追憶彼女4
※6/8一部不備があったので書き足しました。話の内容には関わりないです
「み、みはるくん〜やめようよ〜おこられちゃうよ〜!」
「はっはっは! もうかんねんしろ〜ポンコツロボット!」
涼のどんぐりみたいに丸い目にはぶあつい涙のまくが張っている。長いまつ毛の表面張力(理科でならったから使ってみた! 水のひっぱる力だって)でへばりついていて、まだ流れてはいないけど、今にもあふれ出てきそう。顔もくっしゃくしゃでめっちゃあわれな感じになっている。あ、鼻水出てる。
佐藤くんが田中さんをいじめると、田中さんはすぐピーピーなく上に、先生は鬼ばば並みに怒って糾弾のための学級会を開くので迷惑だと思っていたけど、なぜだろう。涼のめっちゃあわれな、いじめられた女の子がする普通の顔を見ていたら、佐藤くんの気持ちをはじめて理解できた。なんだかちょっと清々しい気分だった。ついに泣かせたぞ! みたいな。良い子の涼と比べられなくても、ぼくは悪い子みたいだ。
学校の放課後、涼の病室に着くのは4時前くらい。面会時間は8時までだけど、6時のまずい夕ごはんの時間には配ぜんのおばちゃんが来るから病室にいないといけない。涼の部屋にお医者さんが来たり、SF映画に出てくるような機械で検査したりするのはだいたい午前だ。涼は良い子ちゃんなので、ぬきうちで看護師さんがやってくることもない。つまり2時間は好きほうだいできるのだ!
「なっ、なんでこんなことするの〜」
あっ涙のダムが決壊した!
雲ひとつない青空。太陽の下で涼の姿を見るのもはじめてだ。あの真っ白で無機質な病室に溶け込んで一体化していた涼が、ぼくが普段友だちとバカやってる何の変哲もない、草ボーボーの公園でボロ泣きしている。こういうの、シュールっていうんだよね。たしか。
ほんとうは、最初は病室から抜け出して中庭あたりで虫とりして遊べたらいいって思っていたけど、昨日の涼にあまりにもムカついたので、病院から抜け出すことにしたのだ。
友人たちの学校内かくれんぼのさそいを断り、ダッシュで走って病室に飛び込んだときも、パジャマが目立つからぼくの服に着替えろって渡したときも、涼は余裕だった。たぶん、あのロボットのような笑顔で乗り切れるとふんでいたんだろう。無理矢理病室から連れ出して、一階の男子トイレの窓から抜け出そうとしたときに、涼は最終奥義をくり出してきた。が、ぼくは涼の薄いほっぺをびょーんとひっぱって不敵に笑ってやった。ロボットが効かないとわかったときの涼の顔といったら! もう、最高だった。夢に出そう。
「遊びに来たに決まってんだろ!」
「えっ」
涼は丸い目をさらにまんまるく見開いて、固まった。まつ毛に涙がキラキラ光ってきれいだ……鼻水も光ってるけど。
「サッカーするぞ、サッカー」
ぼくはリュックからボールを取り出して、にかっと笑った。つられて涼も笑顔になる。
「ほんと!?」
さっきまでひどい顔をしていたのが嘘のように、無邪気にはしゃいでいる。ばかめ、人をうたがうことをしらないんだな。本当にいじめがいのあるやつ!
「けるから、少しはなれろよー」
涼は素直に2、3歩ひいた。虫を投げつけたときみたいに、わかりやすくワクワクしている。
下げて! ちょっと上げて! また下げる! のがぼくの作戦だとも知らずに。
「いーち、にーい、」
ぼくは涼を無視してボールをけり上げた。作戦、『うらやましがる涼の前でひとりで延々リフティング』だ。今日は涼を完膚なきまでにいじめたおして泣かせることを目標にしているのだ! ぼくは、昨日や、今までの恨みを忘れてはいない。根に持つ悪い子なのだから。ぜったいさっきよりもっとひどい顔にしてみせる。
きょとんとした涼が寄ってくる。
「ごーお、あっ涼近づくなよ。ボールに当たったらつづかないだろ」
「……」
「しーち、あのさー、ぼく、パスするとか一言も言ってないからね。涼みたいなモヤシにボール渡すわけないでしょ。バーカ。指くわえて見てたら? じゅーう」
「……」
作戦の予定では、ここで理不尽に耐えかねて、涼がそれはもう顔を真っ赤にして泣き出すはずだった、のだけど、いやに静かだった。
なんだなんだ、怒りのあまり一周回ってロボットに戻っちゃったのか? ボールを追いつつ、ちらりと涼を見ると、
「すごい、みはるくん! 何回つづくの!?」
また作戦失敗。泣くどころか、満面の笑みだった。ムカついたので、一回回ってけったり、頭や胸で受けたりとかして見せびらかしてみた。効かなかった。いい気分になんかなってないけど、めっちゃムカついてたけど、100回目でボールを落とした後、涼の鼻をつまむだけでゆるしておいた。
回想編、あと1,2話、のはず……!




