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頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか  作者: 梶 ゆう


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初陣5

魔法とか転生とか全くない物語です。

メインテーマは、格好のいい騎士物語。

自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。

火曜日と金曜日に更新致します。


今回と次回は残酷な描写があります。

苦手な方は、ご注意下さい。



私は、(やぐら)に設置された椅子から立ち上がる。

フローラ、エリスも立ち上がる。


部下の騎兵は2万の大軍を300メートルの距離に見ながら騎手も馬も静かなものだ。


敵の表情までは判らないが人の顔はしっかり見える。

騎兵突撃を一番に受けるファランクスの最前列は精兵らしく、襲い来る騎兵の圧倒的破壊力を覚悟しながらも怯まず前進を続ける。


(敵ながら天晴な覚悟と胆力ね。でも私達の力の前にはそんな騎士道は無意味なのよ)


右手を振り上げる。

カチア、クリス、カタリナがこちらを注視する。


「攻撃開始」

右手を振り下げ敵を差す。


「攻撃開始。赤旗3旗流」

フローラの鋭い命令が飛ぶ。

信号手が緑旗を引き下げ、赤旗を素早く3旗上げる。


カチア、クリス、カタリナの3人は頷くと敵に騎首を向ける。

「「「打ち方用意!!」」」


400騎の騎馬隊が一斉に頭を下げ、4つの脚を踏ん張る。

馬具の擦れる音、馬の吐く息の音が戦場にこだまする。


「「「撃てーーーー!」」」

3人の部隊長の射撃命令が同時に発せられた。


発射機が発するムチが空気を引き裂くのに似た音が響く。

400本のアーレイが初めて敵に向かって放たれ、矢が空気を貫く音が戦場を支配する。


高く放物線を描いてファランクスに向う400のアーレイは敵からも良く見える。


初めて聞く敵の声、そして最後の敵の声が命令となって聞こえる。

ファランクスの兵がその命令に合わせて、一斉に盾を頭上に掲げる。


一糸乱れぬ動き、恐れも、躊躇いも無い訓練された兵士の動き。


その訓練された動きは、さすが主力部隊。

(指導者さえ誤った選択をしなければ良き兵士で居られたであろうものを・・・)


私の思索は、

爆音と閃光と爆音が、

木っ端微塵に吹き飛ばした。


フローラの視界には、直撃を受け赤い血煙を上げて手足が四散する敵兵が映る。

「訓練の時よりは、大きい音ですが、棹立ちする馬は居ませんね。ま~~ベルンハルトの部隊は除くですが」

その光景を無視する様にフローラが務めて淡々と言う。


エリーの視界には飛んできた盾の破片に首を吹き飛ばされ、立ったまま血飛沫(ちしぶき)を撒き散らす兵が映る

「ま~暴走する馬や落馬する者がいないのは、評価ですかね」

エリーも目に映る光景は一切無視して、淡々と平常であろうと努力する。


二人と同じ様な光景が当然私の目にも映るが、私は特に感情が乱される事は無かった。

直撃を受けて赤い煙を上げて爆散する兵を見ても、破片に胴体を切断されで(はらわた)をぶちまける兵を見ても

(何か作り物の様に感じる、頭が理解を拒否しているのかしら)


