攻撃開始まであと5分
この物語のメインテーマは、『格好のいい男前なお嬢様』の物語。
皆が応援したく成る『お姉様』を書きたいと思います。
火曜日と金曜日に更新を行います。
短編の外伝を作成しました。
こうれからも不定期で作成してまいります。
『主人公じゃないけど頑張ります』こちらからどうぞ
https://ncode.syosetu.com/n1976mm/
「ベルンハルト殿も気が付いていると思うが、我が軍の戦法はこれまでの戦法とは大きく異なる」
私はこれから志願者を集めるベルンハルトに説明を行う。
「弓騎兵を中心とした戦法ですね。
私達は槍騎兵ですから撃ち漏らした残敵の掃討が主任務で宜しいでしょうか」
的確なベルンハルトの答えに私は頷く。
(やはりこの御仁は並みの騎士ではない。私達と同等の発想の柔軟性を持っている)
「その通り。
騎士道とは相容れない殲滅戦が私達の戦い。
捕虜は獲らない、身代金なんかに用はない、敵は殲滅する。
それを了承出来る者だけを連れて来る事」
「かしこまりました」
「あ~それと、騎士らしからぬ振る舞いをした者は私が成敗する。
公平な裁判なんてまどろっこしい事はしない、軍法は私よ」
そこの二人、ヒルダとエリー笑わない。
「勿論であります。
人選は私に任せて頂いても良いのですか」
「任せる。
編成が終わったら第一防衛線で合流してもらいたい」
「かしこまりました」
「それと、今後我が軍で行動中は不敬罪は適用しない。
貴官の立場は部隊長と同格、つまりカチアと同じ。
思う事があれば、遠慮なく申し出て欲しい」
(部隊長と同格)と言う扱いに関心した様に頷くベルンハルト。
「わかりました」
「それと貴官の軍で平民、あるいは貴族の当主でない者は、この戦いの後、騎士に叙す。
難民に従った者も既に戦死した者もな。
ただし、叙勲したからと言っても年金は出るが領地は無い。
何か質問は?」
「それは、有難いことです。
戦死した者もその家族も浮かばれます」
「叙勲は、わが軍に志願しなかった者にも行う。
だから、叙勲目当てに志願する必要は無い」
(さすがお姉様、叙勲目当ての有象無象は要らないと言う事ですのね)
ヒルダ、独り言が漏れてるわよ。
と言うかワザとね。
「命の使い方は自分で考えろと。良く判りました」
(怖いお人達だ)
ベルンハルトも独り言返しを行う。
「武器の支給は行うが、防具については我が軍には在庫が無い。
食糧、糧食については同様に支給する。
ヒルダ、エリー手配宜しく」
「了解致しました。シルディ様」
「はい、お姉様」
「では、なるべく早く合流してもらいたい」
私達は騎乗しながら言う。
「はい、シルディア様。シルディア様の信頼に全力でお応えいたします」
「ふっ、ベルンハルト、期待している。
それと、妙な独り言合戦は止めなさい。
私の正義の義勇軍が悪の軍団の様に見えます」
「「「かしこまりました。シルディ様」」」
薄ら笑いで答える3人。
(ま~上手くやっていけそうかな。と言うか、貴方達、全然反省してないでしょう)
◆ ◆ ◆ ◆
「伝令!伝令!」
「役目ご苦労。報告せよ」
「フローラ様からの報告。
敵軍発見。
第一防衛線、ウノシルディスより2キロ。
我が軍より8キロ。
数1万5千。
4隊に別れファランクスを組み進軍中。
推定遭遇時間、およそ2時間」
「報告了解した。フローラに命令。
カチア、カタリナ、ヒルダ、ハイデ隊の順で2列横隊陣形で待機せよ。
以上」
「拝命致しました。失礼します」
伝令は、馬を棹立ちさせて一点方向転換の妙技を見せつけ走り去る。
さりげなく技量を見せつけられたベルンハルトは驚きを隠せない。
「ベルンハルト、そういう事なので我らは行きます」
「かしこまりました。
急ぎ部隊を編制して合流致します」
