↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コズミック☆婚約破棄! 破棄されたけどデビル・メイ・ケア  作者: 大恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

7.梱包材はご自由に、通函は返却を

ちょっと時間が戻って、地球側の視点です。

 

 星火が空焔でシリウスへと旅立った1時間後──。


 笹八家(ささやか) 日向(ひゅうが)が両親との旅行からの帰宅する道中、自宅周辺の騒ぎはそれは大変なものだった。

 渋滞で止まった車の窓から見える道端には、あまり見かけない車がひしめき合っていた。


 アンテナ付きテレビ局の報道車両の列が、警察車両に押し返されるように道に並んでいる。

 その先には規制線が張られており、その向こうには自衛隊の車両まで見えた。

 物々しさより、混乱の空気が見えた。


「母さん。家へ続く道、通れないみたいだよ」


「ふうん、なんだろうねえ」


 助手席の母親がスマートフォンを取り出し、何があったのか検索して調べ始めた。

 父もハンドルを握ったまま、フロントガラスに顔を寄せる。


「まったく、なんだろうね」


 迷惑そうな口調だった。

 旅行帰りの運転で疲れているところへ、家の近所が封鎖されているのだから、そう思うのも不思議ではない。


「ん、おい! 見ろ、あの病院裏の山!」


 回り道をしようと普段通らない陸橋を車が登った時、父は北の病院を指さした。

 その病院の裏山に、見たことない巨大な物体があった。

 最初は、いつのまにかビルができたのかと日向はおもった。しかし、その四角い物体の質感は、単純なコンクリートや見慣れた外壁ではない。

 窓もないし、ビルにありそうな給水塔とか屋上とか、非常階段とか、そういったものが一切ない。

 

 一番近い表現は、箱だ。

 金属とも樹脂ともつかない表面をした、十数メートル級の直方体で、周囲にパトカーの赤色灯、上空には自衛隊のヘリコプターが旋回している。


「見て、お父さん! ニュース! うちの近所にUFOが出たんですって!」


 箱に驚いていたら、スマホを見ていた母が別の話題を叫んだ。

 父親が運転中ということもあり、日向はスマホを見ていなかった。母は酔うので走行中にスマホを見ることはない。

 今は渋滞中だから見ることができたのだが、どうやら高速道路を走っている時に、このあたり一体は大騒ぎになっていたようだ。


「UFOだって? 雲じゃないのか? 気にするな。それよりあの箱だよ」


 渋滞中とはいえ、しっかりと母のスマホ画面を見ることはできない。

 父の視線は、主に箱へ向いている。


「ちょっと見にいこう」


「規制されてるだろ、父さん」


「近くまでなら行けるんじゃないか? なーに、地元だ。田中の家の裏から、病院近くへ抜ける道があるんだよ」


 渋滞から逃げるように、父は車を脇道へ向けた。

 日向は父の行動に少し驚いた。

 父も母も、どこか物事を気にしない節がある。


 もっとも、そんな両親でも、こんな異常事態なら少しは気にするのだろう。


「待ってよ、父さん。あいつが待ってるよ」


「あいつ? 誰だ?」


 日向は言ってから「誰だ」と思い、父の反応を受けてさらに「誰だ?」と首を捻った。


「ほら、蔵の中の……」

「いいから気にするな。どうせ渋滞で家には帰れそうにない。あの箱みたいなのを見に行こう」


 取り付く島もない。

 父はどんどん、地元の人が知る道で車を走らせる。

 地元の人しか知らない道でも、事情が事情なので、それなりに車で混んでいる。


 気のせいか、外に出て空を見上げている人も多い。

 母が言ったニュースを賑わすUFOのせいだろうか?


