【04】
俺は今、北の洞窟に陣取っている医療班テントの中で右肩と右腕の骨折を、ガルヴァルデ族の僧侶に治療してもらっていた。
元々、ガルヴァルデ族は魔法は得意としてはいない。筋肉質な者たちが殆どで、無論魔法など扱える者などはいない為、ガルヴァルデ族の僧侶とは大変稀な人物である。
「よしっこれで大丈夫よ。動かして見て」
「あっはい……」
言われた通りに肩を動かす。
うん、痛くないし。違和感も感じる事はないな。
「大丈夫そうね」
「はい、ありがとうございます」
「リュウイたん?」
俺の足の裾を掴みながらウォルガフは、心配そうに見上げている。
何も言わず、俺はウォルガフの頭をクシャクシャと撫で回してあげた。
やはりウォルガフは、頭を撫でて貰うのが嬉しいらしい。
すごく喜んでくれている。
ウォルガフはと言えば、医療班に着くまでひたすら俺の背中でグッタリと眠り続けていた。
そもそも、何故俺たちが医療班テントにいるのかと言うと、少し話は遡るのであった……
ーーーーーー
「動くなっ!!」
北の洞窟から出て来た俺たちの目の前には、ガルヴァルデ族が多数いてあっという間に囲まれてしまったのである。
一体俺が何をしたというのだ。
「お前か!? ぺディリヴァ様の探し人とは!?」
「えっ?」
剣を向けながら一人のガルヴァルデ族は、俺にそんな事を聞いてきた。
「まぁいい、ぺディリヴァ様のご命令通りこいつだけ捕らえろ!!」
「はっ」
剣を持ったガルヴァルデ族は、上級士官なのだろうか?
命令を受けた他のガルヴァルデ族たちが、俺を捕まえようと近寄ってくる。
「違うよ……」
ロジェは後方から、ゆっくりと現れガルヴァルデ族を見上げていた。
「なんだ? お前は?」
「冒険者ランクS、ロジェだ」
「フォス族には関係のない話しだ! 邪魔だから下がっていろ!」
ガルヴァルデ族は、ロジェを蹴り飛ばそうと足を出したのだが……
ロジェはそれを、ヒョイっと飛び上がりガルヴァルデ族の顔面に一発……
殴り飛ばしたのだ。
悶絶しながら折れた鼻を抑えながら転げ回るガルヴァルデ族に、ロジェは淡々としていた。
「先に攻撃を仕掛けたのは、お前らガルヴァルデ族だからなっ!!」
「きっ貴様ぁ〜!!」
同志が倒されれば、逆上するのも当然の云われであって……
ガルヴァルデ族は無差別にロジェに飛びかかったのである。
うわっ……どっどうしょ……
ロジェがやられるとは思えないけど、やばいだろ……
「やっ……」
「やめろ!!」
俺が言う前に、先に静止を呼びかけた者がいた。
その者から放たれる空気はとても熱く、この場にいた者誰もが動きを止めた。
「ぺディリヴァ様!!」
ガルヴァルデ族は直ちに跪き頭を下げつつ、ペディリヴァに道を開けている。
そして、ぺディリヴァは跪いているガルヴァルデ族を見渡しながら……
「おい、お前ら……俺は勘違いしているのだろうか?」
「……」
「俺は戦闘を許可したか?」
「いえっ! 許可は降っては降りません!!」
「だよな? では、なぜ戦闘体制になっているんだ?」
「えっと……それは……この者たちは今しがた北の洞窟から出て来た者でございます」
「ふむ、それで?」
「ぺディリヴァ様が到着するまで足止めをしておりました!」
えっ? 今、ぺディリヴァって言った??
ガルヴァルデ族の種族王で、ムーンフェイズを統治している……
魔族四天王の一人ぺディリヴァですか!?
俺、ヤバすぎだろ。
なんとかして切り向けられないかな……
……
………
あっ!! 終わった………
普通に考えて、ロジェが黙っている訳ないだろ……
ぺディリヴァは、俺たちの方へと振り返る。
鍛え抜かれた筋肉に、ちょっとやそっとの攻撃など全く寄せ付けなさそうな全体的にがっしりとした体格。
ロジェと同様見ただけで、ぺディリヴァは武道家だと言う事がわかる。
「ふむ、生意気なフォス族二人と……」
俺と目があったペディリヴァは、鋭い目つき、あっという間に殴り殺されそうな殺意を持ちながら俺に聞いてきたのだ。
「お前何者だよ?」
「えっえっとお……旅の冒険者です」
「ふぅ〜ん」
ドキドキ……
不安と緊張で心臓が飛び出しそうなぐらい心音が激しい。
高鳴る心臓の音がぺディリヴァにも届いてしまうのではないか思ってしまう。
頼む! ロジェ、黙っていてくれ!!
