いて言う。
「はい、シルディ様。ウノシルディス領民を代表してお礼を申し上げます」
ウノシルディス侯爵家の長女であるフローラが、光輝く長い黒髪が床に着くのも構わず深く頭を下げる。
「シルディ殿下、私の全てをもってお仕え致します」
沈黙のカチアが一言一言に言葉に魂を込めて答える。
ウノ族の侵攻を真っ先に受けたブルマイスター領は恐らく壊滅しているであろう。
そして、ウノシルディスの中でも最も武勇で名高いブルマイスター伯爵が一目散に逃げるとは考え難い。
籠城するか、最後まで戦い撤退しているか、その生死に関しては家族を含めて全く不明である。
そんな不安を押し隠して私に仕えると言うカチアを私はとても愛しく思った。
◆ ◆ ◆ ◆
「さて、少し状況を説明したいし相談したい事もあります。
みんな、席について貰えるかしら。
カチア、お茶の用意を頼める?」
普段使う応接のソファーではなく、大人数の会議の時に使う丸机に移動する。
学園のカリキュラムや学園祭や新しい発明についての話をする丸机でこれから私は戦争の話をする。
蛮族とは言え人間を10万程を私達1000人だけで虐殺する相談を行う。
(私も命を掛けているわけだし、攻め込んだのはそちらなんだから、虐殺されても文句は言わせない。私達が今までの騎士と同じような戦いをするなどと勝手に決めつけないでね)
「はい、シルディ様」
カチアが立ち上がり厨房に向かうのをきっかけみんなも移動する。
正面の壁にしつらえられたクロスロード大公国の地図は、私が公都に向かう前に備え付けたもので、シルディ機関の成果の賜物である。
これ以上正確な地図は今の所この世に存在しない。
その地図にヒルダがシルディ機関の情報を基にした侵攻状況がピンで示されている。
「ピン一つはおおよそ千人。
赤は主力、緑は攻城軍、黄色は、補給部隊ね。
敵の総数は凡そ10万。
ウノ族の2割ってところね、今ウノシルディスまで5日と言う所かしら」
地図の右横に立ち、私が説明する。
「それだけの兵を動員したとすると、ウノ族のほぼ全軍になります。
ウノ族の西の守りはどうなっているのでしょうか。
やはりフン族と同盟しましたか?」
この執務室で会議を行う時には、誰もが自由に発言していい事となっている。
なので、私の説明を中断させたエリーを咎める者はいない。
「エリー、いい所に気が付いたわね」
「ウノ族とその西のフン族の間で昨年に攻守同盟が成立したらしいわ。
その為にウノ族は東進、フン族は西進を国の方針に決めたらしい」
カチアが入れてくれた紅茶を私は立ったまま飲む。
淑女にあるまじき振る舞いではあるが、軍議ではこの方が相応しい。
「とうとう先の大戦での敗戦がバレましたか。
あと5年程隠せれば良かったのですが」
エリーがカチアが配った紅茶に口を付けて渋い顔になる。
「ごめんなさい、カチア。貴方のお茶のせいじゃないのよ。
あれだけの敗戦ですものむしろ2年も良く隠せた方よ」
渋い顔をした事を律儀に謝るエリー。
「それでフローラ、この配置から読める敵の動きの予想は?」
さっきから黙って地図を見ていたフローラに話をふる。
戦略についてはエリーかヒルダ、戦術についてはフローラに意見を聞くと言うのが私の基本スタイルである。
「見事に単純な侵攻作戦ですね。
主力は、そのまま前進、攻城軍がウノシルディスに取り付いたら遊兵として街道の閉鎖と補給線の確保でしょうか」
評価としては60点がフローラの採点の様だ。
「そうね、我が騎兵に対処出来るのは主力軍だけでしょうから妥当なところね」
私の言葉に皆が頷く。
「それでフローラ、これに対する我が軍の対応は?」
「シルディ様、その前にご確認した事が2点あります」
フローラの口調が変わり、鋭い眼光で私をみる。
空気が変わったフローラに反応して他の者達も地図から私に視線を移す。
「帝国と大公本軍からの増援は無し。
多分、義勇兵も含めて無いと思う。
それと「あ《・》れ」を全面的に使います。これで良いかしら」
あっさりと厳しい現実を聞かせれたはずだけど、「やっぱり」と言う感じでこの5人に動揺はない。
「ありがとうございます。
それでしたら、補給部隊に波状攻撃を行い、援軍に向かって来た主力部隊を各個撃破するのが上策と愚考致します」
フローラもサラリと私の情報を流して現実的な策を述べる。
