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マリア様 新型の石けんと化粧水、魔法シャワーを作る。2

「マリア様、あれはなんなんですか?」


 私が廊下を歩いていると陛下とばったり会った。陛下は興奮を隠せない様子で私にまくし立ててきた。


「あれとは……」


「石けんですよ! 体や髪が泡ぶくになり、お湯で流すとなんとも言えないほどさっぱりとする石けんのことです」


「石けん使われてみた感想はどうですか?」


「そ、それは最高なものとしか言えなかったです」


「お気に召されて、作った私も嬉しいですわ」


「もう、これは我が国に仕える兵士全てに配布すべきだと思うのです。これほど体がさっぱりすれば余計な考えもふっとび、きっと剣の腕も上がるはずです」


 そんなものかなと私は考えるが、私は力説する陛下を見てくすりと笑う。


「ど、どうなされましたか?」


「いえ、日頃は冷静な陛下でもそのように慌てられることがあるのかと思いまして」


「こんな画期的な物を使った後に冷静でいられますでしょうか?」


「香油の種類を変えれば色々な香りにすることもできますわ」


 私からそう聞いた陛下はうっとりとした顔で、他の香りかと言い始めた。


「マリア様! あれはなんなんですの」


「ひゃん!」


 私はその声に驚いて飛び退く。後ろを振り向くとそこにはさっぱりとしたエルル様が立っていた。顔は興奮のあまり上気している。


「体が泡に包まれ、髪もこの世のものとは思えないほどさっぱりしましたわ。これを広めればきっと学校の勉強にも差し障りのないほどに集中できると思いますわ」


 そんなものかなと私は再度考える。エルル様に私は石けんを使った感想を聞くことにした。


「それでどれほど石けんは気に入られましたか?」


「それはもう、言葉で言い表せないほどですわ。それとけしょうすいなるものを使ってみましたわ」


 陛下には石けんだけを渡したが、エルル様には化粧水も渡した。


「どうでしたか?」


「それはもう、顔が淑女のように美しくなった気がしますわ。潤いたっぷりという感じです」


「そ、そうですか……」


 そこでエルル様はうっとりとした顔をされて私に近づいてくる。


「このけしょうすいなるものをつけて殿方に告白すると成功しそうな感じがしますわ。何倍も私、綺麗になった気がするのですわ」


「そ、そうですか……ところで化粧水の感想を聞きたいのですが……ひゃん!」


 エルル様は私に抱きついてくる。ふわふわとした柔らかい感触に甘い香りがする。


「私、とてもいい香りがしてますので」


「私は抱きつくことはできないか……」


「ええっーーー!」


 まさかエルル様に続いて陛下まで抱きつくことを考えていたなんて言わないですよね。


「と、とりあえず、喜んで頂けてなによりでございますわ」


「陛下、いえお兄様これはこの国で流行らせましょう。きっと大人気間違いなしですわ」


「そうだな。こんなものすごい物は国民に知ってもらうべきだ」


 そこで私は一つコホンと淑女らしく咳をすると、陛下に説明する。


「石けんというのはさっぱりするだけではなく、他にも使い道があるのです。とあるお話でこういう話があるのです。同じ病院で赤子が生まれました。ところがある棟だけで母体である母が多く死んでしまうことがあったのです」


「ふむ。その原因はなんだろうか?」


「細菌です。その棟だけが細菌という汚れに冒されていたわけです。その細菌に冒された手で母体を触ったから死んだわけでございます」


「それはどうやったら回避できるのですか?」


 そこで私は満面の笑みを浮かべて言った。答えは既にある。


「石けんで菌を洗い落とし、母体に触ればよいのです。母体だけではなく、怪我をしたりものを見るときでもいいです。とにかく石けんで細菌を落とすことによって失われなくてもよかった命や病気が救われるのです」


「さいきん……ですか」


 まだこの世界には細菌という概念はない。それはわかっているが、私はあえて救える命は救おうという考えで言った。


「細菌という言葉は聞き慣れないかと思いますが、陛下是非に私を信じてくださるとありがたいですわ」


 私は祈るように両手を組み陛下に病院などで使うことを頼んでみる。過去の地球でもこの細菌の問題であるやら無いやらで大論争になったことがあるくらいだ。地球で手洗いが当たり前に行われるようになったのは近代に入ったぐらいである。


「マリア様を信じて病院になどで使うように徹底させます」


「ほ、本当ですか」


「ええ」


 私は陛下の顔を見やる。なんという温かく素直な人なのだと思ってしまう。私は陛下の手を握ると本当にありがとうございます、と感謝の念を表した。陛下はぷいっと私から視線を逸らすと、私の手を静かに触った。


「柔らかい手だ。こんな手でこれほどの偉業を達していると思うとなんとも聖母のようにさえ思える」


「そ、そんなオーバーですわ、陛下」


 陛下は私の方へ振り向き私の手をぐっと握ると宣言するようにして私に言った。私と陛下の視線が交差する。


「オーバーではありません。私はあなたのことを尊敬します。それほどあなたは素晴らしい」


「そ、そんな、ありがたい言葉に返す言葉もございませんわ」


 私も陛下の手をギュッとにぎると陛下の体温を感じる。そんな私たちを見てエルル様がお似合いですわというのを聞いて私たちは重なり合っていた手を離す。


 ドキドキする。陛下の顔をまともに見られない。陛下も私から視線を逸らすと、


「そ、それでは執務に戻るので石けんの今後のことはモーリス殿もお呼びして考えましょう」


 と、言うと陛下は執務室の方へと歩いて行ってしまった。どの道私も陛下の執務室に行かなければ仕事ができないので、エルル様に去り際の挨拶をして後を追う形になった。


 そんなエルル様は私と陛下に向かってこう言うのだった。


「うぶな子供の恋愛ですわ」


 と、私はそう言われるとあまりに気恥ずかしくなって顔を俯けてしまうのだった。こうして石けん作りと化粧水作りは終わったが、私はもう一つやりたいことがあった。それは魔法シャワーだ。これも理論的に出来るはずなので、それは後日ということにして今日の執務に没頭することにした。


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