第21話「圧力」
ゴブリンキングの周囲に、魔力が集まる。
空気が歪みはじめた。
次の瞬間、その身体が、ゆっくりと宙に浮いた。
ロレッタ「……浮いてますわ!?」
カイル「魔法……?」
ヘイム『来るぞ!!』
ゴブリンキングが手をかざすと、その手に魔力の光が発される。
ガルド「全員」
ガルドの声が響く。
ガルド「避けろ!!」
ゴブリンキング「消えろ」
その掌から、圧縮された魔力が解き放たれた。
ドォン!!!
地面が抉れる。
爆風が森を薙ぎ倒した。
リィンは地を蹴り、横へ飛ぶ。
ロレッタは転がり、衝撃を逃がす。
カイルは木の影に滑り込んだ。
余波だけで、息が詰まる。
ロレッタ「ありえませんわ!」
カイル「魔法は属性を伴うのが当たり前なのに」
リィン「……重い」
ヘイム『ただの魔法じゃねぇぞ……!』
その隙を、下にいるゴブリンジェネラルは逃さない。
「ギャァ!!」
二体のゴブリンジェネラルが同時に襲いかかる。
ガルドが斧で受ける。
ガルド「ちぃっ!!」
衝撃で地面が割れる。
もう一体がロレッタへ。
ロレッタ「くっ!!」
剣と手斧をクロスさせ、構える
ドゴンッ!!
ロレッタの身体が木の方向に吹き飛んだ。
カイル「ロレッタさん!!」
ワイヤーが伸びる。
空中でロレッタの身体を絡め取り、引き戻す。
そのまま木に激突する寸前で止めた。
ロレッタ「……助かりました」
カイル「む、無理しないでください……!」
リィンは膝をついて、銃を構える。
照準はロレッタを襲ったゴブリンジェネラル
ゴブリンキング「させないよ」
軽く、手を払った。
風が走る。
見えない衝撃がリィンを襲った。
リィン「っ……!」
体勢が崩れ、照準が逸れる。
ヘイム『リィン!!前だ!』
こちらに気付いたゴブリンジェネラルが走ってくる。
ガルド「カイル!!」
ガルド「ロレッタを治療せい!!」
ガルド「リィン!!」
ガルド「ジェネラルを任せてよいか!?」
リィンは短く頷く。
リィン「……任せて」
ガルドは一体を引き受ける。
ガルド「お前はワシとダンスじゃ」
斧が唸る。
残る一体のジェネラルとリィンが対峙する。
リィン「私がやらないと…」
ヘイム『まずは距離をとれ!』
リィンが一気にバックステップをする。
そのまま、魔弾が放たれた。
魔弾は顔から逸れて、ゴブリンジェネラルの肩を吹き飛ばす。
リィン「…外した」
ゴブリンジェネラルが吹き飛ばされた肩を抑えている。
ヘイム『残りのストックは2発だぞ!』
リィン「……十分」
次の瞬間、リィンの目の前が何かで見えなくなる。
ゴブリンジェネラルが腕をちぎってこちらに投げていた。
血を目に浴びたリィンの視界が失われる。
リィン「くっ…」
ヘイム『そのまま、真上に飛べ!』
ゴブリンジェネラルの手がリィンを掴もうとしてたが、すんでの所で空中に逃げた。
リィン「……っ!」
ゴブリンジェネラルが上を向いてリィンに狙いを定める。
空中、体勢が整わない。
ゴブリンジェネラルが腕を振りかぶる。
ピンッ!!
ワイヤーがゴブリンジェネラルの腕に絡みつく。
カイル「……今です!!」
そのワイヤーを足場にしてロレッタが跳んだ。
ロレッタ「はぁぁぁっ!!」
回転しながら、剣と手斧が振るわれる。
ザンッ!!
