初陣3
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい騎士物語。
自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「フローラ、一時的にカチア隊を任せる。全軍は第一防衛線まで進軍。そこで横隊陣形を構成、臨戦態勢のまま30分の休息を取らせよ。飲食も許可する。又その間に必要があれば、水の補給を行う事」
(クリスの事だから、避難民に糧食はともかく水の供出は絶対に行っているはず)
「かしこまりました。シルディ様」
(フローラも軍規よりも民を優先したクリスの行為を良しと判断したようね)
「よし、それでは本陣も第二防衛線に進軍する」
(私があまりに情に流されそうになったらフローラ達には止めて欲しいのだけど)
第二防衛線に設けられた会見場には、アーダルベルトと母君アデリア、カチアとベルンハルトが待ち受けていた。
その背後では、混乱もなくベルンハルトの騎士が避難民に食糧の配布を行っている。
その配給の列には騎士も避難民に交じって列に並んでいるのが見える。
・・・・うん?
私は早速心を鬼にして言わなければならない事を見つけてしまった。
「ブルマイスターの騎士達よ。貴方達が避難民に優先して配布を行うのは、素晴らしい騎士道精神である。しかし、今は戦時、敵の追撃は何時あっても不思議ではない。食糧と水の配布は、騎士を最優先、休息も取る様に。この先の補給所には十分な食料が用意されている。避難民には最低限の配給のみを行い、先を急がせよ」
避難民と騎士団の非難の視線が一斉に私に突き刺さる。
その殺気にヒルダとエリーが私をかばい前に出てサーベルに手をかける。
後ろに控える直営兵にも緊張が走る。
私は、ヒルダとエリーを抑えて前に出る。
「私は、クロスロード大公国、公女シルディア・フォン・クロスロード。ウノシルディス奪還軍の最高司令官である。我々は皆の故郷を必ず奪い返す。今は私を信じ耐えてほい」
私はざわつく騎士団と避難民と見回す。
(要らぬ事を言ったかしら、そのまま見過ごせば良かったのかしら)
「シルディア殿下、避難民への配給は私共が行います。騎士団の皆様は、お休み下さい」
一人の機能的なドレスを着た若い女性が6人程私の前に進み出て代表者が申し出る。
「貴方は?」
「ブルマイスター伯爵家の侍女にございます。私共が行わなくてはならない事を騎士団の皆様にお任せして頂いていたのは、我らの失態。アーダルベルト様にはお咎めなきようお願い致します」
「この混乱状態である。一時的に騎士団に託したのは仕方のなき事。アーダルベルト殿の責を問おうとは思わぬ。治安は維持されている。以後の配給は貴方達に任せて良いか?」
「「「かしこまりました。シルディア殿下」」」
侍女達は騎士団と入れ替わり配給を行い出したのを確認して私達は歩き出した。
「お姉様、申し訳ご座いませんでした。私が気が付かねばならない事でした」
「シルディ様、ヒルダ様。申し訳ご座いませんでした。私が一番に気が付かねばならない事でした。しかし、シルディ様、どうか領民に直接指示を出すことはお控えください。肝が冷えました」
エリーの言葉にヒルダも頷く。
「判った、気を付けよう。護衛の皆にもすまなかった」
護衛の者にもほっとした空気が流れる。
「それにしてもシルディ様。さすがブルマイスター家の騎士ですね。ベルンハルト殿の統率力が素晴らしいのでしょうか」
エリーが場の空気を換える為にか、珍しく男の騎士団を褒める。
「その両方でしょうね。流石カチアのお父上の騎士だわ。欲しくなった?」
「本音を言えば。ただ、正統な騎士故に私達の戦い方が認められないかもしれません」
「そうね、私達は罪人を使った実験でアーレイの効果を知っているから、大丈夫だろうけど、いきなりあの惨状を見せられたら、騎士の心が拒絶するかもね」
私達は過去の実験の惨状を思い出し、黙り込んでしまう。
私はヒルダとエリーを伴い椅子だけが並べられただけの会見場に入る。
「シルディア・フォン・クロスロードである。ここは戦場である。直答を許す。名を名乗られよ」
「ブルマイスター家の3男、アーダルベルトで御座います」
「ブルマイスターの妻、アデリアで御座います」
アーダルベルトは騎士の礼で、アデリアはカテーシで礼を行う。
ここが草原であろうが荒野であろうが、私がここで会見する以上、貴族には関係ない。
「ブルマイスター領の状況は先程ベルンハルト殿より聞いた。困難な状況をよく切り抜けられた。特にアーダルベルト殿の指揮については感服致した、この戦いが終わった後に然るべき恩賞を授けよう」
「はっ、ありがたき幸せ」
アーダルベルトが12歳とは思えない大人びた空気を纏い答える。
