第9話 神の力と親友の絆
「なぁ、駄神よ? お前の力でどうにか出来ないのか?」
リヒトは腕を組みながら駄神に聞いた。どうにか出来るならとっくにやってると思うんだけど?
「今の儂には力が無いと言ったじゃろう?」
「あぁ、だが、信者がいれば少しは力が戻るんじゃないのか?」
そりゃ、そうだろ? その信者集めが出来ないから今こうしてるワケだしな。そもそも俺はなんでこんな事になったんだろうな? 意味分かんねぇよ。
「内容にもよるぞ? メガネ小僧は何を考えておる?」
「コイツ、アユムの心の進捗を止めたい。このままでは来月には女になりそうだからな。どうにかなるなら信者にでもなってやるよ」
リヒト…お前…そうだよな、俺でもそうした筈だ。
「なら俺も信者になんねぇとな! そもそも俺の問題だ、出来るなら頼む」
「うむ。問題ない。なら儂に頭を下げて植山姫之神の名を頭に刻め」
「チッ、駄神に頭を下げないといけないのか?」
そ、そこかよ。お前ブレないなぁ。
あ、ついでに…
「な、なぁ? ハニ、ヤマメ、カミ?」
「誰が歯にヤマメの噛みじゃ!? 『あー、なんか歯の間に引っかかるわー』みたいな言い方はやめろッ!? ハニヤマヒメノカミっ‼ 覚えろッ‼」
あー、『はにゃー? 麻痺めの噛み?』にすれば良かった?
あれ? そっちの方が覚えやすいかも? どうでもいいか。
「あー、覚えた覚えた。でさ、出来るならやってもらいたい事があんだけど?」
「お前の願いはなるべく叶えてやるつもりだぞ? 出来る範囲なら、だが。で?」
「俺の元の姿を知ってる奴らには、俺への違和感を失くして欲しい」
言ってる事分かるかなぁ? 要は、『お前何で女になってんだ?』ってのを失くしたいだけなんだが。
特に俺の家族な!
「んむぅ? お前を元から女としての認識にさせるという事かの?」
「あー? 多分、そんなトコ。とりあえず俺の家族とか学校の奴らが中心、だな」
そもそもそんなに知り合いいねぇしな。規模が小さかったらなんとかならねぇか?
「いいのか、アユム? それだと知り合い全員お前を女扱いする事になるんだぞ? 俺も変わってしまうかもしれない。環境が本当に変わってしまうぞ?」
「仕方ねぇだろ? そもそも説明できる様な話じゃねぇんだ。だったら女として動いた方がやりやすい。全てが終わったら元に戻してもらえばいいだろ?」
信者が増えたらどうにかなんだろ。この土地の神様って言ってんだからな。つーか、やってくんねぇと困る。
「じゃあ、『心の変化を抑える』を第一に、『身近な者の違和感を失くす』じゃな? 心の方はどうにか出来るが、他者の違和感の方は、限られた力じゃから範囲はこの地だけじゃからな? お前らの言う、…えーと? 区間? を越えた人間には効果は無いと思え」
「あぁ、十分!」
「では、頭を下げ心身を捧げよっ! その心は我と共にあれっその身は我と共にあれっ」
なんか威厳ある感じに始まった。き、急なんだな。
とりあえず頭を下げて横目にリヒトを見る。なんだかんだちゃんとやってくれてる。俺の親友だもんな。
……ありがとう。
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「おい、アユム、じゃったか? 無事に終わったぞ? 成功じゃ。ただ、もう余力はないからの?」
「あ? あぁ、そうか。ありがとな。って礼は違うか」
「すまなんだ。儂の責任なのじゃがな?」
「いや、いいよ。今はどうにもなんねぇんだろ? いつか借りは返してくれよな?」
「もちろんじゃ」
先の事なんか誰にも分かんねぇけどな? そもそも信者が集まるのかも分かんねぇんだ。それより今が大切だ。
変わってしまったんだろうな、全て。
「リヒト? 終わったってよ?」
隣にはその場に倒れてる親友。きっと神様童女の力で違和感を失くされた筈だ。多分その余波? で倒れてるんだと思う。
俺の心は今にも崩れそうだよ。ここにいる親友は間違いなくリヒト。もちろん生きてるし、ちゃんと息してる。
でも、親友の心の中の俺はいなくなった筈なんだ。今は親友ではなく幼馴染ってとこか?
俺の女化に違和感を持つ奴の、記憶を書き換えるって願ったからな。
「…ん、ぅん? ここは? ん? どうしたんだ? アユミ?」
ッ!? そう、だよな……俺の、事、覚えて、ねぇ、よなぁ。
「おはよう、リヒト。大、丈夫、か? ちゃんと、覚えて、いる、かぁ?」
辛い、苦しい、なんだよ、なんでなんだよっ。なんでこんなに心を締め付けられるんだよっ‼ 涙が、止まんねぇよっ!
お前だけが、俺の、味方だったのに……
「そんなに泣く事ねぇだろ? ……アユム」
「ふぇっ!? お、おまっ!?」
今、俺の事アユムって言ったか? もしかして、俺の事覚えてるのかッ!?
