二十章「閃光の魔剣」
ようやく書いたぜwお待たせしたぜw
すみませんでした。今回は、挿絵があります。
目の前に迫る熱掌。
コウヤは、焼けただれた右拳を突き出す。
衝突する掌と拳。ただでさえダメージのある拳がさらなる熱の負荷によって、悲鳴を上げる。しかし、かと言ってここで無傷の左拳を消費するわけにもいかない。今は、なんとしてでも右拳で耐えなくてはならない。
激痛に顔を歪ませつつ、なんとか衝撃を相殺した俺は半歩下がり、僅かにあいたヴェノンとの空間に踏み込んだ。
「なめてんじゃぁぁぁねぇぞぉぉぉぉ!!!!」
怒号とともに振り抜いた左拳が奴の手をかわし、その顎を捉えた。衝撃波が広がり、激しく天に突きあげられるヴェノン。俺の手には何かを砕いたような感触が残る。チャンスだ。
「うぅぅおらぁぁぁ!!!!」
すかさず飛び上がった俺は、右手に力をこめる。
「ハーフ・バースト! ライトガトリング!!」
次の瞬間、高速で打ち出された無数の右拳撃がヴェノンを襲う。あまりの高速連撃に俺の拳がいくつもに分身したように見える。怒涛の勢いで打ち込まれる拳は、奴の顔、腕、腹、足を次々に殴り潰していく。
だが、その直後だった。
「……おい。……負けてんじゃねぇ……ぞ?」
不意にガスマスクの男が、そう呟く。
その声は、なにか底知れぬすごみがあり、全身が僅かに強張るような錯覚すら覚える。
すると、
ギシシシシシシー!!!!
突然、ヴェノンが謎の奇音を上げる。俺は、すぐさま奴の異変に気付く。
「どうなってやがる!?」
見れば、空中にあるヴェノンの体がうねり膨張している。攻撃を中断した俺は、着地し距離をとる。
ヴェノンは派手に落下すると、轟音と土埃をあげた後ゆっくりと起き上がる。その体は未だうねり膨張を続けているが、どのような変化が起こっているのかはハッキリと理解できた。
進化している。
見たところ、筋肉が増強され全身が二回りほど巨大化している。また、各所に棘のようなもの突出し、赤黒い模様のようなものが現れていた。そして何より、奴の胸部に人らしき顔が出現している。
顔は、苦しげなうめき声を漏らし、胸部から飛び出そうと力なく動いていた。
「……怖すぎだろ」
ついそう漏らした俺は、ガスマスクの男を見る。
男は、首をコキリコキリと左右で鳴らす。
「面白れぇだろ? ヴェノンってのは? 再生どころか進化までしやがる。おまけに能力まであるってな!!」
刹那。
進化を終えたヴェノンが掌をかざす。反射的に回避行動をとる俺の背後を爆炎が通り抜けていく。
「熱の能力じゃなかったのかよっ!」
「能力も進化するんだよ」
おどけた口調の中に、どこか得意げな含みのあるガスマスク。
舌打ちするも、すぐそばにヴェノンが迫っており、俺は体をスピンさせてパンチをかわす。パンチは地をたたき、大地を激しく隆起させた。
進化したことで、予想以上にパワーが上がっているようだ。よく見ると、進化完了後も各所が僅かにうねっている。さすがにこれ以上進化されては困る。ほとんどの村人が避難しただろうが、それでもこの戦闘で被害を出しすぎた。ここからは時間稼ぎというより、早期決着が好ましい。
俺は、痛みを通り越し痺れを起こす右拳を握りしめる。強く握ることで痛みをごまかし、一歩前に出た。
しかし、
ブシュッ!!!!
一歩出ると同時にヴェノンの蜘蛛脚の先端から、糸が射出される。
「ぐあっ!?」
反射的に左手でそれを防ぐ。だが、それが誤りだった。
左腕に付着した大量の糸、たかが糸ぐらい指をはじく程度の与圧で除去可能なはずだ。そう考えた俺は左手に力をこめようとするが――――――――――――――――――――
「っ!? まっ麻痺か?」
痛みはない。しかし、左腕をぼんやりとした感覚、完全に己の意識外となった腕はもはやそこに腕がないかのような気すらする。
ガスマスクが俺に指をさす。
「ヴェノン。殺せ」
その一声とともにヴェノンが飛び出した。
右腕は痺れ、左腕は動かない。流石に苦しくないか!?
