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俺のコードネームは「D」  作者: 庵本探
10/24

第10話 ピンチをチャンスに

 マスコミの取材も終わり。

 うちの会社は、5分のネット動画が拡散し、

 結構、世間での認知度が高まった。

 そのおかげで、確実に仕事も増えている。

 このままでいけは、本当に一流企業の仲間入りだ。

 いわゆる大企業。

 急激に大きくなるのは不安があるが、仕方ない。

 さほど、大きいリスクはないのだ。

 リスクはないはずなのだが・・・・・・・

 

 とあるホテルの一室。


「少し、変な会社が話題になっていますね」


「そうですね。しかし、我々にはあまり関係が無いかと。」


「果たしてそうでしょうか?

 私たちの理想と異なるものが少しでも広まるのは好ましくありません。

 国民への洗脳が怪しくなります。」


「では、出る杭は打ちましょうか?」


「いえ、出る杭は抜いてください。存在自体を消してください。」


「わかりました。会社を潰すということですね」


「資金は、10憶程度、用意してあります。

 今回の場合、法律を改正することですかね。

 それと、悪い噂をマスコミを利用すること。

 これだけで、十分でしょう。」

 

 この国の闇将軍、田中信一郎は優しい笑みで話す。

 10憶円程度のお金は彼にとって何でもない。

 この会社を潰すのに、20憶の資金提供を受けているのだから。

 10憶の利益が出る。

 これまでも、このやり方で私財を増やしてきた。

 しかも、表に出ない現金。自由に使える金なのだ。

 表に出ない大金を持つものは強い。

 国家権力よりも。


「あとはお任せします。

 邪魔する者がいる場合は連絡下さい。追加で資金を提供します。」


「ありがとうございます。」


 彼にとっては、暇つぶし程度の仕事。

 そして、決して自分達には被害が及ばない仕事。

 しかし、彼らの軽い会話で、多くの人々の人生が狂わされる。

 そして、

 和也たちは、当然、このような会話がされていることを知らない。


 数日後、


「和也さん。今朝のニュース見ました?」

 日向が朝一番で聞いてくる。


「いえ、テレビはあまり見ないので。どうかしましたか?」


 日向って毎日、ニュースを見てくるんだ。真面目。


「何か、人材派遣業法の法律の改正に向けて

 政府が動いているという話をニュースでしていました。」


「ああ。それね。僕もネットニュースで見ましたよ。

 なんせ、

 人材派遣会社は他の事業はしてはいけないようにするという案だもんね。

 まるで、この会社をターゲットにしている感じですよ。」


 そうなのだ。まるで出る杭は打たれるみたいな感じなのだ。

 

「本当に、改正されてしまうのでしょうか?」

 日向が心配そうに俺を見つめる。


「わからないな。

 でも、法律って俺たちの自由を縛るものです。

 だから国会で俺たちの代表が決めるのですが。

 それ以上に、国と国民の約束である憲法があってさ

 俺たちの自由を縛るためには、

 公共の福祉に適合して、合理的な理由がなければ駄目

 ってなっているのですよ。

 少し難しいですよね。」


「なんとなくしか。」

 日向は、あまり理解出来ていない様子。


「つまり、人材派遣会社が他の事業をしてはいけないという法律にするには、

 社会の為になるものであって、

 更に合理的な理由が無ければ駄目なのです。

 俺の考えでは、難しいと思うけど。

 だから楽観的に経緯を見るつもりです。」


「なんとなく、わかりました。

 色々騒がれているけど、法律を改正するのは難しいということですね。」


「うん。俺は、そう思っていますよ。」


 しかし、俺は万が一を考えて、

 今のうちに対策は考えておくべきと思っていた。

 まあ、何とかなるだろう。と俺が思っていると


「大変です。派遣社員が派遣先の会社のデータを盗んでしまったらしくて、

 警察につかまりました。

 最近、派遣したばかりの者だったのですが。」

 琴美が、慌てて、俺と日向のもとにやってきた。

 

 おやおや。何か嫌な予感がすごくしますね。


「日向さん、至急、取締役を収集して会議をしましょう。」


「わかりました。和也さん。和也さんも出席してください。」


「了解です。」

 

