こうして僕の日常は
スキレットに並べたベーコンが、パチパチと油の跳ねる音を立ててながらゆっくりと縮む。今日は、彼が泊まっているから、ベーコンエッグにはしないで、ベーコンと卵を別々に焼いて、同じ皿に乗せる。
僕はベーコンエッグにした方が、一体感が味わえて好きだけれど、彼が好きだから、この作り方。
お皿を机に運ぶと、丁度彼が目を覚ました。上体を起こし、少しぼうっとした後、机に置いてある朝食を見て、ニヤリと笑った。
「今日の朝食も美味そうだな。相変わらず、他意が籠っていて。」
「おはよう。………寝起きから皮肉を言わなくてもいいのに。」
僕の言葉を意に介さず、彼は大きく伸びをして欠伸をして、ベッドから降り、机の前に座ると、いつものように「いただきます」と小さく手を合わせ、口に運んだ。
「今日は大学行くよね?」
「ああ、今日は行く。いい加減、ヨシキも切れてたしな。『もう代返しねえ』って。」
「なんでそんなヨシキ怒ってるの?」
「知らねえけど、いい加減アイスじゃ誤魔化しきれなくなっただけだろ。」
「どれだけヨシキに頼んでたの………。」
呆れながら、彼と通学出来る事が嬉しくて、内心スキップをする。学校が終わった後も、どこかへデートに行けないだろうか。確か、バイトのない曜日だったと思うけれど。あまりデートっぽい感じの誘い方をすると、面倒くさがる時があるから、自然な誘い方をしないと。そんな事を考えながら、トーストの角にかじりつく。ガリっとした食感と、染みたバターの塩味、蜂蜜の甘味が脳髄を揺らす。
ふと、彼の方に目線を向けて、こんな事を考えてしまう。きっと、彼と僕の恋人関係は、長く持っても大学の間だけだろうと。
彼と付き合うきっかけとなった、一年前にあった新歓コンパ。その数日前に彼は彼女と別れたらしい。憂さを晴らすように泥酔した彼を、大学から近いという理由で、僕の住んでいる寮に泊める事になった。
その日、彼は僕を愛してくれた。その時、彼が呼んだ名前は、以前の彼女の名前だった。他の誰かと勘違いして彼が愛してくれた事が、初めて愛してもらえたことが、嬉しかった。次の日顔面蒼白で土下座をする彼に、むしろこちらが罪悪感を覚えるくらいには。
それから色々とあって、すぐに彼と付き合う事になった。彼には、少なからず罪滅ぼしの意図があったのだろう。それを脳の片隅で理解しながらも、つい最近まで、そのことから目を逸らしてきた。
けれど、1年経って、ようやく少し冷静になった僕は、今後の事を考えて、先程の結論に至った。
そもそも、僕と彼は、価値観からまるで違う。彼は古着が好きで、授業より運動の方が好きだし、ベーコンエッグはそんなに好きじゃない。それに、女の子も好きだし。
けれど、僕はその逆だ。古着は別に好きじゃないし、運動は嫌いだし、ベーコンエッグが好きで、女の子は恋愛対象じゃない。
何より、彼は子供が好きだ。以前、「自分の子供が欲しい」と言う事を言っているのも聞いた事がある。
だから、きっと僕と彼との関係は、せいぜい大学生の間だけだろう。けれど、それでいい。
きっとその時が来たら、僕はみっともなく喚いて、別れるのを拒むだろう。もしかしたら、しばらく学校に行けなくなるくらい、心を病むかもしれない。けれど、いつか立ち直って、何年もしたら、彼との思い出を、愛おしむように懐かしむのだろう、なんて。惚れた弱みで、自分から別れを切り出せないだけだけれど。『惚れたら負け』と言う意味では、僕はずっと負けっぱなしだ。
「どうした?さっきからぼーっとしてるけど。」
彼にそう言われて、僕は我に返った。
「いや、君と付き合えて、幸せだなって。」
「なんだそりゃ。」
呆れたように片眉を上げて、トーストに齧り付く彼に、僕は微笑んだ。
きっと、いつかそんな日が来る。けれど、その日が来るまで、負けっぱなしの日常は、緩く続いていくのだろう。
「そういえば、今日の2限休講らしいよ。」
「マジで?………てか、前にもこんな事あったよな?」
「うん。その時も重郷教授だった。」
「……マジで死なねえよな?あのじいさん。」
兎にも角にも、僕の日常は、大体こんな感じ。




