第10話 駆け抜ける夏休み、俺はマドンナを演じる事になる
「ひ、ヒトミさん!? え、ちょっ!?」
ソファーに座ってた俺めがけて飛び込んできたヒトミさん。そのまま頭をハグされる形になって……
「ム、胸ふぁ、ふぁふぁっふぇっ!?」
夏だからか当然防備は薄い。その弾力が、香りが、全て俺を包み込んでいく。
あぁ、ここは天国、なんだな。男じゃないからかムラムラはしないけど…心はザワザワする。俺の中の男はまだ死んでいないんだ。
…一言。『超、嬉しい』だ。
このまま死んでもいいかも。
「姉さん、もう離してやれよ。そんなのいつでも出来るだろ? 夏休みだしさ。それより、コイツの事ちゃんと覚えてるか?」
「ん? それもそうね? というかリヒト? 私のアユミちゃんにコイツ呼ばわりしないでもらえる?」
あぁぁっ、俺の桃源郷が離れていく……いや、十分幸せだった。ありがとう、双子山。
「私の? 姉さん? アユ、ミは姉さんのモノじゃないぞ?」
「アンタ達幼馴染みたいなモノでしょ? 昔から可愛がってた、可愛い可愛いアユミちゃんは妹同然よ? だったらアユミちゃんは私の妹でしょ?」
「昔から、ね? それを言うなら妹みたいな存在、だろ? アユミは妹じゃない。日々埜さん家の子だ」
あー、やべー。鼻がツーンってしてきたかも? 鼻水が、ってうぇっ!?
「もう、リヒトは頭硬すぎ、よ……ちょ、アユミちゃんッ!?鼻血がっ!?」
「だ、大丈夫だからっ‼ ティッシュくれたらいいからっ‼」
やべー。手とかめっちゃ血の跡ついたわ。服は、大丈夫か。
「はい、ティッシュ。ごめんね? ちょっと刺激的だったかな? ふふっ」
「あ、いや、別にぃ?」
あー、リヒトの目が痛い。『お前、人の姉の胸で……』的な目が痛い。
し、仕方ねぇだろ!? これは健全な男の現象だっ‼ そうだ! 俺は男なんだぞっ‼
「フンッ‼ どうだッ‼ まだまだ俺は俺だぞッ‼」
俺は自慢げに胸を張った。ヒトミさんの前だから男だとは言えねぇけどな。まだまだ俺は男なんだぜ、って、腰に手を当ててドヤってやったぜ。
「お前、……馬鹿になってきてないか?」
「な、なんでだよっ!?」
たしかに鼻にティッシュ詰めてドヤってるけどな? 俺は男なんだぞ? 胸を張って何が悪い?
「……えいっ」(ツンっ)
「にゃっはぁんっ!?」
俺は全身に電気が走ったみたいにビクってなった。そして恥ずかしくなってその場に座り込んで、顔を両手で覆った。
だってリヒトが見てる目の前なんだぞっ!? なんで胸の先端押されたくらいで感じてんだよッ!?
「……ヤバっ。萌えた。今、最高にキタわ」
「はぁ。おい、アユミ? お前の為に、お前の貞操? 処女を守る為に、お前の知らない姉を教えといてやる。姉さんは、シスコン極みだ。極度の妹萌え人間なんだ。自分の身は自分で守れよ?」
「な、なんだよそれぇっ?」
「あーッ‼ キタコレ‼ その表情マジ卍Maxッ‼ スクショッ(パシャ)はぁ、ナイショッ(パシャ)はぁ、ヤバイッッショッ(パシャパシャッ)はぁん」
え、えぇぇぇっ……ヒトミさんが、俺のヒトミさんが……壊れていく……
「オー、マイ、ガッ!」
高橋家、マジ卍Maxッっしょ?
~高橋家・リヒト部屋~
「で?」
「で? とは? なにが言いたいんだ姉さんは?」
俺達はリヒトの部屋へと場所を移した。『別にリビングで良かったんじゃねぇのか?』とは言ったんだけど、俺の為? らしい。
理解が出来ない。教えてくれねぇし。別にいいけどさ。
「面白い話があるんでしょ? もしかして、アユミちゃんが真の義妹にっ?」
「馬鹿言うな。コイツは妹なんかならないぞ。それより、コイツを女にしてくれ」
お、おい? その言い方は誤解が起きそう、だぞ?
