奪われた者
皆さん、こんにちは。
ここで何を書けばいいのか、正直よく分かりません……。
最初は、本当にただのちょっとした趣味でした。自分のメモの中だけに残しておくつもりだったものです。
でも、今こうしてここにあります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
(???)— 「……これが?」
(????)— 「はい。彼の記録です。CEOであるあなたが、まずお目通しを」
(???)— 「こんなものまで残していたのか。……もういい、下がれ」
(????)— 「承知しました」
(???)— 「……ずいぶん書いているな」
「これを読んでいる君が誰なのか、僕には分からない。この日記が君の手元にあるということは、その頃の僕に何が起きたのかも、もう分からない。
ただ、これは、十年以上にわたって僕の中に積み重なった、何千もの断片的な記憶を、どうにか残しておこうとした、僕なりの惨めな足掻きだ。
だから、どうか、この記録を残してほしい。
もしこれが地球人の手に渡ったのなら――君たちが僕をそう呼んだ、『奈落の感情』が辿った物語を知ってほしい。
……君たちは、僕のことが大嫌いなんだから。
さて、日記をつけるなら、まずは頭の中を整理するところから始めよう。
そのほうが、記録をきちんと繋げて残しやすい。」
(名前)— 台詞 = この人物が話している。
(名前)— [台詞] = この人物が心の中で考えている。
(名前)— 「台詞」 = この人物が小声で話している。
また、「文章」は、その場で起きたことや周囲の様子を表している。
2031年、ロシア、サンクトペテルブルク。午前6時30分。
(マルクス)— 「うわ……もう朝か?」
「ベッドから起き上がって浴室へ向かう。いつものように顔を洗い、歯を磨くと、またベッドに戻った。スマートフォンの電源を入れ、その画面をぼんやりと一時間ほど眺めていた。」
(???)— 「ん? また日の出前から起きてんのか? その元気、いったいどこから湧いてくるんだよ」
(マルクス)— 「ニキート、俺たち一緒に住み始めてもう半年だぞ。そろそろ慣れてくれてもいいだろ」
(ニキート)— 「無理無理。あれは何年経っても慣れねえよ。それより朝から本なんか読んでないで、外でも歩いてこいって。お前、顔色悪すぎ」
(マルクス)— 「もういいって。全然面白くないから」
(ニキート)— 「はいはい、つまんねえ奴」
「眠気の残る目をこすりながら、ニキートも浴室へ向かった。戻ってくると、今度は出かける支度を始めた。結局、それだけで三十分近くを費やした。」
(ニキート)— 「あー、もう……毎朝毎朝、支度すんの面倒くさすぎる」
(マルクス)— 「だから何度も言ってるだろ。鞄くらい前の晩に用意しとけ。それだけで済む話だ」
「ベッドから立ち上がると、急に立ったせいか、少しふらついた。それでも、そのまま着替え始めた。」
(ニキート)— 「同い年なのに、なんでお前はそんな爺さんみたいなんだよ」
(マルクス)— 「同い年でも、俺の身体は三倍くらい老けてるんだよ」
「着替えを済ませ、鞄を手に取る。俺たちは大学へ向かった。」
(ニキート)— 「しかし、よくそんな爺さんみたいな鞄を見つけたよな。今どき、あんなの売ってるとは思わなかった」
(マルクス)— 「俺が何を持ってようがいいだろ。使いやすいんだから」
(ニキート)— 「はいはい、爺さん爺さん」
(マルクス)— 「うるさい。どっか行け」
「講義室まで、あと十分。中にはまだ誰もいなかった。」
(マルクス)— 「そもそも、なんで俺についてきたんだ? 部屋であと一時間くらいダラダラしててもよかっただろ」
(ニキート)— 「一人で暇だったんだよ。じっとしてられなくてさ。それに、聞きたいこともあったし」
(マルクス)— 「何だ?」
(ニキート)— 「お前、どうやってんの?」
(マルクス)— 「何を?」
(ニキート)— 「勉強だよ。俺が見るときは、本読んでるかゲームしてるかのどっちかなのに、それでも成績はいつもトップだろ。どうなってんだよ」
(マルクス)— 「お前が俺の勉強してるところを見てないからって、俺が勉強してないことにはならないだろ」
(ニキート)— 「うわ、出たよ、このガリ勉。……あ、そうだ。レナとはどうなんだ? ……おい、大丈夫か?」
「マルクスは額を軽く押さえ、机へ視線を落とした。」
(マルクス)— 「ああ、平気平気。ちょっと頭が痛いだけだ」
(ニキート)— 「そっか。ならいいけど」
「そのとき、講義室の扉が開いた。」
