追憶彼女3
更新遅くなってすみません>_<
かくして、ぼくの涼大改造作戦がはじまった。ので、次の日の放課後またぼくは病院へやって来た。春が終わりかけていて、コンクリートからもやもやと陽炎が立つほど暑い外とはちがって、ここは涼しくてかわいたかんじ。ぼくみたいな子どもは他にひとりもいない。自分からケイドロの誘いをことわったのも、ひとりで病院にやって来たのも、はじめてだ。なんだか、わくわくする。みんなにはナイショで何かをするってこんなに楽しいんだな。すこし地に足のつかないふわふわした感じで涼の病室に入ったが
「……こんにちは」
ぼくの浮ついた気分はすぐにたたきき潰された。このごろふえつつあるしつこい蚊のようにぱしんと。
か細い声。図画工作の時間に見せられたモナリザっていうおばさんみたいな、へんてこな表情。2人きりならもう大丈夫だと思っていたのに! 本当ににくたらしいロボットめ。僕はすばやく用意していた最終兵器、セミの抜けがらを涼の顔に投げつけた。くらえ! 泣け! 怒れ!
「なにこれ!」
涼の顔はみるみるうちにほころんだ。やっぱり涼は変なやつだ。
作戦第一日目は、涼にセミの抜けがらについてあれこれと質問されて、ほめたたえられ、あこがれの目で見られ、いい気分で終わった。
……いや、ぼくがいい気分になっただけじゃ意味ないじゃん。気合を入れ直すのだ、観晴隊長!
一日たてば人見知りを発症する、ネクラを極めた涼のために、これから毎回最終兵器を投げつけないといけないのかな? と心配していたけど、作戦第五日目あたりからやっとなれたみたいでふつうに人間の状態でむかえてくれるようになった。でも尊敬の目で見られるのは気持ちよかったので、結局毎回ぼくは顔に投げつけるようにしてる。作戦は順調だ。涼はほとんどロボットになっていないし、涼の自由時間にいっしょに病院探検をしたりして、楽しい。放課後のつきあいが悪くなって、ときどきぶーぶー言われるようにはなってしまったけれど、我が友人たちよ、ぼくは秘密の味を知ってしまった男だからしかたないのだ。あきらめてくれ!
作戦第何日目か。今日の最終兵器はキリギリスだった。速攻で看護師さんにバレて怒られた。鳴く生き物はだめだったか……。昼休みまるまる使って学校の裏庭で捕獲した最終兵器は、ぎゃーぎゃーさわぐ看護師さんに窓から追い出されてしまった。まだ涼にほめたたえられる前なのに。大人はおうぼうだ!
ぷりぷり怒る看護師さんは鬼ばばあ(母さん)とくらべたら全然怖くない。怒りなれてないんだろう。言葉を発するたびに顔が真っ赤になるうえに鼻がぴくぴく動いている。やばい。ふきだしそう。うつむいてやりすごしていたら、だまっていた涼が口を開いた。あの、ロボットのような変化のない顔で。
「わたしが持ってきてって言ったんです。ごめんなさい」
看護師さんの怒りはすぐにしぼんで、『いい子』を見る顔になって、ぼくに二度としないようクギをさして出て行く。ぎっとにらみつけるぼくに、ロボットは表情を変えずに言った。
「みはるくん、ごめんね」
ぼくのかんしゃくだまが、破裂した。
「涼のばかっ」
「えっ」
突然どなったぼくにきょとんとしている涼をほうって、病室からとびだす。
ぼくがかってにやったことなのに。いっしょに怒ればよかったのに。いっしょにまた捕まえればよかったのに。作戦は成功したと思ったのに。楽しかったのに。楽しくなかったのかな。あんな顔して、涼はつらくないのかな。つらいはずなのに。わからないはずないのに。わからないのかな。どうして。
かんしゃくが暴れまわる。
ぼくが我にかえったのは、病院を出てすぐ。地面で死にかけのセミがいきなり鳴き出したときだった。
思い立ったことは、誰かを傷つけることでないなら、ごちゃごちゃ考えずにすぐにやるべきだって父さんはぼくに言う。
ぼくは、その死にかけのセミをつかんで、ダッシュで病室にもどった。
ぼくの手の中で静かにしていたセミは、涼の顔に投げつけた瞬間けたたましく鳴き出した。さすがの涼も悲鳴を上げる。
「明日は外に虫取りに行くからな! 覚えとけよ!」
作戦に困難はつきものなのだ。隊長はあきらめない。




