エピローグ
エピローグにしては長くなってしまいました。
「では、良く見ていてね。」
ティナの居室にメリーが渡ったのを確認後、私の居室に集まった親『勇者』系側室たちを2人ずつ合計4回、ティナの居室まで『転移』魔法を使ってピストン輸送を行った。
各居室の寝室は2人で使うにしては、ゆったりとしたサイズになっているのだが、まさかここに10人もの人間が詰め込まれることになるとは、部屋を設計した人も思っていなかったに違いない。
寝室の中央に置かれた大きなベッドの中央に四つん這いになったメリーが待機している。私は右側を陣取り、ティナが左側を陣取っている。私が左手をティナが右手を使い、太腿の根元近くに手を差し入れる。
「ここで大事なのは、決して太腿以外は触らないこと……メリーは、もの欲しそうな顔をしてしてくると思うけど、絶対に触ってはダメよ。」
私はメリーの顔を指し示しながら説明する。メリーは潤んだ瞳を皆に振りまいている。そうそう……いいわ。
「特にこうやって腰を揺らしてきたら、直ぐに手を引っ込めること……いい、わかった?」
はーい。って、この場におよそ似つかわしくない元気な返事が返ってきた。
「あんなふうに睨みつけてきても……じっと我慢よ。」
側室たちは皆、いちように頷いている。素直な娘たちばかりのようね。
メリーは、さらにツライって顔を向けてくる。
「可愛いわねメリーって。私はこの辺で再開するのだけども、再開するタイミングは各自好きなタイミングでいいわよ。」
いつも同じタイミングだとマンネリ化してくるから……時折、タイミングを変えてあげるのがいいのだけれど……やることは同じでも人によってタイミングは千差万別では、メリーも身体で覚えきれないだろう……。
息を継いだタイミングに急に触られたり……逆に来ると思っていたタイミングで肩透かしを食らったりするだけでマンネリ化は防げるもの……
私は右わき腹から背中を通って右の腋の下まで到達する。
「このときは、指の腹とメリーの皮膚が僅かに擦れるくらい……触れているか触れていないか……わからない程度がベストよ。あとは、キスをしながらも、決して手の動きを止めないこと……」
そう言って、メリーの唇を奪おうとしたら、既にティナとキスしている最中だった……もう……ティナはキスをしながらも、こちらに向かってウインクしてくる。ワザと……らしい。
「あとは、好きなように好きなだけ触ってあげてね。」
私はメリーの下に潜り込み首に手を回しキスをする。思いもかけないタイミングで皆が触ってくるからだろう。私とキスをしている最中だというのに、メリーの吐息が漏れる。小刻みに身体が揺れる。ビクビクと身体が反応している。
「やん……ん…う…ぅ…ん……」
だ、だれよ。私まで触っているのは……気持ちよくて…思わず声に出しちゃったじゃないの……。
その私の声に呼応するかのようにメリーの抱き締める力が強くなっていく……ちょっと……皆の前だってば……
メリー! 私の寝間着を脱がそうとするのは、やめて!
ティナ! それを手伝おうとするのも、やめて!!
見られながら行為をする趣味は無いのよ!!! 皆! 見ないで!!
私は必死で目で訴えるが……そこに居たのは、私たちの行為をガン見したまま、硬直して動けなくなった親『勇者』系側室たちと隣でイタズラが成功したと満面の笑みを浮かべるティナの姿だった。
肝心なところで使えないよ。この腐女子知識!
そういえば、そうじゃない!! 走り出したら止まれないのが『男の性』じゃないの!!!