 日向は気になって仕方なかったが、両親につられて、自宅の蔵で待っているであろう誰かを気にしなくなってしまった──。

 

+ + + + + + + + +


 日本政府は上を下への大騒ぎだった。

 休日を返上し、首相官邸へ飛び込んだ日本国の内閣総理大臣を出迎えたのは秘書官の怒号だった。


「また来た! なんなんだ! あ、総理! 三つ目の飛来物が確認されました!」


「二つ目までは車内で聞きました、どこですか!」


「〇〇市北西、山間部! 人口密集地からは外れています!」


「二つ目からの距離は!?」


 首相は一連のタイムラインが書かれた書類を受け取りながら尋ねる。

 近くにいたものがアナログな地図にコンパスを当てて即座に測った。


「約十八キロ! 白銀の飛行物体の位置から六キロメートル!」


「近い! 近いというか、集中している!」


 会議室の大型画面に、新たな落着地点が表示された。

 正体不明の巨大箱状物体は、すでに複数が確認されていた。


 どれも日本国内で、最初に巨大な白銀船が目撃された地域を中心にしている。


「落下速度は? 観測されていると車内で聞きましたが?」


「今回も直前で完全減速しています!」


「周辺被害の報告を!」


「直接はなし! 放射線は規定値以内、化学物質は主だった危険なものは検出されていません!」


「周辺の避難誘導は?」


「白銀の目撃地点で進行中。ですが巨大箱状物体付近は、まだ警察と自衛隊が立ち入ったばかりで進んでいません!」


 現場の通信と映像が一瞬うつったが、避難誘導に協力的な市民ですら、どこへ避難するのかと不安そうだ。

 避難に従わない市民など、巨大箱が避難所に落ちてきたらどうするんだという真っ当な意見を言っている。

 集まったところに、落下してきたら目も当てられない。

 地下シェルターも地下鉄もない地方都市なので、体育館や学校などありきたりな避難施設しかない。

 箱が落ちてこないと思われる、いっそ遠く……という手も浮かんだが現状では早計である。。そこから遠く離れた街まで10万人を避難させるのは難しい。


「箱の中身は確認されていません、まず開きません!」


「なんなんだよぉおおおお!」


 誰かが官邸緊急対策室のどこかで叫んだが、誰も注意しなかった。

 叫びたくなる気持ちは全員同じだった。むしろ誰かが叫んでくれたことで、自分がしっかりしなければという使命感が湧いた。


 最初の物体が現れた時点で、周辺住民には避難指示が出されていた。

 しかし、当初はあくまで白銀の飛行物体の直下付近で、市内全域ではなかった。

 せいぜい三千人。

 多いが災害に慣れている日本ならば問題ない避難誘導だった。


 しかし、そこを中心としていくつも落下物があるとなると、避難地域は近隣市町にまで及ぶ。

 概算で10万人となれば、自衛隊が出ても1、2日で終わるものではない。まずこの誘導を行えるほどの自衛隊を集めるだけで丸一日だ。


 そして落下物という目に見えた対策対象がある。

 仮に爆発物ではなくても、次に何が起きるかわからない。


 住民をそのまま置いておく理由がなかった。


 道路を封鎖し、周辺を立入禁止。自衛隊と警察が警戒。


 官邸にも関係官庁にも、現地へも専門家を集める。


「調査班、まだ最初の箱の外装分析中です!」


「急げ! だが事故を起こすな! そして次が来たら一旦離れるよう徹底しろ!」


 無茶な指示を無責任に下す首相だったが、無理ですとは誰も言えなかった。

 非常に忙しかった。


 そんな時、頼れるが今はまだ動いて欲しくない同盟国より連絡があった。


「首相! アメリカから緊急回線です」

「緊急? そうだろう、聞きたいことがあるんだろうな! だが、今この時に……。いえ、繋いでください!」


 首相は忙しいからと拒絶しようとしたが、考えを改めた。

 巨大箱状飛来物は、宇宙より降りてきている。白銀の飛来物は宇宙から降りてきたというデータはないが、宇宙へ飛び去っていった観測データはある。

 その宇宙に幾重にも監視網を開いているアメリカだ。

 なにか情報があるかもしれないと、回線をつながせた。


 通信画面が開き、アメリカ側の担当者が挨拶もなく開口一番に言った。


「お伝えします。外宇宙から飛来した人工物が複数、地球衛星軌道上へ投入されています。その数は多数。長蛇の列をなしていると言って間違いがありません」 


 アメリカ側が別画面を出した。

 NASAからの観測データは地球軌道上で周回するいくつもの巨大箱状物体を捉えていた。

 明らかに人工的なそれらが、衛星軌道上を占めている。


「観測できた範囲で、100を超えている。なお、列をなしているように、順次、迫ってくる物体も観測されている」


 太陽系を横から見たような図に変わり、太陽向点(ソーラーエイペックス)の少し斜め方向から、お行儀よく並んで飛来する物体があると光点が表示された。


「な、なんで今まで気づかなかったんですか?」


 日本側が思わず聞いた。


「こっちが聞きたい。接近速度がおかしい。普通の監視網で想定してる動きではなかった」


 背後にいたNASA担当者が補足する。


「外宇宙から高速で接近し、通常の推進では説明困難な減速を行い、そのまま精密に軌道投入されています」


「な、なんだと…………」

 