まだ驚きから立ち直れないベルンハルトはカチコチの形式通りの敬礼で私達を見送った。
◆ ◆ ◆ ◆
20分程馬を走らせると私達は本体に合流出来た。
「フローラ。ご苦労様、カチア隊の指揮を戻して良し」
「かしこまりました。カチア、貴方の部隊の指揮権を返します」
「指揮権を受領しました。それではシルディ様、部隊で指揮を取ります」
艶やかな敬礼してカチアは部隊に戻る。
フローラは陣の中央にある5メートル程の櫓に私を案内する。
「陣の中心を少し前進させました。ここなら我が軍が展開する十分なスペースがあります」
遠くにウノシルディスの城が見えるが、その間は何も無い平坦な牧草地帯が広がる。
(ほとんど演習場ね、これは)
「フローラ、こんな櫓をわざわざ持ってきたの?」
私はギーギーと音のする階段を上りながら尋ねる。
「いえ、丁度いい竹林があったので、先ほど組立ました」
フローラは手すりの強度を確認しながら言う。
「敵の動きが良く見える。これは便利ね。正式装備にするべきね」
私は櫓の上に置かれた椅子に腰かけながら感心する。
「はい、シルディ様。検討してみます」
エリーとフローラも腰掛けながら言う。
「伝令と書記を配置しました。
又、信号旗掲揚の柱も立てましたので部隊からも良く見えます」
伝令の言葉に反応した伝令が顔を覗かすがフローラが「何でも無い」と下がらせる。
「お茶が欲しところね」
お茶は冗談と思われスルーされてしまった(結構本気だったんだけど)
「・・・それでフローラ、敵の動きは?」
気を取り直してフローラに尋ねる。
(この程度の事で動じる様では、私の幹部達は御する事は出来ない)
「4隊に分かれたファランクスの陣形で前方に3部隊、後方に本軍の配置です」
フローラが机に書かれた地図を差し説明する。
この机は黒板か。
地図はチョークで書かれている。
上手いものだ。
「教科書通りですね。100人50列5000人と言う所ですか」
エリーが敵の人数を書き込む。
「戦場は第一防衛線を最大に使っているので横幅2キロと言う所でしょうか」
フローラが地図上のウノシルディスの城壁と第一防衛線の草原の間を示す。
「右の部隊の進撃速度が早いので、斜線陣ぽいですが、意図したものでは無い気がします」
エリーが右の部隊の記号を少し前に書き直す。
「そうね、第二防衛線から側面か背後を突かせる積りならば、逆だものね」
私は先ほど自分達が通って来た第二防衛線からこの戦場へと至る道を点線で書き足す。
「やはり、別動隊がいますか」
その点線の始端をさしてフローラが言う。
「居るでしょうね。
と言うか別動隊の迂回戦術位しか作戦は無いでしょう。
蛮族に複雑な連携作戦は無理よ」
(私の意見は別に敵を舐めたものではない。舐めるのはいけないが、過度に恐れる必要も無い)
「第二防衛線の偵察からの報告は無いので、迂回軍が居たとしても合流まで4時間以上は掛かります。
迂回軍が来る前に本隊を潰してしまえば問題有りません。
時間差で各個撃破できます」
別働隊の存在推定位置に未確認とフローラが記入する。
「わが軍の配置だが、カチア隊を百騎づつに2分して、左と中央の部隊に当てる。右の部隊にはカタリナ隊を当てる」
私は各部隊の進撃位置を書き加える。
「側面はどうしますか?」
「ハイデ隊を当てる。
後方は監視のみとし、無視して良い」
フローラがハイデ隊の配置を書き加える。
「ヒルダ隊はどうしますか」
「中央に配置、戦況に応じて援軍として運用する」
補給部隊を含み攻撃部隊としては射程が2000メートルを越えるロングを前線に配置する必要はない。
「かしこまりました。
カチア隊、カタリナ隊にはどの程度の攻撃を命じますか」
「30秒毎に斉射10連。ファランクス全体に休む事なく連射せよ。
その間、戦果を確認する必要は無し。
ひたすらに撃つ事のみに専念せよ」