「え? 女、に? わ、私はまだそんな経験……いや、アユミちゃんだったら、まぁ、アリか。アユミちゃん? 私の部屋で…」
「ちょっ、ちょっと待ったッ‼ 違う! 意味が違うからッ‼ おいッ! リヒトッ!? ちゃんと説明しろよっ!?」
あ、危ねぇよ。危うく本当に女にされちまうトコだったじゃねぇか! 俺も、その、アリっちゃアリというか……あー、違う違う! レズってる場合じゃねぇっつーのッ‼
「俺は女性らしくなんなきゃいけねぇのっ! 女の身体になりたい訳じゃねぇってのっ!」
「あ、あぁ、悪い。姉さんだと意味が変わるのか。すまない。そういう事だ、姉さん?」
「え、えぇ、そういう事ね? なら、大丈夫、かな? 私のモデル経験も活かして女性らしくすればいいのね?」
はぁ。どうにか脱線は防げた様だ。高橋家、デキはいい筈なのにどこか抜けてんな。デキがいいからかもしれないけど、な?
「見た目だけはいいんだ。後は中身だけの問題なんだよ。出来るよな?」
「そうね。見た目はいいけど、中身が男っぽいものね? 見た目がいい分、粗が目立つわ」
んだよ、見た目見た目って。俺だって好きでこんな姿になってるんじゃねぇっての! クソぉ、好き勝手言いやがって。お前らも見た目だけじゃねぇかッ‼
「だろ? だから2学期までにアユミの印象を変えたい。姉さんと力を合わせてマドンナを作ろうじゃないか?」
「あぁー、そういう? たしかに面白いわね? でもそれだと中身の他に所作や姿勢もいじらなきゃね?」
は? なんだよそれ? ……ちょっと待て。
「おい? マドンナってなんだよ? 俺はそんなモンになりたいわけじゃ」
「もう、ダメよ? アユミちゃん? その言葉使い、ダメ、絶対。次から減点対象としますからね?」
な、なんだよそれぇ? もう、何かが始まってるのか?
「じゃあ、とりあえず姉さんに任せる。好きにしていいから。あ、ちなみにアユミは夏休み中ずっとこの家にいるからな?あと20日ちょいか? 姉さんの手腕に期待している。では、幸運を祈る。サラバダー!」
「お、おいッ!? 俺を置いてドコに行くんだよッ!? お前も、その、なんかしろよッ!? サラダバーみたいに言って消えんじゃねぇよッ!?」
「俺にはな、やらなければならないクエストがあるんだ。そう、いずれ倒すディアボロスの為に、な? お前に構ってられないんだ、悪い、分かってくれッ‼」
バタンっ
あいつ、MH、ゲームする気だ。俺を差し置いて、ゲーム、だとぉ!?
「……はい、言葉使い-3点」
え?
「ま、まいなす3点、でありますか? ちなみに設定を教えて、下さいませんか?」
「ん~、ちょっと言葉使いが硬いわね? まぁ、いいでしょう。以下を今後の目標及び、設定とします」
そう言いながらヒトミさんは紙を提示した。いつの間に書いたんだよ?
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アユミ(乙)は私(甲)の試練に挑む事。
(乙)が条件をクリアした場合、
(甲)がなんでもやってあげる。
・言葉使い -1
・所作、動作 -1
・女子力 -1
・妹らしさ 5
基本は減点方式で(乙)の持ち点は100とする。
減点の重複はあるので注意が必要。
一部の加点ポイントを除き、
以下の点になると罰がある。
〈注意・加点による罰の重複はある。〉
60点―――(甲)の要求する服を着る
40点―――(甲)の要求するポーズで写真撮影
20点―――(甲)が要求する
10点―――(甲)の妹宣言をする
0点―――(甲)のペット
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……ツッコミどころが多すぎる。
とりあえず20点にはならない様にしないといけない。絶対ヤバい、本当に身の危険がありそうな感じだ。
だから、頑張った。死ぬ気で? いや、俺という俺は死んだのかもしれない。心がもう、死に体だ。
だけど、乗り切った。俺はやり切ったんだ。
もちろん罰はあった。恥ずかしい思いもした。だけど、俺はもう女になれる。2流かもしれないが、もう誰も元男だとは思わないだろう。
さぁ、始めようか? 俺のセカンドライフ……
第2のステージだッ‼