だが爆音に怯える乗馬を抑え、アーレイ発射機の巻上げグラインダーを懸命に操作する彼女らにはそんな光景を見ている余裕は無い。


それは私の狙い通りでもある。


最初の斉射でファランクスの前進は止まり、第二斉射の時には盾を上げる動きから統一性は消えた。


そして第二射の後は戦場には妙な静寂が広がってる。


兵の歓声や雄たけびも、重傷者や死にきれなかった者の呻き声や助けを求める声もしない。


カチアもカタリナも3射目の指示が遅れている。


敵の状況を見て、私の指示を待っているのかもしれない。

早く壊走をしてくれと思ったのかもしれないが・・・・。


敵は最早、立っているだけ。

意識が飛んでしまった様に逃げる事もせず、突っ立ている。


何の前触れも無く、目の前の人間が突然バラバラになって血の雨に変われば無理もない。

必死の訓練の長年の努力も無意味。

逞しかった父も、優しい兄も、甘えん坊の弟も関係無い。

名誉も誇りも人の尊厳も、勇気ある者も臆病は者も関係ない。

一瞬の閃光の後には皆平等に赤い肉塊の山となる。



『私が作り出した圧倒的な力の蹂躙』



ファランクスの前半分の兵は肢体がバラバラとなり、かつて人だった何かに変わってしまったが、中軍以降はまだ人として、敵として存在している。


これを放置する事は出来ない。


「伝令!」

普段なら即座に反応する伝令が来ない。

私が作り出した地獄に飲まれたらしい。


「伝令!シルディ様がお呼びだ!ぼんやりするな!」

聞いた事の無いフローラの鋭い叱咤。

伝令は反応するが目に(ちから)は戻っていない。


「ファランクスの前進が止まった。目標を中団以降に変更せよ」

私は、伝令一人一人の顔を見つめて、何時もよりもゆっくりと命令を伝える。


「・・・命令受領致しました」

返令に張りがない。

口では答えるがまだ目に(ちから)は戻っていない。


「了解したら、早く行け!モタモタするな!」

再び普段なら使わない、フローラの叱咤の声。


ようやく、伝令の目に(ちから)が戻った。

「「「はっ!」」」



「フローラ、良く彼女らを導いてくれた。ありがとう」

「いえ、当然の責務ですから」


「これで彼女達は初陣を乗り越えたわね」

「はい、シルディ様」


私の命令が届いたらしく、再び攻撃が敵ファランクスを襲い、人を赤い血と肉に変えて行く。


「敵は殲滅する。事の是非を今は考えない。

歩み出した道だ、今更引き返せぬ。

だがなフローラ、エリー、私が判断を間違えた時は、宜しく頼む。

あれは、ただ単に私の敵だからと言って使って良いものではない。

私は悪女は兎も角、修羅には成りたくない」


「「承知致しております。シルディ様」」

攻撃が始まってから初めて、フローラとエリーが微笑みを見せた。


「ふん、ありがとう」

私も微笑む事ができた。

私も初陣を乗り越えたらしい。


カチア、カタリナの部隊の攻撃は休む事なく30秒置きに行われる。


そして、30秒おきに閃光と爆音が響き渡り、1000人単位で敵軍が消滅してゆく。



本陣からは600メートル以上離れているが、僅かに血とそれ以外の体内にある物の臭いがしてきた。

「破れかぶれの突撃をしてくる者はいないようね」

私は戦場全体を見渡して言う。


「ファランクス戦法しか知らないのしょう。あの戦術は列を乱す突撃を極端に嫌いますから」

フローラも私と同じ判断を下した。


「それよりもシルディ様、ベルンハルト殿の部隊は放置しておいて良いのですか?」

エリーが悪戯ぽい顔で言う。


「馬が大騒ぎしてるわね~~~。放置して良し。

ま~何か妙な掛け声で落ち着いて来たみたいだし。

うちの子達の笑いの種になってもらいましょう」


「お人が悪いです。シルディ様」

私達二人がニヤリと笑い、フローラが呆れたと言う様に両手を上向ける。


7射目からは連射速度も落ち着き中段以降に攻撃がまんべんなく降り注ぐ。


特にカタリナ隊の攻撃を受けている右翼は既に1000本以上の攻撃を受け既に壊滅しているようだ。


普通ならば壊走が始まっているはずであるが、動き出す様子が無い。


「伝令!カタリナ隊に攻撃中止。その場で待機せよ」

「命令受領致しました」

今度は素早く伝令が走り出す。


その間もカチア隊の攻撃は継続している。


「右翼の煙が晴れて来ましたね」

独り言の様にフローラが呟く。

私とエリーも無言で頷く。


幅300メートル、奥行き300メートルに渡って赤い絨毯が広がり所々に赤い山が点在する。

赤い山は10分前まで人だった物の成れの果てだ。


「完全壊滅ですね。うめき声すら聞こえません」


「これでは壊走する者が居なかったのも納得です」


「伝令!ヒルダ隊、後方のファランクスに攻撃を行う。

5両ずつ射角を調整。

全体を攻撃する事。

連射3連。

攻撃は私の合図を待て」

「命令受領致しました」


「シルディ様、敵の左翼と中央が壊走しました」

フローラが指さす。


「合わせて1000と言う所かな?」

フローラが指さした方を見つめるが私には煙で良く見えない。


「攻撃の続行は必要有りそう?」


「いえ、十分です。敗走兵は500も居ません。中央後方の本体に攻撃を移して良いと考えます」

やはり私よりフローラの方が目が良いらしい。


「判ったわ。伝令!カチア隊攻撃中止。その場で待機」

伝令が走りだす。

やっと出番が来た感じのアーレイの登場です

鉄製、触発・激発信管付き、黒色火薬600グラムの擲弾

最大射程は600メートル

熟練兵ならば毎分2発の発射が可能

重量10キロの重い発射装置は特別な鞍に直接マウントされます。

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