「でっ? Levelとランクは?」
「Level.10にランクはDです」
「そうか……」
ぺディリヴァは、突然俺に深々かと頭を下げ始めた。
ガルヴァルデ族の種族王がだ!? とてもではないが、それは信じられない光景だった。
「ぺディリヴァ様!?」
ガルヴァルデ族も動揺を隠せないのであろう、ぺディリヴァに話しかけている。
「黙れ! 一体誰のせいで頭を下げていると思う!! 俺はお前らになんと命令を出した?」
「ぺディリヴァ様は『北の洞窟に到着するまでの間、洞窟内から出て来た者は一切手を出さずに足止めをしていろ』とのご命令でした!!」
「ならばなぜ! 命令を守らなかった!?」
「いや、それはその……」
「誇り高き我が種族に傷をつけるな!!」
その怒鳴り声は威圧感は凄まじく、脅威的だった。
俺は、もうこの場から今すぐにでも逃げ出したかったのだ。
だが足は震え意思とは反して逃げ出す事は叶わなかった。
もう、立っているだけでやっとだ。
「もっ申し訳ございません!!」
「……」
そして、俺にはあなた達の話についていけません………
「済まなかったな。旅の冒険者よ」
「いっいえ……」
「我が種族が勘違いしたようだ」
「勘違いですか?」
「あぁ……」
「あっあの、ペッ……ぺディリヴァ様はどうして北の洞窟に?」
「詳しい事は話せぬが、今俺は魔王様直々の命令によりある人物を探している」
「ある人物ですか?」
「そうだ。この北の洞窟より、その者と思われる気配を感じてな。駆けつけて来たのだ」
「なっなるほどです……」
「安心しろ、お前たちに危害を加えるつもりは毛頭ない」
「はぁ……?」
「フォス族は当然の如く論外だ。そしてお前は俺の探し人ではないという事はすぐにわかった」
「と言いますと?」
「お前からは、先程感じた驚異的な力の気配が全くしない」
「……」
大当たりなんだけど……まぁ感づいていないようだし。このままやり過ごそう……
「詫びと言ってはなんだが……その右肩、どうした?」
「せっ戦闘中にヘマしまして……」
「ふむ……では、向こう側のテントに医療班がある。手当てしていけ」
「いや、でも……」
俺としては、さっさとこの場から立ち去りたいです……
「折れているだろ? そのまま放置しておくと一生上がらなくなるぞ」
「!?」
そんな事を言われてしまえば、回復してもらいたくなる。
ここで戦闘になる事もないだろうし、俺はぺディリヴァの言葉に甘えて治療してもらう事にした。
「お言葉に甘えて治療させて頂きたいと思います」
「うむ」
「では……しっ失礼します」
頭を下げそそくさとその場から逃げ出すかのように立ち去ろうとしたのだが、ロジェはぺディリヴァを睨み続けていた。
「なんだ? フォス族?」
「別に……」
少し頬を膨らませながらも、ロジェは俺の後ろを歩いてきたのであった。
医療班テントへと入って行った俺たちは治療を受け、そして現在に至るのであった。
俺とウォルガフ、そしてロジェは北の森を出て、ムーンフェイズへと向かう事にしたのである。
ウォルガフはロジェは、嬉しそうに手を繋ぎ上下に動かしながら歩いている。
仲良し兄弟みたいだ……
「あっそだ。ロジェ」
「んっ? なんだぁ?」
「どうして、さっきはぺディリヴァに俺の事言わなかったんだ? どう考えてもあいつらの探し人は俺だって事、ロジェはわかっていただろ?」
「まぁな」
「なぜ、言わなかった?」
「カルヴァルデ族に恩を売った所で、何もいい事ないもん」
「ねぇー」
ウォルガフとロジェは顔を見合わせながら、そう言ってくる。
「あいつらは俺たちフォス族を、バカにしているし見下していやがる。そんな奴らに教えてやる義理はないね!!」
「……」
ふむ、カルヴァルデ族とフォス族の亀裂は大きそうだな。
俺的には、フォス族の方が可愛いから好きだけどな。
ガルヴァルデ族は、ごついし力こそが全てだっ!! という考え方っぽいからあまり好きにはなれないな。
でも、ぺディリヴァ……だっけ?