*
その後は順調だった……かと思うとそうでもない。
ティナに何を吹き込まれたのか……親『勇者』系側室たちが、手技を教えて貰うという名目で頻繁に私の居室にやってくる。メリーが渡って来ていても、平気でメリーから私を奪っていく……部屋の隅でイジケているメリーも可愛いけどね。
「リオウ! どういうこと? あれほど、側室たちを見守っていてとお願いしたのに!!」
成婚の儀のあと1年余りが経過し、私が妊娠中であることが発表された後、ティナが姿を消したのである。
私に対して面と向かっては平穏だったが、水面下ではこれまで散々、リリアン様から嫌がらせの数々があったのよね。特に、親『勇者』系側室たちやティナに対する嫌がらせは、王宮での保守派対革新派の対立へと波及しており、一触即発の状況にまで陥っていたのである。
「ですが、今回リリアン・ローマイアに動きはありませんでした。」
「屋八さんのほうもですか?」
「へぇ、ひとりだけおかしな動きはあったのですが、組織だって動いているような様子は無く……様子見にしていたのが仇になりました。恐らく手引きしたものは、その者でしょう。」
「ねえメリー! 私が行ってはダメかな?」
私なら、彼女を『探索』魔法で探し『転移』魔法で移動して救出することも出来るはずよ。帝国の筆頭魔術師では、彼女を知らないから無理らしい。
「ダメだ! アレクはそのお腹の中の子供のことを優先して考えるんだ。そんな無茶をしてくれるな。お願いだ。」
メリーが見たこともない表情で叱りつけるように言ってくる。たしかに妊娠初期のこの状況で『転移』魔法を使おうなんて、危険きまわりない。
「では、どうすれば良いのよ。ねえ!」
「そんなに興奮してはお腹の子供にさわる。もっと、心を落ち着けるんだ。今まで、数々の危機を乗り越えてきたアレクなら出来る。大丈夫だ。」
「あのう……。あっしがティナスザンナ様の情報でひとつ、お耳に入れておきたいことがあるんす。」
「なんだ! 屋八。言ってみろ。」
「ティナスザンナ様……いや、ビクトル家の領地なんですが、ゴディバチョフ陛下の指示でエル王国に併合されました。」
えっ。聞いてないわよ。そんなこと。
「ああ聞いている。なんでも、飛び地になっていて、物を売ろうにも関税が高すぎて利益が全く見込めないとか言っていたな。」
へえ。ゴディバチョフったら、そこまで考えてくれたのね。
「でもそれは表向きの話で、不穏な動きのあるエル王国の王宮に人を派遣したかったらしいのです。」
ああ。あの国と帝国はあまり仲が良くないからねぇ。そこまで強引にしないと情報を収集できないのか……。なんせ魔王討伐の際に不可侵条約を結ぶために私が派遣されたからなぁ。もう完全に帝国の人間になった私じゃあ関われないわね。
「それも対内的の話で……彼女の一族の特性を知った陛下が親善大使の役割を与えて、ティナスザンナ様を向こうの王宮に派遣したらしいのです。」
「ちょっと! 何よそれ!! 私はゴディバチョフに帝国の王宮に勤め先を紹介してあげてって頼んだはずよ!!! そんなことをしたら、彼女は針のむしろじゃない。」
にはならないか……どんなに敵対していようと、彼女が笑顔を見せただけで帝国に対する悪感情を払拭することができる……ゴディバチョフめ……考えたわね。
そんな重要な任務を彼女に与えたくせにそれを放り出してショウコのところに行くなんて……何を考えているのかしら……私に何も言わずに……ちょっとは説明していけよ。あの野郎!
「でもなんで親善大使の彼女がここにいるのよ!」
「そこからは、わしが説明しようかの。屋八! 国家の極秘機密を喋りすぎだぞ!!」
出てきたわね妖怪ドトーリー。のらりくらりと掴みどころがないのよね……。
「ドトーリーよ。そういったことは皇帝代行たる私に話しておいて貰わないと困るじゃないか……。」
そうよね。メリーが把握してなかったなんて……。
「この件はゴディバチョフ陛下から私に一任されておりまして、どうもメリー陛下にこういった裏工作をしている姿を見せたくなかったようです。」
格好付けたがりやよね。ゴディバチョフも……
「ティナスザンナ様のお陰で友好条約を結べることになったのですが……、少々彼女にとって困ったことになっておりまして……」
「それはなんだ。」
「はあ。向こうの国王に請われて、後宮に入るように話を進められたらしいのですよ。」
ところ変わっても、行き着くところは同じというわけか……。
「現国王にか? それはめでたいことじゃないか……」
「いえ、前国王マクシミリアン様のお相手としてでございます。」
「それでも、名誉なことじゃないか……」
そう言われてしまうのよね。愛されない側室がどんなに惨めなことか、分かっていないらしい。
「なるほど、わかりました。ドトーリー殿は、ティナの居所を掴んでいると考えていいのですね。」
「ええ、手引きしたものがエル王国の方なので、あちらに向かわれているものと推察いたします。」
「ティナの身の安全は保証できるの?」
「それは大丈夫かと……それでその方が置き土産を置いていったのです。その方が、この後宮に入り込むのにローマイア家の息のかかった人間を利用したようで……」
「そう……ではもう1件のゴタゴタを解決してから、正式にエル王国に抗議するしかないわね。」
*