(???)— 「あ、おはよ。二人とも早いね」
(ニキート)— 「おはよ、レナ」
(マルクス)— 「おはよう」
(エレナ)— 「あれ、なんでこんな早いの? ニキ、いつもチャイムが鳴るギリギリに来るじゃん」
(ニキート)— 「暇だったから来た。そっちは?」
(エレナ)— 「あー、目覚ましの時間を間違えて、早く起きちゃったの。部屋にいても暇だし、こっち来ようかなって」
(ニキート)— 「へえー、そうなんですかぁ?」
(エレナ)— 「それよりマーク、なんか顔色悪くない? 具合悪いの?」
(マルクス)— 「いや、大丈夫。何ともないよ。前にも言っただろ。俺、天気の影響を受けやすいんだ。今日は小さな磁気嵐が来るって予報も出てるし」
(エレナ)— 「そんな調子で、よく今まで生きてこられたね。ほんと、身体ボロボロじゃん」
(ニキート)— 「だろ? 完全に故障してる」
(エレナ)— 「ちょっと! そういう意味じゃないって!」
(ニキート)— 「はいはい、悪かったって」
「それから一時間がゆっくりと過ぎていった。ほかの学生たちも次々と席につき、授業が始まった。」
(ニキート)— 「なあ、マーク」
(マルクス)— 「ん?」
(ニキート)— 「で、レナとはどうなんだよ?」
(マルクス)— 「黙って勉強しろ。どうせあとで、お前が自分から俺に講義の内容を教えてくれって頼むことになるんだから」
(ニキート)— 「つまんねえなあ。ほら、彼女見てみろよ。さっきから何度もお前のこと見てる。話しかけようとしてるぞ」
(マルクス)— 「だから黙れって。本人が何も言ってないのに、勝手に自分のことを好きだと思い込むのは、それこそ失礼だろ」
「マルクスは目の前の勉強に意識を戻し、そのまま講義はいつも通り終わった。」
(???)— 「マーク、来る? もうすぐ休み時間終わるよ。次の授業に遅れるよ」
(マルクス)— 「先に行っててくれ。すぐ追いつく。[痛すぎる……。くそ、遅れるわけにはいかない]」
「途中でトイレに寄って顔を洗い、マルクスは講義室へ向かった。教室に入ったのは、ちょうどチャイムが鳴ったところだった。」
(教師)— 「それでは、今日……は、昨日……の内容……を、復習……していき……ます」
(マルクス)— 「[なんで先生の声が、こんなに聞こえないんだ? いや……大丈夫だ。何ともない……。くそ、頭が痛い]」
(教師)— 「その前……に、この分野……を、さらに深く……学ぶ前に……前回の……資料をもとに……コーエン君が……まとめた……発表を……聞いてもらおうと……思います。
コーエン君、準備は……できていますか?
コーエン君?
マルクス・コーエン君!
聞こえていますか!?」
(マルクス)— 「[……何か……。わ……る……]」
(ニキート)— 「おい! [……]おかしいぞ。こいつ……[……]反応がない」
「耳鳴りが頭の中を埋め尽くし、周囲の声を聞き取ることすらできなくなっていた。次の瞬間、彼はその場に崩れ落ちた。」
(???)— 「おい! [……]意識を失いかけてる! [……]誰か救急車を!」
(ニキート)— 「おい、マーク! 聞こえて……[……]」
「やがて、本当に何も聞こえなくなった。
足音もない。
機械の唸りも、誰かの声もない。
自分がどこに横たわっているのかさえ、分からなかった。」
(マルクス)— 「[な……なんだ? 気を失うなんて、久しぶりだな……。ここはどこだ? 病院……か?]」
「周囲を見回して、すぐに気づいた。
ここは病院なんかじゃない。
灰色の壁。黒い柱。冷え切った石の床。
高く細い窓からは月明かりが差し込み、その向こうには一枚の扉があった。」
(マルクス)— 「な……なんだここ!? ど、どこにいるんだ、俺は!?」
「立ち上がろうとした。だが、脚に力が入らない。そのまま床に崩れ落ちた。」
(マルクス)— 「[頭痛は……少し引いてきた。でも、身体にまったく力が残ってない]」
「それから数分後。
扉が開いた。
最初に聞こえてきたのは、ずしりと重い足音だった。
黒いローブをまとった長身の男が、腰を屈めるようにして、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
そして、俺に手を差し出した。」
(???)— 「こんにちは。……どうやら、かなり困惑されているようですね」
「俺はその手を払いのけ、這うようにして後ずさった。」
(マルクス)— 「お、お前は誰だ? 俺をここに連れてきたのか?」
(???)— 「[ずいぶん混乱しているな。怯えている……。もう少し素直な反応を予想していたのだが]
私ですか?