 アメリカからの報告に、官邸緊急対策室の全員が閉口した。


「天体的な活動ではない。これは貴国を目標とした明らかな人工的活動……なんだと?」


 説明をしていた担当官に、別の連絡が入った。

 担当官はメガネを一旦外し、息を整え付け直してから説明をする。


「総理。いま、CIAから連絡があった。ロシアが軌道上の人工物、一基確保したようです」


「ちょっと待て!」


「これからこちらも回収活動に入れとの大統領命令もありました。ご安心を。逐一連絡、報告をしますので」


 それでは──という言葉も途中で途切れ、通信回線は一方的に閉ざされた。


 どこも混乱、いや対応に追われている。


 世界はとんでもない勢いで動いていた。


 そんな日常が壊れた日が、五日ほど続いた時。


+ + + + + + + + +


『地球の未開人ども、聞くにゃ!』


 突然、複数国の通信設備へ、同じ音声が入った。

 この通信直後、NASAやJAXAなど、世界各国の宇宙開発機関は、月面上に発信源であるなにか……宇宙船を発見した。


 そこから発せられたと思う通信に乗せられた翻訳言語は、それぞれ違うが、同時に、だが内容は全て同じだった。


『きさまらの星から、宇宙の支配者格へお嫁さんが行くことが決まったにゃ!』


 この宣言に世界の人々は、わが耳を疑った。


『これから結納品がいっぱい届くにゃ!』


 なにを言っているんだ、この通信主は……と、日本国首相が困惑する中、隣りにいた担当者が「まさか」と動いて画面を切り替える。


 現在までに日本国内へ降着した巨大物体の一覧は、すでに50を超えていた。


「…………まさかこれが、結納品か!」


『地上に直接届けると邪魔だから、ポーが衛星軌道に宇宙港を作るにゃ!』


「待ってください! 今、日本国内に降りてきている物体は!」


 日本側が通信へ割り込んだ。

 当事国である必死さで、双方向通信であるかどうかなど確認せず行ったこれが、初の異星人との交信となった。


『ニホンはわからないにゃ。でも同じところへ降りていってるなら、それは結納品にゃ』


「誰のですか!」


『お嫁さんのに決まってるにゃ』


「こ、個人のものなんですか!?」


『そうにゃ。とてもすごい、えらい、お金持ちのお嫁さんのものにゃ』


「…………」


 どこの会議室が静まり返った。


 日本もアメリカも、ロシアも、それまで誰も、結納品などという可能性を考えていなかった。


 未知文明からの物体で、宇宙からの接触。


 国家安全保障案件となり、これから外交、軍事、科学が大きく変わると誰もが考えていた。

 世界が、地球が終わる可能性すら、考慮して動いていた政府も多かった。


 それなのに──


「個人宛ての結納品……? 全部ですか?」


『そうにゃ』


 アメリカ側が、静かに手元の資料を見た。

 すでに確保した軌道上物体の数を数え、地上へ降ろした一つを見る。


 ロシアはアメリカより多く、軌道上の物体を地上へと降ろしていた。


「これ、置き配を勝手に盗ったってことじゃね?」


 どこの国のどこの誰が、どんな気持ちでいったのかは、歴史の闇へと消えた。

 しかし、その感想は、客観的にほぼ正解であった。


