表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
涙の流星群  作者: 最上優矢
第五章 思い出の夏、後戻りはできない夏、ひび割れた夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/81

談王サービスエリアにて

 美楽湖ホテルに向かう途中、ぼくらは休憩のため、談王だんおうサービスエリア下り線に立ち寄った。

 談王サービスエリア周辺はとても山深かったが、つまりそれは壮観な眺めでもあるということだ。


 ぼくらは車から外に出ると、きょろきょろとあたりを見回し、全員そろって歓声を上げた。


 様々な車やオートバイが駐車場に何百台もとまっている光景は、映画館の客たちを想像させ、ぼくの心を躍らせた。

 自然のよさを凝縮したような山々と青空の夢のコラボレーションである風景は、ぼくの目を釘付けにした。

 ここでしか吸えない空気はとても新鮮で、都会で慣れた砂利のような空気とは大違いだった。


 一言では言い表せない感動を、ぼくらは味わった。


 ひとしきり談王サービスエリアの風景を眺めたあと、ぼくらは休憩のため、サービスエリア内を歩き回ることになった。

 各自、このサービスエリアで昼食を摂るということになり、ぼくらは分散した。


 ぼくは牛串やらたこ焼きやら焼きそばやら、色んな屋台に目移りしながらも、サービスエリア内の建物のフードコートで、談王サービスエリア名物「旨辛カレー王スパゲッティ」を頬張った。


「旨辛カレー王スパゲッティ」というのは、カレー麺に旨辛カレーソースをかけたスパゲッティのことである。

 一見、シンプルそうに見える料理だが、これがまたうまい絶品のカレースパゲッティで、この限定メニューを食べるため、はるばる遠方から不眠不休でやってきた客もいるそうだ。


 恐るべし、「旨辛カレー王スパゲッティ」。


 実を言うと、この「旨辛カレー王スパゲッティ」は、ぼくが前々から気になっていた限定メニューなのだ。

 それがようやく食べられたので、ぼくはもう涙が出るほどに感激し、満足もした。


 実際、「旨辛カレー王スパゲッティ」を食べたとき、おいしさのあまり、ほっぺたが落ちた。

 余談だが、落ちた頬はあとで治療しましたとさ、めでたしめでたし。

 ……冗談である。


 それはさておき――昼食後、ぼくはY県でしか飲むことができない珍しい飲み物を買うため、建物内にある自動販売機の前にやってきた。

 が、ここで売られている飲み物は、どれもぼくらの町で売られているものだった。

 それで仕方なく、ぼくは屋外のほうの自動販売機を探すことにした。


 数分後、ぼくは建物から少し離れた場所にある自動販売機を見つけ、たちまち上機嫌になった。

 上機嫌ではあるが、無表情のまま、ぼくは自動販売機とにらめっこを開始した。


 どれどれ。


 そんなとき、ぼくは背後から「おい」と声をかけられた。

 おそらく、徹だ。


「自動販売機とにらめっこなどして、一体どうしたというのだ」


 無表情のまま、ぼくは後ろを振り返った。

 案の定、目の前には徹がいて、ぼくは徹を無表情で見つめることになった。

 が、徹を無表情で見つめることに気まずさを感じ、思わずぼくは苦笑した。


「分かりきったことを聞くなよ、徹。ここでしか飲めない飲み物を買うために決まっているだろう?

 ほら、せっかくこういうところに来たんだから、このエリア限定の飲み物を飲みたいじゃん。違うか?」


 徹は手のひらを拳で叩き、「なるほど、それもそうだな」と快活な声で笑った。

 それに釣られ、ぼくもクスリと笑った。

 そしたら、いつの間にかぼくらは大笑いしていた。


 限界まで笑ったぼくらだが、今度は急に我に返り、二人でこんな話をした。


「なあ、翔。おれたち、正しいことをしているよな。

 おれたち、間違ったことをしていないよな。

 おれたち、夏奈を幸せにしようとしているよな」

「……らしくないな。お前らしくないぞ、徹。

 何事も迷わないのが、徹のはずだ。そんな徹、ぼくは見たくもない」


 実際、ぼくは弱音を吐く徹のことが大嫌いだった。

 失望、とまではいかないが、相当ぼくはショックを受けた。


 このぼくのダメ出し、徹は重く受け止めているらしく、彼はうなだれた。

 ぼくは徹を傷つけてしまったことを深く後悔し、自分もまたうなだれた。

 が、その数秒後、徹が吠えた。


「ダメだダメだ、全然ダメだ!

 いつからおれは軟弱者になってしまったのか。

 恥ずかしいぞ、灰原徹。実に愚かだ、灰原徹」


 ぼくは驚きのあまり、後ろを振り返ってしまったが、すぐに徹のほうを見た。

 徹の不敵な笑みを見る限り、すでに彼は迷いを断ち切っていて、単純にもぼくはうれしさが込み上げるのが分かった。


 もはや、言葉などいらない。


 ぼくは徹と熱い握手を交わし、力強くうなずき合う。


 その後、ぼくと徹は自動販売機で限定品の飲み物を買った。

 その名も、「談王だんおう桃ジュース」。


 ぼくらは桃ジュースのペットボトルで乾杯すると、中身をゴクゴクと飲み干した。

 このときに飲んだ「談王桃ジュース」は、どの桃ジュースよりも格段においしく、そして格別の味だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