 30分後に会議室に取締役4人は集まり臨時取締役会が始まる。


「今回の件でマスコミが動くかもしれません。

 その場合の対応策としては、社長と役員の謝罪会見などでしょうか?」

 日向が不安そうな声で皆に問いかける。


「嫌よ。」


「希美、普通は、責任者として世間に頭を下げるのよ。」


「普通なんてどうでも良いのよ。

 私が謝ったら、なんか、会社が謝っているみたいじゃない

 そしたら、社員みんなも謝っているみたいで、絶対嫌だ。」


 希美様は結構頑固なので、謝罪会見は難しい感じ。


「謝罪会見は万が一、騒ぎが大きくなった場合ね。」

 倫花が冷静に話す。


 「トン」「トン」


「失礼します。」

 花子が一礼して入ってくる。


「何か、ビルの外が騒がしい状態になっているので報告を」

 俺たちは窓から外を見る。


 すごーい。カメラや脚立が設置されていて放送車両も、いかにもマスコミ。


 日向が「なんで、こんなに早く?」

 倫花が「結構、うちの会社、有名になったからかしら?」

 琴美が「何か、怖いです。」


 俺も、これほど早くマスコミが押し寄せるとは、不自然な感じが否めない。


「もしかしたら、下のラーメン屋さんの特集でもやるのかしら?」

 ひとりだけ、緊張感のない方がいます。


 俺たちは席に戻る。


「えーと。琴美さん。その捕まった社員は、

 きちんと社員教育は受けていたのかな?」


「はい。個人情報保護法の教育から倫理教育まですべて。誓約書も。」


「そうすると、うちの会社ではやることはやったと。」


「これ以上は、どうして良いか思いつきませんが。」


 俺は役員に向かって話し出した。


「謝罪会見の話は後にしましょう。それと花子さん、

 社員にマスコミから取材を受けても

 ノーコメントしてもらえるように頼んで下さい。

 強制ではありませんが。」

 

「はい。わかりました。」

 花子は一礼して会議室から退出した。


 そして、俺は

 「もう、過ぎてしまったものは仕方ありません。

  これからのことを考えましょう。

  どうしたら、このようなことが二度と起きないように出来るか」


  皆、頷く。しかし、難しい。無理に近いほど。

  しばらく、俺も皆も考え、沈黙の時間が過ぎていく。

 

「私たちだけでは駄目ね。派遣先の会社も協力してもらわないと。

 盗む可能性があるのは派遣社員だけではないのだから」

 

 えっ?えっ?発言の内容に驚いたのではない。

 発言者に驚いたのだ。

 希美ちゃん?