「エリーはフローラの策をどう思う?」
私は期待を込めてた眼差しでエリーの発言を促す
エリーは紅茶に手を延ばし少し間を取る
「常識的に考えて被害も少なく、妥当な策だと思います。
ですがシルディ様には別案がお有りですよね」
作戦の是非を問うた時点で私の考えを読んでいた様だが、正直に自分の考えを述べる。
「その通りです。私も通常ならばフローラの策を採用します。ですが今回はその策は取れません」
一気に作戦の伝えても良かったのだけど、皆の意思を統一を図りたい。
私は皆の考え時間を取る為に紅茶を飲む。
「籠城すれば、ウノシルディスの街は3日で落ちますね」
街が陥落するまでのプロセスを正確に理解出来たフローラが苦々しく言う。
「その通り。
公国や帝国からの増援が無いことは最早隠しようがありません。
増援が無い籠城なんて集団自殺と同義語です、おまけにウノシルディスの住民の2割はウノ族の人間、スパイ探しから疑心暗鬼に陥って、住民同士の殺し合い。
籠城してから、3日持たないでしょう。
これは、私たちが防衛戦に参加したとしても同じね」
五人は深く頷く。
「なので、私たちは全軍で派手に入城、援軍の到来を喧伝します。
私たちの入城は敵にも察知されるでしょうから敵は主力を分散させる事なく集結させたまま進軍して来るでしょう。
これを一気に叩き潰す。
更に後続しているであろう攻城部隊を殲滅、補給部隊を可能な限り追撃する」
五人は私の大雑把過ぎる作戦に唖然とする。
「シルディ様、それはつまり、早い話が敵軍団を正面から迎え撃ち叩き潰すと言う事では有りませんか」
私の作戦をエリー流に解釈するとそうなるらしい。
「十万の敵を私達の千騎のみで殲滅すると言う事ですね」
望むところとフローラは武者震いを隠せない。
「あれの威力と機動弓兵戦法の真価を世に問う格好の機会です」
割と乗り気に微笑むエリー。
「その通り。因みにエリー、あれの整備状況は?」
「5万本使えます。更にロングも50両、千発用意出来ています」
誇らしげに答えるエリー。
(その軍資金の為に私のサイフは空っぽよ)
「皆も、私が公都に行く前に試射をしたから、あれの威力は承知しているわね」
5人が静かに頷く。
「あれを5万本、集団戦法しか知らない敵に打ち込んだらどうなるでしょう?」
私は、悪の総帥に相応しい微笑みを浮かべ皆を見る。
「1本で10人、密集隊形なら50人、ロングなら100人は戦闘不能でしょうね」
フローラが戦場での勝利を確信して言う。
「侵略者共は、文字通り壊滅です。
しかし、シルディ様もフローラも淑女のする微笑みではありませんよ」
侵略者など人間扱いする価値無しと断言するエリーが冷静に言う。
「まっ、失礼な。僅か1000人のうら若き乙女の軍に10万の軍勢が壊滅。
こんな情報、帝国も公国もフン族も信じる無いでしょう。
信じるのは、身をもって体験したウノ族だけでしょう。
まあ、神の奇跡か悪魔の魔法の方がまだ説得力があるかもね」
私は空になったカップの取っての輪に指を通し、カップをクルクル回しながら言う。
私の言葉にニヤつく面々。
うちの幹部は、黒い、黒すぎる、貴方達も淑女の微笑みじゃないわよ。
◆ ◆ ◆ ◆
「この勝利の後に私はウノ族と攻守同盟を結ぶつもりです」
私のこの発言は5人に冷や水をぶっかけたようだ。
「侵略者と同盟を結ぶのですか」
やっぱりフローラが不満を漏らす。
「いえ、良い考えだと思います」
エリーは私と同じ結論に至たようだ。
「攻守同盟を結ぶ代償にウノ族本拠地への駐屯、領土の割譲、賠償金を獲得するのですね」
これまで黙って私たち幹部のやり取りを聞いていたハイデが初めて発言する。
「ハイデ、それは違う。それでは帝国と同じになってしまう」
帝国の方針に従い、先の大戦の敗北により大陸随一を誇った精強な騎馬軍団を失しなった。
その結果、異民族の侵略を招き反撃もままならないこの体たらく。
この窮地に援軍を寄こさない帝国の統治は、私達にとって最早禁句である。
発言をしたハイデが下を向いてしまった。
「ハイデ、別に貴方を責めませんよ。今まで帝国の方法が最良と信じていたのだもの仕方ないわ」
私は5人が冷静になるのを待つ為に席に座り一息入れる。
「神の奇跡あるいは悪魔の魔法、これを示し代償を求めず攻守同盟を結ぶ。
