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追憶彼女2

 ぼくにはぜんぜん興味ないかんじだった幼なじみは、ヘビのぬけがらには興味しんしんだった。脱皮から観察したんだとはなすと、なんかきらきらした目でぼくを見つめてきた。こいつ、見込みがある。幼稚園のときはいっしょにありんこいじりにいそしんだ女子たちは、小学生になったとたんテントウムシごときにキャーキャー悲鳴を上げてさわぐつまんないやつらになってしまった。幼なじみはずっと病院にいるから、そんなつまんないやつらに染まってないみたい。そんけいの目で見られるのは、いい気分。


 それからは、今まで何回おみまいしたって気まずくすごしていたのがウソのように、お互いのことを話すことができた。

 というか、ほとんど涼がしゃべってた。


 病院のごはんがまずいこと、ときどき中庭に来るノラ猫がかわいいこと、お気に入りの日向ぼっこスペース、おもしろい患者さん。

 その合間にぼくを質問ぜめにした。

 かぞくのこと、涼の家のこと、学校のこと、ともだちのこと。

 とくに学校のことを知りたいみたいで、ぼくが話してやると、まん丸な目を見開いたり、またそんけいの目で見つめてきたり、くしゃりと笑ったりした。めっちゃいい気分だった。ロボットなんて言ってむかついてたけど、ほんとは涼とこうしたかっただけだって、やっと気づけた。


 涼はぜんぜんロボットなんかじゃなかった。表情のころころ変わる、なんでもないことをおかしがって笑う、ただの女の子だった。ちょっとどころでなくわりと変なところはあったけど、そこがおもしろくて、しゃべると楽しかった。


 大人は涼のロボットみたいな表情を見るだけで、涼ちゃんはいい子って言う。けな気な子って言う。でも今の方がぜったいにいい。今の涼を見たらかならず分かるはず。そう思っていたのに。


「ただいまー。ジュース買ってきたわよ」


「ありがとうございます」


 おばさんと母さんが病室に帰ってきたとたん涼はまたロボットにもどってしまったのだった。なんでだよ! おまえ、今の今まできゃっきゃ笑いながら話してたじゃないかよ!

 うすく笑いながらだまりこむ涼に、また気まずくなってしまって落ち着かなくなった。そんなぼくを母さんは冷ややかな目で見ていた。これはうちに帰ったらいつものように説教されるかんじだ。今日はいつもと違ったはずなのに!












 やっぱり涼はむかつくやつだ。わけわかんない。帰り道、またぶすくれていたぼくに母さんはあきれてる様子。


「さっさと涼ちゃんと仲良くしなさいよね」


 ふっふざけんなふざけんなふざけんな! 仲良くなったっての! 涼がロボットになったせいなのに、ぼくが聞き分けのない子みたいに言われるなんてひどい。あーあ、また涼ちゃんはいい子なのに〜みたいにしかられるんだろうな。あのロボットみたいな顔しか見たことないくせに。


「あのねえ観晴。あんた涼ちゃんのことが嫌いなわけじゃなくて、涼ちゃんと話せないのが嫌なだけでしょう。それをごっちゃにしてたらだめだよ」


 母さんのおだやかな言葉を聞いて、ぼくのいかりはおさまった。じゃあぼくが今むかついてるのはなんでだろう。涼がロボットじゃないってわかったのに。たくさん話せたのに。


「ぼく、涼のことだいきらい」


「あんたえーかぜんにしんしゃい! くらすぞ!」


 母さんが、ばーちゃんと同じ博多弁でまゆをつり上げる。博多弁は鬼ババになったサインで、怒りの鉄拳が待っているのだ。


「だから、好きになるためにまた病院行きたい」


「あらまあ」


 母さんはさっきの鬼のような顔がウソだったように、ニヤニヤと笑う。

 あのロボットみたいな"いい子"の顔をぶちこわしてしまって、大人たちをぎゃふんといわせてやる!

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