「又、ベルンハルト殿は主命を果たしたばかりで無く、寡兵でもって敵に挑み見事に進撃を遅らせた。これは称すべき行為であったと認める。この2つの功によりベルンハルト男爵家を子爵に陞爵しようと思うが、アーダルベルト殿はどう思われるか?」
「良きお考えかと、ブルマイスター家としてもベルンハルトの子爵への陞爵を推すめ申し上げます」
(やはり12歳とは思えない。実戦、彼にとっては初陣は彼を大きく成長させた様ね)
「判った、ベルンハルト・フォン・クリスタラー、今回の武勲、見事なり。よって汝を子爵に任じる、大義であった」
「ありがたき幸せ、今後もクロスロード大公国の為、忠勤に励みます」
ベルンハルトは騎士の礼をもって口上を述べる。
「さて、これはこれからは会談である。先ずは腰掛けられよ」
私は先に腰掛けると他の6人にも着席を促す。
「それでだ、ベルンハルト殿、汝の護衛してきたアデリア夫人とアーダルベルト殿と難民であるが、我が軍からクロスロード学園までの護衛を出す事は出来ない」
私は先ずは期待を抱かせないように釘を刺す。
「承知致しております」
アーダルベルトは微動だせずに答える。
「学園までの道中の安全は確保されてはいるが、ベルンハルト殿には引続き学園まで難民の護衛をしてもらいたい。尚、道中の補給所の使用許可証を用意させたので使われよ」
(これで何も彼が言い出さなければ、カチアの弟としては不足だけど、伯爵家としては合格かな)
「シルディア殿下、お待ち下さい」
アーダルベルトが私の前で膝を着く。
「何かな、アーダルベルト殿」
私は期待を載せて言う。
カチアが不安な視線を私と弟のアーダルベルトに投げかける。
(弟を心配するのは分かるけど、私の心配するのはどういう事なのかな?カチア)
「差し支えが無ければ、カチア姉上が女性でありながら軍装をまといシルディア殿下の軍勢を指揮しておられる理由をお聞かせ頂きたい」
(「女性でありながら」の部分にヒルダとエリーが眉をひそめる。貴方達、12歳の男の子に殺気をぶつけるのは淑女としてどうなのかしら?)
「この度の侵攻に対して、公国騎士団と帝国は援軍を出さず、ウノシルディス地方の放棄を決めた。100万の民も含めてな。私は、義勇軍を組織の許可をシュナイザー殿下より頂きクロスロード学園の生徒に呼びかけ、この軍を起こした」
私はブルマイスター家の当主に対する扱いで答える。
「判りました、シルディ様。参加出来るのは学園の生徒だけですか?私もこの義勇軍に参加させて頂きたい。ブルマイスター家の当主として」
とっさにカチアは何か言い出しそうになる。
ヒルダとエリーは次に私が言うセリフが分かっているのか、お芝居採点モードになっている。
「流石、ブルマイスター伯爵殿の御子息、頼もしい」
私、何か12歳の男と子を揶揄って遊ぶ嫌な女になってませんか?
ヒルダとエリーは「う~ん」とか「ダメ」とか目で言ってくる。
「それでは、」
12歳の純真な目はキラキラ輝く。
「参加を認める事は出来るが、2000人の領民はどうする?先ほど貴殿はブルマイスター家の当主としてと言った。領主の責任をどう考える?」
私は12歳の子供でには酷な問題を敢えてぶつける。
(完全に嫌な女じゃない。さっきの避難民の時から数えて嫌な女3連じゃない)
「・・・・・判りました、領民は私がクロスロード学園まで送り届けます。その代わりベルンハルトと志願する騎士を参加させて下さい。行ってくれるか、ベルンハルト」
ヒルダとエリーの方を向くと軽く頷く。
ただ表情は「満点」とか「お手本」とか、私への扱いに比べて酷くない、二人とも。
「勿論であります、アーダルベルト様。騎士も100名程は志願するかと」
間髪入れずベルンハルトが答える。
「判った、ベルンハルトと志願した騎士団員は私の直属軍に組み入れる。ベルンハルト殿は部隊長として志願した騎士を任せる」
「はい、シルディア様」
「さて、我が軍は既に第二防衛線を通過したようだな。アーダルベルト殿には領民の退避をお願いする。学園での再会が楽しみだ」
最後に私は心から再会を楽しみにしている声で言った。
「ありがとうございます、シルディア殿下」
アーダルベルトも最後だけは12歳の子供らしい表情で別れを告げる。
「カチア、お母様と弟君を第二防衛線を超えるまで見送った後、本体に合流する様に」
アーダルベルトとアデリアは、これが「今生の別れ」の機会を設ける気使いなのだと気づき、深々と頭を下げる。
「はい、シルディ様」
弓騎兵だけではなく、槍騎兵も加わりました(絶対数は少ないけど)
ベルンハルトのイメージは筋肉質で、一見粗野な感じですが、義理人情にあつく部下思いな頼れる上官です。もちろん大酒のみで、それも兵士達でも使う様な大衆酒場のちょっといい店でビールとステーキを食べている感じで。店の女給にちょっかいは掛けますがあくまでお遊びで、詫びのチップも弾みます。