 いや、俺の聞き間違いだ。きっと日向だったのだろう。


「そうね。希美」

「それしかないわね。希美」

「業務は増えるけど、それが最善ね。希美」


 やっぱり、希美ちゃんの発言だった。

 俺は思考する。

 ピンチをチャンスに変える方法・・・・・・・・・・


「よしっ。謝罪会見を開こう」


「嫌って、言ったじゃない。」

 希美ちゃんが断固拒否。わかっている。


「謝らなくてよいよ。うちの会社の広告をするんだ。」

 俺はそう言って、ニヤリと笑い、4人に作戦を話し出す。


あるテレビ局


「個人情報のデータが盗まれるなんて、絶対あってはいけない。

 我々は、二度とこのような事件が起きないように

 視聴者へ訴えなければならない。

 こんな会社が、何の制裁もなく業務を続けてはいけないのだ。

 国民には知る権利がある。

 そして、我々は国民の代わりに追及して報道するのだ。」


「そうですよね。私も画面で一生懸命、視聴者に訴えますよ」


「コメンテーターの方々も一緒の気持ちでしょう。」


「今日の3時に記者会見をやるらしい。

 取材陣には、きつい質問をさせるから、

 その対応をしっかり放映しよう。

 最後の謝罪もしっかりな。」


そして番組が始まる。

「派遣社員が個人情報を盗んでしまう。

 こんなことあって良いのでしょうかね?」


「この人材派遣会社が利益を追求しすぎて

 社員教育が足りなかったのでしょう。」


「役員はキャバクラで働いていた女性たちでしょ。

 社会を知らな過ぎて始めたは良いけど、

 社会に迷惑はかけないでほしいです。」


「まあ、この会社も社会の信用はがた落ちですよ。きっと。

 こんな会社に依頼する企業はあるのでしょうかね。まったく」


「皆さんのおっしゃるとおりです。

 あっ。謝罪会見の中継が始まるらしいです。

 一緒に見てみましょう。」


取材会場


「取材陣の皆様、

 本日は株式会社のぞみの会見にお集まりくださりありがとうございます。

 それでは、これより会見を開きます。

 まず、はじめに当社役員より

 今回の会見の発端となった事件について説明いたします。」


 司会進行は俺だ。


「取締役の田中日向です。よろしくお願いいたします。

 今回、当社、株式会社のぞみの派遣社員・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上です。」


「では、これから質疑応答の時間に入らさせていただきます。

 質問のある方は挙手をお願いいたします。」


「今回の件で、

 多大な被害を受けた相手の会社に対して

 どのように思われているのでょうか?」


 想定通りの質問。俺は


「それでは、まず、

 被害を受けた株式会社ATM、代表取締役、飯田利治様よりご意見 

 をいただきたいと思います。」


「いや、俺はあんたの会社が相手の会社にどう思っているのかを

 聞いてんだよ。ふざけんなよ。」


「すみません。司会進行は私ですので。お任せください。

 飯田様のお話の後に株式会社のぞみからお話させていただきます。」


 俺は軽くかわした。しかし、ひどい口調の取材陣だな。

 

「只今、ご紹介いただきました・・・・・飯田です。

 今回の件について、

 当社役員と株式会社のぞみ役員で話し合いの場を設けました。

 結論としては、株式会社のぞみに一切の責任はなく、

 当社のセキュリティーの問題であったということです。

 この場をおかりして、お詫びを申し上げます。」

 

 場内は静まり返った。

 株式会社ATMが謝罪したのだ。

 株式会社のぞみを追及できなくなったのだ。そして間髪入れずに


「それでは、次に株式会社のぞみより発言をさせていただきます。」


「はい。飯田様のお話のとおり・・・・・・・・・・・・・・

 我々としましては、今後、このようなことが無いように

 株式会社ATM様と協力し合っていくこととなりました。

 ついては、当社のセキュリティシステムを利用していただく方向ですが、

 当社と契約している他の会社様とも、

 これを機に当社のセキュリティシステムを提供し

 万全の体制を図りたいと考えております。」

 

 日向が説明をする。謝罪ではない、当社のセキュリティシステムの宣伝だ。

 そして、おそらく、次に来る質問。

 

「次に質問のある方、いらっしょいますか?」


「NBJテレビの笹川です。」

 あっ。前にうちの会社を取材した女性だ。怒って帰っていったけど。


「あのう。わかっていらっしゃるのですか?

 あなた方の社員が犯罪を犯したんです。

 あなた方の社員が。

 謝罪とか頭を下げるとかないんですか?

 反省が欲しいのですよ。反省が。」


 よっぽど恨みがあるのか、感情的に質問をなさっている。

 しかし、本当に予想どおりの質問。いや予想以上。


「当社の社員が、この度、犯罪を犯してしまいました。

 大変申し訳ありません。

 しかし、私たちにとって社員は家族です。

 今後、彼を会社としてもバックアップしながら

 社会復帰を支援していきます。

 私たちの家族がご迷惑をおかけして、

 大変申し訳ありませんでした。」

 

 練習どおり、何とか希美ちゃんがセリフを言えた。

 同時に、役員全員が立ち上がり、4人同時に頭を下げる。5秒間

 

 そして最終兵器、顔を上げた4人の美女が涙をながす。

 

 はい。カット。完璧。

 作戦どおり。

 セキュリティシステムを広告宣伝して、

 会社のイメージを上げて、

 株式会社のぞみに責任はないのに

 社員である家族のために謝罪する。いや謝罪させられた。

 おそらく、視聴者には取材陣が美女をイジメているように映っただろう。

 放送が楽しみだ。


ある番組

「謝罪会見ではなかったようですね。

 まあ、なるほど。

 これからこのような事件が繰り返されないことを願いますね。

 次のニュースの前にコマーシャルです。」


「すごい。和也さん。シナリオどおりでしたね。」

 日向が喜ぶ。


「いや、本当にすばらしい。

 あの取材陣の顔を思い出しても笑いがこみ上げますよ。

 あと、社長の最後の言葉、感動しました。」

 協力してくれた飯田社長も大喜び。


「飯田社長。この度は、本当にありがとうございます。助かりました。」

 俺は飯田社長にお礼をした。


「いえいえ、本当の話をしただけです。

 おそらく当社のイメージも上がったでしょうし。

 和也さんの作戦どおりですな。

 これからもよろしくお願いしますよ。

 あのすばらしいセキュリティーの件も含めて。」


「はい。ありがとうございます。」


「飯田社長、本当にありがとうございます。」

 希美社長も代表して一礼して挨拶した。


 株式会社ATM、代表取締役 飯田利治は、

 会見で頭を下げて謝罪することなど、どうでも良かった。

 それとは比較にならないほどの喜びがあるのだから。

 希美様と一緒にいられる。

 そう、飯田は希美を崇拝するスマイルデーモンズ幹部の一人である。


「スマイルデーモンズ幹部の緊急招集だ。」

 飯田は、和也たちと別れた後、社長専用車の中で興奮して電話する。


「議題は、【飯田が本当にありがとうございますと言われた事件】だ。」


 そして、電話を切ると、目を閉じ幸せを満喫するのであった。


 今回の会見の様子はまたもやネット動画やSNSで拡散していった。

 今回は、会社に対して誹謗中傷のコメントも結構あったが、

 すぐに潰されていった。

 

