ハーレムエンドはお断りです
とある国のとある学園、とある卒業式の後のパーティーで、とある国の第一王子とその側近が、とある女生徒を守るように立ち、目前に並ぶ女生徒を怒鳴りつけていた。
「アイリス!
貴様は公爵令嬢でこの私の婚約者と言う立場にありながら、マリアーナを虐めていたそうだな!
色々と意地の悪いことも言っていたと聞いたぞ。
そんな性悪な女性を国母にする事など出来ぬ!
よって婚約破棄とさせてもらう」
「……オリバー殿下、わたくしはそんな事しておりませんが、どう言っても信じていただけいのでしょう」
アイリスと呼ばれた令嬢は、漏れたため息を扇で隠す。
「カメリア、君はマリアーナの教科書を破ったり、カバンをゴミ箱に捨てたりしたそうだね。
そんな陰湿な嫌がらせをする人と婚姻を結ぶのは無理だ。
婚約を破棄させていただく」
宰相子息が冷たい視線を投げる。
「コージー様、私がやったと言う証拠でも有るのでしょうか?
まさか、マリアーナ様の発言だけでは無いでしょうね」
カメリアは冷静に返すが、宰相子息は無言だ。
「サティア!お前はマリアーナに足を引っ掛けて転ばせたり、あまつさえ階段から突き落としたそうだな!
この犯罪者め!
そんな奴と婚約なんかしてられるか!」
騎士団長次男のソルフィーが大声で怒鳴る。
「は?やってないってーの。
つーかやってらんねー」
女性にしては背が高い、辺境伯令嬢のサティアはそっぽを向く。
その脇腹を隣にいたカメリアが「言葉遣い!」とつつく。
「ターニア、君がまさかマリアーナの飲み物に毒を盛ろうとしていたなんて……。
そんな恐ろしい事を考える人を伴侶として迎えるなど、神も許しません。
よって婚約破棄をさせていただきます」
「トールー様、どこでそのような与太話を聞いてきたかわかりませんが、婚約破棄は承りますわ」
神官の養子であるトールーが、伯爵令嬢を攻める。
「ナンシー、君を信じていたのに、破落戸にマリアーナを」
「いや、もういいです、婚約破棄ですね、全然OKです」
大商会の跡取り息子のノーマンの言葉を遮ったのは、婚約者で子爵令嬢のナンシーだ。
それぞれが婚約破棄を告げ終わったのを見て、第一王子が満足げにうなづき、元婚約者の令嬢達に告げる。
「勿論婚約破棄もだけど、お前達はそれぞれ罪を償ってもらう。
罰則についてはそれぞれの家に伝えよう」
ドヤ顔で言い切った王子が、背後に居た男爵令嬢であるマリーナを振り返り、満面の笑顔で両手を広げた。
「さあ、マリアーナ、これで君の憂いは全て晴れた。
安心してこの腕に飛び込んでくると良い!」
はー、流石乙女ゲームの攻略者、顔面偏差値高いねぇ…………………って、ちょっと待てい!!
え?私に向かって手を広げてる?
あれ?私?
私って、マリアーナ?
え?私って悠依花だよね?
周りにいるキラキライケメンって、大学生になったから、そろそろ乙女ゲームも卒業しなければ、と思いつつ、ついついジャケ絵とレビューで買ってしまったあのゲームの攻略者だよね?
あの、絵と声だけで、内容ペラッペラのあの乙女ゲーム。
実はPCからの移植で、PC版のハーレムルートはガッチガチの18禁で、その要素がなくなったら一気にクソゲー扱いになったあのゲームだよね?
そしてクソゲーとのレビューを見て、つい興味を引かれたけど、レビューって大切なんだなぁとしみじみ実感させられたあのクソゲーだよね?
あまりにものクソさに、ついついPC版を中古で買って、ハーレムエンドやっちゃった、あのエロゲーだよね?
そして今、ハーレムルートの断罪(婚約破棄)が終わったところ………?
