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涙の流星群  作者: 最上優矢
第六章 ピンチはチャンス、信じるのはペルセウス座流星群

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お断りします

 夕方。


 遙香さんは料理の手伝いで、母とともに夕食を作ることになった。

 相変わらず、父はスマートフォンを手に持ち、ダイニングでサイゾウの生放送を大音量で視聴していて、なるほど、限られた会社の夏休みを怠惰に過ごしていた。

 海堂さんは大浦家で夕食を摂るらしく、姉の部屋を堂々と利用し、そこで姉と過ごしているようだった。


 で、ぼくと夏奈さんはというと――。


「ぼくの部屋、行こっか」

「お断りします」


 このようにぼくらはリビングのソファに居座り、おしゃべりを続けていた。


「そっか、きみはぼくの部屋に行きたくないんだね。あんまりだよ、夏奈さん」

「ちっちっちっ……わたしを誰だと思っているの? わたしはきみの彼女さんのような安っぽい女じゃないの。お分かり?」


 やめろ、遙香さんをディスるな、夏奈さん。


 キッチンでハンバーグを作っていた遙香さんを恐る恐る見ると、彼女は笑顔でハンバーグの肉をこねていた。


 その笑顔、どこまでも恐ろしいものだった。


 遙香さんの笑顔を見た母は「そう、その笑顔! ハンバーグは愛で作るの。いい感じよ、遙香ちゃん」と何やら感激していた。

 どうやら、きょうのハンバーグは“愛憎”の“憎”のほうになりそうだ。


 ぼくは身震いした。


 そのとき、夏奈さんのいぶかしむ声が聞こえた。


「翔くんったら、寒いの?」


 ぼくは視線を夏奈さんに戻すと、親指を突き出した。

 それを夏奈さんは不思議そうに見つめていたが、やがて「なんだかやけにうれしそうだね。そんなに遙香の料理が楽しみなのかな?」といやらしい笑顔を浮かべた。


「そ、そんなこと……」

「ん~?」


 あった。

 そんなこと、あった。


 ぼくは両手を万歳し、降参した。


 夏奈さんは得意げに笑うと、こちらの背中を何度も叩いた。

 それも次第にやんだかと思えば、急に夏奈さんは元気をなくしてしまった。


 ぼく? 当然、ぼくはあたふたとした。


「ご、ごめん。夏奈さんのこと、傷つけちゃった?」


 すると夏奈さんは、

「違うの。違うんだって、翔くん。……わたしさ、今うれしいの」

 と、にこやかにぼくの考えを否定した。


 その後、彼女は赤裸々に告白した。


「わたし、実は家庭環境あまりよくないんだよね。

 それは前からなんだけど、最近は特に酷くなっちゃってさ。……遙香のウソを暴くため、奈蔵市に引っ越したい、そうわたしが両親を説得してから、かな。

 それからは本当に地獄。

 常に暴言や暴力は存在するのに、会話や笑いは一切なし。

 当然、学校のお弁当も作ってくれない。

 うん、だからさ、両親がわたしのことを忘れても全然ショックじゃなかった。

 でも、遙香の両親がわたしのことを忘れたのはショックだった。

 でね、今ここで笑えるのがとても貴重に思えるんだ。

 わたしはみんなと過ごした日々、ずっと忘れないよ」


 強く、強く。

 ぼくは拳を握りしめてから、夏奈さんにほほ笑みかけた。


「ぼくの部屋、行こっか」

「お断りします」


 グハッ。


 大浦翔、ノックアウト。

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