覇者と影法師
あれから、シャドーが変わった。強くなる事や勝利に貪欲になっていったり、戦い方が少し荒々しくなったりした。
そして、ディノールを倒してから数年の月日が経った。俺らはとある場所に来ていた。それは、摩天楼のような山だ。俺らが呼ぶ「力の頂」と呼ばれるこの山の頂点には、一つの光源体があり、それは力のあるものに更に力を一度だけ与える。光源体に触れた者は、光源体が「光」「闇」「火」「水」「風」「土」の中から最も適している力を一度与えるらしい。だが、力があっても必ず力を与えて貰える訳ではない。良く分からない。
俺らは力の頂を登り始めた。登り始めて何分経っただろうか…十分なんてレベルじゃない。三十分、下手したら一時間とかそれくらい登り続けた。そして俺らは頂点に到着した。頂点では、球体である光源体が浮遊していた。浮遊と言うよりは浮かんでいた。支えなどは無いが、時が止まったかのように空中で静止していた。
「イナズマ…どっちから触る?」
「俺はどっちでも良いが…」
「…頼む、先に触ってくれ」
「分かった」
俺はそれに触れた。すると、それは綿のように柔らかく、スッと手が中に入った。その時、俺の体が光に包まれた。そして、俺はあまりの眩しさに目を瞑った。そして目を開けた瞬間、俺は真っ白な世界の中に居た。どこが上でどこが下か、俺は立っているのか横になっているのか、ここはどこでどうしてここに居るか、俺は理解できなかった。ただ、この空間はただただ心良かった。
その時、白銀の光の筋が数本絡まったような線のような物が俺の目の前に現れた。そして、それの中央には、少し白が入ったウルトラマリンブルー色の何かがあった。俺はそれに右手を差し伸べた。そして、俺はそれを掴んだ。
その刹那、俺は現実世界に戻ってきていた。そして、俺の右手首には、見たことの無いブレスレットがあった。白銀をベースとして、少し白が入ったウルトラマリンブルーの宝石が埋め込まれているブレスレットがあった。俺はブレスレットをマジマジと観察する。
「なんだコレ…」
「お前…!それ!!!『英雄の証』だよ!!!」
「英雄の証…?六属性の力が貰えるんじゃないのか?」
「六属性の内の一つの『光』の中で、宇宙でたった一人しか手に入れれない伝説の武器だぞ!」
「武器?こんなブレスレットが?」
「良いか?そのブレスレットは光属性の技を全て自由自在に使うことができるんだ。そして、真の仲間を手に入れた時、本当の力を発揮するんだ」
「そうなのか…」
「お前が死んだら、それは消滅する。そして、前の持ち主はこの星の時間の流れだと、百億年前だ」
俺はブレスレットの宝石部分を撫でる。
「イナズマ、それを手に入れた奴は、宇宙の聖なる支配者…言うなら『勇者』となる資格を持っている奴だけだ」
「勇者、か…」
「流石だぜ!イナズマ!!!」
「そんな大層な存在じゃない気がするけどな…多分、この光源体はインチキだ」
「そんな事を言っていたら、天罰が来るかもしれないぞ?」
「あっそ。それより早くお前も触れよ」
何故か、俺は体は胸騒ぎを覚えていた。嫌な予感がしたからだ。今までの人生の中で、一番嫌な予感がしていた。だから、早く安心したかった。シャドーも光属性とか、そういうのを貰って欲しかった。またこいつと、父さんと、母さんと、皆で今までと同じ、幸せな生活をしていたかった。
シャドーが光源体に触れる。その時、シャドーが光源体に触れた腕の手首…シャドーの左手に、俺のブレスレットとは真逆の色の…黒鉄色をベースにして、少し黒が入った紅色の宝石が埋め込まれているブレスレットがあった。シャドーはそれを見ると、悲しみや苦しみなど、色々な感情が合わさった瞳になった。
「イナズマ…俺、どうやら、お前の対となるっぽい…これはお前のブレスレットの力を全て『闇』にしたブレスレットなんだ…そして、これを手にした者は『魔王』の資格がある奴だけなんだ…」
「…それがどうした?」
「…は?」
「お前は俺の弟だ。この光源体はインチキだ。お前が魔王なんかになる訳無いだろ?お前だって、宇宙の平和を作るために戦って来ただろ?な?」