ヲ ワ タ
ゲームはするし、アニメも見るけど、それはれ、現実とちゃんと別物だって理解して楽しむタイプなの、私って。
だって現実は、父親の度重なる浮気で、家庭内ぐちゃぐちゃで、中学の時には両親離婚したし、母子家庭だったのに、母親が若い男にいれあげて、その男に襲われそうになったり、そのせいで母親と険悪になって祖父母に引き取られるしで、家庭環境最悪だったのよ。
だから、ゲームやアニメでたまに現実逃避して、リフレッシュしたらまた勉強やバイトに頑張って生きてきたのに、いつの間にか死んじゃったの?
だって気づけば【今ココ】状態なんだもん。
そんでもって、このまま黙っていたら、18禁エロエロルートに…………絶対イヤーーーーーーーー!!!!!
父親の浮気や、クソ男に襲われかけてから、リアルな男って苦手なのよ。
恋愛やエロは、二次元だから良いのよ。
でもまあ、そのうち(30過ぎくらい?)には立ち直って結婚してるかもしれないけど、まだまだ傷が癒えてないから、男なんて御免被る! なのよ!
画面の向こうを他人事として見てニヨるくらいがいいの。
だからこのまま黙ってなんかいられない!
それに、コイツら(攻略者)要は浮気者なんでしょ?
政略結婚だとしても、許嫁いるのに他の女にうつつを抜かしているんでしょ?
絶対無理!!
このルート壊してやる!
ヒロインである私が【ざまぁ】してやるーーー!!!!!
私は一つ息をつき、まずはノーマンに狙いを定める。
「ノーマン様」
「なんだい、マリアーナ」
あー、この攻略者には随分貢がせていたよなぁ、サイテーだ、元の私。
「私、破落戸などに襲われた覚えありませんけど」
「………え?」
「第一私、寮生ですから、一人で町に行くこともないですし」
と言うか、あんたらがゾロゾロ付いてくるから、一人の時間なんてほぼ無いし。
だからこそ
「ソルフィー様」
「どうした、マリアーナ」
「一人で学園外を出歩かないだけではなく、寮までも【いつも】皆様が送り迎えしてくださっていますよね?」
「そんなの当たり前だろ」
「ソルフィー様とはクラスも同じなので、教室の移動もご一緒して下さっていますよね?」
当然と、大きく頷く脳筋。
「なら、私は一体いつサティア様に転ばせられたり、階段から落とされそうになったのでしょう?」
ほんっっっっとに一人の時間はトイレの中しかないんだから。
下手したら女子寮の部屋にも忍び込んで来るし、トイレの前まで付いてくるし!
それを喜んでた前の私!
頭おかしくない?
「トールー様」
「はいっ!」
少々気の小さい所のあるトールーが、直立不動になって返事をする。
「ターニア様が毒を……とおっしゃいましたけど、一人で居ることもない、いつも皆様がいらっしゃる、あまつさえ食べ物も飲み物も皆様がお持ちになった物以外口にすることのなかった私に、毒を守ることなど可能なのでしょうか?」
なーにが『俺たち以外の人から貰ったものを口にするなんて許せない!』よ、寮の食事まで『毒味を』なんて言って、みんなが口をつけた残り物を人に食べさせて、しかも『あーーーん』なんて、私は幼児か、介護老人かってもんだい。
………それを喜んで受け入れてた私って、変態かよ…。
さて、次次。
「コージー様」
「な…何かな?」
ちょっときょどるコージー。
「私、教科書持ってないのですけど」
「え……?……………あっ!」
どうやら思い出した様だ。
「私に荷物を持たせたくないとおっしゃって、カバンも教科書もコージー様がお持ちになられましたよね?」
そう、私の教科書やノートなどの授業の準備は、クラスも違うのにコージーがやって、それを持ち運びするのは脳筋。
『君のその華奢な手に重い物を持たせたくない』とかなんとか言って、出会ってすぐに全部回収して行った。
私物を持って行くって、頭おかしくない?
………変な事に使ってないよね?
さて、最後か。
「オリバー様」
「な、なんだい、マリアーナ」
笑顔が引き攣っているよね。
最後だし、思いっきりいっちゃおうかな〜。
「アイリス様が私を虐めていたとかおっしゃいましたけど、今までのことを踏まえて、可能だと思われますか?」
いや……とかなんとか口ごもりながら目を逸らす。
「そもそもですね、公爵令嬢で殿下の婚約者のアイリス様が、私に文句を言ったとしても当然の権利ではないですか。
階級社会において、王族の次に位の高いご令嬢が、平民として育ってきた男爵家庶子の私に、婚約者の居る異性に近づく女に物申すのは当たり前でしょ?