「指揮官以外は敵を見るなと言う事ですか」
「そうだ、敵は私達と指揮官が見ていれば良い」
「かしこまりました。以上を命令書で伝達致します」
フローラが書記官に命じて命令書に清書して伝令に渡す。
◆ ◆ ◆ ◆
「カチア隊、カタリナ隊が動き出しました」
「フローラ、敵はこちらの動きをどう見るかしら」
「騎兵突撃の準備と見るでしょう。
数は少ないと思うかも知れませんが、それ以上の洞察は想定出来ないでしょう」
「伝令!ベルンハルト殿、合流しました。数150騎」
伝令からの報告にヒルダ隊に合流しつつあるベルン隊を私とフローラが振り返る。
「・・思ったより多かったわね。ヒルダ隊に、武器と糧食の補給をさせて」
私はもう一度チラッとベルンハルト隊の槍先が頭上に輝く整った騎馬隊を見る。
「これぞ槍騎兵という見本ね」
私は、やっぱりチョッと羨しかった。
◆ ◆ ◆ ◆
「しかし、ファランクスと言うのはこんなにも遅いものか」
本当にお茶が欲しくなった。
「あと2000メートル、攻撃開始まで20分という所です」
フローラの声には緊張は無い。
(だけど、普段の洒落っ気が無いのは私達なら判る)
「お陰で敵を前にして作戦会議が出来きました」
エリーの言葉には皮肉がある。
(エリーの声に感情が混じるのは、余裕の無い証)
「確かに、戦闘は指揮官が陣頭指揮する物と思っている凡俗共には、私達は臆病者に見えるでしょうね」
私はフローラとエリーを見てニヤリと笑う。
(無理に笑って見せたけど、私にも今はこれが精いっぱい。さっきから本当に喉が渇く)
「どうせなら、本当にお茶を用意させましょうか」
エリーが悪戯っぽく笑う。
(これだ!うちの幹部は私に優しく無い。まあ、貴方達が私で遊んで平常心に成れるなら良いか)
「敵が敗走する姿を見ながらお茶を飲む淑女。絵になりますね」
フローラも乗ってくる。
(貴方は本当に絵師を呼びそうだからやめて。『2万の敵を目の前にして優雅にお茶を飲むシルディア殿下と幹部達』その絵って完全に邪悪な組織じゃない。そして私が悪の総帥。やっぱりお茶はやめましょう)
◆ ◆ ◆ ◆
「伝令!ベルンハルト殿、戦闘準備完了です」
「伝令! 命令! ベルンハルト隊はカチア隊の隙間を埋めよ」
「シルディ様、敵の右翼が1000を切りました。中央と左翼は1200」
フローラが櫓の手すりから身を乗り出す様に確認する。
「伝令! 各隊に徹底せよ。攻撃開始は、私の合図を待て。
信号旗に注視せよ」
私は信号旗が緑旗な事を確認する。
信号旗の横には大公国旗と戦旗がはためき目立つ事この上ない。
(この旗はウノシルディスからも多分、見えるよね)
さすがに10キロ近く離れたウノシルディスの城壁の上の様子はここからは見えない。
(シルディ機関で開発中の望遠鏡が間に合っていれば。ガラスの加工技術はまだ帝国の方が上ね)
「やはり右翼は暴走していた様ですね。
中央が前進して差を詰めました。
何処まで引き付けますか」
フローラが私を見ながら、ゆっくりと報告する。
(そう、戦争では幹部は余裕を持たないといけない。言葉は短く正確に、虚飾は不要。貴族の社交会じゃないからね)
「右翼が300に達した所で全軍に対して攻撃開始。信号旗、赤旗3連掲揚用意」
「かしこまりました」
フローラが伝令に的確な指示を出す。
いよいよ戦いが始まります。
初陣の相手は正規軍2万、こちらは援軍が加わっても千人弱、これを正面から迎え撃ちます。
攻撃開始まであと5分、シルディ、フローラ、エリーは呑気そうに喋っていますが、そう見える様に意地を張っているだけです。
その証拠にシルディはしきりに喉が渇いて仕方ありません。
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