俺はできるだけ、こいつを前向きにしようとした。だがそれは、シャドーにとっては逆効果だった。
「うるせぇよ!!!お前に何が分かるんだよ?!」
シャドーの怒鳴り声に、俺は目を見開き言葉を失った。
「お前は光で、俺は闇なんだよ!!!その憐れむような目をやめろぉ!今にも死にそうな小動物に情けをかけるようなそんな目をやめろよぉ!あの日から…ディノールがお前の左目を使い物にならなくしたあの日から!ずっと思ってたんだよ!もっと…俺を責めろよ!お前の優しさが、俺を苦しませてるんだよぉ!!!父さんの目も、母さんの目も、大嫌いだ!特に、お前の目が大嫌いなんだよぉ!!!」
次の瞬間、俺に向けてシャドーはウルシウムシュートを放ってきた。俺は後ろに跳び、力の頂から跳び下りた。すると、シャドーも跳び下りてきた。
「シャドー、落ち着け…」
俺がそう言うと、ブレスレットの宝石部分からエネルギーが出て、それは盾になる。
「お前や父さんや母さんは何も思わなかっただろうな…けど、他の奴らはどうだ?!この星の奴らは、昔から才能に恵まれたお前を称え褒め、お前と同じくらいの才能の俺には見向きもしなかった!確かに、俺は顔つきが悪かったり、人と接するのが苦手だっただけで、皆から蔑まれたんだよ!!!お前の左目が使えなくなったあの日から、他の奴らは『シャドーのせいだ』だの『あいつさえ居なければ』だの…!!!俺だって頑張ってるのによぉ!!!!!」
シャドーの中にあった負の感情が、言動として出てきた。そして、シャドーのブレスレットからは赤黒い光の剣が現れた。
「決めた…!今決めた!お前を殺して!この宇宙もぶっ壊して!!この宇宙の全ての生命が俺を舐めれなくさせてやるぅぅぅ!!!」
シャドーは俺に斬り掛かってきた。俺は盾でシャドーの剣を防ぐ。そしてシャドーの腹を殴った。シャドーが俺に殴りかかる。俺はシャドーの拳を受け止める。そしてシャドーを投げ飛ばす。
「良い加減負けてくれよ!!!お前は一体何なんだよ!!!」
「お前のお兄ちゃんだ」
「兄なら弟に花を持たせてくれよ!!!」
俺は言葉を発する事ができなかった。簡単な単語すらも出なかった。そして構えていた盾を下ろしてしまった。
「お前を殺す…だが、いつも一緒に戦ってくれた優しい兄だ…時間をやるよ…一ヶ月後、俺はお前を殺す。もう俺はただのシャドーじゃねぇ…今、この瞬間、俺は影法師のシャドーとなった!精々、余生を楽しむんだな!」
シャドーはどこかに飛んで行ってしまった。俺は声を発する事も、追いかける事もできなかった。俺は元気がないまま、家に帰った。
「イナズマおかえり!力の頂はどうだったんだ?って、あれ?シャドーはどうした?」
俺は事情を全て話した。
「そうか…イナズマ、お前はどう思っているんだ?」
「そう思っているって…何がだよ…」
「どう動きたいかって事だよ」
「…分からなくなった」
「そうか…なら一つ、頼み事をしてもいいか?」
「あぁ…」
「恐らく、俺と母さんじゃシャドーを戻すことはできないだろう…それに、俺らには戦う力は残っていない…だから息子に息子を頼むのはおかしいかもしれないが…頼む、あいつと一緒に生きて帰ってきてくれ」
「分かった…でも、俺は弱いから…」
「…分かった。俺の古い知り合いに頼んでみる…恐らく、今までお前が会った中で最も強い奴だ」
「そうなのか?」
「あぁ…名前は澄火瑠だ」
あれから翌日、俺は母星の兄弟星である星に来ていた。全体的に赤い砂漠という感じの星だった。俺は適当に歩いていた。父さんが言うには、この星に来て歩いていたら相当運が悪くない限り出会えるらしい…少し投げやりと言うか無責任と言うか…
その時だった。俺の目の前に、全長2m15cm程度の怪物が現れた。表皮は黒色でゴツゴツとしており、頭頂部、背中、両肘、両膝からそれぞれ一本の骨色の鋭利な剣が飛び出していた。何だよこいつ…!ただ一つ分かる事がある。こいつの目は、ディノールの目と同じように、鋭く邪悪な目だった。恐らくこいつも、好戦的な野郎だろう。