だいたい悪口を言ったからなんだと言うのですか?
お茶会や夜会に行けば、他人を貶める話題ばかりなのに、学園で風紀を乱す者を少々悪し様に言ったからと言って罰するとか、それこそ身分を盾にきた行為なのではないですか」
『せんせー、◯◯ちゃんが悪口言うんですー』ってか?
ほんとお子ちゃま。
「大前提として、婚約者が居るのをわかっていて近づいた私が一番悪いとして、ホイホイと引っかかるあなた方はどうなんですか?
これが他国のハニートラップだとしたら、どうなっていたと思うのですか?
次代を担うあなた方がこの様では、国の未来は不安でしかないですよ」
ちょっとアケスケに接したからって、ボディタッチが頻繁にあったからって、『男を喜ばすサシスセソ』を多用してたからって、マジチョロ過ぎ。
「それに比べて、元婚約者の方々は取り乱したりもせず、とても堂々としていて素晴らしいじゃないですか。
正直言ってあなた方には勿体無いです。
この様な方々に見切りをつけて正解ですよ」
ほんと、こんなチョロメンより全然素敵だと思う。
【アカサタナ】さんたちは、扇で顔を隠しながらも少し嬉しそう。
それに比べて【オコソトノ】たちは、冤罪をふっかけたのを全て【私】にバラされたのが頭に来たみたい。
「マリアーナ!我々は君のために彼女たちと別れようとしたのに嬉しくないのか?」
「勿論嬉しくなどございませんが?」
「僕たちのこと好きと言ったのは嘘なのかい?」
「みんなに同じように言ってる時点で気づけよって感じなんですけど?」
「女友達のいないお前の事を守ってやってただろう」
「そもそも、あなた方に囲まれてるから友達ができなかったのですが?」
「君がそんな子だと思わなかったよ」
「表面だけで判断するからですよ。
勉強になりましたね」
「プレゼントあんなに喜んでくれたじゃないか」
「貰える物は貰いますが?」
「そもそもですね、あなた達五人で私は一人、一夫一妻制で、王家以外は側室も持てないこの国でどうしようと思っていたのですか?
ペットのように五人で私を飼うつもりだったのですが?」
実際ハーレムエンドは、五人でヒロインを囲って、軟禁して、めくるめくエロスの世界、サンピーゴーピー当たり前で、色々使ったり、後ろから前からどうぞだったりのエロエロシーン満載で、ほぼ…いや、完全にエロDVDだったもんね。
乙女ゲームという名の女性向けエロゲーだったもんね。
そんなのごめん被る!
「貴様……!」
おっとオージサマがキレちゃった。
「不敬罪で処罰しますか?
無罪な女性に冤罪をかけ、契約であるはずの政略結婚を壊しておいて、図星をさされて下級貴族を処しますか?」
「うぐっ……」
おー、リアルで『うぐっ』なんて初めて聞いた。
いやいや、それどころじゃないか。
まぁ、罰せられるなら罰すればいいさ。
男性を誘惑して侍らせて貢がせて、口答えしたからって言って死刑とかは無いだろうし、国外追放とか、貴族から抜かれるとか、修道院行きとかだろうけど、この世界で目覚めて30分も経ってないから、別に貴族生活とかに未練ないし、逆に平民生活の方が性に合ってるだろうし、修道院でもなんとかなるっしょ。
乙女ゲームをやってた人間としては、【北の修道院】ってのは少々気になるし、色々なゲームなんかでもやっとした事を曝け出してスッキリしたし。
『我がヒロイン生活に悔いはなし』って感じかな。
さあどうぞ、とばかりに腰に手を当て踏ん反り返ってみる。
「よし、そこまで言うのなら」
王子が何か言おうとしたのを遮ったのは、アイリス様だった。
「そこまでになさってはいかがですか?
これ以上の醜態は殿下のこの先に携わってきますよ」
扇で隠してため息をつくアイリス様。
「何を言っておる」
「殿下、あなたにも次期王子妃候補だった私にも影がついている事をお忘れですか?」
出た!影!