「家の地元にも株式会社のぞみ来てほしい」

「一番、右側の長い髪の子、メチャ好み。」

「みんな美人だよね。でも、俺は、エロイ感じの・・・」

「いや、俺は、真面目そうな・・・・」

「絶対、可愛い感じの・・・・」

会見の内容についてマスコミの批判が大部分であったが、しばらくすると

会社や4人の美人役員のファンが増加していったのだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



会見の3日前


「浣腸マン改めカツラさん」に会社へ来た貰った。


「仕事の方はどうですか?カツラさん」


「結構、うまくやっているよ。

 今回、俺のアイディアが採用されるかもしれない。和也よ」

 

 う、う、嬉しい。和也と呼んでくれた。

 うんこマンでなく和也と。泣きそう。


「へ―。どんなアイディア?カツラさん」


「内緒だぜ。」


「もちろんさ。カツラさん」


「毛が生える肌を肌に張り付けるやつさ。」


「毛が生える肌?カツラさん」


「そう、田んぼのようなイメージかな。

 種の代わりに毛根がある感じ。

 まあ、栄養が必要だから専用のシャンプーとリンスが条件だけど。」

 

 もう、カツラさんを連呼するのをやめよう。

 ダメージが無さそうで面白くない。

 性格が悪くてゴメン。本庄。君が僕を和也と言ってくれているのに。


「すごいな。そんなことできるんだ。本庄。」


「おそらく、俺のイメージではな。だから、結構楽しいよ。」


「そうか、良かった。実は、今日、お願いがあって来てもらったんだ」


 そうなのだ。実は本庄にお願いがあったのだ。


「なんだよ。何でも言ってくれ。」


「実は、セキュリティシステムを開発したいのだけど、

 俺も設計したのだが、経験不足で知恵が欲しい。

 本庄は、セキュリィソフトの開発していたじゃん。

 だから協力してほしい」


 俺は率直にお願いした。


「ま、ま、まさか。この事務所で俺が協力」


「ああ。もし良ければだけど」


「和也様。お願いします。ぜひとも協力させてください。

 無償でも良いです。

 こんなハーレムな場所で仕事なんて。死んでも良い。」

 

 そう、俺はあえて会社に来てもらった。

 女性が多くいる時間帯に。

 まんまと、罠にはまったのだ本庄は。


「あっ。そう。では、カツラ製造会社と掛け持ちでお願いします。」

 

「了解です。今日からでも早速。」

 

 その後すぐに、

 俺と本庄は夜中まで会議室で

 セキュリティシステムの開発に取り組んだのだのだが、

 この俺と本庄で開発したセキュリティシステムは

 企業ごとに仕様が異なってしまう。

 しかし、こればかりは解決できなかった。

 なので、いつのまにか担当になった本庄は大変なのだが。

 株式会社のぞみの利益拡大に大変貢献するのであった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 俺と爺は頭の中で会話する。

「なあ、爺。何か違和感を感じるのだが。」

「会社のことか?」

「そう、偶然なら良いんだけど。もしかして狙われていない?」

「可能性はあるかもしれんが、わからんのう。」

「わからないよな」


 わからない時は、すぐに自分で調べましょう。

 学校の先生が言っていた。


「和也よ。やってやるか?フフフフフ」

「フフ、ハハハハハ、爺よ、やってやろう。」

 悪党コンビ、久しぶりに復活である。

 そして、俺と爺は、作戦会議を開いたのでった。

 そしてコードネーム「D」は動き出すのである。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「なんなんだ。あの会見は?

