第十話=時来たり、勇者出でたり。サイド_プリスティン
エリハイア王国―ハイム暦36年魔月主日―
昨日、ジジィが言っていたことはマジか?アマドリが世界征服を企んでいる?俺はあいつのこと何一つわからないけど、さすがにそれはスケールがでかすぎない?
あいつは所詮一国の王であるからだ。だが……
「地下図書室。さっきワシが居た場所に保管されていたこの書類によると。」
少なくない存在が、彼のことを神と呼び従っている。
そしてジジィはその検証資料を俺に見せた。
ある者は、彼のために王を殺した。
ある者は、彼のために村を滅ぼした。
ある者は、彼によって永久の命を得た。
ある者は、彼によって莫大の財産を授かった。その者たちの名前を、詳細を、その検証資料にしっかりと記載されていた。そして何よりおかしいのは、すべての者は彼のことをアマドリではなく、王でもなく、彼のことを神と呼んでいた。そして行動をするときには皆必ず変な口癖をした。
「すべては、神の仰せのままに。」
正直言ってまだ半信半疑ではあるが、今はとりあえずジジィのことを信じようか。
そのあと、俺にこの前メイドから受け取った手紙を俺に渡して、その手紙に書かれていない真実を告げられた。
「その手紙は、アマドリが書いたものだ。」
彼は、故意的に俺たちを争わせた。
彼は俺のことをよく知っている。俺がその手紙を読んだら絶対にラルフの首を取りに行くことをも、彼はすでにわかっている。そして俺は実際そうした。もしかすると、あの時、アリアの王城で感じたあの変な力は、あいつのせいだったかも。
彼は知っている。俺にはグランバールを倒せない。だから自分の力を出して、グランバールを彼の場所へ誘ったのかもしれない。だとすれば……
「クソッ!」
ドン!と、力いっぱい壁を叩き、溜まった怒りを一気に出してみた。けれど、それだけで発散できるほど俺の怒りは小さくない。
俺は、奴に舐められている。いや、恐らくそれだけではない。俺は同時に奴に弄ばれている。
「あぁもう!クソックソ!クソおおお!!」
ドンドンドン!と、何度も何度も壁を叩いているが、それでも怒りは収まらない。
誰も俺を舐めてはならねぇ!
誰にも弄ばせねぇ!
「ど、どうしたの、お姉さん?」
部屋の扉をガキが開き、入ってきた。そういや俺の隣の部屋は一晩だけこいつに貸したっけ。覚えてねぇ。とりあえず、こいつは壁を叩いたことを抗議しに来たのか?
「アンタにゃあ関係ねぇ。てか、入る前にノックでもしろ、礼儀がなってない。」
「あ、はい。すみませんでした。」
「……は?」
そうだ、この怒りをこいつで晴らすか。現にこいつも俺を舐めているし。
「ボ、ボク、なにか変なこと言いましたか?」
「……いや、なんもねぇ。出て行け。」
そんな事を、俺がやってはならない。俺は姫だ。いくらこいつは俺の所有物でも、物に怒りをぶつかっちゃいかん。散々壁を叩いたが、そいつはまた別だ。こいつが俺は同等の存在だと思っているみたいだが、そうじゃねぇだろ。
アンタは俺の所有物だ。だから敬語使え。ていいたかったが、今はいいや。
「あ、そうだった。」
トタトタと、あいつは扉を出ていたらまた戻ってきた。
「お爺様が呼んでおりますよ。早く行きませんか?」
「俺を?」
「うん。なにか、ボクにも関係する話だから一緒に来てって。」
「あぁそう。」
とりあえずベッドから降りて、着替えようとした。
「うわわ、何をしていますか!ボクはまだここに居ますよ!?」
「見たいならそこで見ていればいいし、見たくないならさっさと出て行けば?」
「え、ええ!?そ、そんな!で、では!」
パタパタと、さっさと出て行った。見たくないのなら最初からそうしろっての。
服を脱ぎ、着替えを始めた。その後、俺はいつもの服に着替えて、ガキを連れてジジィに会いに行った。
しかし、なんと情けない話だ。王族の者達で戦っていたのが、俺しかいなかった。
ジジィはその地下図書室?のところに引きこもっていたし。兄どもはさっさと逃げて行ったし。何のための王族だ。民を護らずに、自分のことしか考えないような奴に、王族と名乗っていいのか?名乗る資格はあるのか?