『じゃあ、ポーはこれから忙しいから切るにゃ!』


 地球側の困惑をよそに、月軌道から通信は切られようとした。


「待ってください! 花嫁って誰ですか!」


『本人に聞けにゃ! ポーは情報開示とか、そこまでの権限を貰ってないにゃ。』


「本人が誰かわからないんです!」


『そんなことポーに言われても困るにゃ! 必要なことは言ったにゃ!』


 通信が切れ、世界は沈黙に包まれた。


「…………置き配なら置き配って書いてくれよ」


 沈黙を破った言葉は、宇宙宅配への苦情だった。


+ + + + + + + + +


『あ、ごめんにゃ。まだ連絡あったにゃ』


 愕然、呆然としていた日本の官邸緊急対策室へ、さきほどのポーと名乗る異星人から再び通信が入った。


『日本……だっけ? 地上に降りてる荷物のことにゃ。そのまま置いといていいにゃ』


「……いいんですか?」


 置き配だもんな、と誰か言ったが、首相は無視した。


『いいにゃ。中身は順番にこっちで回収するにゃ』


「こちらで開けなくていいと?」


『開けてもいいけど、中身が汚れても困るにゃ。開けるなら屋根つけて、ちゃんと管理するにゃ。梱包の外装はそっちで捨ててにゃ」


 確かに野外に暴露させては危険であり、また荷物が汚れることにもなる。

 では開けない方がいいだろうと、日本政府は判断した。

 日本側担当者が恐る恐る聞いた。


「捨てて、いい?」


『そっちで処分していいにゃ』


「いいんですか!?」


『ただの梱包にゃ。送り主がそっちでいう……うーん、待つにゃ。いま、辞書引いてるにゃ……、あった、これにゃ。そっちで言うプチプチとかダンボールとか、いちいち所有権主張しないにゃ』


 日本側の誰かが小さく拳を握った。


「よっしゃ」


 国家機密級の未知物質を前にした発言ではなかった。


『ん? ちょっと待つにゃ。今、宇宙弁護士から連絡入ったにゃ』


 通信を聞いていた官邸内の閣僚、官僚、担当官たちは、互いに顔を見合わせた。


「…………宇宙、弁護士?」


 なんでも宇宙とつければいいような文化なのだろうか?

 もうそういうものだと思うしかない。


 ポーが何かを確認している。


『あー、地上に降りたやつは、そのままでいいにゃ。でも衛星軌道で周回してた方。あれ、通函にゃ』


「通函?」


『何度も使う輸送箱にゃ。中身はお嫁さんのものだけど、箱は運送会社の物にゃ』


 これを聞いたアメリカとロシアの関係者は青ざめた。

 なにしろ、すでにいくつも回収し、地上へ降ろし、研究施設へと運び込んでいる。

 降ろすことはできたが、これを衛星軌道上へ打ち上げるとなると、一体どれほどのコストがかかるのか?

 そもそも打ち上げられるのか?

 

 宇宙開発に詳しいアメリカとロシアだからこそ、戦慄するに値する宣言であった。

 たかが通函に戦慄する大国とは、いったいどんな皮肉であろうか。


『開封しててもいいけど、ちゃんと組み立てて返却するにゃ』


 ポーを名乗る異星人からの通信が切れ、しばらく無言だった日本官僚が、アメリカに回線を繋ぎ尋ねる。


「開けました?」


『昨日、開けちゃった……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。