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僕のルーズな日常  作者: 案山子 劣四


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1/5

朝食はベーコンと、隠し味に悪巧み



スキレットに並べたベーコンが、パチパチと油の跳ねる音を立ててながらゆっくりと縮む。今日は、彼も泊まっているから8枚をスキレットいっぱいに並べて、それと、トーストにバターと蜂蜜、ベーコンの油で焼いた目玉焼きが今日の朝食。


当の本人は、もうすぐ朝食出来るというのに、眠ったまま、気持ちよさそうに寝息を立てている。仕方ないな、と呆れながらも、こうやって彼の為に尽くす事は、そんなに嫌いじゃない。


器に盛りつけた料理を机に運び、すぐ横のベッドで眠る筋肉質な身体を揺すった。



「んぅ……。何……?」


寝ぼけた声で、眉間に皺の寄った顔で僕を見る。寝起きだ、そんな当たり前の事が可愛らしく思え、緩み切った顔で、声を掛けた。



「おはよう、朝ご飯出来たよ。」

「……ああ、ありがと。」


上体を起こし、眠い目をこすりながら、ぼーっと机の上の料理を眺めると、


「いつも思うんだけど、朝にしては重くねぇ?」


と呟く彼に、ぎくりとする。


「そ、そんな事ないと思うよ?普通に朝食でしょ。」


「ふぅん……。」


疑いの目を一瞬こちらに向けた後、まあいいか、と呟くと、大きく伸びをした後に、その勢いを利用して立ち上がった。


「にしても、いつも朝食作ってくれてありがとうな。」


「いやいや、全然!」


そう、全く気にしなくていい。これは僕の計略なのだから。



なりゆきのような経緯なので詳細は省くけど、色々とあって彼とは一年程前から付き合っている。まさか僕のような瘦せ型の男が同世代の男の子と付き合えるのは奇跡的で、それはそれは舞い上がっていた。


が、それも一年も続けば、不満、というよりも、欲が出るのも世の常で、例えば、もう少しふくよかになって欲しいとか。ブヨブヨにだらしない身体になって欲しい訳ではない。筋肉の上に脂肪が乗った、そんな体型になって欲しい。


ということで、一般朝食に偽装しながら、油たっぷりの目玉焼きや、糖分と脂質に塗れた四枚切りのトーストなどを朝食に出して、少しずつ彼の身体を太らせる作戦を目下実行中、というわけだ。


幸い、彼は身体を動かす事が趣味なので、多少カロリーを増やしてもだらしない身体になることは無い。だから、こうして泊まりに来た時は、カロリーの高い朝食を作り、少しずつ太らせる計画をしている。

今の所、経過は芳しくないけど。



「てか、今日1限あったわ。」


カリカリに焼いたベーコンを箸で口元に運びながら、思い出したかのように彼は呟いた。


「マジで?もう間に合わなくない?」


「ま、東洋史学だから大丈夫でしょ。ヨシキ辺りに代返頼めば。」


最初から、行く気はなかったのだろうな、と察した。授業に出席しないのは大学生にはよくある事だし別に構わないけれど、それで要領よく単位を取るわけでもなく、落とす事も少なくないあたり、たちが悪い。

1回生の時、散々単位を落として涙目になっていたのに。喉元過ぎればなんとやら、というやつだろう。



「この前ヨシキ『あいつ全然来ねえ』って愚痴ってたよ。」


「大丈夫、大丈夫。あいつ単純だから、アイス奢れば許してくれるよ。」


けらけらと笑いながら、目玉焼きの黄身を潰し、ソースのようにベーコンに付けてかじりつく。ベーコンエッグにすると文句を言うくせに、そういう食べ方はするんだよな、と思いながら自分も真似をした。黄身の濃厚さがベーコンの塩味と混じって美味しい。僕はそのままトーストにかぶりついた。

さっきまでの味に蜂蜜の甘さが加わり、さらに背徳的な味になる。こんな食事を続けていたら、彼より先に、僕が太ってしまいそうだ。


「まあ、そうだろうけどさ。じゃあ今日は2限目から行くの?」


「いや、だるいしこのままジム行くわ。サークルだけ行こっかな。」


思わずため息が出た。学校も行かずにジムを行くのは、最早学生じゃなくてボディビルダーだ。その上サークルまで参加するなんて、狂気の沙汰だ。というか、その体力があるなら、講義に出ればいいのに。