「きっと今回のこの騒動も、すでに陛下に伝わっていると思われますよ」
「なにぃ……!」
出た!リアル『なにぃ』
「マリアーナ様から皆様に近づいたのかもしれませんが、それに応じたのはあなた方自身でしょう?
冤罪を着せようとしたのもあなた方でしょう?
それを暴かれたからとマリアーナ様を責めるのは間違いではないのですか」
だよねー、自業自得ってやつだよね。
「それに彼女の仰っていたことは間違っていませんわ。
もし彼女が他国の工作員だとしたら、国の危機だったでしょうね。
異性の方から心地よい言葉を贈られたからと、簡単に乗ってしまうのは貴族として、上に立つ者としての気概が足りないのではないでしょうか」
おー、アイリス様が言う言う。
思わず「かっこいー」って口から漏れてしまったよ。
呟きが聞こえたのか、赤くなるアイリス、カワユイっス。
ほんとチョロメンと婚約破棄できてよかったね。
浮気する男は何度でも繰り返すから。
「アイリス嬢の言う通りである」
キターーー!
乙女ゲームのお約束、国王陛下のおな〜り〜〜、である。
卒業式の後、理事長室で理事達と話をしていた陛下に、影からの報告があり、パーティー会場に来たらしい。
その後はゲームでよくある、王位継承権剥奪、一月の謹慎コース。
まあ、婚約者を蔑ろにした事と、勝手に婚約破棄したくらいだから、このくらいの処分が妥当なのか?
王命である婚約を勝手に破棄したのが一番の罪だから、廃嫡とか、平民落ちはないようだ。
他の攻略者もさして重くはないけど罰は受けるようだ。
そしてあるあるの展開で、アイリスは一つ年下の第二王子と新たに婚約、他の皆も婚約は白紙撤回で、新たな婚約を結ぶそうだ。
そして私は………
「おお!ここが北の修道院!」
聖地巡礼よろしく、ゲームでよく聞く北の修道院へ入る事になった。
3食付き、部屋は個室で暖房完備。
(北だから、夏の冷房は不要とのこと)
着るものは支給だし、お風呂も大浴場が有るし、仕事は掃除と料理と、畑仕事とご近所付き合い。
規律が厳しいと聞いてたけど、門限や消灯時間があって、お祈りの時間があるくらいで、家事や畑作業なんて普通にスローライフじゃん。
元貴族令嬢たちは「ドレスが着れない」とか「夜会に行けない」とか「男性との出会いがない」とか嘆いてる。
けど私としてはコルセット必須のドレスとか着たくないし、夜会とか興味なし。
何より【男子禁制】良いではないですか。
前世も今世も周りにロクな男いなかったから、男のいない生活、全然問題ナッシング、むしろ大歓迎。
てな感じで、第二の人生スローライフを満喫しています。
でもちょっと気になったのが、今世の前の私って、ハーレム目指してたっぽい感じがするんだけど、よっぽど男好きだったのかな?
ーーーーーここ以降胸糞展開になります。
楽しく終わりたい方はそっ閉じ推奨ーーーーー
熱を出して寝込んだあたしが目を覚ますと、全然知らない場所で、知らない人の葬式中だった。
知らない人はお母さんらしいけど、あたしのお母さんは金髪の外国人じゃない。
でも周りのおばさん達は、ハハコ暮らしなのに残されてカワイソウとか言っている。
それに全然知らない家の汚ない窓ガラスに映ったあたしもあたしでは無い。
何が何だかわからずにポカンとしてると、昔の映画に出てくるような服装をしたオッサンが訪ねて来た。
なんか知らんけど、あたしはオッサンの娘で、ショシで、母親が亡くなったから迎えに来たって。
オッサンは男爵で、オクサン居るのに浮気してできた子があたしらしい。
初めて乗る馬車で連れて行かれた家……屋敷を見て、頭に浮かんだのは、隠れてプレイした上の姉ちゃんのゲーム。
そこでヒロインが暮らしている屋敷がコレだ。
そう言えばオッサンの顔も、名乗った名前も呼びかけられたあたしの名前もゲームのままだ。
スマホで読んだ事がある、乙女ゲーム転生ってやつかな。
そんでもってヒロインだ。
やった!