一個人としては、惹かれてしまうな。
あんな部下が大勢いる前で、最高権力者はそう簡単に頭は下げないだろう……
……ダメダメ。
いつか、倒すべき相手なのだから余計な事は考えないでおこう。
「それにさぁ〜」
「んっ?」
「リュウイさん、俺にご飯ご馳走してくれるって言っただろう?」
確かに、言ったね……
「あそこで、リュウイさんが捕まったら美味しいご飯にありつけないだろ?」
「ははははっ……」
確かにそうだな。
今頃……檻の中か、魔王の元に連れて行かれてた事だろうよ……
「今日はご馳走なんでちゅか? リュウイたん!?」
「……」
「そうだぞ、ウォルガフ。今日は俺たちの再開を祝して食べ尽くしそうぜ!!」
「わーい♪」
ウォルガフは両手を挙げ無邪気にはしゃいでいる。
そんな姿を見てしまえば、程々にね……とも言えず……
「……楽しみ?」
「もちろんでちゅ!!」
「もちろんさっ!!」
「……」
二人同時に言われてしまった。
まぁ見てて楽しいし、諦めるしかないか……
しかし、『転生者』は少し危険かもしれないな。
発動するたびに勘付かれてしまっては、近いうちに暴露てしまうな。
でも『転生者』は、パッシブスキルだ。
俺の意志とは関係なく条件を満たせば発動してしまう。
回復ポット……買い足しておこう………
「リュウイたん? ご飯まだなにょ?」
「早く街に行ってご飯食べよーぜ!」
考えごとをしている俺に二人はご飯の催促をしてくる、全く幸せな二人だ。
◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎◾︎◽︎
ムーンフェイズの街は、活気に満ち溢れていた。
いつもは、それなりに活気に満ち溢れてはいるが、今日は特に盛り上がっていた。
「オッ、今日は縁日の日でちぃたか!!」
「おぉぉぉぉぉ!?」
「縁日!?」
「そうでちゅ! 一ヶ月に一回広場で露店商の皆ちゃまが大盤振る舞いしてくれまちゅ!」
「へっへぇ……」
俺の財布も大盤振る舞いしそうだな。
「ウォルガフ、早速行こうぜ」
「うん!!」
「あっ、ちょっと待って」
「うちゅ?」
二人同時に頭を傾げながら俺を見つめてくる。
やべぇ……二人揃うと可愛さが倍増だ……
「なんでちゅか?」
「早く行かせてくれよなぁ〜」
「いやいや、行くのは言いけどお金あるの?」
「ないよぉ〜」
「ないでちゅ〜」
「……」
お金がないのに、突撃した所で何も買えないのにな……
泣きながらウォルガフが、『リュウイたん、お金頂戴〜」と言って戻ってくるのを目に浮かべてしまう。
「えっと取り敢えず銀貨五枚ずつ渡しておくから、食べ過ぎないように気をつけてね」
アイテムボックスから銀貨十枚取り出し五枚ずつウォルガフとロジェに渡しながら、俺は二人に忠告をした。
まぁ、効果はないだろうけど、一応ね……
一人銀貨五枚……普通に考えたらいい金額だ。
お釣りがくるぐらいの金額だとは思う。
……だが、ウォルガフを甘く見ては行けない。
銀貨一枚渡した所でウォルガフの事だ、絶対速攻で無くなり追加を要求して来る事だろう。
そして、ウォルガフと同じフォス族のロジェ……
彼もまた、ウォルガフと同等と考えておくのが無難だろう……
「わかりまちぃたぁ〜」
「リュウイさん、ありがとう!!」
俺に礼を言った二人は、大事そうに銀貨五枚を懐に入れると、あっという間に広場の方に駆け抜けて行くのであった。
お金、落とすなよぉ〜
と思いながら、俺はゆっくりと広場へと歩いて行くのであった。
広場へと辿り着くのは、至難の技だった。
人!
人っ!
人!!!
これでもかってぐらい人が溢れていた。
こんな中からあの二人を探すのかよ……
ウォルガフの言うとおり広場は多数の露店商で埋め尽くされ、食べ物や雑貨屋、武器、防具屋など様々だった。
特に長蛇の列になっていたのは、たこ焼き屋!
待ち時間どれくらいなんだろうと思ってしまう程だ。
取り敢えず、二人にはお金は渡してあるし失くなったら俺の所に戻って来る事だろう。
そう思い、俺は一番空いていた飲食屋に足を踏み入れたのである。
しかし、その味は………
超不味かった……
銅貨20枚払ったのだが、めっちゃくちゃ不味い……
一口だけ食べた俺は何も言わず、箸を置きその場から離れたのであった。
安すぎたり、人気がない露店はダメらしい。
しかし、俺は並ぶのは嫌いだ。 時間と労力の無駄だし。
だが、どこもかしこも平均十分から二十分待ちな所ばかりであった。
半分諦めながらも長蛇の列とまではいかないが、それでも十五分程並び漸く椅子に座る事が出来た。
払った金額は銅貨35枚。
まぁ味はそこそこで、それなりにお腹を膨らませてくれた。
フゥ〜と一息尽きながら、膨れたお腹を摩りながら辺りを見渡していると、
「ジャンケン大会、参加者募集中でーす! もう少しで受付終了しますよぉ〜どなたかいませんかぁ〜」
そんな呼び声が聞こえてきた。
「あのジャンケン大会って?」
「ジャンケン大会はですね……」
どうやら縁日には催し物は定番中の定番らしい。
催し物は一ヶ月に一回縁日の日だけ行わられ、今月はジャンケン大会との事だ。
他には力自慢大会、武器自慢大会、美貌自慢大会、かくれんぼ大会などと言ったものがあるらしい。
力自慢勝負となれば、俺には勝ち目がなかったがジャンケン大会となれば、力は関係無い。
早速参加申し込みしてみようと思った。
「参加費、銀貨一枚ね」
「えっ?」
高くねぇ!?
「払えないなら辞める?」
いや、辞めないけどさっ……
でもたかだかジャンケンに銀貨一枚って……
ボッタ??
「いや、参加します」
「まいどぉ〜じゃこれ持って参加者待機室に行ってね」
ジャンケン大会参加証と書かれた紙を受け取り、俺は言われた場所へと向かう事にしたのであった。