迫りくるヴェノンがスローモーションに見える。どうやら俺の本能もこの状況を生命の危機と感じているのだろう。ワンチャン、蹴りで吹き飛ばすという手があるが、それでもバランスを崩せばその隙が致命的となる。どうすればいい? どうすればいい!? どうすればいい!!!???
その時だった。
「コウヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
光が射した。
それは、比喩ではない。物理的にだ。
俺を呼ぶ声、そして一筋の閃光が俺とヴェノンの間に割って入る。
「なにっ!?」
爆風が吹き荒れ、ヴェノンが後退する。ガスマスクの男は驚きの声を漏らしつつも、その場に踏みとどまっていた。ガスマスクの仲間はあっさりと吹き飛んでおり、後方でひっくり返っている。
俺は、目の前に落下した閃光の正体を探る。
そこには………………
「こいつは…………。ま、まさか、……ヘルセーラか?」
俺は、眼下にある一本の短剣を見た。
それは、少し前にユノの店でヘルセーラが依代として欲した剣だ。白銀色のナイフのようなそれは、先刻見た時と異なり刀身に刻まれた文字は青ではなく赤色に輝いている。
すると、赤い文字からオーラのようなものがあふれ出し、ヘルセーラの姿を形作った。
「おまえっ……」
俺のつぶやきに、ヘルセーラは二パッと笑って見せる。ふと見ると、遠くの物陰にユノがいてグッと親指を突き出している。
「ったく。やれやれ…………」
苦笑いを漏らしつつ、俺は素早くダガーを手に取った。
小振りな割にグッとした重みがある。焼けただれた右手にとっては手に取ることすら苦しいことだ。でも、それでいてなぜか――――――――――――――――――――――――
温かい。
俺は、ダガーを握る右手に力をこめ、まっすぐに正面を見た。
「いくぜっ!!! ヘルセーラ!!!!!!!」
「はいなー!!!」
剣をまっすぐに構えた俺に、ガスマスクが笑う。
「はっ!! 剣一本手にしたぐらいで現状が変わるかってんだ。やれ!!!! ヴェノン!!!」
すぐさま跳ね上がり、駆け出してくるヴェノン。
俺は、腰元に低く刀身を構えると、姿勢を低くして狙いを定めた。
そして、
「いっけぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!」
ヴェノンとの距離は、離れており当然刀身が届くはずがない。しかし、俺にはそれが届くことが分かっていた。
なぜならっ!!
刹那。
突き出したダガーが輝き、巨大な閃光の剣と化し一直線にヴェノンまで伸びていく。その速度はゆっくりなようで、何よりも早くそして鋭く、空間を裂いて彼方へと虚空を突き抜けていく。
ギュェェェェェエエエエエエエエ!!!!!!!!!
一瞬にしてヴェノンの肉体を貫いた閃光は遥かに消え、一閃の余波が周囲を蹂躙する。
――これが私とコウヤの一撃――
「あぁ。フルバーストと閃光の一撃。名づけるなら――――――」
そこで、言葉を切った俺は、空中で静止するヴェノンに背を向けた。
「――――――――――――――レイバースト・スティング!」
言い終えるや否や、ヴェノンが光に包まれ、内側から激しい轟音を立てて爆散した。
飛び散るヴェノンのカケラにガスマスクの男は、ため息をつく。
「…………帰ろう。今回は負けだ」
その言葉に奴の仲間が反論する。
「いやいや。待てよ! 確かにヴェノンはやられたが、あんたの力を使えばあいつら程度――――」
「でも、それに巻き込まれてお前らは死ぬ」
「っ!」
ガスマスクは、踵を返すと仲間二人のほうを見る。
「俺はなぁ。無駄に戦力を削る真似はしないんだ。もう少し準備を整えよう。今回は、相手が悪かった」
そこまで言って、男はガスマスクを少し浮かせるとマスクの影越しにこちらを見た。
「……ここで会えるとは思ってなかったんだがな。でも、次は殺すぞ? 晴島紅哉」
!
僅かな動揺を見せる俺をよそに、ガスマスクは仲間とともに空間に溶けるようにして消えていった。
残された俺は、深く息を吐くと腕で口元をぬぐう。
「ったく。やれやれな話だぜ」
つかれたぜ☆
いつの間にかブックマ増えてて驚きました。本当にありがとうございます。
最近忙しくてなかなか原稿進みませんが、がんばって続けていきますので、見捨てないでくださいw
これからも、よろしくお願いします。
今回も挿絵の色塗りはX氏がしてくれました。ありがとうございます。