アルフレッドと申します。
あなた様の案内役を命じられた者でございます」
(マルクス)— 「案内役? 何なんだよ、ここは!? いったい何が起きてるんだ!?」
(アルフレッド)— 「そうですね……。つい先日、大司教様が神託を受けられたのです。神々がお告げを――」
(マルクス)— 「もういい。なんだよ、その訳の分からない話は。ちゃんと説明しろ」
(アルフレッド)— 「[なんという無知だ]
神々は、勇者召喚の儀式についてお告げになったのです。
我々はその儀式を執り行い、勇者を召喚いたしました。
――それが、あなた様です」
(マルクス)— 「は? 待て、待て、待て! 召喚って何だよ!? 神々って何!? 何言ってんだ!? ゴホッ、ゴホッ……まさか、ドッキリか? そうなんだろ!? ドッキリだろ!? こんなの、ありえない!」
(アルフレッド)— 「[はあ……ひどい取り乱しようだ]
ええ。あなた様は、確かに召喚されました。
納得していただくために、証拠をお見せいたしましょう」
「ふと俯いた瞬間、頭に水が落ちてきた。
まるでバケツの水を頭からぶちまけられたような感覚に、俺は思わず顔を上げた。」
(マルクス)— 「!? お、お前、頭おかしいのか!? いったいどこから水を――って、なんだこれ!?」
「アルフレッドに目を向ける。
その右肩のあたりに、小さな水の球が浮かんでいた。
そして左肩の近くには、青い炎が宙に浮いている。」
(アルフレッド)— 「これで、ひとまず十分でしょう。
では、私はこれで失礼いたします。
ご安心ください。
神々のお力によって召喚された以上、そのご意思なくして元の世界へ戻ることはできません。
それでは、失礼を。
すぐに戻ってまいります」
「アルフレッドは、先ほどと変わらない重い足取りで部屋を出ていった。
そして直後、扉がひとりでに勢いよく閉まった。
俺は一人、取り残された。
……何をすればいい?
どうしろっていうんだ!?
選択肢なんて、最初からなかった。
何もできない。
俺には、何もできなかった!」
(マルクス)— 「は……はは。
はははは……。
いや……違う。
こ、こんなの……現実なわけがない。
夢だ。
夢を見てるんだ。
神? 召喚? 魔法?
そんなもの、あるわけない。
全部、全部嘘だ。
こんなの……現実であるはずがない!
あるはずが……ない……」
「そんな言葉を必死に繰り返しながら床を見つめていると、ふと背後に光があることに気づいた。
床まで照らすほどの、強い光。
何かが、そこで明るく輝いている。
振り返った瞬間――」
「そこには、様々な色を混ぜ合わせながら燃え盛る炎があった。
……クソみたいにカラフルな、空中に浮かぶ焚き火だった。」
(マルクス)— 「ああ、もう……知るか」
「その光景が最後の一押しとなり、俺はその場に崩れ落ちた。
そして、糸が切れたように、そのまま眠りに落ちた。」
さて、ここまで読んでくれたってことは……まだ付き合ってくれるってことでいいのかな。
正直、ここで何を書けばいいのかもよく分からない。
とりあえず、よかったらコメントを残して、どう思ったか教えてほしい。
というのも、本当にここで終わる可能性もある。
……あるいは、続きを書くかもしれない。
それを決めるのは、あなたたち次第だ。
みんなのコメント次第で、この物語がこの先も続くのか、それともここで幕を閉じるのかが決まる。