首が断たれ、ゴブリンジェネラルの巨体が崩れ落ちた。
ロレッタが華麗に着地する。
カイルはその場にへたり込む。
カイル「……む、無理です……もう……」
リィンが静かに立ち上がる。
リィン「……ありがとう」
ロレッタ「初めてお礼を言われましたわ」
リィンは恥ずかしそうに顔を背けた。
上空ではゴブリンキングが、こちらを見下ろしている。
ゴブリンキング「……なるほど」
ゴブリンキング「駒としては使えそうだ。」
そこに何かが投げられる。
ゴブリンジェネラルの頭だった。
ゴブリンキングは頭を掴み、握り潰す。
ガルド「これでお前一人じゃな」
ガルドがゴブリンジェネラルを仕留め、投げていた。
ガルドの周りにリィン達が集まる。
ガルドが低く呟く。
ガルド「気をつけろ」
ガルド「……此奴、まだ本気ではない」
リィンは銃を構える。
指がわずかに止まる。
ヘイム『……感じるか?』
ヘイム『こいつ、“次元が違う”』
戦場に本当の“圧力”が降りていた。
ガルドの斧が唸る。
ガルド「ワシが前に出る!ロレッタは隙を狙え!」
ガルド「リィンは援護、カイルは牽制」
全員「了解!」
ガルドが斧を振り上げる。
ゴブリンキングは腕を組んだままバリアでそれを防ぐ。
ゴブリンキング「まるで獣だ」
ガルド「ぬかせ!」
ガルドは力任せに振り抜く。
ゴブリンキングは斧に吹き飛ばされる。
そこにロレッタが追撃を与える。
ロレッタ「いきますわよ!」
ゴブリンキング「…ふん」
ロレッタはバリアで簡単に防がれる。
ロレッタは身を翻し、ゴブリンキングから下がる。
ガルド「あの透明な壁が厄介じゃな」
ガルドは悩む。
ゴブリンキング「逃げるか?」
ガルドはニヤリとする。
ガルド「カイル」
ガルド「目眩ましじゃ」
カイル「は、はい!!」
カイルが懐から玉を取り出し、地面に叩きつけた。
パァンッ!!
閃光。
視界が白に染まる。
その瞬間、ガルドとロレッタが跳んだ。
ガルド「うぉぉぉ!!」
ロレッタ「貰いますわ!!」
斧と刃が、同時に振り下ろされる。
しかし、止まっていた。
ゴブリンキングは変わらず腕を組んでいる。
二人の斬撃は、透明な壁にヒビを入れた。
ゴブリンキング「……」
ドゥン!
ガルドとロレッタの身体が、同時に弾き飛ばされた。
カイル「ガルドさん!!ロレッタさん!!」
二人は地面に叩きつけられた。
土が舞う。
ガルドが、ゆっくりと膝をつく。
息が重い。
ガルド「……この魔法は……」
ガルド「……もしや、古代魔法か?」
ゴブリンキングが、口元を歪める。
ゴブリンキング「…ああ、面倒だ」
その瞬間。
“それ”の姿が、歪んだ。
ゴブリンキング「興が削がれた。」
肉体が揺らぎ、骨格が変わる。
肌の色が剥がれるように落ちていく。
ゴブリンではなく、一人の男の姿に変わった。
整った顔、痩せた体。
だがその目だけが、濁っていた。
カイル「……人間……?」
リィン「……」
ヘイム『気持ち悪いやつだな』
男はゆっくりと肩を回し、首を鳴らす。
まるで、着ぐるみを脱いだ後のように。
男「窮屈で仕方なかったのだ。」
男「やはり、この姿の方が楽だな」
その男は、ゆっくりとまた腕を組む。
男「我こそ、古代魔法の使い手」
マルクス「マルクス様だ」
その声は、完全に人間のものだった。
ガルドが呟く。
ガルド「……最悪じゃな」
戦場に立っていたのは、ゴブリンでも、魔物でもない。
“人間の狂気”だった。
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