……とはいえ、俺も人の事言えないか。いくら身を挺して護っていたとしても、原因を作ったのがそもそも俺だったから。たとえ実は他の存在の手のひらで踊らされたとしてもだ。
しばらく歩いていたら、俺らは謁見の間にではなく、ジジィの部屋の前に来た。
「おい、ジジィ。なんのようだ。」
ノックをせずに俺は扉を開いた。
「ちょ、ちょっと、お姉さん!先にノックしてからって言っていませんでしたか!?」
「俺はいいんだよ。」
と、ガキを後に置き、部屋へ入った。
「お、おお!プリスティン。どうじゃ?体の調子は。」
「大したことねぇよ。で?なんのようだよ、さっさと言え。」
「お姉さん!礼儀、礼儀を忘れないで!」
「うっせぇよ、アンタは黙ってろ。」
「まぁまぁ、アリア王。気にせずとも良い。」
「し、しかし!お爺様は王様で、お姉さんは姫だから……だから!」
「ちっ。本当にうるせぇなぁ!ごちゃごちゃ言ってると追い出すぞごら!」
「は、はい!」
ふん、これでしばらくは大人しくするのだろう。
「で?なんのようだ?」
「先ず、プリスティン。アリア王を帰らせてあげてもいいのでは?」
「は?こいつは俺の所有物だぞ?」
「ちょ、ひどい!ボクはれっきとした存在だよ!物じゃないですよ!」
「ほら、彼もそう言っているし。そろそろ帰らせてあげなさい。」
「ちっ。で?お前はどうなんだ?帰りたいのか?」
とりあえずガキに振った。まぁ答は聞かなくてもいいか。どうせ帰りたいとか言うだろうし。
「……うん、帰りたいです。」
やっぱりか。
だが、次にガキが発した言葉に、俺は驚かされた。
「でも、グランさんがいなくなった今、ボクは……まだ王の座を維持できるのだろうか。」
「は?なんでグランバールが死んだだけでアンタは王でなくなるんだ?どういう理屈だ。」
「実は、ボクが王でいられるのは、グランさんのお陰だったよ。グランさんが居るから、兄上達はボクから王の座を奪わなかったの。」
「はぁ、それは大変だな。」
「詳しく、お聞きいたせますか?」
「う、うん……実は……ボクは、お父様が選んだ唯一の正式継承者です。」
うん?唯一?どういうこと?
他に王位継承者はたくさん居るんだろ?まさか全員死んだとか言うんじゃないよな?
なら、どうして?
「兄上や姉上たちは古来の伝承によって、王位は正しく継承されなければならないって言っていた。」
「ふむ、そうだな。確かにそうでなければならないな。」
王位は長男に継承される。それはどこの国も同じ形式だ。だが、こいつはそうではなかったはず。ならば、どうして?
「でも、お父様は居なくなる前にグランさんに言っていた。」
王位は、ラルフに継がせろ。と。
アリアの先王、ダーリクはその形式を壊してまでこいつに王の座を譲りたかった。理由は分からんが、そうだろう。
「もちろんグランさんはそうしてきた。だから、ボクが王で居られるのはグランさんのお陰だ。だから……」
「心配せずともよい、アリア王、お主の王位はワシも保証しよう。現に、書類にも、世間の一般的な認識もお主が王である。」
「けど、けど……!!」
「うるせぇな。とにかく、お前は帰りたいんだろ?まだ王で居られるかどうかはアンタの民に聞けばいいんだろ?」
「う、うん……!!じゃあ!」
「だが、アンタは俺の所有物だ。それだけは忘れんなよ。」
「はい!忘れま……え?ええ!?」
と、ガキは大きな声を出して、驚いたようだ。
とにかく、ガキのことについてはもう問題ないと判断したジジィはガキに手を振り、あいつに退室を求めた。もちろんガキは素直に出ていた。
部屋に残されたのは、俺とジジィだけだ。まだ他に何の話があるのか?
「プリスティン。」
「あ?なんだ?改まって。」
「お主にやってもらいたいことがある。」
「だからなんだって聞いてんだろうが。」
「アマドリを、討ち取ってくれ。」
それはまさに、晴天霹靂だった。
それの返答は出せずに、とりあえず先にガキをアリアに帰らせることにした。そしてそのために、俺はクリアちゃんに護衛を頼んだ。兵士達じゃあダメだ、あいつらは弱すぎる。クリアちゃんでなくてはならない。
でも何故かあのクソ雑魚も付いてきた。
まぁ、あいつは別にどうでもいいんだが、クリアちゃんと一緒に出かけられるなら、それだけでいいや。
そう思った俺は、ガキとクリアちゃんを連れて、馬車に乗った。
(つづく)




