マリア様 業務改革と魔法計算機そして獣よけを作る4
私と陛下は報告のあった農園に来ていた。そこには一人の男性が困った表情をしながら立ち尽くしていた。私は農園を見るとその惨状に目を覆いたくなった。
収穫できるはずのリンゴやじゃがいも、かぼちゃやオレンジなどが食い荒らされていた。
「ひ、ひどいですわ」
「こ、これは……」
私は陛下と共に男性に近づくと言葉を掛けた。
「あなたですか? 害獣の報告をなされた方は」
私はカテリーナ語で問いかけたが、男性はここから南にある国アルゼジャンの言葉を話し始めた。私は本で勉強したアルゼジャン語で問い返す。
「あなたですか? 害獣の報告をされた方は」
私がアルゼジャンの言葉を喋った瞬間に陛下は驚愕の表情を浮かべた。
「マリア様はアルゼジャン語もできるのか……」
「本で読んだぐらいですが」
実を言うとアルゼジャン語は英語に近しいなにかがあったので覚えやすかったというのもある。
「おおっ、お嬢さん、アルゼジャン語を喋れるのか」
「かじった程度ですが」
「おおっ……メーテルぐらいのものかと思っていた」
「ひょっとしてそのメーテルという方が代筆されたのですか?」
「ああ、今は町に買い物に行ってここにはいない」
私と男性は会話をしていく。私は農園の荒らされた農作物を見た後に男性に聞いた。
「これは一晩でやられたのですか?」
「ああ、一晩でだったよ。それもどうやら普通の害獣ではないようだ」
「ちょっと失礼して」
私は陛下に男性と喋った内容を伝えた。陛下は荒らされた農園の作物の近くに近寄ると足跡を見始めた。そこで陛下は顎に手を置いた後考えるふうにした。
「これは……ワイルドベアの足跡だ。ただの熊や鹿じゃない。しかしワイルドベアが徒党を組んできたなど聞いたことがないぞ」
「食料がそれほどなかったということじゃないのでしょうか?」
「わかりません。しかしこれを放っておく訳にもいきません」
私は男性の元へ戻ってこれから行う対策を説明する。それは害獣避けより更に強力な電気柵を作ることだった。
「これから出来てくるであろう農作物を守るために電気柵をお作りいたします。害獣などは一切入れなくするのでご心配なく」
「おおっ……お嬢さんとあの方は」
「陛下でございます」
「おおっ……私たち国民のためにわざわざ来て下さるとはなんとありがたい」
そう言うと男性は陛下に向かって手を合わせ頭を下げる。これがアルゼジャン風の謝礼なのだろう。私は目の前に魔法陣を展開させる。
私はトロイア国に生まれ、そして転生したとわかったときに魔法が使えるようになった。それは非常に幸運なことではあったが、王太子妃教育や王妃教育では不要だし、王妃になった時にも使いどころがなかった。
だが今こうして困っている国民のために魔法を使えることに喜びを感じている自分がいた。
私は魔法陣に図面を引いていく。計算装置もついた便利な魔法陣だ。プラスとマイナス、÷×まで計算できるように魔法陣を改良した。
そして私はふと考えた。これを転用すれば業務における計算。つまり魔法計算機が作れるのではないかと。魔法の理論体系さえ確立していれば魔法の才能がある者が使えばこの計算機を使えるようになるはずだ。
「陛下」
「うむ」
「ひょっとしたら業務の計算も非常に楽ちんになるかもしれませんわ」
陛下は首をひねるとどういうことかと聞き返してきた。私は魔法陣の右端を見せて計算機の計算式を見せる。
「これは計算機といいまして、簡単に計算ができるようになる魔法具です」
「ほう。例えば1543×46とかもできるのか?」
「はい、それでは70978でございます」
陛下は暫く暗算で計算をしていたが、同じ答えだとわかった瞬間歓喜の声を出す。
「こ、これは凄いことですよマリア様。こんな時間の掛かる計算をわずか一秒も経たずにはじき出してしまった。マリア様あなたは怖い人だ」
私は陛下の言葉にクスリと笑い微笑みを浮かべると言った。
「魔法の理論体系さえわかっていれば誰でもできますわ」
「その理論体系は高度な魔法師でも確立できないことですよ」
「そうでしょうか?」
「はい」
算数や数学を知っていればなんとかなるはずだが。この世界にも数学などは普通にあるのでやろうと思えばやれるはずなのにと私は思ってしまう。
「魔法に理論を組み込むことはそんなに簡単なことではないので。こんな凄い能力を人前でご披露なされないように、時にはできすぎた技術は狙われることもありますので」
「承知致しましたわ」
私は王妃として暮らしてきたので、民単位の物事の考えをしたことがない。だから陛下が危険と言えば危険なのだろう。
「それでは、発明はカテリーナ国の魔法師がやったということにしておいてくださいませ」
「いや、その前にモーリス殿にご相談しないと」
「確かに。わかりましたわ。今後はお父様、陛下、お兄様に相談してから発明品はお作りすることに致します」
「頼みます」
私の言葉に陛下はほっとしたような表情をする。私はなぜか陛下の困った表情を見たくなくて従ってしまう。この気持ちはなんなのだろうかと思いながら私は図面を引いていくのであった。