「陛下……お渡り頂きましてありがとうございます。わたくしが今夜の……」
事前に今夜、リリアン様の居室に渡ると伝えてあったので、凄い煌びやかな衣装を羽織っている。まるで金髪の西洋人がおいらんの格好をしているようで笑える。
「いや。アレクが話があるというのでな。連れてきた。」
私が出ていくと傍にメリーが居るというのに露骨に睨んでくる。まあそうだろう。100人も居るのならいざ知らずたかだか10人しか居ない後宮に入って1年もの間、放置されてきたのだ。しかも途中、後宮内の公式行事を2度も挟んだのに、メリーと挨拶もさせて貰えなかったのだ。
それで萎れていれば同情もするが、それに前後して幾度となる命に関わる嫌がらせの数々を繰り広げてくるのだ。
手下の隠密を忍び込ませるくらいは仕方が無いが、『暗殺者』ステータスを持つものだったりするのだ。即座にリオウの監視下に置いて、ある側室に手をだそうとしたところを取り押さえている。
このときは、リリアン様の侍女という名目で入り込んできたのだが、調べても中々、それ以外にローマイア家との繋がりを見つけ出せず。公爵の1ヶ月の謹慎という処分で終わったのよね。
それで懲りればいいのに側室たちの家族たちと行われた懇親会で毒物が盛られたお菓子が出されたり、先日行われた私の妊娠のお祝いの席では、堕胎作用のあるお茶が出されたりしたのだ。その時は『鑑定』スキルで見破って、私の嫌いなお菓子やお茶という名目でリモーネに下げさせた。
結局その場では公にしなかったのだが、今まで掛かって毒物の侵入経路を探っていたのだ。
「何でございましょう。アレクサンドラ様。」
「何じゃないわよ! ティナを何処に連れていったのよ!!」
「ティナですか、ああティナスザンナ様ですね。お里が知れましてよ。アレクサンドラ様。」
リリアン様は平然と聞き返してくる。まあ本当に知らないんだから、堂々としているわよね。
これがロシアーニア国の貴族の令嬢だったら、震えて座り込んでしまうだろうけど……これがロシアーニア国の貴族の令嬢だったら、悲鳴を上げて座り込んでしまうところだけど、『威嚇』スキルも使っていない状況下ではこんなものよね。まあここからが本番だけどね。
「うるさいわね。そんなことはどうだっていいのよ。あなたのところで紹介されてきた侍女と一緒に消えたのよ。さあ、今日こそは吐いてもらうわよ!」
そう言って、帝国では封印してきた『威嚇』スキルを意識的に使う。
「ひっ!」
くっさーい。『威嚇』スキルの耐性に個人差というものが存在していたようで、普通ならお漏らしをする程度なのだが……脱糞までしてしまったらしい。失敗したなぁ。これでは、正気に戻るのに1時間くらいかかるじゃない。
「仕方が無い。」
私は留置場代わりに後宮内の居室を改造しておいた部屋に連れて行くとその一室に軟禁する。既に別室には、申告した名前と『鑑定』スキルで確認した名前が違う人間やローマイア家の紹介で来た人間を全て放り込んである。
その中には後宮騎士団の人間も含まれているから、やっかいなのよね。あとはリリアンが連れてきた直属の侍女を入れるだけになる。
犯罪者とはいえ、公爵令嬢を留置場に入れるわけにはいかない。
*
「リモーネ。疲れたわ。マムを連れてきてよ。」
本当は申告した名前と『鑑定』スキルで確認した名前が違う人間がもう1人居るのだが、それは私のお気に入りだ。どういう理由か分からないが、女装した男性が侍女として入り込んできていたのだ。
完璧な女装なのだが中身は普通の男性のようで、抱き締めて真っ赤にしたり、手技を使ってイイ声を聞いたりして、妊娠中のイライラ解消に役立って頂いたのだ。
初めはメリーを好きになった男性なのかとワクワクしていたのだけど、どうも違うらしい。もちろん、男性というのは、誰にも言ってない。残念だけど、そろそろ白状して貰わないとね。
そういえば、ティナに侍女の中に『男の娘』が居ると教えてあげたとき、笑ってマムを見に行ったけど暫くすると戻ってきてなにやら考え込んでいたわね。
「またですか。お嬢様も好きですね。最近は私が傍にいるよりも長い間居るんじゃないですか?」
半分は、リオーネに対する嫌がらせだが、もう半分は侍女として優秀なのよね。非常に間合いを取るのが上手いのだ。丁度いい距離を保ちつつ、すっと近付いてきてタイミング良く着替えを手伝ってくれたりする。
「いいじゃない。リモーネも楽でいいでしょ。それとも、妊娠中のイライラを当り散らされたい?」
「ええ、とっても助かっていますとも、分かりました連れてきます。少々お待ちください。」
それから10分経っても30分経っても、マムがやってくることは無かった。
「大変です。お嬢様。マムが居ません。リオウの話だとティナスザンナ様と逃げたという話でした。」
ああ。やはりそうだったの。道理で待っている間に使った『探索』魔法で見つからないはずよね。
「そうマムだったの……。くっそー! お気に入りと親友を一辺に失って、リリアン様やローマイア公爵家と対峙していかなくてはいけないの!! ティナぁ! 返せぇ!! 私のお気に入りぃぃぃ!!!」
最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
皆様の評価・感想を糧に今後ともユニークな作品を書いていきますのでご支援よろしくお願いいたします。