前のあたしは、不登校の小学生六年生。
学校でいじめられて行かなくなった。
高校生のちぃ姉ちゃんのマンガを読んだり、上の姉ちゃんのゲームを勝手にやったり、共用のパソコンでネットしたりして時間を潰していた。
ある日姉ちゃんのゲームを借りに勝手に部屋に入ったら、隠してたゲームを見つけた。
18禁とか書いてるから、あたしにやらせない様に隠してたんだろう。
勿論やった。
家族の居ない昼間に毎日少しずつ遊んだ。
出てくるキャラみんなカッコいいから、全員攻略した。
そしたら新たなルートが出て来て、全員同時に攻略できた。
そしたら………。
凄くドキドキした。
昼間だから誰もいないけど、部屋に鍵をかけて、ヘッドホンで音も漏れないようにしてちぃ姉ちゃんが帰って来るまでやってた。
隙を見てこっそりとゲームは上の姉ちゃんの部屋に戻したけど、それから何度も何度も繰り返してプレイした。
学校にも行かず、隠れてこんなイケナイゲームばかりやってたバツがあたったのか、風邪でめっちゃ熱のある時もゲームしてたら、だんだん目の前が暗くなって………気づいたらヒロインになってた。
それからゲームの通りに学園に通って、王子様たちと出会って、色んなイベントをこなして行って、やっとハーレムエンドに辿り着いた!
画面越しに見ていた、あのドキドキする色んなエッチいこと、これからするんだよね?
チューとかもみんなとしちゃうんだよね?
エッチとかチューって、ホントにするとどんな感じなんだろう?
ドキドキしながら王子さまが、悪役令嬢たちを呼び出すのを眺めていたら、また目の前が暗くなってきた。
なんだろう?
だんだん暗くなってきて、意識が遠のいてきて、さっきとは違うドキドキしてきた。
ーーー はー、流石乙女ゲームの攻略者、顔面偏差値高いねぇ…………………って、ちょっと待てい!! ーーー
え?なに?
あたしの中に誰かいる?
ーーー このルート壊してやる!
ヒロインである私が【ざまぁ】してやるーーー!!!!! ーーー
なに言ってんの?
せっかくここまで頑張って辿り着いたのに、なに言ってんの?!
誰よ!あたしの中にいるの!
今からオトナな色んなことができるのに、なに邪魔してんの!
ヒロインはあたしなの!
あたしの中から出て行って!!
叫んでいるのに誰にも聞こえていない。
もう目の前は真っ暗で、声も聞こえなくなってきた。
意識もモーローとしてくる。
あたしこのまままた死んじゃうの?
せっかく生まれ変わったのに?
ヒロインになったのに?
みんなから愛されてたのに?
また しん じゃう の ?
頭がモーローとしてきた。
やっぱり死んじゃうみたい。
あーあ、今からいいところだったのに………
……………
……………………
…………………………………
なんだろ?
声が 聞こえ る ……
でも もう なんに も かんが え られ な い
《 私の体で好き勝手にしてくれたわね。
あなたが先に私の体を乗っ取ったのだから、これ以上好きにさせないわよ
ふふふふふふふ 》
分かりづらいかもしれないので、補足させてください。
今回は転生ではなく憑依です。
つまり、【それまでいたヒロイン】を乗っ取った形です。
それまでいたヒロイン、前ヒロインも憑依者です。
本来この世界軸で生きていた本物のマリアーナからすれば、
【知らない人が体を乗っ取って好き勝手している】
ですからどうにかしたい。
でも乗っ取られているので、自分の意思ではどうにもできない。
そうこうしているうちに、複数の男性を侍らせてみるに堪えない、どうしてくれようと怒り心頭で、目には目を、憑依には憑依をと、一番良いところで別の人格を憑依させた、と。
どうやって悠依花の意識を引っ張ってきたかは、執念で、ということにしておいてください。
本来のマリアーナ→小学生の意識→悠依花 の意識の三段変換です。
この先は小学生マリアーナにざまぁできた元祖マリアーナは成仏、小学生マリアーナは何処かへ堕ちてしまい、悠依花マリアーナはのんびりと、苦手な男性のいない北の修道院でのんびりと暮らしていきます。
あ…小学生だけ救われない……。
子供に優しくない話で不快に思われた方いらっしゃいましたらすみませんでした。