「一回聞きたいんだけれど、何でそんなに運動するわけ?」


「運動できた方がかっこいいからだな。」


即答。あまりに馬鹿みたいなことを堂々と言い張る彼が、少しかっこよく……は見えないな。普通に馬鹿っぽい。


「……なんで、かっこよくなりたいの?」


「モテたいからだな。女の子に。」


これも即答。馬鹿だし浅い。し、流石にこれは聞き逃せない。



「あのさ、あなたの恋人が誰なのか、覚えていますよね?」


「なんで急に敬語なんだよ。当たり前だろ。偶然にも、丁度今目の前にいるしな。」


「じゃあさ、別に女の子にモテる必要とかなくない?」


「いや、ある。」


あまりにきっぱりとした彼の態度に思わずたじろぐ。何か深い理由があるのだろうか、と思い始めた瞬間、彼は続けた。


「何故なら、モテると気持ちがいいから。」


「マジでふざけんなよ……。」


一瞬、何か意図があるのかと考えてしまったのが悔しい。悪びれる様子もない彼に怒りをぶつけたい気持ちを抑え、深く息を吐き、気持ちを落ち着けて、上った血を下ろした。こんなどうでもいい事で喧嘩はしたくない。


「女子供に好かれるのは気分がいいだろ、まともな人間に見えるって事だし。」


「そうかもしれないけれど、言い方が嫌だ。てか、それを言われて、相手が嫌な気持ちになるかも、とか考えないの?」


「でも、俺がそういう奴なのは知ってるだろ。別に浮気するつもりもないし。あくまで承認欲求と自己肯定感の為だけにモテたいだけだって。SNSでいいねを貰おうとするのと大して変わらないって。」


「なんかちょっと違うような……。」


「いや、変わらないね。だから、お前にも『モテモテの彼氏と実は付き合っている自分』というポジションを気持ちよく味わえばいいんだよ。」


そう言うと、ふふん、と鼻を鳴らして、トーストで皿に付いた黄身を掬い口に放り込む。そんな性格の悪いのは君だけだ、と言おうと思ったけれど、他にもそういう人はいそうだから言うのを辞めた。


「ご馳走様でした、と。」


ぱん、と手を合わせ、空の皿を台所まで持っていく。自分の皿にはまだ半分以上残っているが、別に慌てはしなかった。そもそもの馬力が違うのだから、彼と食べる速度が違うのはいつもの事だ。


「と、いうわけで、モテるためにジムに行ってくるけど、一緒に行く?」


「やだよ、面倒臭い。それに僕は2限出るから。君とは違って。」


胃がもたれてきて、残して夕食に回してしまおうかと迷いながら、素っ気なく返事をした。それを聞いて拗ねたような表情をして、そそくさと服を着替え始める。



それにしても、そんなどうでもいい理由で身体を鍛え続けるモチベーションがあるのは、考えようによっては偉いのかもしれない。今度、『いっぱい運動して偉いね』と褒めてあげよう。もう少しまともな事を言っている時に。


「あ、あともう一つあった。身体を鍛えてる理由。」


ズボンを履きながら、思い出したかのように彼は呟いた。


「え、何?」


そう聞き返すと、彼はにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「どっかの誰かさんに、太らさせられないように。」


「……ばれてた?」


そう聞き返すと、声を上げて彼は笑う。


「当たり前だろ。明らかに数か月前より量が増えてるんだから。」


まあ、確かに。前はパンは8枚切りだったし、ベーコンは1人2枚だった。けれど、彼の事だから気が付かないと思っていたのに。そこまで考えて、1つ疑念が過る。


「なんで気付いてたのに、黙って食べてくれてたの?」


「好きな人が作ってくれたからな。美味しいし。」


思ってもいなかった答えに、僕は思わず赤面する。こういう所が彼の好きな所だ。


「つーわけで、ジム行ってくるわ。2限頑張ってな。」


いつの間にか、髪もセットし終えて玄関に向かう彼に、僕は言った。


「行ってらっしゃい。……いっぱい運動して、偉いね。」


「……ありがとう?」


彼は、困惑しながらもとりあえずそう返事をして、玄関から外に出た。



兎にも角にも、僕らの朝は、大体こんな感じ。

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