その時、そいつは咆哮を上げ、俺に向かって走ってきた。そして右肘の剣を切り裂こうとしてきた。俺はバク転をして剣を避ける。俺は拳を握る。奴の目がギラリと光った。俺はジェスチャーで「来いよ」とやった。すると、そいつは馬鹿正直に俺に突進してきた。俺はそいつの頭に回し蹴りを当て、そいつは横に倒れ込んだ。
そいつが起き上がる。その時、そいつは自分の右足を軸として回転し始めた。回転速度は速くなっていき、まるで刃物のついた生きる駒と化した。触れればすぐに手が斬られるから無闇に攻撃できないし、ブレスレットはまだ良く使い方が分からないし…どうするのが正解なのか…
「シンプルが故に厄介だな…」
使える手だけで倒すか…ウルシウムシュート、ツインブレイクショット、ブレスレットの盾…俺は試しにツインブレイクショットを放った。だが、奴の剣は「攻撃は最大の防御」と言わんばかりにツインブレイクショットを跳ね返した。
ウルシウムシュートを使うべきか?いや、それも跳ね返されたら面倒だ。盾を使うべきか?盾で今更とうなるって…いや、勝てる!ブレスレットは盾を出す。そして、俺は盾を構えたまま突進した。その時だった。盾が奴の回転を止めた。剣が盾に引っ掛かったのだ。
俺は奴の剣を掴む。そして、剣を叩き折った。そして、俺は奴の首を掴み、背負い投げをした。そして奴が立ち上がる前に、奴を持ち上げ、地面に叩きつけた。そして再び立ち上がる前に腕を掴み、近くの崖に叩きつける。
俺は距離を取った。奴は立ち上がった。そして、一目散に逃げて行った。
「ふぅ…なんだったんだよ、あいつ」
「あいつはブラギラスク。この星に住む生命の一匹だ」
「誰だ?!」
俺が独り言を呟くと、誰かがその独り言に反応した。俺は辺りを見渡す。
そして、近くの崖の上に、一人の老人が立っているのが見えた。
「あんたが父さんが言っていた澄火瑠って奴か?」
「いかにも…俺が澄火瑠だ」
「俺を強くさせてくれ」
「何故強くなりたい?」
「弟を自力で止めれるようになりたい」
「何故だ」
「俺があいつを狂わせた。歯車を乱した。なら俺が戻すべきだろ?」
「何故だ?」
「なるほどな…」
「何故だと聞いているんだぞ」
「先に言うが、俺には才能も時間も無いんだよ」
「ならば尚更早く言え。何故、お前は弟を狂わせた?歯車を狂わせた?」
「俺が未熟で弱く馬鹿で生半可の優しさを持っていたからだ」
「何故だ?」
「それが最善だと思っていた」
「何故だ?」
「俺は不器用だからそれしかできなかったんだよ」
「何故だ?」
「一つ聞かせてくれ。物事にそんなに理由を見出していると、人生がつまらなくなるぜ?」
「何故だ?」
「何も考えずに行動したって良い事もあるんだよ」
「………ワシは昔、お前が使うブレスレット使いと知り合いだった」
「何の話だ?」
「理由は聞くな。お前が言ったんだぞ」
「………」
「そいつはまさに光の覇者と呼ぶに適した奴だった。全てを守ろうとし、全てを守り抜いてみせた。どんな邪悪ですら、奴の光を浴びると静かになったものだ…お前はどう思う?」
「どう思う、とは?」
「そいつと自分を比べ、自分はどういう人間だ?」
「自分の弟を闇堕ちさせるような奴が、ヒーローになれると思っていると思うか?」
「そんな奴も居るだろうな」
「俺はそんな奴じゃないぜ、澄火瑠!」
「…俺にそんな態度を取ったのはお前が始めてだ…良いだろう。稽古をつけてやる。厳しいものになるがな」
「承知の上だぜ」
その日から澄火瑠…いや、澄火瑠さんの稽古が始まった。正直に言って、今までの俺の戦い方が赤ん坊のじゃれつき方だと感じる程にこの人は強かった。
戦い方は面白い。てか理不尽に近い。攻撃をまずは全て防ぐか回避をする。そして相手に隙が生まれた瞬間、二度と攻撃をする暇を与えないように攻撃を与え続けるというのだ。
だがそんなのは理不尽のうちの極一部だった。攻撃をする時は相手の関節が骨を壊しに行く。俺の光線技やブレスレットは言語道断。攻撃は肉弾戦のみだ。防御をする際は最小限の無駄の無い動き。回避も同様だ。
澄火瑠さんに稽古をつけてもらって三日が経った。澄火瑠さんが手を抜かず本気で殺しに来ていたら、今頃軽く一万回は殺されているだろう…レベルが高すぎる…