誠意の証に個人が特定出来る遺品であれば返してあげてもかまわない。
ウノ族と攻守同盟がなれば、その東のフン族とも同盟も夢では無くなる。
そうすれば公国の東は安泰となり、帝国と対峙する事も不可能ではなくなります」
私は初めて今後の戦略目標の一部をみんなに披露した。
「シルディ様は、帝国と対峙するのですか」
真っ直ぐな疑問を発するフローラ。
「今回の、シルディ様らしからぬ力押しな策と力の誇示は、その布石なのですね。流石はシルディ様」
戦略家らしい理解をしめすエリー
「ちょっと、エリーは帝国と戦をするつもりなの?一応同じゲール民族なのだけど」
フローラがエリーに向かって真っすぐな疑問をぶつけるが、エリー以外の者も同じ様な考えらしい。
「フローラ、勿論そんなつもりは毛頭ないわ。
ただ間違った命令を拒む事の力を持つ事は必要よ。
シルディ様のお父様やお兄上さま、貴方のお父様もどうして騎士らしく死ねなかったのかしら」
エリーの言葉に怒りを感じ顔が赤いカチア。
フローラの顔色は怒りの赤を通り越して血の気が引いて青白い。
「確かにエリー、貴方の言う通りね。
でも父達の無念を軽く言わないで」
フローラの発言にカチアの表情は冷静さを取り戻す。
「ごめんなさいフローラ、でも突き放して軽く言わないと私自身が怒りに冷静さを保てないの。
貴方達の無念を軽くみたわけじゃないの。カチアにもごめんなさい」
普通侯爵令嬢であるエリーが伯爵令嬢であるカチアに謝罪する必要は無い。
だが敢えてそれをしてしまう所が日頃から貴族の建前や仕来りを心底毛嫌いしているエリーの本性なのであろう。
「・・・それで、シルディ様のお考えも同じでしょうか」
フローラの問い掛けに私は頷く。
「ま~今日のディナーより今日の朝食よ、次の戦いに勝たない事には、私たちは女だてらに戦を行った愚か者と言われる事になるのだから」
少し未来過ぎる話をし過ぎたようなで、私は敢えて軽い口調で言う。
「判りました、故郷を守るこの戦に専念する事に致します」
私が問題を先送りにして有耶無耶された事にフローラは不満そうだが、取り合えず目の前の戦争に勝つ事が優先してくれたらしい。
「戦場での指揮はフローラが要よ。それに、戦場での咄嗟の判断は努力で得られない貴重な才能よ」
消極的なフローラなんて、フローラじゃない。
「私如きに勿体ないお言葉です。今後とも精進いたします」
何処までもまじめなフローラは騎士の礼に乗って答えるが、もう眼に迷いは無かった。
「さてハイデ、カタリナ、カチア貴方達に講堂まで持って行ってもらいたい物があるの」
私のお願いに3人が疑問の眼を向ける。
「まずハイデ、貴方にはこの公国旗をお願い」
何を預けられるのか分かったハイデは、驚きに眼を見開く。
「カタリナには学園旗をお願いします」
ハイデの動きをみていたカタリナに驚きはない。
落ち着いて学園旗を両手で受け取る。
「そしてカチア」
「はいシルディ様」
「貴方にはこの旗をお願い。効果的な演出に使うから広げないでね」
まだ梱包もほどいていない旗を手渡す。
よく考えたら、この旗を運ぶから赤白赤の緊急伝令が使えた事に気付く。
「シルディ様、宜しければ何の旗かお教え頂く事はできますか?」
カチアは他の4人の思いを代弁して質問する。
私は背筋を伸ばし凛とした声で宣言する。
「それは、私の戦を私と共に戦う戦友が仰ぎ見る戦旗です」
総身が震える戦慄が5人の体を駆け巡った。
シルディとフローラ、エリーは学園を卒業していますが、普段学園では学園の制服を着ています。
役職的にはシルディは理事長、フローラとエリーは相談役です。
もっともエリーはシルディ機関の仕事が多いので、フローラが実質校長として学園を取り仕切っています。
この学園に正式名称はありません。通称としてクロスロード学園とかシルディ学園と呼ばれています。
出資者はシルディ機関ですが、実質的にはシルディ個人になります。
学園といっても学校設備だけでなく、シルディ機関の中心として金属加工、羊毛産業、製紙産業、食品産業、化学産業等の産業、研究施設、金融機関等があつまったシルディと影のフィクサーが10年の歳月を掛けて作った人口20万を超える当時としては巨大な都市です。
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