「フッ、ハハッ! 冗談だっ。お前の事忘れるかよ、アユム。俺はお前の味方だ。親友、だからな?」
「……おまッ! ……ズズッ、リヒトぉ……あ゛り゛が と゛う゛ッ! 覚えてぐれででぇッ‼」
流石親友だよな。素直に嬉しいよ。お前がいてくれて、本当に良かった。本当に、本当に……
「分かった分かった。その、今のお前に泣かれると、困るんだよっ! 頼むから泣き止んでくれッ‼ 悪かったからッ‼」
「無理ィっ‼ お前がいでぐれでぇっ、よがったぁっ‼ 本当にぃッ‼ よがっだぁっ‼」
俺の涙は止まるどころか溢れ出てくる。ホント、どうしよもない。俺、こんな弱かった覚えないのにな?
「そんなに嬉しかったんじゃな?」
「親友、だからな? 消えてしまうんじゃないかって思ったんだろ? 逆の立場だったら泣いてんのは俺だろう?」
「想像出来んぞ?」
「俺を女にしようと思うなよ? 罰ではなく、刑になるからな?」
「う、うむ。心しておく」
泣いてる俺の横で2人は話していた。自分の鳴き声で良く聞こえないけど、なに?
とりあえずは今後の心配は無くなった。だから、俺達は一度帰る事にしたんだ。リヒトの家に、な?
だけど、俺への嫌がらせの罰としてアイスを奢らせた。乙女の涙はなんとやら、だ。
~帰宅~
「なぁ、ほぉまふぇはなんで覚えてたんだ?」
俺はリヒトに奢らせたアイスを頬張りながら歩いていた。ついでに気になって聞いてみたトコ。
ちなみにアイスはチョコミントの棒付きアイス。ミントの香りがチョコと合って美味しいんだ。
「ん? あぁ、多分違和感がポイントだな?」
「違和感? それを失くす為にあの駄神にやってもらったんだろ?」
「俺はそもそも、もう違和感が無いだろ? お前が男だって知ってるし、原因もあの駄神だって知ってる」
違和感が無いから消されなかった? あー、なるほど?
「……じゃあ、本当に神の力が出たのか分かんねぇな?」
「まぁな? だが、お前の心は大人しくなったんじゃないか?」
「それ、よく分かんない俺に聞いても意味ないんじゃね?」
「だな。だが、俺の家に帰ったら嫌でも分かるだろ? 母さんの反応で分かるだろうし、姉さんも帰ってくるしな?」
あー……、すっかり忘れてましたわ。俺の女性強化合宿だっけ? 女化だっけか? どっちでもいいけど、やっぱやんねぇとだめかぁ?
つーかもう家着くし。どうにかなんねぇかな? 何度も言うが、俺、男なんだぞ? なんで女の勉強しないといけねぇんだよ?
「ただいま、母さん。姉さんは?」
「おかえりなさい、リヒト。仁美はまだよぉ? あら、アユミちゃんアイス咥えながら歩いたらダメよ? その棒を舐めてる姿に発情する変態だっているんですからね?」
そ、そんな奴いんのか? やべーな、変態。あ、だから子供にはぁはぁする変態がいんのか。夏は一番やべー時期なんだな。
「あ、今日もお邪魔するぞ、リヒト母?」
「全然気にしないで、そのまま家の嫁にきてね?」
でたー。もうツッコむの面倒なんだけどー?
「無言の肯定……、うふっ、脈アリね。」
「いや、ねーから。脈どころか、ナシ。否定します」
つーか、何も変わってない。リヒト母の平常運転やべーよ。夏休みだから休日運転かもしんねぇけどな?
「母さん、とりあえずリビングで姉さん待つからコイツで遊ぶのは夜にして」
お、お前ッ!? 遊ぶのをお前が許可すんなよッ‼ つーか、なんで親友の母と遊ぶんだよ!?
なんなんだ、この家族? 普通じゃないぞ? いや、リヒトの偏屈も遺伝子的に母似という事なんだな。……ただの面倒一家じゃねぇか。
俺達は夏休みの宿題をこなしつつ、時間を潰していた。昼頃だったか、ついに来たんだ。
今となっては俺の悪魔が。
「ただいまー。ねぇ、リヒトが面白い事があるって言ってたんだけど?」
「そうね? 仁美も楽しめるかもねぇ?」
玄関で声が聞こえる。あー、来ちゃったよ。ぶっちゃけ今の仁美さんを見たいとは思うんだけどな?
あー、なんか近付いて来てる気がするわー。イヤだなー、イヤだなー?
「ねぇ、リヒ、ト、そ……」
んー? どしたんだ? 俺の顔見てフリーズしてんぞ?
「こ、こんちわ? お久しぶりです、仁美さん?」
それにしても美人さんだなー。8頭身ここにアリって感じだよ。さすがモデルだわ。スタイルはもう文句ないしな? 顔もエルフかってぐらい人間離れしてらっしゃる。まー、彼氏なんていないだろ? 相手が想像出来ねぇしな。
つーかいつまで見られてるんだよ? 口パクパクしてるし。
「ア、アユ、アユ、アユッ!?」
鮎? 何? 急に魚のモノマネ? ちょーっと、それは高難度過ぎじゃないですかね? 綺麗エルフが口パクパクさせたとこで、可愛いだけなんですけど?
あれ、ゾンビみたいに近付いてきた。それは鮎じゃないんじゃないかな?
仁美さんってこんなユニークな人だったっけ? なんか笑えてきた。
「ふ、ふふ、仁美さん、面白っ! あははっ」
だってなんかロボットみたいな動きなんだぞ? ギャップやべーよ。
「アユミちゃーーー----んッ‼」
は? え? うわぁッ!?
いきなり仁美さんは飛びついてきた。俺に、な?
どうにも嫌な予感がするよ。
高橋家独特の匂いを感じる……