 イメージダウンどころかイメージアップしてしまった。

 いや、それどころか、世間にどんどんあの会社が広まっていく。」


 この国の闇将軍 田中信一郎は焦っていた。

 いつもは、金を配って、待っていれば成功したのだ。

 何か、今回はおかしい。

 やっと、此れだけ世の中を変えてきた中で、

 何なんだ、社員が家族なんてセリフは。

 しかも会社が社会復帰を支援だと。

 視聴者だって、馬鹿なセリフと笑い飛ばすはずなのに

 何故か賛同し始めている。

 社会の仕組みがそれを許さないのに。


「これ以上はヤバイ、絶対に」


「誰が原因なんだ。この俺を苦しめるのは。そいつを消さなければ。」


「とりあえず、・・・・・・あの役員ども」


  田中信一郎は、携帯電話で電話した。

 

「Mr田中、珍しいな。どうしたんだ。?」

 

「いや、いつものことだ。」

 

「ほう。」

 

「明日、会いたい。時間は任せる。」

 

「では、午前10時に」

 

「わかった。」

 

 それだけの会話だった。

 田中信一郎は焦っていた。

 すぐにでも、消さなければという思いから。

 いつも依頼リストは田中本人が渡す。

 こればかりは他人を信用できないからだ。

 そして、田中は高級ワインを飲み干して


「大丈夫だ。この国で俺の思いどおりにならないことはない。」

 と呟いたのであった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 俺は、会社社員の自称スパイであるユウランを連れて、

 先日、派遣先でデータを盗んでしまった

 C国籍のオウ君のアパートに来ている。

 日向が、C国の通訳でユウランを同行させてくれたのだが・・・・・

 ユウランが一生懸命、胸元を見せようとしてくる。


「どう?彼女にしたくなったか?ハニトラいけるか?」


 俺は倫花というエロ妖怪といつも闘っているのだから、

 その胸では無理だ。

 それで、このオウ君、まだ若い。

 ユウランと同じで22歳くらいの男だ。

 今日、警察から保釈金を払って解放されて来たのだが、


「僕は、お金ないですよ。

 請求しても無いですよ。

 無い人からは何も取れませんよ。」


 開口一番、俺に向かって話し始めた。


「いや、請求しませんよ。体調とかは大丈夫ですか?」

 

 結構長く、留置所生活していたので心配した。


「誰にも頼まれていません。勝手にやりました。」


 会話が成り立たない。


「爺、お願いいたします。」

「了解じゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・完了。」


 うん、必要な記憶は頂きました。

 もう用はないが、希美ちゃんが「社員は家族」と言っていたので


「この動画見て」

 といって、見せた。

 オウ君は驚いた顔で見て固まった。


「この美人さんたち、僕のために謝ってくれたの?家族?」


「そうだよ。

 まあ、裁判でどうなるかわからないけど、

 明日からでも、また、働けるなら、仕事探すよ。」


「なんで。なんで、僕に親切にするの?

 僕は、迷惑をかけたんだよ。

 迷惑をかけるために、会社に入ったんだよ。なんで?」

 

 そんなのは、わかっている。

 君が夢を見て来日したのに、

 苦労して挫折して、自分自身を見失ったのも。

 そんなことを俺が考えていると、ユウランが


「ビタ―――ン」

 

 思い切り、オウ君をビンタして張り倒した。

 ユウラン強い。


「オウ君。悪いことしても良いけど、嘘はついてはいけないよ。」

 

 悪いこともしてはいけません。


「特に自分に嘘は一番いけない。」

 オウ君はまた固まった。


「あなたがやりたくて、やった。違うでしょ。

 お金もらて、やった。そうでしょ。

 家族のためにやった。そうでしょ。

 ちゃんと話なさい。

 大丈夫。この会社の人たち馬鹿ばかり。

 私が好きだから大丈夫。」


「・・・・・・・・・・そうだけど。言えないです。」

 オウ君は下を向いて一言だけ語った。


「言わなくて良いよ。安心して。家族の身も大丈夫だから。

 ここより安い、シェアハウスあるから。

 T国の人もいっぱいいるよ

 良ければ、仕事と住むところ用意するから。

 いつでも、会社においで。」


 俺はオウ君に名刺を渡しながら話した。


「ユウラン、帰ろう。もう、大丈夫。ありがとう。」


「だて。何も聞けないよ。いいのか?

 それとも、早く帰って私と良いことしたいのか?

 それは、ダメダメ。私、和也さんのこと別に好きでないから。」


 ユウランは本当に正直だ。思ったことを何でも話してしまう。


「俺は、ユウラン好きだけどね。まあ、帰りましょう。」


 一瞬、ユウランがモジモジしたが、俺たちはその場を後にした。

 

 俺たちを舐めるな。

 俺たちは、俺たちの家族オウ君に

 犯罪を指示した奴のもとに向かうのだった。



このあと、爺が怒ります。

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